ガンダムビルドフォーディーズ   作:さんこのれい

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02 Denial-B

「うわぁ」

 

あまりにも、あまりにも眩しいその機体に呆然となった。インフィニットジャスティスもフェイズシフトを持つフレームが銀色に輝いていたが、気になる程でもなく今相対する機体ほど輝いてはいなかった。乱入してきた機体は装甲全てが金色なのだ。装甲の間から見え隠れするのとは眩しさの度合いが違いすぎる。

 

「アカツキ!」

アカツキと呼ばれた金色をFCSがロックオンする。つまり味方ではなく敵だ。

空中を制止するアカツキガンダムにビームライフルを放つ。当然避けてくるところにフラッシュエッジを叩き込む手筈だ。

先ほども上手く行った、この数日の練習で覚えた必殺の動きを再度繰り出す心算でいたが、相手が初撃を避けてこないという形でその前提が崩れ去った。

 

それどころか次の瞬間放ったはずのビームがこちらに向かって飛んできて、デスティニーの右腕をライフルごと千切り取った。

 

「何これ!?」

驚愕の独り言に対してヤタノカガミだ、と返答が響く。黄金の機体アカツキが持つ対ビーム装甲ヤタノカガミは直撃したビームを即座に屈折・反射させる。

フェイズシフト装甲によってビーム兵器に傾倒していたCEで唐突に出された完全なるビームへの耐性は想定された操縦者を何が何でも死なせまいとする努力の賜物だ。

 

「ヤタノカガミも知らないのにガンプラバトルをするたぁ種アンチってのはどいつもこいつもバカばっか」

「叩けりゃそれでいいから中身なんてなーんも見てないんだろうなぁ!」

 

「たね…アンチ?」

情報処理が間に合わずマユは状況が飲み込めていない。確実にわかることは、自分がヤタノカガミを知らないのはそもそもアニメを見たことがないからということだけ。

当てずっぽうの推理でもそこだけは的確に事実を言い当てていた。

 

「愛がねぇんだよ愛が!」

「誰がだ!」

デスティニーの先任機であるインパルスガンダムが躍り出る。その背には飛行機と見紛う翼、フォースシルエットが接続され、その手にはモビルスーツと同等かそれ以上の全長を誇る双刃、対艦刀エクスカリバーが握られている。

 

エクスカリバーを握るフォースインパルス。それはフリーダムを撃破した瞬間のインパルスでありシン・アスカのファンにとっては伝説的な装備構成だ。故にこの構成のインパルスガンダムが男のガンプラだった。

しかし渾身の一撃はただの両手に止められる。

かつてストライクフリーダムがデスティニーのアロンダイトにやってみせたように。

 

「だからよぉ!対艦刀でモビルスーツ戦に勝てるわけねぇだろ。ブンブンブンブンブンブンブンブン馬鹿みてぇに振り回してよぉ!」

両手が塞がったのは両者とも同じ、しかし突然インパルスの側面から湧いて出てきたビームが両腕を切り裂いた。

握られていたエクスカリバーも腕諸共力なく落ちる。

 

「使い方は…ガンバレルと大体同じってか」

操作感を確かめるように七機のM531R誘導機動ビーム砲塔システムがアカツキの側に潜り込む。

 

マニピュレーターを介さず、機体との接触すら介さず攻撃を可能とする兵器がガンダム世界には存在する。

ファンネル・ビットに続きこれはその三つ目、ドラグーンと呼ばれる兵器だ。脳波や超能力といったものを用いて飛ばし、一対一の状況すら複数対一の状況へと一変させる。

 

三機のドラグーンが放ったビームが今度はインパルスの脚部を抉り取ったかと思うと、次の瞬間にはフォースシルエットに二機のビームが突き刺さる。

バックパックの推力に空中機動を依存しているインパルスは空を飛ぶ力を失い墜落していく。

 

デスティニーがフラッシュエッジⅡを振るう間合いに入れたのはその直後であり、アカツキが双刀型ビームサーベルを構えるのに十分な時間があった。

 

フラッシュエッジⅡとビームサーベルがぶつかり合う。アカツキが持つそれは両端からビームの刃を出す、三隻同盟の高性能機によく見られるタイプだ。分離する事で二刀流に切り替える事も可能だがあえてそれをしていないのは、工夫を凝らす必要すらないという判断からだ。

 

「ビームサーベルすら持ってない!」

フラッシュエッジⅡの出力は普通のビームサーベル以下だ。特別な技術も無しにぶつかり合いになれば敗北は目に見えている。無傷のアカツキであれば既に片腕を失ったデスティニーとの接近戦は余裕を以て対処ができる。少なくとも、攻撃を捌きながらドラグーンを動かす位であれば十分だった。

 

デスティニーの左腕がドラグーンのビームに貫かれ、爆発する。爆音に混ざって笑い声がコクピットに響き渡った。

 

「はい!終了!これでお前はもうなぁにもできない!!」

「持ってるものはデカいだけの剣に弱いブーメラン!名前も付いてない意味わからん砲に光るだけの電飾翼!両腕を失っただけでそれすら持てなくなって何もできなくなる欠陥機!」

