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13 Darkness-A
「今回は種アンチについて解説していくぜ」
「よろしく頼むわね」
「最近また話題になってるけど、そもそも種アンチって何?って人もいると思うから今のうちに理解しておけよな!」
「種アンチっていうのはガンダムSEEDが嫌いな人間のことだ!その歴史は呆れたことにガンダムSEED放送当時からあるんだぜ」
「超人気のあったガンダムSEEDにそれまでのガンダム、要するに宇宙世紀のガンダムが嫉妬してガンダムSEEDに攻撃したことが始まりとされているんだぜ」
「同じガンダムなんだから素直に認めればいいのにね」
「老害はいつの時代も邪魔でしかないってことだな」
「特にウタダ・エリオはやばいぜ。典型的だけどその規模はダンチだ」
「ガンプラバトルを利用したファンへの嫌がらせは勿論、人殺し、強姦、幼児への性的ないたずらなど色々な事件を起こしているぜ」
「ええったかがアニメで負けたからってそこまでするの?それを止めない周りも周りだけど」
「あぁ種アンチってのは昔からそうなんだ。ガンダムSEEDの脚本家が亡くなった時に大喜びで祝杯を上げた話は有名だな」
「もうめちゃくちゃね。人の心ってのは無いのかしら」
「ないからキラを罵倒するんだろうな。戦争を止めるために必死に戦ってるキラにあんな事を言う奴は人間じゃないんだぜ」
「ま、結局ウタダは恨みを買って傷害事件を起こされたみたいだけどこいつがあんまりすぎて無罪になってたぜ」
「自業自得ね」
人が管理しなければ庭とて荒れる。
誰だって自分の庭には好きな木を植え芝を貼り綺麗な花を咲かせたがるものでしょう?雑草は抜いて。
所構わず好き放題に草を生えさせて、それを美しいと言いますか?
『これぞ自由だ』と。
―――ロード・ジブリール
「出たぞ!出たぞ!種アンチのウタダだ!来れるやつはゲーセンに来い!今日こそぶっ殺してやる!!」
戦場に鉄の破片が飛び散る。
爆発で裂かれ破片が舞う。
鉄塊に叩き潰され四散する。
高熱のビームで溶かされ液状になった金属が飛び散る。
吹き飛ばされ機体が転げながら粉々になる。
喧騒は耳に入らない。爆音と激突音とアラームだけがウタダの聴覚を塗り潰していた。
喧騒は鳴き声だ。どうせ大した意味は無いし、大した変化も無いに決まっている。
新たな激突音が耳を劈き、視界の横をビームが追い越していく。視界の中央へ向かっていく緑の光に引っ張られるように、溶けた装甲が目の前に飛び出し転がり落ちた。
敵に背後を取られている。ビームが自分を追い越していったのは後ろから撃たれたからだ。
そう確信したと共に湧き上がる怒りと恐怖を握り潰すようにボタンを押し潰す。操縦桿をへし折るかという程に強く引く。
桃色の光線が弧を描きながら放たれる。旋回するAGE-1の腹部に装備されたメガ粒子砲が根本から振り回され、光を横一線に飛び散らせた。
莫大なエネルギーが地を抉り砂埃を上げる。両腕ごと胴体を両断された機体がジェネレーターを暴発させて爆発する。
それは今の一閃を生き延びたもう一機、ストライクガンダムの視界からAGE-1を消失させるには十分なものだった。
ストライクの視界は黒と茶色に染まっている。それを割いて現れたのは鬼の形相をした白。
緑の刃を振り上げながら現れたそれを知覚した時、ストライクのパイロットは思わず遮るように自分の両手を翳していた。
操縦桿を手放し無抵抗になったストライクの顔面にシグルブレイドが突き立つ。
人間で言うところの眼球、メインカメラにごりごりとシグルブレイドを押し込み、両目のセンサーに奪ったアーマーシュナイダーを突き立てる。
フェイズシフト装甲という強固な装甲に唯一守られていない箇所、フェイズシフトとは別ベクトルの精密機器であるカメラセンサーを暴力が蹂躙する。ありもしない脳髄を掻き回すようにナイフを根本まで押し込む。
そのグロテスクな戦いの当事者にさせられたパイロットはあっという間に戦意を喪失した。
「やめろぉ!やめてくれぇ!降参する!降参するから!」
返事をする暇も無くモニターに降伏を告げるインフォメーションが流れ、ウタダは舌打ちした。
『取り逃した』
『壊し損ねた』
肩の増加装甲と引き換えに得た降参は実質的な敗北だ。
増加装甲が消耗品なのは理解しているが、己の不出来と修理に費やす時間を考えると苛立ちが湧き起こる。
しかし、だからと言って無くすわけにはいかないのだ。
