ガンダムビルドフォーディーズ   作:さんこのれい

8 / 27
04 Deprivation-B

僅かに色付いた宇宙が微かな光で照らされている。光の無い宇宙でその光源は彼らの足元にある。視界を下に向ければ青い塊が光を放ちながらそこに佇んでいるのが見えるだろう。

 

美しい青。魂を惹きつける程の青の円。しかし惹き寄せられるままに迂闊に近寄れば大気圏という壁に引き摺り込まれ、火だるまとなって死に絶える。ここはそういう場所だ。

 

目の前に広がるのは重力の井戸の底、地球。はるか昔に人類が生まれ、生き、そしてその一部が巣立っていった場所。その上空に鉄の華を掲げた若者達が集まっている。火星より立ち今まさに地球に降り立たんとする若者達は世界に阻まれた。

 

この世界そのもの、治安維持機構ギャラルホルンは鉄華団と共にある火星独立運動の象徴クーデリアを抑える為に部隊を差し向け、地球軌道上での戦闘へと突入する。

太古の戦争における強大な兵器、ガンダムフレームを共に持ち出した戦闘はある出来事を経て一瞬で一蹴へと一変する。

鉄華団に助力する為に現れた所属不明機、過去に存在していた72機以外の新たなガンダム達によって。

 

「いっけぇファング!」

本来スローネドライに備わっていない、増設されたサイドスカートから射出された六つの牙が赤い尾を引きながらギャラルホルンの量産機グレイズにその牙を突き立てる。

 

「トランザム!」

待望と言わんばかりの叫びと共にダブルオースカイが赤く染まり、二振りのビームサーベルを供に舞い踊る。

ナノラミネート装甲によってビーム兵器への耐性を持つグレイズだが、超高速で駆け巡るダブルオースカイによって装甲が確実に削り取られていき、遂には致命の一撃をコクピットに叩き込まれた。マユが狙った、思い通りの結果だ。

 

「やるじゃん。あんた」

どこからか賞賛の声がダブルオースカイに届いた。その声はネーナでもなければウタダでもない。鉄華団の一員、三日月・オーガスのものだ。

 

CPU戦は主に原作を再現した戦場にプレイヤーが介入するという設定になっている。原作のキャラクター達と時に肩を並べ時に敵対し、己の機体、ガンプラの強さを見極める。ガンプラバトルシステムにおけるガンダム世界への入り口であると同時にカスタマイズしたガンプラの試し台でもある。

 

CPU故に難易度は対人と比べて抑えられているとは言えあまりにも無理がある構成、あまりにも操作に慣れていなければ敗北する。ウタダは今、そういう状況に置かれていた。

 

シュヴァルベグレイズが放った120mmライフルの弾がまたCファンネルをすり抜けてAGE-FXに直撃する。

その隙を狙ってきたガンダムキマリスが持つ槍、グングニールをいなし後頭部に蹴りを叩き込むとAGE-FXが跳ね飛ばされるように後ろへと飛ぶ。モビルスーツの操縦技術の一つであるデブリを使った三角跳びの応用だ。重量のあるキマリスをデブリ代わりに蹴り、強引に距離を取ったのだ。

 

シュヴァルベグレイズのパイロット、アイン・ダルトンがバトルアックスと殺意を向けるが、モノとしてそこにある斧はCファンネルが横切ると同時に切断され砕かれる。

 

「それはいらねぇんだよ」

 

ライフルの引き金が引かれる所を見てから慌ててCファンネルを動かす。今度は弾が刃に掠りはしたものの防ぎきれずまた装甲に弾が当たるのを確認してウタダが口汚く叫んだ。

 

Cファンネルの真髄は攻防一体の刃にある。それは敵を切り裂く刃であると同時に攻撃を防ぐ鉄壁の盾でもある。どちらか一方を切り捨ててしまえばそれは真価を発揮しているとは言えない。

故にウタダは何とか両立させようと必死になっている。

 

オールレンジ攻撃の操作はモビルスーツのそれよりはるかに複雑だ。その中でも脳波や超能力で動かす類のものの難易度はガンプラバトルの中でトップクラスといっても過言ではない。

ガンダム世界でそれらがニュータイプのような特別な存在にだけ許された武器であるように、ガンプラバトルでもそこを尊重しているかのようにあえて難しく調整されている。

 

その中でもCファンネルは更に精密動作が求められるのだ。

本来であれば高難易度とは言えデバイスによってある程度決まった動きをビットに取らせることが出来るが、それはあくまで決まった動きをするだけだ。

例えばバリアを貼る為に機体の周囲に展開する、あるいは補助火力となる為に武器と接続する、そういった事例に答える為のサポートでしかない。

 

敵の位置や射角によって臨機応変な対応が求められるCファンネルではその機能は使いこなせない。純粋なファンネル操作の腕が試されてしまう。

 

更に言うとウタダはオールレンジ攻撃が苦手だ。口の悪い言い方をするのであれば彼には才能が無い。専門用語で言うところのオールドタイプの典型例だ。

ビット、ファンネルといった聖域に彼が入り込む資格は無い。それでもマユのお願い、そしてシグルブレイド好きとして何とか使いこなそうと努力していた。

 

