ガンダムビルドフォーディーズ   作:さんこのれい

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03 Dancer on the hand-B

アカツキから放たれたビームライフルを最低限の動きで躱し、最短距離で突き進んではビームサーベルを叩きつける。サーベルの間合いに入る頃にはアカツキも双刀型のビームサーベルを展開していた為、そのまま切り裂いて終わりという事にはならなかった。

 

サーベル同士が機体の間でぶつかり合う。ダブルオースカイがフロントアーマーからもう一つのビームサーベルを抜き放つと双刀を分離させ攻撃を防ぐ。

 

「おいおいブーメランはどうした?やっぱり弱いから捨てちゃったのかな?」

距離が近付いた為、通信が混ざり合い敵の声がこちらに届く。ガンダムで御馴染みの戦闘中の口論を再現する演出だ。

しかし相手の言葉から感じられたものはごっこ遊びのそれではない、心からの悪意だ。

 

ダブルオースカイにはフラッシュエッジⅡは搭載されていない。その為サーベルの出力は標準のものと同等になったが、それはその分だけデスティニーの要素を失うという事でもある。

デスティニーが好きでガンプラバトルをしている者がデスティニーは弱いと言いながらデスティニーを捨てるという本末転倒ぶりは側から見る分には滑稽でしかない。

 

兄がデスティニーの武装をカスタムをしないで戦っていたのはこういう嘲笑を避けるためだったのだろうかとふと思う。兄は、デスティニーが弱い欠陥機だという風潮を打破する為にあえてオリジナルのままで戦っていたのかもしれない。

しかし仮にそのマユの考察が正しいとして、マユの兄ケンイチロウがそのまま勝ち続けられたとしても、『百歩譲ってデスティニーが強いとしてもシンが弱い、情けない奴』という逃げ道を封じる事はできないという事実にはマユもケンイチロウも思い至っていなかった。

それを理解できず戦い続けたからこそ、彼は鬼になるしかなかった。

 

「そんなことはどうでもいい!あんな動画を出した事…お兄ちゃんを馬鹿にした事を謝って!」

「自業自得じゃないか!罰を受けて当然だ!」

「私達何も悪い事はしていない!ただ、デスティニーが好きなだけでなんでこんな事に!!」

 

あの時の繰り返し。それでもあの時のアカツキの言は納得できない以上、それを忘れた事にして叫ぶしかない。心に響いたウタダとネーナの言葉を、何度でも叫ぶしかない。

 

「悪い事してんだよ!!!」

それに対してアカツキは何の迷いも無く言い切った。あの時とは違う方向から、マユを否定する。

 

「お前らは数十年!!もう昔の事をグチグチグチグチと引きずって!!取り返しのつかない事を繰り返した!!!」

揺らぎようのない罪を突き付ける。

 

「お前らのせいで多くのものが失われた…!!」

正義の怒りで燃え上がる。

 

「お前らがキラ憎しでスパロボZなんて出したせいでスパロボはもうオワコンだ!!歴史あるシリーズがお前ら種アンチが私物化したせいで終わったんだ!!!」

何も間違っていない自分達は何もかもが間違っている悪に侵略され続けてきた。

 

「脚本家の先生も死んだ!!!」

であれば戦うしかない。

「お前らが殺したようなもんだ!!!!」

ガンダムSEEDでキラ・ヤマト達がそうしたように。

 

「何が好きだ!!何が自由だ!!!綺麗事にしようとしてんじゃねぇ!!!」

それが平和への道だ。ガンダムSEEDとキラ・ヤマトはそれを示した。

 

「好きってのはなぁ!!好きってもの自体が綺麗なんであって、下痢便が好きなんていうお前らが守られるためにある詭弁じゃねぇんだよぉ!!!!」

だからこそアカツキはそれを実現する。ガンダムSEEDは正しいのだから、現実にいる自分達も正しいのだ。

 

「死にやがれ!!社会不適合者ぁ!!!」

 

二本のサーベルを強引にぶつけに行く。距離を取れば七機のドラグーンが攻撃を仕掛けてくるのだから、目の前の脅威に全力を注がせなければこちらが不利になるからだ。

鍔競り合いの緊張の中、場違いな通信がカスガから入る。

 

「マユちゃん。そろそろトランザムが使えるはず」

「トランザム…?」

「その機体の強化モードよ。それでけりをつけなさい!画面右下!!」

 

言われた通りにモニターの右下に目をやる。ピンク色のゲージが黒を塗りつぶし、準備完了を示していた。そこに記された情報、ダブルオースカイに搭載された力の名前を読み上げる。

 

「叫びなさい!それが勝利の鍵よ!!」

TRANS-AM(トランザム)!!」

 