彼のAGE-1は重装甲を見に纏うグランサへと姿を変えていた。AGE-1本来の装甲の上に装備された増加装甲は歪で所々パテの下地が見えている。
粉々にされた装甲を接着剤とパテで無理矢理繋ぎ止めた応急措置の塊。しかし、いかにダメージレベル最大の戦場といえどもこの杜撰で無様な増加装甲を破壊するか貫かない限りAGE-1本体にダメージを負わせることはできない。
相手のガンプラを破壊し尽くす戦いをするのだから、逆に破壊されることも考えなければいけない。その考えの末路がこの改修だった。
ウタダは今、ガンプラの破壊そのものを目的に戦っていた。
以前までのコクピットを撃ち抜く確殺の戦いから、手足を破壊し尽くす戦いへ、彼は深く踏み込んでいた。
手足を破壊する戦法はガンダムにおいて慈悲深く正しいものとされている。キラ・ヤマトが率先して使うその戦いは戦闘力を削ぐだけで人死にには繋がらないからだ。
故にキラ・ヤマトに憧れる人々はその戦法を取る。憧れに近づくために人々はガンプラバトルで彼の真似をするのだ。
しかしガンプラバトルにおいてその戦法は陰湿で残虐な行為に他ならない。丹精込めて作られたガンプラを修復不可能にまで追い込むだけだからだ。各々の心の込めたガンプラを、不必要なまで、粉々になるまで踏み躙る行為だからだ。
「ちくしょう!ガンプラ壊して何が楽しいんだ!?」
「あいつには愛なんて無いのさ!だから他人の大好きなガンプラを壊して平然としていられる!」
ウタダはそれを知っている。彼らはそれを知っているのだろうか?
その戦法が、不必要に人を追い詰めるその戦い方こそガンダムで最も優しく最も尊いとされたキラ・ヤマトの戦い方そっくりだと言う事を。
アラームが鳴り、レーダーに増えた赤い印の周辺情報をモニターに表示する。
今現れた彼らは共通して肩部に統一したエンブレムデカールを貼り付けていた。己の所属を明確にする為のそれは、青い円と白い翼の紋章。ガンダムSEED FREEDOMにおける味方陣営、世界平和監視機構コンパスのエンブレムだ。
「亡霊はさっさと成仏してくださいよぉ!」
「現実を見てよ現実をよぉぉぉ~~~!!」
まるで確信中の確信を突いたと言わんばかりの喚き声がウタダの心を折る為に通信から響いてくる。
その言葉は思惑通りしっかりとウタダに届き、その心を震え上がらせる。
現実。
現実か。
己を否定する批評として投げかけられた言葉にウタダは疑問を抱いた。
確かに今の自分に現実は見えていない。
そもそも今見えているこれのどこが現実だというのか。
ガンプラバトルシステムという筐体の中に現実はありはしない。
二足歩行のロボット。音が響く宇宙に光が差し込む暗闇。わけのわからない粒子に阻まれて強要される有視界戦闘。
科学的に見て何も正しくない情報だけが視覚聴覚から入り込んでくる。
ここにはどこにも現実なんてありはしない。全て誰かの妄想を形にしただけのフィクションだ。
それをわかった上で今こうしているのではないのか?
こいつらの言う『現実』とは何だ?
自分とこいつらは今、同じものを見ている。違いなんてものは何を好きでいるかだけだ。
それだけで片や現実を見ていない、片や現実が見えていると分類されるのだ。
なら『現実』って何だ?
好きなアニメの売上?
好きなアニメの知名度?
それとも社会的地位?道徳的優位?
その御大層なエンブレムは『そういう現実』を見て付けたのか?
それともここで言われている『現実』とは巷で言われているような『種アンチのウタダは女児強姦の殺人鬼』とかいう話か。
それこそ現実ではない。自分のやっていることは自分がよくわかっている。
であれば尚更意味がわからない。現実を見えていないくせに現実を語っているのだから。
金があれば訴えて慰謝料でも取れそうなものだが、職を失った今のウタダにそんな余裕は無い。そして何も動かなければ勝手にそれが『現実』として定着する。
否、この場合は動いたところで『図星を突かれたから慌てて対処しようとしてる』と決めつけられて同じ道を辿るだけか。
さて、それならば一体どんな『現実』を見ろと?
「あんたの存在そのものがうっとうしいんだよ!」
「お前らみたいな犯罪者がいるからガンダム全体が悪く見られるんだ!消えろよ!」
恥も外聞も無くそう叫ぶ声が鼓膜を刺し、思わず笑いそうになる。
こいつら空気に酔っている。気取っている。
だからどこぞのモビルスーツパイロットのような口ぶりになるのだと心の中で皮肉をぶつけた。
皮肉をぶつけて逃げようとした。しかし逃げられない。一度考えがよぎれば記憶が引き摺り出されてくる。
彼らは何故こんな事をしているのか?
