ガンダムビルドフォーディーズ   作:さんこのれい

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03 Dancer on the hand-A

「お兄さん事故に遭ったって?あんたが代わりに死んでたら原作通りだったのにね」

 

彼女は大人にならなければいけなかった。感情の赴くままに騒ぎ、欲望の赴くままに暴れ回る。そんな同い年達と同じ立場にいる事ができなくなった。

 

「マユ!この馬鹿野郎!修正してやるぅー!!でゅくしでゅくし!ずごーん!!」

 

あの日マユは『守られるべき幼い子供』というレッテルの上から『種アンチ』というインクをぶちまけられた。

そのインクが見えない人にとってマユはまだ幼い子供である事に変わりはないが、それが見える『特別で選ばれた人間』にとってその下地にあるレッテルは何の意味も無い。

 

「泣くぞー?すぐ泣くぞー?絶対泣くぞほーら泣くぞー!」

「ねぇそれガンダム?本当にガンダム?」

 

『守られるべき幼い子供』は『排除すべき敵』とされた。排除の為の行動は全て正義と片付けられた。

 

何より彼女は最早ネットのおもちゃなのだ。電車内で奇声を上げる人間、怒りながら歌い近所を威嚇する中年、それらと同じカテゴリに入れられた。

 

だからこそ、マユは一方的な理解と諦めを学ばなければ心が持たなかった。それが理不尽であろうとも、そういうものと受け入れなければいけなかった。自由を手放せば最低限度の安寧だけは手に入った。

彼女と出会ったのはそんな日々の中だった。

 

「サザミヤ・マユちゃんね」

覚えのない声に向けてどんな顔をしたのか。あまり使わない筋肉が動いていたから普段あまりしない表情をしていたのだろうと後にマユは振り返る。流石に学校外の見知らぬ人間に名前を知られて冷静ではいられない。

 

「待って。何かするつもりじゃない」

「私はカスガっていうの…ええと、あなたのお兄さんの仲間」

兄が話題に出てきた途端、マユの心やざわつきが少し抑えられた。少なくとも話を聞く姿勢はその一言だけで整った。

カスガもその間に言葉と合間を整えていたようで、次に出た言葉はもう本題のそれだった。

 

「私達はあの動画をばら撒いたやつらを決定的に負かしてやろうと思ってる。あいつらは私達の所にも色々やってきてる迷惑なやつでね。マユちゃんにはその協力をしてもらいたいの」

 


 

学校からの帰り道、そんな場所でこんな話はできないとカスガに連れられ歩いて数分。明るい話題も世間話もする仲ではないが一つどうしても聞きたい事がマユにはあった。

 

「あの人達は何なんですか?」

最初に戦ったアスラン・ザラ、こちらを完膚なきまでに打ちのめしてきたアカツキ。彼らもまた『特別で選ばれた人間』だ。

 

恥も外聞も無く死を望んできた二人であり、マユからしたらどちらも異常者として映っていた。

何故あんな事をするのか。

どうしてこんな事になったのか。

状況を把握しておかなければ不気味でしょうがなかった。

 

「ガンダムSEEDが好きなのよ」

「好きだからってあんな事をするんですか?」

「頭がおかしいでしょう?」

 

へらへらとしながら飛び出た言葉は品性を疑うものであったがマユは気にも留めなかった。彼らにネガティブな感情を持った今の彼女にとって憎悪の対象である彼らへの悪口はむしろ都合が良かった。

何より話の流れを変える労力や関係性を壊すリスクを負ってまで止めるものでもない。

 

「あいつらは自分達がいるからこそ今のガンダムがあるんだと思い込んでいるのよ。だからあんな事ができる」

背景を理解していないマユにとってはこれも理解できない考えだった。

今は昔の平成の世にガンダムSEEDが発表され、その爆発的な人気によってガンダムというコンテンツは勢いを取り戻したのだと、そういう歴史をマユは知らない。

 

ガンダムSEEDがもしこの世に無かったら、ガンダムというコンテンツはガンプラバトルシステムを産むほどの力を得なかったかもしれない。

 

「自分達こそ救世主(ガンダム)だと思ってるのよ」

そう言う意味では彼らは正しく世を作り直した救世主であった。

 

「自分を、コンテンツ(ガンダム)だって?」

「そうよ。自分達だけがガンダムだから、他のガンダムはガンダムとは思ってない。マユちゃんのお兄さんみたいな人とか、私達はそういうのと戦ってるのよ」

兄を認めている人がまたここにいる。それだけでマユは警戒心を解いていく。この人も本当にインパルスと同じように兄の仲間なのだろうと見做し始めていた。

しかしマユはここで矛盾に気付いた。

 

