【2巻発売中】TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。~ヘッドショットロリがダンジョンの秘密に迫る配信~   作:あずももも

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150話 side:「始原」から見た「ハルちゃん」

通称「ハルちゃん」。

 

ほとんどデフォルト設定な配信画面の中、唯一本人らしさの表れている「ハル」とだけある名前。

 

概要欄も単純にして明快、ただの趣味配信な宣言。

 

それで週の半分以上に数時間の配信を2年半ほど続けている「青年」。

 

画面では顔どころか声、手元すら映さない配信。

 

声さえ出さないという時点で、「彼」は接触されたくないタイプの人間なことは、誰にもすぐに分かった。

 

しかも会社帰りと推測される配信の落ち着きようから、完全に自己で完結する人間。

 

彼のような人間は、介入を嫌う。

 

下手に接触してしまうとダンジョン攻略……その先のさらなる才能開花のモチベーションを失う可能性から「10人の盟約」により――「あくまでも遠くから見守るだけ。 抜け駆けしたヤツは処するからな?」と結論づけられたのが2年前。

 

要は、彼は変わり者なのだ。

 

ストイックに好きなことを好きなだけをし……飽きてしまったら、いくら人気が出ようとさっさと退いてしまう職人気質。

 

そう、彼は職人。

狩人としての職人だ。

 

今どき珍しい、ストイックな若者。

 

「彼」の実力は配信開始から半年、すでに定着していた10人により明らか。

 

「20代前半の成人男性な肉体」ということもあるが、調査した結果……ひたすらに、本当にひたすら愚直に反復練習で遠距離狙撃に隠蔽スキルを高めていた彼。

 

通常はパーティーを組み、数人から数十人で安全に潜るところをソロ活動。

 

ダンジョンドロップ品は、パーティー人数が少ないほどに1人当たりの稼ぎは良くなる。

 

ただし、そこは人間……2人いれば喧嘩をし、3人いれば2体1で亀裂が入ったり、ユニーク武器などが手に入ると分配で揉め、誰か1人がバズるとあっという間に崩壊するのが常。

 

その点、ソロにはそう言ったデメリットは一切ない。

何しろ徹頭徹尾、個人の中で完結するからだ。

 

――ただし、索敵、戦闘、荷物持ち、警戒――要求される全てを1人でこなす必要があり、少しの休息ですら不意打ちしてくる可能性のあるモンスターに神経をすり減らして病む者も多い。

 

そうならない「彼」のような者は、つまるところ変わり者で異端なのだろう。

 

国内の調査によると、ダンジョンに潜るパーティーの97%はペア以上のパーティーを申請している。

 

……逆を言えば3%くらいは「彼」の同類もいるとも言えるが、この10年で「彼」ほどの非凡な秀才は出現していない。

 

そう、秀才。

天才ではない。

 

実際、中学と高校で毎年義務づけているダンジョン見学とステータス調査では、彼の将来性は最底辺だったのだから。

 

それを、ここまで育て上げたのは本人の努力……いや、努力とも思わない、ダンジョンという環境に馴染んだゆえだろう。

 

 

 

 

そんな「彼」は、ときに土日も潜り続け、執拗なまでの反復練習と経験値によって……初心者の域から配信を始めて「わずか半年で」中級者レベルに達した。

 

それが完全に隠蔽と遠距離に特化しており、どのパーティー、どの軍隊、どの国家としても引き抜きに値する――ましてや、これでまだ副業としての、一般人としての――正規の訓練を受けていない20代の男性となれば。

 

それ故に我々は、「彼」を秘匿した。

 

元々彼自身は出世欲も名誉欲も、人気者になる必要のない人間。

 

配信コメントでは常に身内話ばかりして新参を追い出し、通信を管理し、特定のアクセスがあれば見どころのない場面にすり替えてきた。

 

「将来的に加わるはずの2人」以外の人間は全員、徹底的に。

 

「それはハルちゃん的にどうなの? 有望株の将来を奪うの?」

「ハル様を羽交い締めにするような真似は許しません」

「日本に100を超える同盟国家を仕掛けますよ?」

「お? やるのか?」

「お主らこそ抜け駆けしようとしとるじゃろ」

 

「どうでもいいけど僕たちはハルちゃんの役に立ちたい」

「私は身ごもりたい。 ちょっと誘惑しちゃダメ?」

「は?」

「は?」

「あら、ちょっとダンジョンでお話ししましょうか」

「ちょっとダンジョン関係の独立国100カ国を招集して妨害しましょう」

「ごめんなさい」

 

と、一時期サークラ……同盟の崩壊を迎えそうにはなったが、そこでタイミング良く「彼」の何気ないコメント。

 

「僕、ダンジョンの中で引きこもるの楽しいんですよね」で終結した。

 

そうだ。

「彼」の言葉は、何よりも優先されるのだ。

 

そんな「彼」――「ハルちゃん」。

 

もうすぐ20代後半、男性、痩せ型、近眼。

 

大企業の系列会社に入社後は今どきの若者らしく、キャリア競争から身を離し、仕事は必要最低限。

 

無難に真面目にこなし、雑談や食事でもそつなくこなしはするが特に仲の良い同僚や上司、異性……そういうものは居ないとのこと。

 

――それが一転。

 

先週の配信で胸騒ぎがした「会長」の独断によりダンジョン協会の権限を行使、当初の身辺調査からしばらくぶりに調査員を派遣。

 

いつもの彼より遙かに高い隠蔽のせいで十数名の調査員の中も見つけられない中、彼のリストバンドやスマホの位置情報により、偶然に近い形でようやく全貌が把握。

 

――なお。

 

ハルちゃんがダンジョン内で寝入ってしまったそのタイミングで撮られた写真で、寡黙な文学青年から一転、麗しい少女。

 

我ら同盟――1年後からは「始原」と呼ばれる全てが卒倒したのは言うまでもないだろう?

 

「……会長、お薬の時間です」

「む、最近は落ち着いておるぞ」

 

「何言っているんですか……ハルちゃんを見て発作を起こして緊急搬送されたくせに」

「あれが尊死かと」

 

「冗談は程々にしてくださいと言っていますからね?」

「分かっておるよ。 『この先の未来』のためにも、今くたばるわけには行かぬからな」

 

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