ガンダムビルドフォーディーズ   作:さんこのれい

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04 Deprivation-A

「何でこんなことになったの?」

 

狭い部屋に女が一人に子供が二人、向き合って座っていた。いくら訪ねられようが何でこんなことになったのかなんてマユ自身が知りたかった。

 

曰くマユがいじめられているという話が耳に入ったらしく所謂生徒指導という名目でそこに座らされている。横にいるのは確かに最近よく見る顔だ。

あの日、動画を拡散されて以来こちらを見かけては馬鹿野郎と叫びながら脚に蹴りを入れてくる男子。そういえばウタダと出会った日に戦ったアスラン・ザラもやたらと脚を蹴る事にこだわっていた。だからこの少年もガンダムSEEDに毒されているのだろう。

 

アカツキに勝利したあの日カスガと一緒に動画は消させたものの既に手遅れだった。ネットに散らばった動画群は既にアカツキの管理から飛び出し、所謂『消されれば増える動画』へと成り下がっていた。

だからマユの日常は一度一変してからそれ以降何も変わっていない。

 

「何でサザミヤさんをいじめたの?」

「いじめてなんていません」

 

あの動画を見たんじゃないか、とマユは疑っている。しかし彼は絶対にそうだと言わない。

ネットで拡散したにも関わらず先生の耳に入らない程度に収まっているのは大衆が動画の不当性を理解しているからだ。

 

身も蓋もない言い方をしてしまえばただ女児が泣いているところを盗撮して『これが種アンチの姿だ』としているだけの動画。

公正公平な視点で見てしまえばたかがアニメの好き嫌いに躍起になったオタクの下らない誹謗中傷でしかなく、子供を晒上げて笑いものにする卑劣な行いだ。

 

故に不公平を保ち続ける界隈から出さず、常識・暗黙の了解とする事で批判から逃れつつこれを普遍的なものとした。

 

男子もそれを心得ている。

もしここで自分が『動画を見たから』などと言ってしまえば学校にこの動画が知れ渡る。そうなれば動画ももちろん削除されるし下手をすれば学校やマユの家族から動画投稿者が訴えられかねない。

一生擦れるポテンシャルのある玩具はあっけなく取り上げられるし、次にいじめられるのは自分だ。

 

万が一『オタクによるいじめ』として晒上げられればここにはいない仲間達も『いじめなど人として許されないのだ』と叫びながら攻撃してくる。

ここで馬鹿正直に話して玩具を手放す程、その後のリスクを考えられない程、彼は人間を辞めてはいない。

 

いくら幼いとしてもヒトの子供も立派なヒトだ。打算・計算・危機管理は十分出来る。

大人と比べて判断能力が劣っているように見えるのは経験が不足しているだけだ。善悪が備わっていないのではなく何をしたら非難されるかを見聞きしていないだけだ。

 

人の本質は生まれた時から変わらない、進化などしない。人類の革新など妄想から生み出された夢物語だ。

故に彼は別の言い訳を用意できた。

 

「遊んでいただけです」

「お互いちょっとふざけてただけで」

「全然本気じゃなかったし」

 

その時の力加減など彼はとうに忘れている。そもそもどの蹴りが本気でどの蹴りが力を抜いてやったかなど最初からいちいち考えもしない。

それを少しでも自分が悪くないように、捏造と言葉遊びで人並み以上の記憶力があるように振る舞う。

 

「そもそも」

「こいつクラスで浮いてるから」

「仲間に入れてやろうと思っただけです」

 

そうだ。これはいじめではなくいじり。

彼は自己弁護の根底をそこに置いた。思いやり、友愛故の行為であり悪意ではないとした。

だから自分は悪くない。

悪いのは被害妄想を拗らせたマユだ。

恩を仇で返してきたマユだ。

自分は絶対に悪くない。

 

「そう、そうなのね。でも人が嫌がる事はしちゃいけないわ」

 

そう教科書を読み上げるように言った後、先生はマユの方を向いて言った。

 

「サザミヤさんも謝りなさい。気持ちを読み取れず、騒いじゃってごめんなさいって」

 

マユは一旦理解する事を止めた。考えてもわからない。

何故そんな嘘が信じられるのか、何故自分が悪い事になっているのか、そもそも何故自分が訴えた事になっているのか。

 

「せっかく仲間にしてくれるのに悪いように捉えてごめんなさいって」

「謝りなさい」

 

