ガンダムビルドフォーディーズ   作:さんこのれい

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11 Dáinsleif-B

 

宇宙空間を突き進みながらAGE-1は思考する。

命のかかったこの戦い、自分にだけ課せられた本物の戦場をどう生き残るかを模索する。

 

敵はガンダムキマリスヴィダール、ボードウィン家のガンダムフレームであるキマリスの真の姿。豊富かつ強力な武装群が目立つ機体だが迫る敵機にはカスタムの形跡は無い。そこにあるのはキマリスヴィダールそのままの形だ。

 

キマリスヴィダール本来の力を絶対視しているのか。自分の好みをつぎ込まず慣れ親しみ確立した戦術を採るその選択は間違いではないが、その分予想し易い。

少し前までやたらと戦っていた印象のあるフリーダムと同じだ。

 

であればと、肩と腕の力を無理矢理抜く。その瞬間、暴力的な爆発音と共に飛来した何かを回避できたのは即座に動けるよう力を抜いていたからとしか言えない。

耳の鼓膜が破けるかと感じるほどの空気を裂く音と引き換えだが幸いにも機体へのダメージは無かった。

 

「殺す気か」

何を飛ばされたか、ウタダにはもうわかっていた。それは爪楊枝のように細長く製錬された高硬度レアアロイの塊。

ダインスレイヴ。電磁投射砲、レールガンで専用弾頭を射出するシンプルな武器だが強力にも程がある。ZZのハイメガキャノン、SEEDのハイマットフルバーストの立ち位置にいる必殺兵器。

 

ポストディザスター世界での禁止兵器とされているダインスレイヴはその肩書き通りの威力を叩き付けてくる。

横を通り過ぎただけでこの衝撃だ。直撃すればそれだけで機体は破壊される。このデスゲームにおいては文字通りの即死。しかもビームではない質量の暴力による圧死・刺殺・内臓破裂の類の死だ。

 

演出のGに振り回されながらペダルを踏む脚に力が入る。キマリスヴィダールに搭載されたダインスレイヴは設定通りなら残り7発。その内の1発でも当たったらこちらは終わりだ。撃ち切らせるのではなく早々に距離を詰めて次弾装填の猶予を奪え。

脳が送る電気信号に急かされ、AGE-1は推進剤の残量を度外視した噴炎を上げて機体を押し進める。

 

 

しかしキマリスヴィダールの武装はダインスレイヴだけではない。

ドリルランスにドリルニー、機関砲に太刀。豊富かつどれも脅威だ。設定上ビーム兵装を持つことがないガンダムフレーム達はこの特別ルールにおいては余計に恐怖を煽る。

その兵装は全て機体を砕くものであり、パイロットに苦痛を与えながら殺すにはうってつけだからだ。ビーム兵器は非現実的で痛みが想像しづらいが、質量に物を言わせた武器は痛みが想像し易過ぎる。

 

接近しながら最適解を模索する。

遠距離からはダインスレイヴ、近距離ではドリル。であれば近接武器が届かずダインスレイヴを撃つ隙を与えない中距離がベスト。

ビーム耐性のナノラミネート装甲だろうが貫通力のあるドッズライフルなら無傷では済まない。逆に言えばドッズライフルを失えばドリルによる即死の危険がある接近戦に持ち込まなければいけなくなる。

 

ドリルランスの側部に取り付けられた機関砲から射出される弾丸をシールドでいなし、銃のトリガーを引きつつ可能性を探る。

 

このAGE-1の換装先、タイタスとスパローも接近戦に強い機体だがそれがキマリスヴィダールに優位を取れるとは思えない。

タイタスは純粋なパワーでは勝てる。スパローは速さでは勝ててかつナノラミネート装甲を貫けるシグルブレイドを所持している。

しかしどちらも相手の得意な間合いに踏み込まなければ決定打にならない。装甲を貫けることが確実に勝てる理由にはならない。

 

撃墜が本物の死に繋がるこの戦いではやはりノーマルウェアが最もリスクが低いと結論付けた。

ノーマルウェアの武器はドッズライフルとサーベルしか無いので戦いとしては派手さに欠けるがそんな事を言っている場合ではない。

中距離から装甲を貫通する螺旋を放ちつつ、距離を詰めてくる敵機に対して距離を取りつつまたトリガーを引く。やる事はただそれだけだ。

 