その言葉を口にした瞬間、世界が一変した。

GNドライヴに直結されたスラスターが音を上げて唸る。視界が、モニターが赤く染まっていく。装甲が赤く光っているのがメインカメラからも見て取れた。サブモニターに仰々しい紋章とTRANS-AMの文字が映る。

 

「そう。それがトランザム。GNドライヴに組み込まれたブラックボックス」

「イオリア・シュヘンベルグが遺した最後の切り札!」

「ドライヴと各部位のコンデンサーに蓄積された高濃度圧縮粒子を全面開放する事で、その出力は通常の3倍になる!!」

ダブルオースカイのスラスターが吠え、デスティニーのような光の翼を携え、爆音と共にアカツキを押し撥ねた。

 

翼を囲うように作られた0の光輪。CE世界には無い未知の粒子に赤く染まるデスティニーだったそれに、アカツキは笑った。笑いながら、激怒した。

 

「お前…ついにやったな!ついに悪魔に魂を売ったなぁ!!やっぱりか!やっぱりお前ら結託してやがったか!!」

狂喜乱舞の怒号が響く。アカツキは文字通り怒りながら喜んでいた。憎むべき敵がやはり憎むべき敵であったという事実と、敵はやはり結託していたという自分の慧眼に。

 

「何が好きだ!叩く為ならダサクオーのケツの穴も舐めるようなお前らが!ファンであるわけがねぇだろぉ!」

それはつまり敵一人一人はあまりにも大人気なく、あまりにも脆弱であるという事に他ならない。

アレが好きという事それ即ち人として軽蔑すべき対象であると確信する。

たかが遊びに本気になって徒党を組んでまでこちらを潰しに来る、人としてどうしようもない連中であるというプロファイリングは寸分の狂いもなく的中していた。

 

そして、だからこそあいつらは人を殺したのだと確信した。たかが遊びの話でだ。

ここからは、否ここから『も』自分達の戦いは正義の戦いだ。それがガンダムSEEDのファンとしての行動なのだ。

 

「お前に種ファンを名乗る資格はもう無ぇぇー!!!」

アカツキの絶叫と共にドラグーン七機全ての銃口がダブルオースカイの方を向く。まずいと思ったその瞬間には既にダブルオースカイは射線から離れ、緑のビームは残像すら捉えず遠くまで飛んでいった。

 

反応速度、推力どれも未体験の領域だ。思わず凄い、と言葉が漏れた。視界だけではない、感覚まで世界が変わっている。

世界に振り回される中、ビームサーベルを横に薙ぐとその軌跡にいたドラグーンが真っ二つになり爆発する。ビームライフルの引き金を引けば小型のビーム砲はその身体の殆どを抉り取られて堕ちていく。ライフルに溢れんばかりの粒子が即座に注ぎ込まれ、次弾が装填される。その勢いのままロックオンしたドラグーンを片っ端から撃ち落す。

 

トランザムによる圧倒的な性能向上の恩恵は凄まじく、前回手も足も出なかったドラグーンの全てを叩き落とすまでに数秒しかかからなかった。

 

アカツキ本体にロックオンを移し、いよいよと言ったところにアラームが鳴り響く。背後からのロックオンに反応して振り向くとソードストライクが対艦刀シュベルトゲベールを振りかぶり襲い掛かろうという所だった。

アカツキのヘルプに入る為に相手を切り替えて来たのだろう。マユにとっても予想外の奇襲だったが、状況を把握した時に漏れたのは驚愕の声ではなく失笑だった。

 

トランザムの圧倒的な性能に酔いしれているわけではない。教えられた情報を基に導き出した現実を見た結果の失笑だ。

 

対艦刀でモビルスーツ戦に勝てるわけがない。

大きいだけで何の価値も無い剣。アカツキが教えてくれた情報だ。

攻撃が決まる瞬間まで気付かれていないなら状況は違うが、今の状況で大振りの剣がトランザムを発動したダブルオースカイに、対艦刀のデメリットを散々アカツキから叩き込まれ過剰な恐怖を持たなくなったマユに当たる筈が無かった。

 

そしてもう一つ、矛盾に気付いてしまった。

あれだけデスティニーの対艦刀を馬鹿にしておいて自分達も対艦刀を使うんだなぁ、と。失笑したのは主に後者の考えによるものだ。

 

シュベルトゲベールの一撃を難なく躱し後の事をカスガに任せてアカツキに向き直す。こちらに突っ込んできたという事はスマルトロンに背を向けているはずだ。であれば上手くいけば次の一撃でソードストライクは堕ちる。

事実この後すぐ、マユの意識しない所でソードストライク撃墜のインフォメーションが流れていた。

 