その答えをはっきりと覚えている。
愛とは他人を傷つける為の言い訳に過ぎない。
他人を傷付ける楽しさに比べれば思想や好みそのものはゴミクズみたいなものだ。
あの日、ウタダはあの場所で好きとは何かを説かれた。
ウタダはそれを何一つとして理解したくなかった。露悪的なモノの考え、心の底から気色が悪いと感じた。
世の中とはもっと真っ直ぐで心安らぐものだ。日々の活力の為に趣味が、好きがある。
しかし全てが、あの日、あの男に言われた事の証明をしていた。
知り合った女児に性的暴行を働いたという気色の悪い下衆の妄想がシン・アスカを貶めるそれだけの為に利用され、判決という結果を元に現実は捻じ曲り自己正当化に繋がる。
『被害者ウタダ・エリオは種アンチだから無罪になった』『司法が種アンチを殺してもいい存在だと認めた』と。
殺人という普遍的な恐ろしい行為は対象によって罪悪が湧いたり消えたりする条件付きのものに成り替わり、都合のいい解釈は人それぞれの真実として認知されていく。
ガンダムSEEDを貶める為に行われた自作自演の為の殺人。そして自業自得の殺人未遂。
正義の為の殺人。情状酌量の余地しかない殺人。
矛盾しているが決して擦り合わせられないものたち。それが一連の出来事から生まれた真実達だった。
どうあれウタダ・エリオは社会的に死亡した。
彼は恐ろしい殺人鬼であり女児強姦の異常性愛者。それを受け入れてくれる場所は現実のどこにも無い。
正義は成された。全ては、愛するキラ・ヤマトの為に。
キラ・ヤマトを否定するシン・アスカとその腰巾着を排除する為に。
狂っている。
ウタダはその『現実』を直視する度に、何度も、何度も、何度も、何度も、改めてそう感じた。
何を言ってるんだ。何をやってるんだ!こいつらはおかしい!
何が現実だ!趣味でしかないガンダムで何が『現実を見ろ』だ!
どいつもこいつも主人公気取りで現実なんて見えてもいないくせに何が『現実を見ろ』だ!
現実の倫理観なんてとうに投げ捨ててるくせに何が『現実を見ろ』だ!
目の前の人間も、聞きたくもない自分勝手なご意見を耳に突っ込まれる人も思いやれないくせに何が『現実を見ろ』だ!
こんなのおかしいだろ!?こんな事があってたまるか!!
でもおかしいのが普通になっている。ここはそういう場になってしまった。
だから、この場を普通に戻さなくちゃいけない。
最後に残った拠り所を守るように、ウタダは破壊を始めた。
キラ・ヤマトの上っ面だけを模倣した、手足を破壊する戦いを選んだ動機がそこにある。
一つのガンプラを修復不可能に追い込めば一人の狂人がこの場から消える。それを百回繰り返せば百人の狂人がこの場から消える。
そうやって一人残らず破壊し尽くせば、ここから追い出していけば、まともな好きが残るはずだと信じて。
しかしその行動は、世間一般から見ればガンダムSEEDアンチのテロリズムにしか見られていない。
ウタダの活動は必然的にCEの機体、特に三隻同盟やCOMPS機が標的になり、「ガンダムSEED関連を狙った種アンチの犯行」として記録されるからだ。
ウタダもそれは理解はしている。それでもそれ以外にこの窒息感から抜け出す方法が思い付かなかった。
どうせもう取り返しがつかないところまで来てしまっている。
完全に抜け出すか溺れ死ぬまで、闇の中でもがき続けるしかないのだ。
AGE-1のフロントアーマーから伸びた腕、通称隠し腕と呼ばれる機構が最後に残った敵機に伸びる。
HiνガンダムHWSから着想を得た、AGE-1本来には備わっていないそれが両脚を掴み動きを止めたと同時にマニピュレーターが掴んだ両腕と共に左右に広げる。四肢全てが張り詰め、人型ゆえにそれだけで動けなくなる。
文字通り手も足も出せない状況に追い込んだことを確認し、腹部のメガ粒子砲を起動した。
これも本来のAGE-1に備わっていない。しかし必殺たりえるものだ。
「ハイ・メガ・キャノン」
ZZガンダムの頭部から移植した50MV、戦略兵器コロニーレーザーの20%にも達する高出力メガ粒子砲が無防備な胴体を飲み込み抉り取った。
「Cockpit Destroy」
コクピットを破壊したという情報が表示されるが、そんな文字を見るまでもなくわかる。
メインカメラから映し出される映像では、敵機のコクピットは愚か胴体も腰もハイ・メガ・キャノンが溶かし消し飛ばし手足だけが千切れたように残されていた。
誰の目でも分かる程のオーバーキルだった。
