3年担任、今日もアホほどヒマである   作:うちか

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第1話 二人は似たモノ

 

 

 

 【記録───2016年8月

 神戸市 ひよどり展望公園 山頂付近

 1級呪霊による非術師1名への被呪、および同化】

 

 

 付近の鳥原霊園にて、派遣された七海1級術師が対象と交戦

 対象が祓除寸前で逃亡し、非術師の体内へと侵入

 

 激しい痙攣・過呼吸・吐血を繰り返したのち、急速に安定化

 約5時間の経過観察を経て、生命活動に支障は無いと判断 しかし、呪力や呪霊の認識能力を確認

 

 当被呪者を呪術高専東京校へ連行

 調査を行うものとする

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

「────で、そろそろ教えて欲しいんですけど、なんだって私はここにいるんですかね五条さん……」

 

 

 呆れ顔を取り繕いもせず、女はそんな質問と共にはぁ……と、大層なため息を原宿の喧騒へと放った。

 

 凸が一切無いスレンダーを極めた体型に、腰まで伸びた一つ結びの襟足。残る特徴はカケラも曇りの無い翡翠色の瞳だろうか。

 随分目立つ姿だが、隣を歩く全身黒尽くめの目隠しノッポ白髪男に比べたらまだ良い方だ。

 

 

 男の名は五条 悟。

 最強。その他説明不要。

 

 深刻な様子で問われた割に、彼はあっけらかんとした様子でこう返した。

 

 

「そりゃあ、僕が呼んだから」

 

「ええ、まあ、はい。どっちかと言えば呼びつけた理由を聞いてます」

 

「あれ、言ってなかった? ……っかしいな、今ちょっとチェックしてよ」

 

「……本日、五条さんから送られて来たのはこれ一つですが」

 

 

 どうぞと言わんばかりに、五条へスマホが向けられる。

 液晶画面には『原宿集合13時、表参道側。足は伊地知に話通してあるから。あ、途中でアイス買ってきて。クーリッシュのチョコね』と表示されていた。

 

 これほど自己の都合だけで構成された文章が他にあるだろうか。

 当然、下にずらりと続いている緑色の疑問質問には何一つとして返信がされていない。

 

 

「まぁ、ほら、オマエのアイスも奢った。それもクリスピーサンド」

 

「人の一日を買ったにしては大変安上がりですね。最低賃金で換算しても、私がお腹を壊すくらいの量が必要かと」

 

 

 税込み293円で誰かの休日を潰すのはいくらなんでも舐めすぎだ。

 

 

「でも任務無い時は殆ど暇してんだろ? じゃあいいじゃん」

 

「……じゃあというより、もういいです。それで? なぜ私は原宿に?」

 

「あ〜あ〜、そうピリピリするなよ。ちょっとしたら分かる。オマエにとっては良い話だって」

 

 

 その言葉でむしろ身構えられてしまうのは、やはり普段の行い故だ。

 彼の持ちかけてきた良い話(面倒事)に一体幾人が痛い目を見たことか。

 

 横からの半信半疑な視線を全面的にシカトして、五条は駅前に佇む2人組に手を振りながら声を掛ける。

 

 女にとっても見覚えのある制服を身に纏った男子高校生たちが振り返った。

 

 

 しかしそのうち片方……クールな雰囲気の青年、伏黒 恵とは既知の間柄だが、桃色の頭髪が目を引く方とは正真正銘の初対面だ。

 こうなるとますます呼び出された理由が不明瞭になっていく。

 

 

「おまたせー。おっ、制服間に合ったんだね」

 

「おうっ、ピッタシ。でも伏黒と微妙に────」

 

 

 悩み込んでいるうちに軽い雑談が始まった。

 内容はまた五条が勝手をやったとかそういうアレだ。珍しくもなんともない。

 

 しかし生憎、桃髪の彼と女は面識が無い。

 目を合わせでもして自己紹介をする空気になればこの会話を中断させてしまうだろう。そう気を回した彼女は一歩半ほど後ろに退がった。

 

 

「────それで、こっちの人は?」

 

 

 話もひと段落したところで青年が切り口を務めてくれれば、待ってましたとばかりに女は前へと歩み出る。

 胸に手を当てると、五条相手には絶対に浮かべる事の無いであろう微笑みを見せながら、落ち着いた様子で自己紹介を始める。

 

 

「初めまして。(ぼか)秋津島 二(あきつしま いちご)。五条さんと同じく高専の教師だから、これからどうぞヨロシクね」

 

「あっどもっ、虎杖 悠仁ですっ! カツ丼のグリンピースはどっちかと言えば無罪派っす! 先せっ……いやっ秋津島、さん? ええとっ……」

 

「ん? ……あぁ、五条さんと並んでいる時に『先生』は紛らわしいものね。秋津島先生とかは長いから、あだ名でもなんでもキミの呼びやすいように呼んでくれたまえよ。ちなみに一番呼ばれるのは『秋ちゃん』だ」

 

「あ、そんじゃあ……秋ちゃん先生っ! これからお世話ンなります! ヨロシクおなしゃあすっ!」

 

「ふむ、文字数的には秋津島先生と大差無い気がするが……いや、失礼。野暮だったね。それもなかなか新鮮で悪くない」

 

 

 虎杖の持つ人懐っこさ故か、ほんの数回会話をキャッチボールしただけでこの通り。

 今度はこっちで談笑が始まりそうな様子だったが、それを遮るように急かす声が聞こえてくる。

 

 

「ホラホラ、そこの2人。早く行くよ〜、ちょっと待たせてるかもしんないから」

 

「……誰を?」

 

 

 つい数秒前までは初夏の陽光も相まって和気藹々としていた空気が一瞬にして固まる。

 

 秋津島は事前情報どころか、自分がここにいる理由すら満足に知らない状態。

 そのくせ、こうした新たな情報は待ったなしで入ってくるのだ。眉を顰め、皺を寄せ、顰めっ面を晒すのも無理はなかった。

 

 

「えっ、秋ちゃん先生も知らんの?」

 

「いや〜〜〜ははははっ。まぁ、ね……! 非常に不思議かつ不本意ながらなぁんにも知らされていないよ!! ───あの人、生徒相手にも全然平気でこういう事するから、充分気を付けておきたまえ……?」

 

 

 分かりやすく意外だと声を漏らした虎杖に、乾いた笑いで返す秋津島。

 そのテンションはもはや半ばヤケクソじみているのか、自虐と共に注意を耳打ちする。

 

 

 先ほどの会話と全身を巡る呪力の制御能力から、彼が本当に入学して間も無く、また一般から入ってきたのだと推測するのは容易だ。

 

 故にこうして今のうちから、五条の人として割とマジにダメなところを教えておくことは無意味ではないだろう。何も知らないで振り回されるよりマシだ。

 とはいえ、既に数回ほど彼の好き勝手に付き合わされていそうなものだが。

 

 

 秋津島はそう忠告を残せば、めげずにもう一度五条へと詰め寄っていく。

 次こそはもったいぶるなよと、何よりもその眼光が雄弁に語っていた。

 

 

「────さて、これで問うのは3回目ですが……私をなんで連れてきたか、お聞かせ下さいますよね? 五条さん」

 

 

 

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