付かず離れず。距離を取られたら詰め、距離を詰められたら距離を取る。命懸けの単純作業を繰り返す。

フェイントを読み、引っかかっても即座に立ち直し、一定の距離を取り続ける。それができると言うことは操縦技術に関して言えばウタダの方が上なのだろう。

 

 

「らしくないな」

外付けされたスピーカーから響くノイズが脳の信号をジャミングした。

 

「いつもの戦い方じゃないじゃないか。もっと接近戦で戦え?」

「こっちは命がかかってる「から何だ?」

「お前はいつもそんなこと気にしていなかっただろう? 我が身が可愛いならどうしてあの子を助けた? 種アンチ、サザミヤ・マユをなんで助けた?」

 

その言葉に過去を振り返させられる。

ラスタル・エリオンが言うように彼女との出会いにはリスクがあった。出会いの末に自分は社会的に死に破滅したのだから、結果論から考えるのであればそう聞かれることもわかる。

 

あの時乱入しなければ、ガンダムSEEDのファン達から敵と認識されなければ、マユのキスがなければこうはなっていない。

そうだとしてもウタダは答えを忘れていないし答えを歪めて取り繕おうともしない。

 

 

「我慢できなかった」

フェアじゃない。マナーも良識もない。どうしてたかがゲームであんなことが許されるのか。

その考えで頭がいっぱいになり、我慢できずに筐体に飛び込んだ。それだけだ。

 

その言葉を聞いた後にスピーカーから醸されたそれは無言であったが何故か急上昇するテンションを感じ取れた。

感覚として感じられたそれは膨れ上がり、堰を切ったように一気にスピーカーを揺らした。

 

 

「そうか!つまり君は」

「人を不快にさせる事が何よりも好きなんだな!」

 

その一言がのしかかる。こいつ、と考えながら次の言葉が頭の中ですら具体化できない。

話が通じないイカれ野郎と言いたいのか。

何がなんでも自分を悪く捉えるクソ野郎と言いたいのか。

自分でもわからない、否自分が見て見ぬふりをしていた自分の本質を見抜きにきたと言いたいのか。

 

 

「だってそうだろう? 君は調子に乗っているガンダムSEEDファンを見てイラついたから絡みに行った! 気持ちよく戦っている人を叩きのめして台無しにした!」

乱暴な言い方だが間違ってはいない。

 

「楽しかっただろうなぁ! 正義を人を不快にしても許される大義名分にするのは!」

筐体に飛び込む時、撃墜されるアスラン・ザラ達の事など何も考えていなかった。

 

「自惚れただろうなぁ!自分のガンプラが圧倒的不利の状況を覆したんだから!」

一機また一機と撃退するたびに、よし、と思う気持ちが確かにあった。

 

「可哀想になぁ!お前の自分勝手な価値観で不幸にしてもいいと決め付けられた人達は!」

アスラン・ザラは巡り巡って最後には種アンチとしてコミュニティから追放されたといつか聞いた。フリーダム軍団と戦ったあの時にも、無理矢理参加権を奪って戦場にいたらしい。それがとどめになったとも。

 

 

「だから言ったんだ!」

「好きとは、他人を傷付けるためにあると!!」

ついにそれを認めたな、とでも言いたげに今日何度目かになる勝利宣言がスピーカーを揺らす。

 

 

「誰もが好きを抑えられない。誰もが誰かを傷付けたい。俺の甥がそうであるように」

「君は好きを捨てずに自分の好きの為に人を傷付けた。なら好きの道理に則って君を傷付けても文句は無いだろう!?」

「今まで君がそうしてきたように今度は君が我々の『好き』の為に死ね!」

 

先程過去を振り返らせたように、スピーカーから響く一言一言が次に引き出したものは、変わり映えのない日常だった。

その音階、話し方、抑揚その全てが変わり映えの無い日常そのものだった。

 

マユと会う前からずっと聞いていた日常。

自分ごと、自分が愛するガンダムAGEを愚弄する声。

ネイナごと、ネーナ・トリニティに殺意を向けるカスガ・ユイの声。

マユごと、シン・アスカとデスティニーガンダムにドス黒い感情を向ける数多の声。

或いはその逆か。ガンダムAGEごと自分を愚弄する。ネーナ・トリニティごとネイナに殺意を向ける。シン・アスカやデスティニーガンダムごとマユにドス黒い感情を向ける。

 

自分の好きを執行する声。誰かの好きを否定する声。

毎日聴いてきたそれら全ての事を、ラスタル・エリオンが解説した。

 