これで終わりかと思った瞬間、それを否定するように乱入者の警告が響く。
疑問に感じて見渡すと先ほど撃墜した機体が一機消えていた。既に筐体から降り別の人間に交代したのだろう。
これがまだ続くのか。苦しいが嬉しい悲鳴でもある。壊せば壊す程安心できる。
次は何だ。ストライクか、ムラサメか、ジャスティスか、フリーダムか。
どれが来ようが二度と戦えないように全力でバラバラにしてやる。
敵機が足に地を付け、その重さで地面が揺れる。
ウタダはまずそこで違和感を覚えた。
三隻同盟、或いはCOMPSの機体は空中を自在に飛ぶ機体が殆どを占めている。地に足を付けて戦う機体は片手で足りる程度しかいない。
その片手で足りる程度の珍しい機体、その中でも有力なのはバスターガンダムか。何にせよチョイスが渋い。
その予想はかすりもしなかった。
作戦区域に現れたのはそもそもガンダムSEEDとは全く無縁のものだったからだ。
「SEEDじゃない?」
その機体には特徴的な二本角。頭部そのものがガンダムにあるV字型のアンテナよりも巨大に突き出しシルエットそのものを大きく変えている。
そしてガンダムには珍しい丸形の肩を始め、各部位にも曲線が取り入れられている。どちらかというとザク等といった真っ当な敵メカに多く使われるデザインだ。
黒をベースに赤のアクセントで彩られた装甲、目元から口にかけてだけ白く塗りつぶされたその機体は、すぐにウタダの記憶にあるガンダムのデータと合致した。
「マスターガンダム」
機動武闘伝Gガンダムに登場するモビルスーツ、否モビルファイターだ。
「左様」
その返事は低く重く響いた。若者の声ではない。少なく見積もってもウタダより十数以上は年上の声、五十台、六十台か。
初老に入るかという境の男が駆るマスターガンダム。その組み合わせはウタダに妙な危機感を覚えさせる。
「そして私は『東京不敗』」
「貴方の噂を聞き付けて、はるばる東京の方からやって参りました」
「東京…?東方じゃなくて?」
東方不敗マスターアジア。マスターガンダムの本来のパイロット、否ガンダムファイター。
数多のガンダム作品の中でも飛び抜けて無茶苦茶な存在であるとウタダの記憶にインプットされている。
この男が彼の名前を捩っているのは明らかだ。
「『東京』ですよ。『東方』なんて恐れ多い」
「しかし名前の通り、東京で不敗。名のある強者は全て倒し、一度負けた相手には全員リベンジ達成しているので差し引き不敗。故に『東京不敗』」
その言葉に絶句した。
なんだこのおっさん!?
凄いようで妙に情けない事を自信満々に言ってのけるこのおっさんは一体なんだ。
情けないようでとんでもない事をやってのけるこのおっさんは一体なんだ。
その名前を名乗るだけの為にそこまでの事をしたのか?
日本の首都かつ人口密集地の東京で不敗?
差し引きだとしても?
それはつまり、どういう事なんだ!?
「ガンダムファイト国際条約第五条」
聞き手の困惑を読み取ろうともせず、東京不敗が脈絡もなくそう呟く。
ウタダにはわかる。これは独り言ではなく、ある種の合言葉だ。
東京不敗はウタダがそれを答える事を望み、ウタダはその答えを東京不敗の望み通り覚えている。
「『1対1の戦いが原則である』」
ガンダムファイト国際条約。それは機動武闘伝Gガンダムにおける戦争、ガンダムファイトに設けられたルール。
ガンダムファイトがスポーツマンシップに則った戦争と言われる所以でもある概念。
ウタダは漸く増援が来なくなった事に気が付いた。今ここにいる敵は目の前にいる一機、マスターガンダムだけ。
その理由は今、東京不敗とウタダが二人がかりで説明した。
「お集まりの皆さん。改めて言いますが手出しはしないでください」
「ガンダムファイターとしての私のプライドが、絶対に許しませんからね」
馬鹿馬鹿しい。
馬鹿馬鹿しすぎる。
そもそもこれはガンダムファイトではなくガンプラバトルだ。ガンプラバトルの仕様すら捻じ曲げて何をしているんだこのおっさんは。
しかしそれがこの男の強さの源である事も感じ取れる。
この男はここにいる誰よりも強い。
強い上にウタダの信念にあまりにもそぐわない。
この男は馬鹿馬鹿しい事をしているからか、邪念が無い。
だからこそ、ここで負けるのは最悪中の最悪だ。
「それでは」
「ガンダムファイトォ、レディーゴー!!」
気は進まないが同じように破壊させてもらう。
もうそれ以外この闇のような息苦しさの中で取れる選択肢が無いのだから。