「でも、デスティニーはガンダムSEEDなんですよね?」

兄はデスティニーを好いている。それはガンダムSEEDに属しているものだ。であれば彼等から攻撃される謂れもないし戦う理由も無い。

 

「それはちょっと複雑な事情があるの…デスティニーとシンの事は知っている?」

シン、シン・アスカの名前を思い出す。

ウタダと会ったあの日にアスラン・ザラが叫んでいた。『デスティニーとシン・アスカは死ね』と。

そしてウタダの言葉を思い返す。『デスティニーは悪役なのだ』と。であればシン・アスカとは本来であれば死ぬべき悪役なのだろう。

 

「シンって悪役の人?」

「それは違う。シンは主人公なの」

悪役であるはずのキャラクターが主人公。屈折した作品を読む大人ならそういう物語も嗜むだろうが彼女はまだ幼く、その二つは結びつきようのないものだ。

悪役であれば主人公ではないし、主人公であれば悪役ではない。だからこそ言ってる意味が理解できない。

 

「でもあいつらに聞いたら絶対こう答えるわ。『主人公はキラ・ヤマトだ』って」

キラ・ヤマト。マユがその名前を聞くのは、記憶に残っている限りでは初めてだ。ガンダムというコンテンツが拡散した昨今故にどこかで聞いたことはあるかも知れないがマユは興味が無いので忘れている。

マユはただ、兄だけを見ていたのだから。

 

「誰…?」

「ガンダムSEEDの主人公よ」

「主人公が二人いる?」

「そう考えるのが一番平和なんだけどね。でも、そうはならなかった。あいつらにとってキラが主人公なの。シンはそれを横から奪い取ろうとした敵」

 

続編SEEDDESTYNYの主人公として登場したシン・アスカはキラ・ヤマトと敵対する存在だった。

キラ・ヤマトとその仲間達を否定する立場にある彼は瞬く間にファンの反感を買う。主人公という役割を奪い取るだけに飽き足らず主人公を否定する男の一挙手一投足をファンは否定する。

 

演者の人間性すら否定するようになる程まで溢れ返ったシン・アスカへの怨嗟の声はいつしか不幸を望みだし、幸か不幸かそれは現実となって現れた。

 

物語が進むにつれシン・アスカは物語の本軸から外れるようになりキラ・ヤマトが主人公に返り咲いた。

そして彼は最後に文字通り正義に打ち倒された。

 

シン・アスカに期待を寄せていた人達はその物語に失望した。キラ・ヤマトを不自然に贔屓していると批判した。

その様子を見たガンダムSEEDのファン達は彼らを『種アンチ』と名付け、その愛の全てを否定した。

そしてシン・アスカには主人公失格の烙印を押し、作中で彼しか搭乗しなかったデスティニーガンダムもまたシン・アスカの象徴として扱われ、共に罵倒・嘲笑・差別の対象として肥溜めに叩き込まれた。

 

それが最早十数年以上前の話。そこに追い打ちをかけたのがガンプラバトルシステムだった。

 

ガンプラバトルシステムの開発によってガンダムというコンテンツは世界中に広がった。特に人気の高いガンダムSEEDの知名度が高まる早さは凄まじいものがあったが、ガンダムSEEDの人気が高まるというのはシン・アスカの汚名が広がるのと同意義でもあった。

 

ガンダムSEEDのファンがこれ幸いと、或いはいつもの通りシン・アスカを腐せば人が鼠算的に乗っかっていく。

ガンダムを知らない人達がガンダムに染まっていくのと同時に彼らはそれが当然なのだと受け入れていく。

 

一方的に都合良く歪曲された歴史を真実と受け入れ、シン・アスカのファンを『アンチ』と断じてその好きの全てを否定した。その行いは否定される事は無く、それは実質的な正義となっていた。

『アンチ』である以上否定されるのは感性だけではない。その尊厳、人間性、生存権すら否定された。何故なら『アンチ』であるからだ。彼らはある種のテロリストであり決してファンでは在り得ないとされたのだ。

 

「それは…可哀想」

「だからシン・アスカのファンは戦ってるのよ」

自由を得る為の戦い、戦う理由はそうだろうとマユは予想した。自分が手放した自由を取り戻す為に戦う人達がいる。その中には兄もいるのだと。

 

「これは一種の戦争なの。誰も傷付かないけど確かにここにある戦争」

その言葉に大きな反応はできなかったが同意はしていた。遊びであるはずのガンプラバトルで存在や生きる事すら否定される。

 