「どうした?意気揚々と出てきてその程度か?この宇宙ネズミが!」

その義理人情が目の前の存在によって砕かれかけている。文字通りそれらを破砕するグングニールの切っ先を受け止めきれずに装甲に僅かに触れる。

 

その瞬間何かが切れた。敢えてCファンネルに拘っていたが固執しすぎて負けるなんて事は到底受け入れられない。負けるくらいならやってやる。ついにフラストレーションが義理人情を打ち負かした。

 

「あー!もうめんどくさい!やっちまえAMEMBO!!」

辛抱たまらんと言った様子で自棄気味に叫んだ声に呼応して支援機が赤と白の手足を携え戦場へと割り込んだ。AGE-FXの側に支援機が到着するとAGE-FX本来の青白の手足を付け替えていく。遠くで様子を見ていたマユがあっと声を上げた。

 

「行くぜダブルバレットぉ!!」

装甲に残ったCファンネルも取り外し、ドッズライフルを片手と両肩に備えて突貫する。Cファンネルコネクターから青い光が漏れ出し、トランザムに勝るとも劣らない速度でキマリスとシュヴァルベグレイズに肉薄する。

 

間合いに入ると同時に弧を描き、体勢を変えつつ両足からカーフミサイルが火を上げる。

ビーム耐性があるナノラミネート装甲への有効打は爆発やライフル弾と言った物理だ。その例に違わずスピードに翻弄されたキマリスにミサイルが直撃し、よろける。

 

機体の制御を取り戻し再度キマリスがAGE-FXを視界に収めたのは死角から螺旋のビームがコクピットに直撃する事を認識できるかできないかの瀬戸際の時だった。螺旋のビームはその回転により装甲を消滅させつつコクピットの全て、パイロットの命も丸ごとを焼き消すのに十分な火力を持っている。

 

この攻撃の仕掛けは至ってシンプル。方向転換と同時にドッズライフルをパージする。このドッズライフルはワイヤーで接続されておりマニュピレーターを介さずとも射撃が可能になっている。

そしてわかりやすく銃口を向けたこっちを視界に収めた、つまりよそ見をしている隙を付いて死角から攻撃を仕掛ける。逆にパージしたドッズライフルに気を取られれば本体が持つドッズライフルが代わりに致命の一撃を叩き込む。

かつてアムロ・レイが第二次ネオジオン紛争で活用し、強化人間を即座に撃墜した戦法の真似事だ。

 

計算はそれだけではない。キマリスに直撃するはずのビームの螺旋が破壊したものはシュヴァルベグレイズだった。射線上に入りキマリスの撃墜を防いだのだ。

その光景にキマリスの動きも止まり、通信から声が漏れる。

 

「アイン…!アイン…!何故俺を…!?」

「貴方を…見殺しには…」

ここはそういうステージだ。地球に降り立とうとする鉄華団を止めるべく展開されたギャラルホルン。ガエリオ・ボードウィンに向けられた致命の一撃から庇ったアイン・ダルトンは負傷し、彼はこの怪我が原因で阿頼耶識に取り込まれるようになる。

 

原作ファンからすれば間近で運命の転換点が見られるサービス精神に溢れたシステムだ。しかしこれはそれを再現したゲームであり、だからこそ破綻を目論む者はどんな環境にも存在する。

 

「ア、アイ」

「イイイイイイイイイイヤッシャアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!」

 

感涙ものの悲劇の中、キマリスの背後に回り込んでいたAGE-FXがシグルブレイドを携えて突撃する。

高機動そのままに突き出されたシグルブレイドはキマリスのコクピットを残酷かつ破壊的に貫き、その飛び出た切先はアイン・ダルトンのシュヴァルベグレイズにも突き刺さった。

 

位置エネルギーを受け突き飛ばされるキマリスとシュヴァルべグレイズに両手のドッズライフルを連射する。

ダブルバレットの利点をフルに活用して全弾を叩き込む。手一つ動かなくなるまで蜂の巣にするとやがて二機は動かなくなり、地球へ引き寄せられていく。二機とも仲良く大気圏に吸い込まれ塵になって消えていくのを見て大人げなく勝鬨を挙げた。

 

本来であれば生き残りその後の世界を大きく変える二人、ガエリオ・ボードウィンとアイン・ダルトンはその役割を果たす事無く無価値に死んだ。データ故に、そして育ったコンテンツ力によって得られた絶大な技術力によって簡単に成り立つシナリオの破綻。

ガンプラバトルシステムにおいてそれは自分の機体とパイロットとしての腕が運命を覆した瞬間であり一種の勲章だ。この場合の勝鬨はフラストレーションの爆発によるものでしかないのだが。

 

「MissionCompleted」

 

相変わらずのファンファーレがウタダを正気に戻していく。勝利したは勝利したものの、この勝ち方は如何なものか。戦闘が終わったのに二人とも何も言わない。そうであれば、そうでなくてもこうなってしまったからにはまずこちらから発言をするべきだ。

