3年担任、今日もアホほどヒマである   作:うちか

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第3話 人としての意地

 

 

 

 

 

 ────はっ? 実習……? な、え、今からって言いましたっ!?

 

 

 

 ────いやっ、いやいやいや、待ってください流石に。あなたの説明も僕の実力も足りてないでしょ……! だってついさっき、大まかな呪力についての講座が終わったばっかですよ!? 習うより慣れよにも程がある───うぉあッ!?

 

 

 

 ────ねぇちょっと! 担いでまで連れて行きますかね普通!? あのっ……だっ、誰かーー! 夜蛾さ〜ん!! 七海さ〜ん!! 助けてまともな人ーーっ!!?

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

 6月28日。

 2018年もその半分が終わろうかと言うこの日、秋津島 二は人を前にして教壇へと立った。

 

 

 ただし其処は彼女にとって馴染みだけはある3年の教室ではないし、対面しているのは今年入ったばかりの1年生達なのだが。

 

 

「───やぁやぁやぁ、お早う3人ともっ。え〜、本日は五条さんが居ないって事でね、授業は僕が受け持つぜ。ふぅ、至らないところも多々あると思うけど、どうぞよろしくっ」

 

「あれ、秋ちゃん先生なんか、元気なくね?」

 

「……ああ、まあ、うん。僕ぁその、()()()()ね? あんまり経験が無くてね? いやぁ緊張が顔に出てたかな〜、お恥ずかしいな〜、なはははっ」

 

 

 などと笑いながら、彼女は露骨に伏黒から目を逸らした。

 

 『嘘ではないですけど』

 無言ながら、彼の視線は的確にそう訴えている。

 

 

 別に責めたいわけではない。

 ただ『生徒が3年に上がって最初の授業すら待たずに問題を起こして停学になってるので一度もやったことありません、といった風に外聞など気にせず、全て言ってしまえばいいのに』……と思っているだけだ。

 

 

 そもそも当時は3年生ですらなかったのだからやらかしたボンクラのケツは本来、2年担任のボンクラが拭くもので、秋津島を責める人間は一部を除いて存在しない。

 

 しかし、その一部がよりにもよって上層部様というのがアレなのである。

 

 彼女の在り方が何かと煙たい彼らは権力と屁理屈に物を言わせ、責任のほとんどを秋津島に背負わせたのだ。

 

 

「(……ここまでを丁寧に説明すればコイツらも納得するだろうに。また言い訳じみててみっともないとか意地張ってんだろうな……)」

 

 

 内心ため息をつく伏黒。

 ……とはいえ、本人が隠しているなら他人が暴露するのは憚られるもの。

 

 おまけにこの場は彼女の晴れ舞台。進行の邪魔となるなら、尚更口を出すことはできない。

 

 

 秋津島は咳払いで気まずい空気を退かせば、五条から渡されていた教材がわりのノートや資料をぱらぱらと捲り、大まかな現在の進捗度等に目を通す。

 

 

「んんっ……! え〜、ひとまず午前中は座学をして……うわっ、全然進んでないじゃないか。何を教えてるんだろう、あの人……? ───っとそれで、午後からはお外で実習だよっ。こないだやった実地試験みたいなものだね」

 

 

 途中、目を細めて小声でぼやきつつも、基本的には上機嫌で本日の予定を発表した。

 

 そう、先日は原宿で青っ白い顔を晒していた彼女だが、あれは単に睡眠不足と情報過多が重なっただけ。

 副担任自体はこの通り、純粋に喜んでやっている。

 

 

 むしろ、呪術に触れてからおよそ1年半弱という短期間で詰め込んだ知識による、少々不慣れながらも目線の近しい指導はある意味新入生に適した教育と言えるだろう。

 

 1年生だからこそ盤石な教養をもって教えられる者が教鞭を取るべき、というのもごもっともな話だが……コツや感覚の話になると何の参考にもならない何処ぞの最強と並べてみれば、果たしてどちらが向いているか。

 

 

「ハイ先生っ、質問です! 数字は沢山出てきますかっ!?」

 

「……苦手なのかい? まぁ今回は呪いについてのチュートリアルをやっていくような感じだから……それほどに肩肘張らずにいていいんだよ」

 

「あっ、なぁんだ、一安心」

 

「……そんなにも不安になるくらい嫌なんだねぇ。うん、じゃあやっぱり基礎をがっちりと固めておいて、この先の授業でキミの大嫌いな数字共が蔓延(はびこ)って来ても、呪術的視点から理解出来るように頑張ってこ〜じゃないか!」

 

 

 そう虎杖に激励を飛ばすと、右手にノート、左手に白墨を持ち、3人に授業開始の合図が届けられる。

 

 

「ではまず、呪いの性質と根源について────」

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

「────つまり『対象がどれだけ同じ印象を持たれているか』が、呪霊が発生するにあたって重要なファクターなんだ。さぁ虎杖クン、なんでか分かるかい?」

 

「確か、土地とか物に負の感情が募って呪霊が出来上がるんだよな……? だからその〜、イメージしやすくなってより存在が明確になる、的な……上手く言葉に出来ねえけど」

 

 

 問答が成立すれば、彼に向けてぱちんと小気味の良い音が鳴らされる。

 