これは、誰かを傷付け殺す事を愉しむ声だ。

殺す事を、愉しむ声だ。

自分が発していた言動もまた同じ。

 

「それに貴様はアインを殺した!」

「アインを大気圏に落としたお前の事を、俺は許しはしない!!」

結論が齎した気色悪い感覚を驚愕で吹き飛ばしたのは、それまで全く会話に入って来なかったヴィダールだ。

この場に相応しい狂気的な怒りにも関わらず場違いに見える程ハキハキと喋る。更にその内容は理解し難い。

 

「何の話!?」

ウタダには心当たりが無いからだ。

アインとは、彼の容姿や機体を見るにアイン・ダルトンだろうが彼はアニメの登場人物でありこの世に実在していない。この世に実在していなければ殺しようがない。

 

「あのハリネズミ!馬鹿みたいな肩のビームライフル!」

「えっ」

その言葉で心当たりを思い出す。ハリネズミとはAGE-FXの事、肩のビームライフルとはダブルバレットの事か。

その二つの記憶が確かにある。マユにAGE-FXを使ってほしいとねだられて遊んだCPU戦のガンプラバトルだ。地球に降り立つ鉄華団を援護するというステージがその時あった。

 

確かにあの時アイン・ダルトンのシュヴァルベグレイズを蜂の巣にして、おまけにシグルブレイドを根元まで突き刺した上で大気圏に叩き落とした。

重傷を負った上で大気圏に叩き落とされては生きてはいないだろう。あくまでガンプラバトルの演出であるだけで、それを描写される事は無いが。

 

しかもあの場であのシーンが選ばれた事に大した理由は無い。

もしあの時介入した場面が鉄血のオルフェンズではなくガンダムW、地球に降下するヒイロ・ユイの援護であったなら全力でゼクス・マーキスを塵にしようとした。ガンダムSEEDならイザーク・ジュールがそうなっていた。

 

その程度の軽い動機に軽い行動だ。

戦う相手はなんでもよかったし相手が誰であろうがあの状況になれば大気圏で焼き殺していた。

それがたまたまアイン・ダルトンだった。それだけでここまでの殺意を抱けるのか。

 

 

まさかそんな理由で俺は殺されなきゃいけないのか。

これが、誰かから見た俺の姿か。

 

失笑と、狂気と、困惑と、軽蔑と、自嘲。生理的嫌悪による反射的行動に近い一瞬の気の迷いは命綱を断たせるには十分な隙になった。

機関砲の弾がドッズライフルの内部機構まで貫き、ドッズガン諸共部品を砕きながら破裂させる。

 

その致命的な情報がウタダを現実に引き戻す。

ドッズライフルを失った。単純なその文がウタダには絶大なプレッシャーとしてのしかかって来た。

ここから先に待っているものは。そう考えた瞬間にもう答えを出していた。

 

 

「タイタス!」

支援機AMEMBOがAGE-1に接近し、白の四肢がそれより一回り二回り程大きい赤の四肢に切り替わる。

 

換装完了の瞬間と攻撃のアラームが同時に脳に情報を叩き込む。ドリルランスがAGE-1の胸部にその先端を捉え、けたたましく回転をしていた。

 

操作可能になったタイタスウェアの巨大なマニピュレーターが槍の穂先を挟み、掴む。回転の摩擦で手の中に火花が散る。

 

祈るように重なった手の間で推進力を持ったドリルが滑る。宇宙要塞の隔壁をこじ開ける程の怪力を持つタイタスの握力とそれが拮抗し、槍の回転機構を外部から壊していく。

ドリルを無理矢理にでも回転させればさせる程、それを遮る巨大な手の事などいざ知らず機関を回す内部機構が部品をへし折り、へし折られていく。

突進の推力も、装甲を削り取る回転も、タイタスはその力で抑え込みつつあった。

 

 

「アイイイーーーン!!届け!届かせてくれぇぇぇぇぇーーーー!!!」

コクピットに響くノイズと共に視覚から致命的な情報が入り込む。

キマリスヴィダールのバックパックから伸びるフレシキブルシールドが、AGE-1の中心を捉えているランスに接続された。

その意味をウタダは知っている。

 

 

死ぬ!!