そう考え、ウタダは口を開いた。

 

「ごめん。やっぱり俺にファンネルは向いてないよ」

 


 

「ありがとう。大変だったけど、まぁ、新鮮だった」

返されたAGE-FXの両手両足は元の青と白になっていた。あの時飛んできた支援機、そしてダブルバレットと呼ばれていた赤と白の手足はそこには無い。

戦闘中に手足を入れ替えるという常識外れの行動にはまだ慣れない。そもそも何故そんな事ができるのだろう。

 

「あぁこれね。手足を取ってみるとわかるよ」

試しに肩ごと腕を外すと3mmの軸が露出する。ダブルバレットの肩とAGE-FXの肩には軸を受け入れるための穴が開いていた。

 

「ガンプラの接続って似たり寄ったりなんだ。肩の方に穴が空いているタイプならAGEじゃなくても取り付けられるよ」

ウェアシステムのメタ的な正体はそこにあった。AGE系統のモビルスーツ、ガンプラの接続は意図的に統一されており、ウェアシステムによる換装を再現できるようになっている。

 

両手両足を挿げ替えても一つのモビルスーツとして成立する機構の絡繰。だが、偶然規格が一致した場合、そしてもう一つの条件を満たした時もこの奇跡は顕現する。

 

「じゃあ無理矢理穴を開けたらAGEとくっつけられるって事?」

「うんそう。AGEに限った話じゃないんだけどな」

 

ちょっといいかな、とダブルオースカイとAGE-FXを手に取り両足を入れ替える。股関節から伸びる3mm軸を使った脚部の接続は昨今のガンプラのスタンダードだ。故に入れ替えが容易な箇所でもある。

 

ダブルオースカイはまるでウェアシステムを実装しているかのようにAGE-FXのパーツを受け入れ、一つのモビルスーツとして成立させた。

続けて脚部のコネクターにCファンネルを接続する事でダブルオースカイに一対のCファンネルが備わる。脚部を取り替えた事でスカイレガースが失われたものの遠近両方での戦いが出来るCファンネルを取り付ける利点は無くはない。

 

「色が合わない所は塗装しちゃえば何とかなる。ガンプラのカスタムってこういう事だよ」

「あたしのスローネドライのファング付けるところも本当はオレンジなんだけど赤で塗ってるんだ」

「俺のシグルブレイドもこれ自分でプラ板切って作ったしな」

 

兄弟機スローネツヴァイを知らないマユにとってそれは驚愕の事実だった。兄弟機故に付け加えても違和感が薄いというのもあるが、目の前に実例を出されるからこその説得力と感動がある。

ただキットを作るだけではなく、合わせる、色を塗る、組み合わせる事でガンプラは無限に変わる。それを少しずつだがマユも理解し始めていた。

 

「こうやって自分だけのモビルスーツを作るっていうのも楽しみの一つだね」

自分だけのモビルスーツ。想像は出来ないが心躍る何かを感じる。あの時ウタダが、好きはいくつあってもいいと言ったのはこういう事だろうか。

操縦できるガンプラは一つだけだとしても好きな機体を一つに絞らなくていい。何故なら合わせる事が出来るのだから。愛のままに我儘に混ぜ合わせたガンプラを作ってしまってもいいのだ。

 

ダブルオースカイがデスティニーの要素を持っているように、他の何かを持ったガンプラを自分で作り上げてしまってもいいのだと、目の前で繰り広げられる合体劇からそれを感じ取った。

 

もしそうだとしたら、それはとても素敵で楽しいのだろう。

 


 

二人と別れて帰路に就く。夢は半ばなものの悪くはない一日だった。

またデートをした事、また素敵な事を教えて貰った事。

あの二人と出会ってあの二人と話している思い出の中で楽しくなかった事は無い。またあの二人に会う日が別れたばかりの今からもう楽しみで仕方が無い。

 

そう浮足立ったマユを地に付けたのはまた別の知り合いだった。

 

「マユちゃん。ちょっといい?」

カスガだ。見知った顔に呼び止められれば止まらざるを得ない。

 

「さっき一緒にいたあの二人は何?」

その顔はダブルオースカイを譲ってくれた日よりも深刻に見える。

その顔で二人について言及される事に恐怖も覚えた。

 

「わたしにガンプラバトルを教えてくれた人です。凄くいい人で、絡まれてた時に助けてくれたんです」

少しでも好印象を持たせようと大げさに伝える。大げさだが嘘は吐いていないのだから好印象を持たざるを得ないはず。

そう考えたマユの打算は無意味だった。

 

「もうあの二人に近付かない方がいい。特にあの女」

あの女。ネーナの顔を思い浮かべる。赤に染めた髪を二つに分けて括るツーサイドアップ。自信を感じられる強気な表情と陽気な口調。

ウタダ程ではないが彼女に対して悪い印象を持った事は無い。今となっては大事な友人の一人だ。

 

「あの女は人殺しよ」

 

その言葉の意味を知っているからこそ、過激すぎる罵りをマユは理解が出来なかった。

浮足立った感覚は既に失われ目の前の現実と向き合う。向き合わざるを得なかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。