 

「うんっ、そんな感じの認識でOKさ。例を挙げれば、人の身では逆らい難い自然災害。村に浸透した伝承信仰にネットを彷徨う怪談奇譚。……それと忌避されている実在の生物なんかは、墓地や廃墟などの漠然としたものより遥かに純度の高い呪いを集めるんだ」

 

「あ〜、私んトコのアホ田舎で鹿やらイノシシっぽいのが他より手強かったのってそういう……」

 

「事だろうね、農家さんの嘆きが聞こえるようだ。……でもやっぱり、そういう生き物系は人殺してるヤツが一番だよ。日本なら多分、雀蜂かな……僕ぁモノホンも呪いの方も怖かないからばっちこいだけど───」

 

 

 聞いてくれる生徒がいる授業にいきいきと、うきうきと、目に見えてテンションを上げる秋津島。

 教えたいことが次々と湧いて来るものの、ここで午前の終わりを知らせるチャイム代わりのアラームが、ポケットからけたたましく鳴り響く。

 

 

「……もう終わりか。はぁい、それじゃあ総括だよ」

 

 

 彼女は至極残念そうな表情を隠さない。今日もため息がセットでついていた。

 

 

「ピンキリだけど、基本モチーフがはっきり分かるのは赤信号。最低でも常に2級より上で見ておいた方がいい。……あ、だからって『あいつ何か分かんねーし雑魚だな!』なんてのは当然ダメだよ〜、そんな都合良いわけないからね〜。要は相手が何でも侮らないことさ。死なないためには」

 

 

 呟くように言った言葉の後に『授業の内容ひっくり返すようなこと言ってごめんよ』と付け加える。

 少しずつ空気が質量を含み出すも、それを一蹴するかのようにぱんっと手を合わせ、声を張った。

 

 

「───以上っ、お疲れ様でしたっ! さ、まずはお昼を食べに行こう。みんな、何か食べたいものはあるかい?」

 

「……あの、秋ちゃん先生」

 

 

 らしくもなくおずおずと控えめな様子で虎杖が挙手する。

 

 

「お、なんだい虎杖クン。カツ丼に1票入れる?」

 

「いや、そっちじゃなくて、え〜っと……2級ってなんなのかな……って」

 

 

 瞬間、釘崎と秋津島が勢い良く顔を見合わせる。

 術師として当然、常用していた単語。……その意味について問われる事に衝撃を覚えていた。

 

 

「……〜〜〜っアンタ、本っっ当に何も知らないわね!! え、男子って十刃とかそういう階級的な概念好きじゃないの!? ねぇ伏黒!?」

 

「俺に振るなよ……!」

 

「……あの人はこれも説明しないで呪いと闘らせたのか……」

 

 

 何気ない質問一つの反応としては、いくらなんでも彼の想定を遥かに外れたものだった。

 本人もすっかり呆けていれば、妙な微笑みを浮かべた秋津島と目が合う。

 

 しまったと虎杖が逸らすより先に彼女の口が開いた。

 

 

「後日……なんなら今日の行きがけに教えてあげようか。これって危機意識を作るにあたって大事な要素だからさ。いやなに、すぐ済むから、ね?」

 

「えっ、ヤダ! 絶対嘘じゃんそれ! あとは飯食って身体動かすだけのテンションなんだけど!」

 

 

 と、ここでまさかの机にしがみついてまで抗議。再び女性陣が顔を向き合わせる。

 そして、言葉による意思の疎通も無く頷き合うと、両側から虎杖を包囲し────

 

 

「は〜い、出発出発〜。美味しいご飯と爽快な運動と楽しい補習が待ってますよ〜」

 

「ごー、れっつごー」

 

 

 釘崎が両腕、秋津島が両足を抱え、運搬作業が始まった。それも、身体の前面を下向きにして。

 

 

「待ってこれなんか違くねーかっ!? こういうのって普通仰向けでしょっ!?」

 

「ほら、暴れんなって虎杖。うっかり私らの手が滑ったらツラと腹打つ羽目になるわよ」

 

「なぁにその俺が悪いみたいな……!! ちょっ、伏黒助けてっ! ───おぉい伏黒!? 伏黒さーん!?」

 

 

 駄々っ子の悲鳴にはまるで見向きもされない。

 伏黒の視線は既にスマホに一極集中。耳にはしっかりイヤホンが詰められており、少なくともこの茶番が終わるまでの間はコミュニケーションを徹底的に拒むつもりのようだ。

 

 

「え〜、呪霊と術師には等級というものがあってねぇ。任務の適正やお給料、あとはやっぱり分かりやすく強さの指標になるんだ。まぁ、最後のは人相手だと当てにならない時があるけど」

 

「ウッソでしょこの人もう始める気……? ……でも、ちょっと気になんな」

 

 

 虎杖の男子ソウルが疼いたその瞬間を釘崎は目ざとく拾い上げる。

 

 

「ほらっ、やっぱり好きなんじゃない。こういうの」

 

「───はッ……! いやっ、今のは違う!! 俺は断固として補習嫌いだから!! だ、誰かーーっ!! 五条先生ーーっ!!!」

 

「居ないし、居ても写メ撮られまくるのがオチよ」

 

 

 

 

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