 

 

理屈ではない反射的行動が機体の姿勢を滅茶苦茶にする。

 

状況を把握する間も無く、爆音と衝撃と共にコクピットのあらゆる箇所の爆発に揺られた。

 

熱が肌を焼き、飛び出た破片が身体を裂く。

特に縛り付けられ突き出していた両手はダメージが酷く、右手の甲から腕にかけて縄ごと裂き大きな裂傷ができた。

逃れられない、剥がれない痛みをごまかすように両足が震える。

しかし、死んではいない。

 

 

激痛で呼吸すらままならない身体で縋るように状況を分析する。

今の一撃はダインスレイヴだ。キマリスヴィダールのドリルランスはダインスレイヴの射出機能も兼ね備えている。

槍が届かないと踏んで攻撃を切り替えたのだろう。ダインスレイヴが直撃する、もしくはそれに気を取られている内に槍を突き刺せるかもしれないという望みに賭けて。

その連携を強引に切っ先を逸らす事でギリギリの所で回避ができた。その結果がコクピット内のこの惨状だ。

 

至近距離から放たれたダインスレイヴはタイタスウェアの右腕を完全に破壊しながら彼方まで飛んで行った。そもそもが急場過ぎて無茶をしてしまったせいか左手も最早使い物にならない。

 

先程の爆発はそのフィードバック。ガンプラのダメージをパイロットも受けるというふざけた機能。禁止兵器の一撃とはこれほどまでに強力なのだ。

 

視界の端に映る、血が滴る操縦桿を認識して三日月・オーガスと昭弘・アルトランドの最期を思い出す。

ダインスレイヴの一斉射撃を受け、それでも戦い続けなければいけなかったあの二人。彼らの苦しみを今の世界で一番理解できるのは自分だろう。しかし。

 

 

「まだだ」

彼らみたいに死にたくない。恐怖が勇気を奮い立たせる。

ダインスレイヴに押し飛ばされ距離が空いている間にウェアを換装する。

赤の四肢を取り外し、青の細い四肢と緑の刃が取り付けられた。高速戦用ウェア、スパロー。まともに戦えるウェアはもうこれしかない。

 

シグルブレイドを掴み、スラスターを吹かせる。武器はこの緑の刃と膝に備え付けられたニードルガン。それだけだ。

対する相手はドリルランスと太刀、膝にはドリルニーが付いている。リーチが圧倒的に足りていない。

それでもやらなければいけない。

 

 

カメラアイめがけてニードルガンを射出し、起点を潰す。質量に頼る物理的な兵装であるが故に使おうとしていたのが機関砲であれダインスレイヴであれその牽制を無視して撃つわけにはいかない。

回避あるいは多少の破損を承知で装甲で受けようと動く間に距離を詰める事ができる。

しかしニードルガンでは決め手にはならない。やはり決定打になるのは手に持つシグルブレイド以外にないのだ。

 

スラスターの加速を乗せた緑の一閃をキマリスヴィダールが回避する。明確な予備動作のある、読みやすい攻撃故に回避も容易だ。

腕のスラスターを全開にした、小回りを利かせた追撃も最初の突進の返す刃である為に読まれていた。

ここからが勝負と言わんばかりに三度刃先を向けたスパローだったが突き出されたドリルニーから咄嗟に逃げ、不本意にも距離を空ける。

ニードルガンとぶつけてもあれを止めることはできない。スパローにできることは避けるか、そのまま死ぬかだ。

それならば例えドリルランスの間合いに詰め込まれようが避けざるを得ない。

 

突き出されたドリルランスを捻り避ける。回転する槍の表面を滑るように、際を見極め再度懐に飛び込む。装甲が擦れ削られつつも拳とシグルブレイドを敵機に叩きつける。

 

その一撃は刃を握る手首ごと捕まれ止められていた。刃が当たる直前に、アクション映画のように片腕で止めたのだ。

槍を捨て両手でスパローの腕を抑える。アクション映画のクライマックスのように拮抗する事もなくあっさりとAGE-1の機体が振り回された。

エイハブリアクター二基並列稼働による莫大な出力に対して軽量・機動特化のスパローはなすすべも無い。

 

膝から突き出たピンバイスのようなドリルニーの先端が、体制を崩したAGE-1のコクピットに狙いを付ける。

モニターに映るその情報は片方に死の確信を叩き付け、片方には安心感に浸らせた。

 

ヴィダールは安心していた。やはりこうなったと。

自分が勝つことはわかっていた。

何故ならガエリオ・ボードウィン(自分)はこの世界の主人公だからだ。主人公とは勝って終わるもの。キラ・ヤマトがそうであるようにだ。

何故なら世界に愛されているからだ。愛されているが故に勝って生きるのだ。

ヴィダールは彼自身がその考えに至った過去を瞬時に振り返り、その正しさを再確認して悦に入った。

 