GNドライヴ側面に懸架されたバスターソードを展開する。散々アカツキに馬鹿にされたアロンダイトの次世代機にあたるそれを握ったのには思惑がある。

大振りの攻撃がわかりやすいのはあくまで動きが普通の速度であればの話だ。トランザム発動下で機動力が爆発的に向上しているのであれば大剣の一撃は予測が難しい致命の一撃になり得る。受け止めるにはビームサーベルでは荷が重く、受け流せば即座に追撃が来て、逃げるには推力が足りない。

 

ヴォワチュールリュミエールの推力を加えた爆発的な加速力はバスターソードの破壊力に上乗せされ、ビームサーベルごとアカツキのフレームを叩き潰すと、至近距離の通信から苛立ちを十二分に込めたアカツキの絶叫が響く。

 

好機とばかりに出力だけにものを言わせた無理矢理な機動で返す刃を即座に叩き込む。もう一本のビームサーベルごと片腕を叩き潰すと千切れきらなかったケーブルがぶらんとフレームを支え、金色に輝く優雅な機体は何ともグロテスクで無様なものへと変貌していた。

 

ダブルオースカイの左足が輝く。ビームの盾、スカイレガースを展開したまま浴びせるように蹴りを叩き込むとアカツキの頭部がめりめり、めりめりめりという音と共にへこみひしゃげていく。フェイズシフトを持たないアカツキの装甲とフレームに、出力全開の蹴りが100%伝わり砕かれる。

 

蹴り抜いた姿勢のままバスターソードの切先をアカツキのコクピットに狙いを付ける。刃を上にした文字通り必殺の一撃。

フレームごと風穴を空ける文句無しの致命の一撃がアカツキを貫いた。

 

それだけでは終わらない。

それだけでは倒せない。

あの日ウタダから教わった通り、腹部に突き刺したバスターソードを上に押し上げていく。腹部から胸部までを完全に破壊する事でコクピットを確実に破壊する。

 

「こんなことをしたって無駄だ」

アカツキのコクピットを破壊し尽くすまで、ダブルオースカイのコクピットにアカツキの声が響く。

 

「こんな事をしてシンが主人公になるわけがないんだよ馬鹿が!それどころかお前は自分で認めちまったんだ!デスティニーが雑魚なんだってな!だからダサクオーの力に頼らなきゃやってられなくなったんだ!馬鹿だよなぁ!そんなのデスティニーが雑魚だから強化しなきゃ使いもんにならないって自分から言ってるようなもんなのにそんなことにも気付かずに手を出したんだ!!やっぱりシンは雑魚だ!あんなのが主人公なわけがないんだ!あぁ改めて確信したね!!何が主人公だ!やられ役の!かませ犬の!!馬鹿なガキ!!こんなお人形遊びで勝った所で何も変わりはしねぇんだよ!バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーカ!!!!!!!」

 

バスターソードの刃がアカツキの頭部を突き破りながら飛び出た。上半身を真っ二つにされたアカツキは左右に身体を開き、それはある意味綺麗な鉄の華となった。

 

「Cockpit Destroy」

「Mission Completeted」

 

立て続けに表示される文字と仰々しい音楽が呼吸を整える邪魔をする。勝った。相手を完膚なきまでに破壊しての勝利。その快感も呼吸の邪魔をする。

 

「マユちゃん。大丈夫?」

その声は窒息する状況に差し出された救いの手。カスガの声を聞き少しずつ息が整う。

 

「大丈夫です」

「凄い活躍だったな」

キュリオスからも声をかけられる。アカツキを破壊した途端に勝利判定が出たのだから当然なのだが、サテライトキャノンを潰しに行ったキュリオスも無事目的を達成したようだ。

 

「ありがとうございます」

「トランザムはどうだった?凄いでしょ?」

「はい…凄い。本当に凄い」

 

あの感覚がマユの幼い身体にまだ余韻として残っている。

あの熱がマユの幼い身体にまだ残っている。

加速する極限の世界に適応しようとした途端に引き戻された現実に、逆に酔いそうになる。何もかもが思い通りになったという結果齎される万能感が今更襲い掛かる。

 

これさえあれば、もう否定されない。その感情が、ハッカ油を直接肌にぶちまけたような爽快感と寒気と激痛となってマユの心を刺激する。

 

「マユちゃん」

「私達はこれからも戦い続ける。この一戦だけじゃ世界は変わらない。だからマユちゃんも協力してくれない?あいつらを片っ端から倒し続けて、反省させるのよ」

 

夢半ばになりそうな感覚の中、答えたのは当然イエスだ。冷静になった後もその考えは変わらなかった。

自由を手に入れる為には戦うしかない。兄が交通事故に遭ってから今の今までの経験でそれを十二分に思い知ったのだから。

 

それが、悪魔の誘いであるとは考えもせずに。




皆様のお陰でUA1000到達した事、心から感謝申し上げます。
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