────それじゃあ僕はもう、純人間を名乗れないってワケですね。
────ええ、まあ、はい。自分でもちょっと冷静過ぎてやべーなとは思ってはいます、けど。
……ほら、こんなの一度死んでから生きる国……どころか世界が変わったようなものでしょう。これまでの常識を全部まっさらに
────いやぁ、あはは。お気遣いをどうも。……それじゃあやっぱり、お言葉に甘えて少し一人に……はい。一通り
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「は、ぁあ〜〜〜〜〜〜……」
本日二度目の深呼吸に等しいため息を、躊躇いも無くぶち吐くと同時に秋津島はそっと頭を抱えた。
五条に奢らせたアイスにキーンとやられたわけじゃない。たった今聞いた情報に、少しばかり脳の奥がジンジンとしているだけだ。
思考を纏める際のクセなのか、添えた手の薬指で額を小刻みにノックしながら、彼女はうぅんと小さく唸る。
「えぇとえぇとそれで……あ〜〜、虎杖クンが宿儺の指を呑んで、受肉して、けど器として抑えられるから、指の捜索兼要監視対象として高専に入学……と。ええ、まあ、はい。
「アハハ、知ってる。オマエには細々とした説明要らなくて助かるよホント」
「別に要らないってんじゃあないですからね……! 出来れば私も懇切丁寧に教えてもらう方がいいんですよ……!!」
ここで少しでも肯定しようものなら、この先も同じ手法で伝達を行うだろう。なんなら否定しても尚、完全に安心出来ないのが五条だ。
この辺りは語気を強めてしっかりと釘を刺しておく。
だが、これをただ黙って聞いているほどお利口な男じゃない。
「おいおいおい、そうやって僕を報連相しっかり出来ない碌でなしみたいに言うけどな。術師やってんなら流石にこれは知っとけよ」
「うっ、それは……そうですね。ごもっともです」
こればかりは反論の余地が無く、ぐっと歯噛みするしかない秋津島。
しかしまあ、自身に向けられた正論は大嫌いなくせして、相手の神経を逆撫でするためなら躊躇なく正論を使うというのがなんともタチの悪い。
悔しそうな面を拝み、水を得た魚が如くいきいきとし始めた五条は更に舌を回す。
目隠しの奥はきっと心底楽しそうに輝いているのだろう。
「教師とは思えない情弱っぷりだよな〜」
「勉強不足で申し訳ありません……」
「ニュースとか新聞も見てないだろ」
「見て……ないですね。これからはちゃんと、はい」
「そんなんだから万年2級なんじゃない?」
「……はっ!? お、あッ、あなたそらぁ今関係ないでしょうがよ!!?」
数秒固まってしまうほどのその言葉は、彼女にとって何よりの地雷……というより、急所だった。
半ばプロレスじみたやり取りを意識していたとは言え、いくらなんでもここまでの暴言を許したつもりはない。
秋津島の口からギリギリ敬語に聞こえなくもない返答が飛び出す。
とはいえそもそも、秋津島が何故宿儺復活の凶報……ひいては器である虎杖のことをこれっぽっちも知らなかったのか?
理由は単純で、杉沢第三高校にて呪いの王が肉体を得て再び現世に立ってしまった一方その頃、彼女は彼女ではるばる九州は熊本へと派遣されていたのだ。
単独の任務だったため補助監督も連れず、数日間捜索と祓除に明け暮れ、疲労困憊で帰還したのが昨日の深夜1時。
そのまま泥のように眠り、そして本来は休みだったはずの今日に至る。
「やべ、怒った怒った」
「いや別に怒ってなんかないっ、ですっ、けどっ……。それよか、今仰ったのは虎杖クンの詳細でしょう。……これ、散々言ってますけどまだ聞きたいですか? 私が教えて欲しいのは何で私がここにいるか、なんですって」
任務帰りでろくな休息も取っていない彼女には、この28歳児に構ってやれる体力なんてとうに残っていなかった。もはやため息すら出ない。
とにかく要件を言ってくれと心から懇願してみせれば、人を小馬鹿にする時とはまた雰囲気の違ったにやけ面を見せる五条。
「……ほ〜ん、悠仁に関してはもういい? 他に聞きたい事無いの? ファイナルアンサー?」
「質問を引き出したいのか回答を引き出したいのか、どっちなんですか……言葉の真意は計りかねますが、特にこれといって思い付きませんよ」
「あっ、そう。ならいいけど」
「……あの、マジ頼みます。呼んだからには何かしら用事があるんでしょ。
言った。言わされた。言ってしまった。
五条 悟に言っては行けない言葉で引けばおよそ5本の指に入るものを、それはそれはぽろっと。
疲労と苛立ち……加えて、宿儺の件で頭の容量が限界を迎えた事により、秋津島は意識もせずそれを溢した。
彼を知る者が観たならば、誰もが『それは駄目だ』と頭を抱えたであろうこの状況。
事実、後方で虎杖と他愛のない会話を楽しんでいたはずの伏黒が目を剥いている。
もはや自身のミスにも気付けない秋津島に、五条の口角が再び、その性格の悪さを滲み出したかのような吊り上がりを見せたかと思えば────
「おし! じゃあオマエ1年の副担なっ。ははっ、やるっつったもんな、何でも!」
「───は……い?」
いとも軽々しく、彼女の脳に終わりを告げた。
「よォし決っ定〜。待ったナシ〜、やめたナシ〜。いやぁ丁度暇なヤツ居てよかったよかった。……あ、今からもう1人の1年生迎えに行くからまだ帰るなよ、副担任」
ご丁寧に死体撃ちまでしていけば、肩の荷が降りたようなテンションでずんずんと歩幅を広げる五条。
事実、中々都合の合わない悩みが解決したのだ。人柱を丸々一本使う事によって。
……これへの返事は勿論ない。あるはずない。
対照的に秋津島の足取りは落ち込んで行き、とうとう後ろを歩く2人から追いつかれるまでに失速した。
伏黒と虎杖に挟まれながらトボトボと力無く足を前へと運びながら……ふと、今日一番の淀んだ瞳で空を仰いだ。
その間も両側から視線によってひたすらに同情と憐憫を受けながら、やっと静かに口を開く。
「…………これから、ヨロシクね。なはは……」
それは、今にもゲロ吐いてぶっ倒れそうな顔色でありながら、突如として近しい立場になった両名に向けて何とか搾り出した愛想笑いだった。
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「────私ってつくづく環境に恵まれない……とか、一瞬思ったりしたんだけど。なんか……居るわね。私より恵まれてなさそうな人が」
「初めまして……僕ぁ秋津島 二だよ……。ついさっき、1年生の副担任になったんだ……」
「言ってる意味は全然分かンないけど、自己紹介するよりまず労基かベッドに直行した方がいいと思うわ」
生真面目故に初顔合わせだけは死ぬ気でやり遂げた秋津島。
その後、副担任最初の業務である実地試験の見守りは勿論パスし、新たな生徒3人+報連相しっかり出来ない碌でなしに見送られながら、今にも崩れ落ちそうな体を引きずって帰宅した。
……帰りの道中でこの道のベテラン、伊地知 清高から受けた気遣いがそれはもう沁みたそうで……後日、九州の任務で得た給料にて菓子折りを購入し、しっかりお礼に上がったらしい。
休日と精神を大いに消費し、新たな職務と生徒と絆を獲得した秋津島であった。