これはもはや遊びでは済まない。

 


 

カスガに連れられて来た建物は街のはずれにある個人経営の模型店。何かで調べたら今回のように誰かに連れられなければ辿り着くことは難しいような立地の店舗だった。

 

入り口ドアを開け、店主と思わしき老人に会釈をした後さも当然のようにプライベートスペースに入り込んだ。ガンプラの棚にデスティニーもジャスティスもないなと思いつつマユもその後に続く。

 

「それじゃあちょっとガンプラを見せてくれる?」

「一応持ってますけどガンプラで何をするんですか?」

「勿論ガンプラバトルであいつらを倒すのよ。私達はガンプラファイターなんだから、あいつらに勝負を挑んで負かす」

「ダメージレベルマックスの三対三。向こうはアカツキにストライクが2機だと思うから、こっちはマユちゃんと私と、私が連れてくるもう一人で戦う」

 

不意打ちではない正面からのダメージレベルマックス。ガンプラの破壊し合い。壊されれば壊される最も戦争に近い競技体系。

 

「だから先にマユちゃんのガンプラを見ておこうと思って。何かアドバイスできる事があるかもしれないからね」

そう言われてデスティニーをケースから取り出し見出した時、デスティニーに纏わる思い出が脳裏をよぎった。否、思い出というにはそれはあまりにも陰鬱でフラッシュバックと例えた方が適切ですらあった。

 

何も出来ない欠陥機、死すべき男の操り人形、勝つ気が無く踏み躙られるためにだけある武装構成、好きだというあまりにも簡単な条件で執行される死刑。その先に待ち受けていた惨殺。

死の後に待ち受けていた自由無き日々。無知とは白紙であり白紙であったが故に染まった心から投げつけられた汚泥が滲み出てきた。

 

なぜそれが起こったのかは先程カスガが説明してくれた。それが余計だったかもしれない。背景を理解してしまったからこそ、その記憶は更に精巧な汚物としてマユの心の中で具現化した。心から滲み出た汚泥は土となって固まりマユの動きを止める。

 

デスティニーは使いたくない。

ガンプラビルダーが凡そしないその反応にカスガは違和感を感じる。マユは答えに詰まっていた。ここまで来て正直に感情を伝えるべきではないのではないかと幼い理性で邪推した。その邪推は良識でありある種の正解だ。

 

ここまで来てデスティニーを使いたくないなどと言い出せない。

戦う事に同意したと相手方が捉えている事は幼い彼女でも理解できている。それなのにここに来て戦いたくないなどと許されるのだろうか。

ついていくと自分で選択したのであればその責任は果たさなければならない。しかしただの責任感だけではこの強烈な嫌悪感から逃れられない。

マユは、覚悟を決めて逃げた。

 

「ごめんなさい。デスティニーは使えません…これは兄のですし。いじるのもまた壊すのも…」

都合のいい言い訳を咄嗟に用意した。今まで散々壊しておいて何をと自分でも思う。実際にそう思っている所もある。それでも尚デスティニーを使う事はできない。その嫌悪感から逃げる事はできない。

 

マユはそれをカスガへの裏切りと捉えていたが、カスガはそれをわかっていたと言わんばかりに受け入れた。むしろ、それを望んでいたかのように。

 

「それならこっちを使ってみる?丁度いいガンプラが手に入ったの」

段取り良く用意されたキットにマユは驚いた。デスティニーの箱とは違い全体的に色合いが明るく纏まっている。その中で映るガンダムもデスティニーとは全く形状が異なる別のガンダムだ。しかしどこかデスティニーを彷彿とさせる。

 

 

「これはダブルオースカイ」

機動戦士ガンダム00の後期主役機ダブルオーガンダム、それをガンダムビルドダイバーズ作中で改造したダブルオーダイバーをさらに改修した機体、それがダブルオースカイだ。この機体にはこの機体特有の大きな特徴が一つ備わっている。

 

「この機体はデスティニーを基に作られているの」

ダブルオーダイバーのビルダーであるリクは改修の際に新しいガンダムの要素を組み込む事を決めた。そして選ばれたのがデスティニーだった。

 

ダブルオーのGNドライブにデスティニーの光の翼ヴォワチュールリュミエールを搭載する事で機動性を向上させ、デスティニーの武装を模したバスターソードとビーム砲を搭載。そうする事で二つのガンダムを融合させた結果生まれたのがこのダブルオースカイだ。

 

「デスティニー好きなんでしょう?あんなやつらの言う事素直に聞いていてもしょうがないわよ」

名前は違えどダブルオースカイはデスティニーの力を受け継いだ、デスティニーの一つなのだ。

 

