【2巻発売中】TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。~ヘッドショットロリがダンジョンの秘密に迫る配信~   作:あずももも

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532話 ゾンビとサメとゴリラに食われるだろうあたしたち

『よし! このブロックは制圧したぞ!』

『どうだ! 人間の力を思い知ったかモンスターども!』

 

『ゾンビ、グロいけど内臓とかないんだなぁ』

『元が人じゃないって分かって良かったわ……』

 

『……とのことですグランマ!』

 

『マダムとお呼び! とはいえ、上手く行っているねぇ』

『ええ、やはり先ほどのマダムの演説で市民たちの士気が高くなっていますもの』

 

屋敷のバルコニー。

 

そこから、軍用のトランシーバーを使用しての司令塔になっていた彼女たちは――徐々に包囲網を押し上げていっている現状を俯瞰していた。

 

ボロ布を着ているだけの格好なゾンビ、それに槍を持ったサメ――なお不格好な手脚が付属する、どう見てもどこぞの研究所で作り出された以外には、もうモンスター――この世のものではない存在を認めざるを得ないという、2種類の化け物。

 

それが、およそ半分の人間に出現した超人的な力によって。

 

そして残り半分の中でも銃のライセンスを取得している人間などや若者による、現代で最も便利な武器による制圧で……あっという間に10を超えるブロックを突破していた。

 

『このまま続けたら、いずれ……!』

 

『待ちな。そもそもトランシーバーの効果範囲の中でしか安全性が確保できない。急な増援に対処できないんだ、このあたりが攻勢限界だよ。それに、離れすぎたら逆に各個撃破されやすくなる』

 

目を輝かせる政治家へ、ぴしゃりと言い放つマダム。

 

しょんぼりとする政治家――合衆国人の誰もが知る、やり手の上院議員。

壮年のはずの彼は、まるで母親に叱られた少年のようだった。

 

『……そもそも、数十分前までは上に避難させた子供たちだけを生き延びさせれば御の字だったんだ。そこが、何十もの屋敷を含むエリアを奪還できた。悪いけどその屋敷たちから物資を調達させてもらえば、あたしたち全員が当面は困ることなく生きていられる。充分だろう?』

 

『……そうですね』

 

すぐに復帰した彼は、苦笑しながら返事をする。

 

『マダムがそうおっしゃるのなら、皆納得しますわ』

 

『まったく近頃の若い奴らときたら、先を考える知恵がないね』

『ははっ、マダムと比べたらここのやつらはみんな近頃の若者ですよ』

 

彼女の意向を汲み、トランシーバーで数部隊に分かれた市民たちへ命令を出していく護衛たち。

 

だが――浮かれたところをしょげたり、けれども穏やかな顔つきになった彼らとは対照的に、エミの表情は険しかった。

 

『……マダム?』

 

『こうして妙に上手く行ってるときは、大抵何かあるんだよ。そう、たとえば――』

 

『――――――――GUOOOO!!!』

 

――ずん。

 

重力が増大したかのような錯覚とともに、人々は一斉にたたらを踏み、あるいはその場で転倒する。

 

『ひぃっ!?』

『あ、あれは!?』

 

『……あぁ、そういうことかい』

 

家が軋むほどの大きな揺れ。

窓ガラスが割れそうな咆吼。

 

その正体は――――――――

 

『キ、キング――』

 

『まぁゾンビやシャークときたら……特大のゴリラさねぇ。それも、映画やらの設定では人間が原因で生み出された化け物の……さ』

 

高台から繋がっている道の先のハイウェイ。

 

そこには――体長十数メートルどころではないサイズのゴリラたちが――何十匹も出現していた。

 

『た、退避――いや、とにかく身近な家へ避難して身を隠せ!?』

『うわぁぁぁ!? ゾ、ゾンビの群れが山からいきなり!?』

『マダム! どうすれば良いんですかマダム!!』

 

『……マダム』

 

『それぞれ1番近い屋敷へお邪魔させてもらいな。運が良ければ食われずに済むだろうさ。……あたしたちも含めてね』

 

混乱する皆へ、一言を告げる。

 

――後は、あたしたちの誰かが神の愛、天運――何でも良いから、何かを持っているのを祈るしかないね。

 

一瞬の前までは安全を取り戻せたはずの戦況は――今や、一気に最悪へ。

 

政治の世界で何十年も戦ってきたさすがの女傑も、諦め半分で祈るしかないと悟る。

 

『あんたらも、先に天国で楽しくやってるだろうキャシーちゃんに祈っておきな。あいつら、どうやらあたしたち人間へ一直線のようだからね』

 

『マダム……』

 

『……そうですね。……キャシー。あなたを助けられなくてごめんなさい。でも、パパとママはもうすぐあなたのところへ……』

 

すでに戦意を喪失して座り込んでいる、非戦闘員の人々。

 

状況が分からず、屋上で騒いだままの子供たち。

 

「……はぁ、全く。人生ってのは分からないね」

 

マダムと呼ばせたがる老婆は――もう取り繕う必要もなくなったからか、ぼそりと異国の言葉でひとりごちる。

 

「ようやく引退して悠々自適のはずだったんだがねぇ。ま、仕方ないさ。あたしの上の世代に比べたら、まだ納得できる理不尽さね」

 

モンスターたちの叫び声。

 

走り群がる音。

 

人々の泣きわめく声。

 

「――最後まで諦めるつもりはないけど、どうも無理だねありゃ。こんなことなら去年くらいに、あの爺たちと茶でも飲んでおくんだった。こんなご時世に剣にしか興味のない偏屈者とねぇ」

 

「GUOOOO――――!!」

 

一斉に胸を叩きながらハイウェイを爆走してくる巨大生物たち。

 

その下には無数のゾンビやサメが、まるで付き従うように整列しながら前進してくる。

 

『おお……』

『神よ……』

 

――神、ねぇ。

 

あたしにも――物を投げるだけだけど、それでも「ギフト」を与えた存在ってのが、確実に居るんだ。

 

なら――どんな状況でも神頼みどころか占いすらしてことの無かったあたしだけど、

 

「――これでもあたしは神社に行くたびに賽銭は弾んでいるんだ。教会にもたらふく収めてきたんだ。現代人としては、それなりに信心深いと言っても良いんじゃないかい?」

 

このちょいと後には、あたしはあいつらの腹の中。

 

なら、これまでに払って来た分くらい期待したって――いいだろうさ。

 

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