困惑してなかなか謝らないマユの様子を見て先生の言葉に熱が入る。

この時点でこの場で一番悪い存在になったのはマユになった。少年は悪気があったわけではないのだから許すべきなのに謝らないマユこそが一番の悪となった。

 

それを感じ取った少年が心の底で勝ち誇る。少年の策は百点満点で通用した。

場を納める為に『形式的な儀式』をこなすと早々に部屋から摘み出された。

 

マユの気分は最悪だった。何もしていないのに急に指導され、悪人に仕立て上げられた。

明らかな嘘や言い逃れを疑いもせずに信じた先生の事を信じられなかった。暴力を振るう事より謝る理由が納得できない方が悪いのだろうか。それこそ納得ができない。

 

「お前ふざけんじゃねぇよ。チクりやがって」

 

そもそも何故自分が訴えた事になったのか。自分が動いていない以上それは第三者が何かしらの行動を取ったとしか考えられない。

そいつは今何をしているのか。納得できないことばかりに直面したので一旦理解しようと試みるのを諦めることにした。

 

理解する事を止めてしまったが故に生まれた怒りをどうしようか。

決まっている。あの感覚で掻き消してしまえばいい。

あの日焼き付いたあの感覚で一度吹き飛ばしてしまえば少しは冷静に考えられるかもしれない。

 

そう思い、意識の一部を未来へと移した。ガンプラバトルシステムに向かう自分、最高の時間を迎える為の呪文を叫ぶその瞬間へ。

 


 

「トランザム!」

 

コクピット内に響くその声に反応し、視界が赤で狭まっていく。

ヴォワチュールリュミエールとトランザムの合わせ技によって得た尋常でない機動力は敵の視界からダブルオースカイを消失させるという目的に対して過剰だ。しかしその過剰さは結果的に相手の更なる隙に繋がる。

 

圧倒的な性能差により死角に回り込まれたストライクは不意にダブルオースカイの残像の始発に向かって全力でスラスターを吹かす。

 

死角に回り込んだ機体がやる事は一つ、攻撃だ。そして旋回が間に合わないのであれば少しでも距離を取りつつ攻撃の機会を奪わなければいけない。

だからこそ敵がいる可能性がある横でも後ろでもなく前に進む事が攻撃を避ける最善手となる。

 

最善手ではあるが、通じるかどうかはまた別の話だ。機動力の暴力を唸らせるダブルオースカイは数秒でストライクの背を捉え飛び掛かる。手に持ったビームサーベルがフェイズシフト装甲ごとフレームを両断し、ストライクは爆発四散した。

 

「MissionCompleted」

 

デモ画面には目もくれず、満足げに片付けを済ませていく。

操作にも慣れてきたお陰でもう最初の頃のように一方的な敗北は無い。上手く操縦できないもどかしさより機体を動かす爽快感が勝るようになっていた。

 

特にトランザムの発動はマユが最も好む瞬間となった。

限られた時間に集中し精神を研ぎ澄ませ、超高速で空間を飛び回る。機体に振り回される感覚と脳がメモリを全て使い悲鳴を上げているような痛覚、そしてそれらを対価としてぶちまけられるあらゆる自己都合を通すカタルシス。

 

トランザムによって授かる全ての感覚がマユの好みだった。この肌触り、この感覚はガンプラバトルを続けるモチベーションの一つとなっている。マユの高揚感は既にトランザムを終えゲームも終わり、筐体から身を出すその瞬間にまで継続している。

 

「あ、サザミヤちゃん」

 

お互いにえっ、と間抜けな声が出た。

火照った身体の半分が冷え込み半分がさらに熱する。

極端な矛盾の板挟みになる心は瓦解と爆発を繰り返す。

ウタダは一人でそこに立っていた。

 

「ダブルオースカイに乗り換えたんだ?よく今の時期にそれ手に入ったなぁ」

「人から貰ったんです。デスティニーは、やっぱり兄のものだから動かせなくて」

いつか使った言い訳を咄嗟に口にした。最初に使った時よりも必死に引き摺り出した言い訳だった。

 

最初に兄のデスティニーを助けてくれた上に一緒に模型店に入り、デスティニーを探し、修理の仕方まで教えてくれたのはこの男だ。

にも関わらず再会した時にはあっさりその機体から乗り換えている有様。

失望される、怒られる、ネガティブな感情を向けられる事を恐れた。

 

「まそりゃそうか。お兄さんのものだからな」

 