 

唯一残った頭部のCIWSが火を上げる。ヤタノカガミ搭載の為フェイズシフトを持たないアカツキにとってそれは有効打たりえる一撃だ。

しかしその一撃も距離を取られて命中しない。間合いを取ったアカツキの周りに七機のドラグーンが再び展開し、デスティニーを取り囲んだ。その操作にアカツキは自身のマニピュレーターを使う事はない。

 

「それがデスティニーだ!要するに雑魚なんだよ雑魚!パイロットが雑魚なら機体も雑魚!雑魚雑魚雑魚雑魚雑魚だらけだ!!」

回避の為に広げた翼にビームの穴が開く。その一撃は機体のダメージ足りえずともデスティニーの機動性を削いでいく。

 

「それで主人公だ!?何も見てねぇからそんな事言えるんだ!!」

続くビームがサイドアーマーを千切り取る。

 

「お前は!お前達は!かませ犬のやられ役なんだよ!!現実も見ないでそれ以上のものを望むんじゃねぇえー!!」

遂にドラグーンのビームが左足を捉えた。

 

 

ガンダムSEEDの主人公であり三隻同盟の実質的な顔であるキラ・ヤマトは特異な戦術を取る。

コクピットを狙う必殺の一撃ではなく武器と手足を狙い、パイロットの死亡ではなく戦闘不能を狙った戦いだ。これは知人を殺し、友を失い、友と殺し合った末にキラ・ヤマトが選んだ戦術であり、それが彼の優しさだ。

 

その為ガンダムSEEDを愛するガンプラファイターの多くは彼の戦術の真似をする。彼らにとって少しでも最強のキラ・ヤマトに近付く事がガンプラバトルシステムの存在意義であり、ガンプラファイターで在り続けるモチベーションである。

 

だが、何が起ころうが死に至る筈のないガンプラバトルにおけるそれは拷問に他ならない。

ダメージレベルが設定されているならば機体が破壊し尽くされる彼の戦い方はガンプラを修復不可能なレベルまで追い込む。

ダメージレベルが設定されていないとしても自分が愛するガンプラが刻まれ砕かれていく様子を最前線の特等席で見る事になる。

 

何より手足を奪うだけの戦いは不公平と言える程戦闘力に偏りがなければ成立しない。

つまりこの戦い方が成立する状況というのは片方がほぼ何もできずに破壊されているのだ。

 

ガンプラを作るにあたりビルダーは思いを込める。それは機体への愛であり、更に強くする為の新しい武装を夢想もする。

一方的な戦いというのはその強さも存在も否定された上での公開処刑。それはもはや戦いではなく嬲り殺しや虐殺の類だ。身体は死なずとも、心は十二分に殺される。

 

本当の戦場であるならば生きているだけ十分とも言えるだろう。だがこれはガンプラバトルだ。全てがお遊びであり模造であり虚偽であり非現実だ。例え映像技術の発展によって再現できようとも、どれだけ人が錯覚しようとも、その一線は越えられない。だからこそ何が起ころうが死に至る筈が無いのだ。

であれば心を殺す意味もありはしない。心を殺す意図が何処にあるというのだろうか。

 

「なんでこんな事をするんですか?」

ガンダムSEEDを知らないマユにとって、不殺の戦いは悪意しか感じられなかった。

あの時助けてくれたウタダはコクピットを狙い、一瞬で決着を付ける戦術を執っていた。それが普通と感じた以上、アカツキの戦い方は陰湿としか言いようがない。デスティニーガンダムの尊厳を奪う以外の意図が見えない悪意ある戦いだった。

そしてそれはデスティニーガンダムが好きな兄の心の否定であり、兄への侮辱でもある。

 

「デスティニーが悪役だからですか」

その根本にある感情の、心当たりがあるものを提示する。デスティニーは悪役だ。悪役は格好悪いものであり嫌われてしかるべき存在だ。マユ自身もその考えに至ったからこそすぐにその可能性に辿り着いた。兄への感情が一瞬揺らいだ事すらあった。

 

「わかってるじゃないか」

でもそれは間違っているとあの日二人が示してくれた。自分の好きを大事にしてもいいのだとあの二人が教えてくれた。あの時二人が示してくれた言葉を今ここでぶつけてやる。

 

「でもガンプラは自由です!!自由だから今わたしはここにいる!悪役だからって!好きなものを悪く言われるのは、嫌!好きなものを好きでいて、何が悪いんですか!?」

一字一句覚えているわけではない。その言葉から感じた事も、冷静さを欠いた頭で捻り出した感情も諸共に吐き出した。

 

「好きなわけがないだろ?」

その言葉は笑い飛ばしすらされなかった。一たす一は二に決まっているとでも言うような勢いで全てを否定した。

 

「さっきから言ってるだろ?デスティニーガンダムは欠陥機だ。武器はデカいだけで役に立たない対艦刀、ビームサーベル以下のブーメラン、両手が無くなればもう何もできないときた」