「この機体で、あいつらを見返してやりましょう」

デスティニーでもあるこの機体でアカツキを倒す。その為の協力をしてくれるのだとカスガが言った。

 

「デスティニーは弱くなんかない。それを思い知らせてあげましょう」

 

 

悪魔が不義理の執行者であるとして、不義理の代名詞でもある嘘をどうして吐かないと言えるのか。悪魔が常に正々堂々と悪魔の姿のまま人を誘うなどという馬鹿正直な事をするのだろうか。

 

つまり何が言いたいかというと、悪魔は天使の姿で己を偽り誘う事もある。

これは悪魔の囁きだ。施しではない。悪魔はあくまで悪魔なりの利益の為に動いているに過ぎない。そして誘惑に負けた人間に待つのは悲惨な末路と相場が決まっているのだ。悪魔にとってはそれすらも労働の上で得られる利益の一部なのかもしれない。

 


 

カスガがこれをキットのまま渡してくれた事が逆にマユの負担を減らした。借り物ではない、一から自分でガンプラを作り上げる作業。例えこの後壊れようが無駄になろうが全てを自己の内に完結させられる事が今のマユにとっては救いだった。

 

あの日の二人、ウタダとネーナを思い出す。あの日初めてキットを開けて、あの日初めてガンプラを作った。教わった通りにパーツを切り離し、ゲートを処理し組み立てていく。胴・頭・両腕両足バックバック。

 

工具に触れるのは初めての経験ではなかったものの、全てを作り終えるのにはかなりの時間を要してしまった。それは一から作るのが今回が初めてだったという事、まとまった時間が取れなかったという事、何より作成中に二人の顔がちらついてしまったからだ。

 

二人の顔を、二人との思い出を思い返す度にマユは考える。今度会った時どうすればいいんだろう。そう考えてしまうと手が止まる。

一緒に模型店に入り、修理したデスティニーからあっさり乗り換えた自分はどう思われるのだろう。

 

それでも尚、デスティニーにはもう乗れない。ストライクガンダムに嬲り殺されたあの日あの時、最期の一瞬まで助けが来るんじゃないかと期待した。ウタダにまた助けて欲しいと強く願った。それが叶うことはなかった。

 

今あの人は何をしているのだろう。もしかしたらあの動画を見てしまったのではないだろうか。そう考えると手が震える。

取り返しの付かない汚点を、彼はどう思うのだろうか。そういう時マユは作業を切り上げてベッドに潜り込んだ。彼女を慰めてくれる者はいない。自分を自分で抱きしめて、その温もりの中で眠るしかもう彼女の逃げ場は残っていないのだ。そうして意識を、心を手放している時が一番心が安らいだ。

 

 

作業と逃避、その間に不自由な安寧を挟む日々を繰り返し一週間が経ち、漸くダブルオースカイが完成した。

机の上に聳え立つダブルオーのマスクにはデスティニーと同じような血涙が刻まれていた。翼は小さくなったがそのマスクを見てこれはデスティニーなんだとマユは確信し、すぐにカスガに連絡を取る。

 

リベンジの準備は今ここに整ったのだと。それ聞いたカスガは大層嬉しそうにスケジュールを擦り合わせて決行日を決めてきた。

 

それまでの間、ウタダ達に会うことはなかった。

 


 

「あの時の仕返しかい?ガキだねぇ」

アカツキとの再会は不気味なほどあっさりと実現した。これをセッティングしたカスガが何をしたのかマユは知らないが、アカツキに仕返しをしてやりたい一心で気にすることすらしなかった。

 

前回は真正面から顔を向かい合わせる事はなかったからこそマユは今初めてアカツキのパイロットの顔を見る。

30代、長髪の男性。口調通りの軽薄そうな男。嫌悪感に支配されているマユが読み取れた情報はそれだけだ。同じ大人の男と言ってもウタダとは大違いだと感じていた。

 

「その子供相手にあんな仕打ちするなんて大人として恥ずかしい」

「『おぉー!なんと傲慢なのだろう!』ってか?」

 

そのあまりにも下手くそな演技のような振る舞いに、アカツキの側にいる二人の男が吹き出した。その言葉にどういう意味が込められてどういった歴史があるのかをマユは知らない。

 

そんな事よりも相対して想像するのはあの時の戦いのリプレイだ。バックパックのドラグーン七機、双刀型のビームサーベルにライフル。

それに対してどんな手を打てば勝てるのか、それに頭が一杯だった。

 

「もういい。ダメージレベルはお互いマックス。再起不能になるまでやる…戦争だ」

 