そこに二つの誤算があった。一つはウタダが乗り換えた事に対して悪感情を抱いておらず、むしろガンプラバトルを続けている事を喜ばしく思っている事。

 

「まぁダブルオースカイも半分デスティニーみたいなもんだしいいだろ!」

 

二つは意図的か偶然か、彼のアンテナは人並み以下だと言う事だ。

 

「それよりさ!さっきモニターで見てたけど君のトランザムの使い方、イエスだね!相当練習してたんじゃない!?」

 

相手に伝わるわけもない語彙、何も考えていない、本能のままの野獣の発言。マユにとってそれは救いであり裏切りでもあった。

そしてそれが裏切りだったとしても、自分の口から言い出すのは憚られた。

 

何も言わずとも気付いて欲しかった。

知っていて欲しかった。

慰めて欲しかった。

甘えさせて欲しかった。

高望みではあったがその奥底の欲望は一部だけ叶えられる事になる。

 

「あ、このあと時間ある?また模型屋行かない?」

 

マユに断る理由は無い。しかし一つだけ心残りがあった。

 

「ガンプラバトルはいいんですか?」

「うん。いつでもできるしね。今はそれよりサザミヤちゃんと話したいし他にやりたいこともある」

 


 

連れられてきた真新しい模型店でウタダが左右を見渡している。今の彼にはマユの思い出にあったような落ち着いた様子が無く、大休み直前の授業中のクラスメイトを思い出させた。

 

「あぁあったよっしゃ!」

 

無言でそわそわしていたウタダが急に声を出し、早足で棚に近付き箱を手に取った。

 

「欲しかったんだぁディジェ!」

 

男は興奮した面持ちで箱を手に取った。

箱に描かれているのは黄色い双刃を手にした暗い青の機体。その容姿はガンダムよりも一回りも二回りも太く、悪い言い方をすれば醜い。

 

背鰭のような放熱板を備え、顔もツインアイではない単眼で鼻のようなものが出っ張っている。

見方によっては機械化された半魚人のように見て取れるそれを彼は月の浮かぶほとりで歌う可憐な人魚のように扱った。

 

「これガンダムなの?」

「ええと、うん。元がガンマガンダムだからこれもガンダムだな、うん」

 

これが?と思わず声に出た。

安易、安直な素の感想。これがガンダムとは思えない。これまで培ってきたガンダム観とはかけ離れているディジェに投げかけたその感想はあまりにも残酷で、あまりにも幼稚で、あまりにも滑稽だった。

ここまでひたすらにネガティブな感情を持たれないよう気を付けていたにも関わらず。

 

「それにな、これに乗っていたのはあのアムロなんだ!こういうジオン系のモビルスーツにアムロが乗るってのがすげえいいんだよな!ガンキャノンとかジムとかじゃなくて、特別なんだけど性能はそこまでって感じが!でもちゃんと活躍するのがもう!」

 

幸運がまたも味方したのか、それともそんな事は聞き慣れているのかマユの感想が耳に入る事はなかった。

そしてマユ自身も、自分の知らない情報をばら撒きつつ目を輝かせるウタダにデスティニーを愛する兄の姿を重ねはじめた頃には自分の発言を忘れていた。

その幻影をかろうじて振り切れたのはとある疑問が頭に湧いて出たからだ。

 

「エイジはどうするの?」

「どうするって?」

「もうエイジは使わないの?」

「いや使うよ。バトルする為だけにガンプラ買うわけじゃないし、これは好きだから欲しいだけ」

「エイジが一番好きなんじゃないの?」

 

その一言に男の腑抜けていた表情が変わり、すぐに戻ったのをマユは見た。

マユ自身も気が抜けていたので記憶に残ったのはサブリミナルのような一瞬、しかし、あるいはだからこそ、痼を残す。

 

「どれが一番かって言われても選べないけどさ。好きは何個あったっていいでしょ」

「でもそれって」

 

流石に言葉に詰まった。

甘えて出そうになった言葉はアカツキから教えられたものだ。

 

デスティニーが弱いからダブルオーに逃げた。彼らにとってダブルオースカイとはそういうものだ。他を選ぶと言うのはやはりそう言う目で見られてしまうのだと思い知った。

 

ガンダムAGEではなくディジェを選ぶというのはそれと同じなのではないか、その考えが消えない。

 

「あぁわかったよ。そういう事なら俺にも考えがある」

 