 

彼は裕福な家庭で育った。故に心に余裕があり、様々なものを与えられて育った。

だからこそ自分の欲望に対して嫌悪と恐怖をしていた。

 

何かを傷付けたくてたまらない。その欲望をぶつける対象は虫に始まり、犬猫小動物、いずれは人に至る。

様々なものを与えられて育っていた彼はそれらから培った知識から破滅の未来を予想していた。

自分のこれは、悪役が持つものだ。

 

悪役とは道徳に反するものだ。対象年齢が低くなればなるほどその傾向は顕著になる。或いは大人であろうともその傾向から抜け出せずにいる。

それは悪役に課せられた義務でもあった。道徳に反すればそれだけで、主人公がどれだけ横暴に残虐に振る舞っても許される大義名分になるのだから。

彼はその真理を言語化できずとも概念として理解していた。悪役とは、道徳に反するものだと。

 

しかし欲望を止めることはできなかった。その事が彼を更に落ち込ませる。

自分は悪役なのだと。皆が憧れ自分も憧れている主人公に自分がなることができないのだと思い込んだ。

 

その負い目も一因となったのだろうか。ある日欲望が叔父にばれた。

血まみれの床、血まみれの足、首を掴んだ彼の手から力なく垂れ下がる小動物の死体。悪戯や冤罪という誤解を一切与えない現場が叔父の視界に広がった。

 

その現場を見た叔父は少し考え込むように静止した後、子供でもわかるくらいにわざとらしい注意を口にした。

二人で後片付けをしてその場を立ち去った。そこに死体がいくつも転がっていたとは気付けない程に、綺麗に片付けた。

 

彼は叔父に打ち明けた。自分の欲望とそれを嫌悪している事を。

それを聞いた叔父は、数日後DVDケースを持ってきた。

機動戦士ガンダム鉄血のオルフェンズと書かれたそれを。

 

貧困と差別に苦しむ主人公と思わしき人々。決起し立ち上がる主人公達。その前に立ち塞がったとある紫髪の男、ガエリオ・ボードウィンを叔父は指差した。

 

他と変わらず差別的で、いかにも裕福そうな男。つまり、この物語の悪役だ。彼はそう感じた。

主人公に立ち塞がるのだから悪役。差別的で悪いから悪役。途中から出てきたから悪役。

 

しかし気が付けばガエリオ・ボードウィンは主人公になっていた。

物語上主人公に撃ち倒される悪であるはずのギャラルホルンが主人公になり、鉄華団が撃ち倒される悪になっていた。

 

いつの間にかそうなっていた。困惑と共に胸中に僅かに湧き出た感情は、安堵だ。

叔父はその感情を言葉で引き出した。

 

叔父は言った。

悪役とはその振る舞いで決まるのではない。主人公も同じだ。

主人公であるかどうかは、いかに世界に愛されているかによって決まる。

お前は特別だ。お前は世界に愛される。お前も、お前の欲望も丸ごと全部愛される。

だから俺がもっと世界に愛される方法を教えてやる。

 

彼はその言葉と鉄血のオルフェンズに救われた。

自分は悪役ではない!主人公なのだ!

この欲望を恐れる事も嫌悪する事も必要なかった!なぜなら主人公であれば許されるからだ!

 

そこからずっと叔父の言う事を聞いて動いた。

最近、犯すだけの仕事でうっかり殺そうとしちゃって怒られたことはあったけどだいたいうまくやっている。彼はそう感じている。

 

これからもずっとそうだ。これからもずっとうまくいく。

自分は許される。

自分は認められる。

自分は愛されているのだから!

 

何故なら自分は!俺は!俺が!

 

 

「おれが主人公だぁ!!」

 

 

キマリスヴィダールの膝が、AGE-1の胸部を捉えた。

ドリルニーがAGE-1の背中から突き出し、ウィングのようなアンテナをその回転で引き千切りながらへし折る。

胸部でAを模るセンサーがドリルの根元に向かう事にべきべきと音を立てていく。

2つのエイハブリアクターが齎す強力な出力で回転するドリルがAGE-1の身体をびくんびくんと動かす。

 

やがてカメラアイの光が消え、動かなくなった。爆発を伴わない、動力部を傷付けずに制御機構だけを破壊されたが故のモビルスーツの死に様。

 

 

「Cockpit Destroyed」

その表記が赤く染まったウタダのコクピット画面に映し出された。




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