100円硬貨を筐体に入れてバトルシステムを起動する。戦場に赴くまでの手続きを無感情に作業的にこなしていく。そうして一時の暗点の後、目に映った光景はいつものミネルバの中ではない。

ここは宇宙戦艦プトレマイオスⅡの内、ガンダム00における主人公の母艦だ。

 

「気にしなくていいよあんなの」

プトレマイオスⅡの両舷に備わったモビルスーツ用のカタパルト、マユがいる反対側からカスガの声が聞こえてくる。

 

「所詮何があってもわかり合えない世界の人間だもの…だから月光蝶に滅ぼされる」

「げっこうちょう…?」

 

またマユの知らない単語が出てきた。言葉の意味を問うその言葉は返されること無くカスガの持論に搔き消された。

 

「キラがどれだけ強かろうが結局は滅ぼされて終わるって事。あんなもの雑魚なのよ」

「でも私達は違う。だからこの戦いは勝てる」

 

形あるものはいつか滅びるという意味だろうか。それとも血が出るのであれば殺せるという意味だろうか。とにかくあの時と違って勝ち目が無いわけではないのだと、カスガはそう言いたいのだと解釈した。

カスガがインパルスよりも実力が上なのかどうかはわからない。それでも自信を持って真正面から戦うというのだから勝ち目はあるのだろう。

 

「アカツキの相手はマユちゃんができる?」

願ったり叶ったりの提案。倒すなら腰巾着のストライクよりアカツキだ。アカツキ自身に敗北を叩き込む事こそが今マユがここにいる理由だ。

頷き視線を手元のモニターに移すと発艦のサインが表示されていた。

 

いつもの通りの発艦口上を唱えて自分の中のスイッチを入れる。

最早これは遊びではない。戦争だ。誰も傷付かないが確かにここにある戦争だと心に叩き込んでいく。

「サザミヤ・マユ、ダブルオースカイ。行きます!」

 

いつもと違う艦であろうが、カタパルトから射出される感覚は何も変わらない。しかし発艦して真っ先に違いに気付いた。それはバーニアの音だ。

噴炎の音とは思えない何かが流れていくような清らかな音。スラスターから噴出するGN粒子の音。緑の粒子がモニターの端にちらついては消えていく。ネーナのスローネドライは赤の粒子だったがこの機体は緑だ。目にした時はその違いは何だろうと疑問に思ったものだが、すぐにその疑問は捨てた。

 

けたたましいアラーム音に反応して軌道を横にずらすと、殺意と破壊を込めた巨大な光の束が元いた場所を突き進みながら宇宙の果てまで消えていった。

 

「サテライトキャノン…撃ったのはあのストライクか。そういうストライカーよねあれは」

赤い流線型の機体、アヘッド・スマルトロンからカスガの呟きが聞こえてくる。

 

ストライクガンダムは武装とバックパックを換装する事を前提として開発された機体であり、その二つを変える事で如何様にも戦術が変わる機体だ。

 

ガンダムXのバックパックを流用し、戦術兵器サテライトキャノンを発射できるように改造したストライクが今回の敵機。勿論原作に存在しないストライカー、プラモデルだからこそ実現したストライクの新たな力だ。

 

「よくかわしたね。あれに当たってたら一発でアウトだったよ。何せコロニー一個吹っ飛ばせる代物なんだから」

「次をチャージさせる前にけりをつけてくる」

 

サテライトキャノンの弱点は月から射出されるマイクロウェーブを受信しなければエネルギーを用意できてないという事。初弾は予めチャージしておく事で即時発射ができるが二発目以降は手順を踏まなければサテライトキャノンは発射できない。

それをわざわざ待つ心算も余裕もこちらには無いのだ。

 

「わかった。私はあっちのソードストライクをやる」

二つ返事で作戦が組み立てられると同時にガンダムの関節が人間のそれでは到底不可能な方向へと曲がっていく。

そこに武装や装甲が合わさる事で戦闘機のようなシルエットを作り出すと、サテライトキャノンを装備したストライクに向かってマユの知らないガンダム、ガンダムキュリオスは飛んでいった。

 

モニターがアカツキをロックオンし、両者とも相手の射程に入り込んだ合図を出す。

操縦桿を握る手が少し汗ばむ。今度は、何もできないままやられたくはない。兄の好きなものだけでなく、兄自身すら侮辱したアカツキは絶対に許せない。

 

その下品な装甲をボロボロにして、大層なバックパックを引き剝がして土下座させてやる。

ダブルオースカイがフロントアーマーに搭載されたビームサーベルを抜き取り、怒りのままアカツキに突貫した。

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