自分の口を塞いだマユの様子を見てウタダが発した言葉にぞっとする。

これは嫌われた、甘えた発言でウタダの好きを否定した。

怒られる。嫌だ。許してほしい。泣きそうな状況で次に出た言葉はあまりにも能天気でお人よしだった。

 

「この店にあるガンプラ何か一個選んで。それをプレゼントするよ。それを組んで次会う時に持ってきて。俺からの宿題な!」

 

覚悟したよりよほど軽い言葉を受け入れる間も無く、デンドロビウムとかネオジオングとかクスィーとかは無し、と付け加えられた上でガンプラコーナーに押し込まれた。

 

怒られはしなかったものの無茶ぶりだ。

ガンダムの知識が無いマユにとって何を選べばいいか何てわからない。思い出が無いのだから好き嫌いも無い。

そう現状分析した瞬間目に入ったインフィニットジャスティスから目を逸らしながら目を泳がせる。そういえば嫌いになる思い出は一つあった。

 

何かを決めなければ。納得のいく何かを決めなければ。そう慌てているうちに見えた一つの箱から視界を外せなくなった。

 

「これ」

 

これしかない。指差ししてウタダに見せつける。指し示されたそれはマユの思惑通りウタダの感情を揺さぶった。

 

「えっいいじゃんこれ!AGE-FX!」

 

AGEシステムにより設計されたガンダムの最終形態、Xラウンダー専用機として作られた作中最強のガンダム、ガンダムAGE-FX。

その名が示す通りウタダの愛機AGE-1の後継機だ。

 

「えっほんとにこれでいいの?買っちゃうよ?」

 

再度の確認に対し首を縦に振るとウタダは歯を見せ上機嫌のままカウンターに向かっていった。

その反応を見てマユの心は満足感と達成感に満ち溢れる。

 

マユはガンダムAGEに思い入れがあるわけではない。

彼女が知っているのはデスティニー。それ以外は見た事すらなかった。

しかしウタダが操作するガンダムと同じ文字列を見出した時、それ手に取ることで彼が喜ぶかもしれないという打算が生まれた。ただそれだけだ。

 

案の定ウタダは喜びながら財布を開いている。仲間がAGEを選んだ事へ喜んでいるのだと、価値観を共有できたと、わかりあえたのだと喜んでいると幼い彼女にも理解できた。何かを買ってもらうことよりもその反応が見られたことが一番嬉しかった。

 

マユの選択の結果もたらされたものは二人の喜び。しかしその根幹は全く違うものだとウタダは考えもしなかった。

どうして喜んでいるのか、その喜びは何に対する愛によって生まれたものなのか。

 

同じ喜びでも二人が向いている方向は全く異なっていた。その事をあまりにも自分勝手ながら考えもしていなかった。

自分が嬉しかったから。ただ、それだけの理由で。

 


 

3回目の作成となるとさすがに慣れが出てくる。説明書の読み方、パーツの切り出し方やゲートの処理方法は思い出さずともわかる。しかしそれでも新しい発見はそこにある。

 

「何でこんな同じパーツを何個も…」

 

Cファンネル、同じパーツをひたすら組み立てる工程。左右の変化も無くただただ同じパーツを切り出し組み立てるだけの作業。それはデスティニーやダブルオースカイにはない作業だ。

 

変わり映えしない光景こそ進む証であるこの作業を続け、漸く完成させる。余計な事を考える必要も無かったので作成時間は大幅に減った。

青を基調とした機体の各部に取り付けられた緑の刃。繰り返しの作業の果てに並べられたシグルブレイドの群体をぼうと眺めていた。

 

ウタダはシグルブレイドに拘りがあるようで、聞いた話だと本来AGE1ノーマルには備わっていない武装にも関わらず改造で無理矢理搭載したという。

ビームサーベルエフェクトより固く肉厚なそれの輝きを見ているうちに執着する理由がわかるような気がした。そして自分がCファンネルを操作する場面を夢想する。

 

マユはファンネルというものを知らなかったが、ネーナが使っていたファングやアカツキのドラグーンの親戚だと言うのだからイメージはつく。

すぐにストライクガンダムが袈裟斬りにされて爆散する光景が湧いた。ヤタノカガミを輝かせるアカツキの装甲を物理の刃で貫き、動きを止める光景がちらついた。

 