「そんな機体の何が格好いい?そんなもんの何を好きになるっていうんだ?」

 

デスティニーの何が好きか?兄が好きだからだ。マユにとってはそれしかない。具体的にどこかどう好きなのか、マユにはそれを語れるほどの思い出が他に無い。

 

「その沈黙が答えだ」

兄は、何故、デスティニーが好きなのか。それも聞いたことがない。その答えはアカツキが代わりに示した。

 

「お前らはガンダムSEEDが嫌いだから、デスティニーが好きって言ってガンダムSEEDを叩く大義名分を作りたいだけなんだよ!」

「デスティニーも!シン・アスカも!ただアンチの神輿になってるから持ち上げられてるだけで何の魅力もありゃしねぇんだ!!当然だよなぁ!ただのやられ役を誰が好むってんだ!!」

「お前の兄貴もそんなんだから、どうしようもないクソ野郎だったんだ!」

 

致命傷がマユの心に突き刺さった。まさか、兄が、そんな事はありえない。あんなに楽しそうにデスティニーを動かしていた兄が、本当は好きではなかったのか。

ただ何かを否定する為だけにデスティニーに乗っていたというのか。嘘だ。誰か嘘だと言ってくれ。マユはもう遊んでいる場合ではなかった。これは最早遊びではなくなっていた。

 

バックパックにビームが突き刺さる。爆発と共にそれは失われ、デスティニーが地に堕ちる。叩きつけられる衝撃と共に目に映ったのは灰色になった何かとそれに何かを突き立てる二機のガンダム、正確にはストライクガンダムがいた。

 

フェイズシフトダウンを起こし、既に耐性を失ったインパルスガンダムのコクピットから対装甲用コンバットナイフ、アーマーシュナイダーを引き抜き、ストライクガンダムがデスティニーを見据える。

 

「あの世に兄貴によろしくな!」

楽しげに、気取りながらアカツキの声が聞こえてくる。その口調よりも内容にマユは愕然となった。

兄は意識不明ではあるが死んではいない。しかし、死を望まれているのだと、この言葉で確信してしまった。そして死を望まれる理由も根本にあるのは『デスティニーが好きだから』と、この言葉で確信してしまった。

 

ただ好きであるという事、それだけで好きである事も、人間性も、生存の権利すらも否定される事をマユは思い知ってしまった。

何かを叩きつける音とコクピットにアラームが響く。モニターを埋め尽くすのはアーマーシュナイダーを構えた二機のストライク。モニターに正確に向けられるように見えるその刃は、コクピットを確実に潰そうとする意図が見て取れた。

手足を失い、アカツキが言った通り最早何もできないデスティニーはただコクピットにその刃を通しパイロットが死ぬまで待つことしかできない。

 

ゲームの都合上二分もかからないただの消化作業だが、マユにとってそれは十分以上の苦痛の時のように感じた。その後画面が赤くなり、モニターがだんだん暗くなっていく。唯一光を残した一部にはこう書かれていた。

 

「Cockpit Destroyed」

 

シン・アスカは今、ここで死んだ。かつての故郷で、今は撃つと決めたオーブの機体に手も足も出ず、かつてキラ・ヤマトが操っていた、今となっては旧世代の機体に轢殺されたのだ。

 


 

技術の革新が世界の全てを変えるとは限らない。伝統が重んじられれば特にそうだろう。

例え技術が進歩しようとも、学校のチャイムは相も変わらず鳴り響く。変える理由が特に無いというのも強いのだろうか。

 

しかしそれが響く場は数年で大きく様変わりをする。技術の進歩を優先で受けるべき場である事から、環境の変化は著しい。そしてその試みが裏目に出る事も当然ながら存在する。

 

心が殺されたとしても、身体は生きている。ならばいくら心が殺されていようが学校には行かなければいけない。それがたかが遊びで起こった事なら尚更だが、それでも心が死んでいる事には変わりない。

感性と共に知覚の7・8割が死んでいるマユが異常に気付いたのは大休憩になってようやくだった。

 

「ねぇ、これってマユ?」

お友達から見せられたスマートフォンの画像を見て、絶句した。

コクピットに突っ伏して泣き叫ぶ女児に見覚えがある。これは、マユ自身の姿だ。その姿が世界的に有名な動画共有プラットフォームにアップロードされていた。

そのタイトルは「種アンチを論破してボコボコにしてやった結果」。必要最低限にまで情報を削ぎ落とされた偏向報道は、画面の中で泣いている彼女が兄を否定されたから泣いているのだとは捉えていない。

画面の中にいるのはただ負けたから自分の思い通りにいかなかったからという我儘で癇癪を起こしているクソガキだ。そしてその姿こそがシン・アスカのファン、アカツキやあの時のアスラン・ザラが言うところの種アンチの代表として世界に拡散されているのだ。

 

周囲がじっとこちらを見ている気がし始めた。誰かに笑われているような気がし始めた。

 

 

ガンプラバトルシステムの開発はガンダムの名を世界に轟かせた。今や、その名前を知らない者は極端な発展途上国以外にはもはやいないと豪語できるほどだ。

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