ビーム兵装が主となるからこそ開発されるビーム対策兵装への対策は先祖帰りの質量という物質の暴力だ。シグルブレイドはビーム対策が施されたモビルスーツ相手の近接戦闘における最適解と言えるだろう。

 

その場面で当然のように隣にいるのはAGE1。Aの文字を輝かせながら並び立つ機体。

或いはダブルオースカイと並び立つAGE-FX、そのパイロットは当然のようにウタダだ。やはりAGEが好きなのであればAGE-FXは自分ではなく彼にこそ似合うと考えたからだ。

 

そこでふと思い付き、飾っていたデスティニーを引き寄せ共に並べる。その光景はあまりにも輝かしく喜ばしい、夢の世界だ。

 

デスティニーとAGE-FXとダブルオー、作中でも上位の機体性能を誇る三機による小隊。

実際は揃うはずがなく、しかしガンダムという同じコンテンツだからこそ実現し得るクロスオーバー。それだけでも昂揚感を煽られる人もいるだろうがマユにとってはまた別の意味も込められている。

 

自分とウタダと、兄。いずれ自分達と共にデスティニーが並び立ってくれると根拠のない確信がマユにはあった。

 

赤い翼をはためかせ、青の波動を、緑の刃を煌めかせ、三機は縦横無尽に頭の中の戦場を飛び回りだした。

投げつけられたフラッシュエッジを弾こうと脚部のサーベルを起動させたインフィニットジャスティスは足を振り上げ初撃を弾くと同時に、背後に回り込んでいたCファンネルに貫かれ、後続のフラッシュエッジに首を切り飛ばされる。

同時に襲い掛かる実質防御不可能な4つの刀身が無限の正義を凄惨な破片へと変えていった。

 

ウタダは兄と気が合うだろう。

すぐに仲良くなるはずだ。

二人とも強く優しい兄なのだから。

デスティニーを壊してしまったことを一緒に謝ってくれるだろう。兄は許してくれるだろう。

 

三人で一緒にプラモデルを探して選んで、三人で一緒に作ろう。

三人でガンプラバトルをして、三人の心を一つにしよう。

それがどんなに輝かしいものか、どんなに幸せだろうか。

その日が来るのが待ち遠しい。

 

マユはその晩、その夢の続きの夢を見た。

 


 

「この間はありがとうございます!」

 

晴れやかな気分で開口一番の挨拶をぶちかました。今までで一番晴れやかだった。

 

「へーデートしたんだへーへー」

 

先日の初デートを思い出して頰が緩む。刺すような視線と責めるような口調をウタダに送るネーナによって『デートをした』という事実に説得力を持たせてくる。

あの楽しい時間は思い上がりでも夢でもなかったのだと改めて自覚できる。

 

「だってあの日お前いなかったじゃん…」

「いなかったら何してもいいってわけじゃありませーん。幼女に貢いで楽しいですかーローリコーン」

「あのねー」

 

あの時あの場所にいなかった、蚊帳の外のネーナと目が合う。状況説明を受け、全てを把握し、悲しみと羨みと邪魔者を見る目でマユを見ている。

マユにとってそれがどういうわけか凄く可笑しくて、その様子を見たネーナがまた大げさに騒いだ。それを傍目に鞄から宿題を取り出す。

 

「これ見て!」

「もう作ったのか凄いな…えー!ゲート処理うっま!すげぇー!きれー!Cファンネルつるっつる!いややっぱいいなAGE-FX」

 

作り上げた宿題をあらゆる角度から舐めるように見回しその出来に大層ご満悦なウタダを見て決意を固める。

ここにこれを持ってきたのは宿題を提出する為だけではない。あの日の夢を実現する一歩を踏み出す。

 

「あの!今日ウタダさんにこれを使ってほしいの」

吊り上がった口角が真横に引き伸ばされた。俺に?とは言うがそれ以外に誰がいるんだとウタダは自分の心の中で自分を戒める。

 

マユはテストの答えを求める生徒のように、或いはプロポーズの返事を待つ昼行燈のような目でこちらを見ている。

断る理由はなく逆に了承する理由は沢山あった。

 

妙なこだわりのあるマユに作る楽しみ並べる楽しみ揃える楽しみを教えたくてプレゼントしたのだ。ここで断って悲しい気持ちにさせてしまったらこっちの我儘を聞いてくれたマユに申し訳が立たない。

 

「わかった。ファンネルは苦手だけどたまにはやってみようじゃん?」

「CPU戦でなー!!」

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