【2巻発売中】TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。~ヘッドショットロリがダンジョンの秘密に迫る配信~   作:あずももも

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66話 始原会議Ⅱ

暗い室内。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

三日月えみは、荒い息をつきながら机に伏していた。

 

「――落ち着いたかね? 『クレセント』君」

「気持ちは分かるが仮にも君は乙女で、ここは会議の場だよ」

 

そんな彼女に振ってくる言葉。

 

「……はい……取り乱して大変失礼を……」

 

息も絶え絶えになり、座っているのもようやくなえみは、思う。

 

――だってあんなハルさんを見たらしょうがないでしょうだってあんなにも鈍感にるるとリリという子のあいだで包まれていて全員の顔や名前はぼかされる配信のときのような感じだったけれども私には分かるの今のハルさんはきっといつも通りに眠そうでいてそれなのに2人に挟まれて少しだけ柔らかい表情になっていてきっと天使のようで――

 

「うん。ハルちゃんならしょうがない」

「ハルちゃん相手なら仕方がない」

 

「だけど君だけ公認で触れるってこと」

「忘れないでね」

 

「この場のみんなが君と入れ替わりたいんだからね」

「ずるいよね……女性ってだけで触りたい放題なんだからさ……」

 

――すっ。

 

室内の温度が下がり、えみの昂ぶった気持ちも一瞬で沈静化した。

 

「ひっ……」

 

反響する、怨嗟の声。

 

この中では三日月えみ――彼女「だけ」が、なりゆきとはいえハルとの直接の接触を許可されている現状。

 

それに対する――幼女相手なせいでノータッとが確実な男性陣からの恨めしい視線で、先ほども発狂しかけた彼女の心は完全に冷静に戻った。

 

「……あーもー! ハルきゅんの配信見てたら呼び出されて呼び出されたら『とにかく書き込んで視聴者の気を引け』とか無茶振りー! でもやってやったぞコラー! どーだ、スマホ2台を片手ずつ駆使して配信とSNSと掲示板を……あ〝――疲れたぁ……」

 

「まぁそう怒らないでよお姉さん。この前の品評会の良いワイン呑んでいいからさ」

「あ、じゃあ許すー」

 

「……………………………………」

 

えみは、視線の端の女性を見る。

 

隣の席の新参仲間なはずだった、えみより数歳上の女性。

彼女は、実況の時間だけで馴染み切っていた。

 

「『クレセント』ちゃんももっと楽にしなよ楽にー。関わった以上、どーせ解放されないんだしさー……あ、一緒に呑む?」

 

「い、いえ、私は未成年ですので……」

 

「良いじゃん良いじゃん、ダンジョン潜りさんってば法律上は成人扱いで合法だしお酒も強くなるんだしぃ」

「え、えっと、その……」

 

――『姉御』さん……あなたの暴走っぷりを見たら、いくら私でも……いえ、私だからこそアルコールは危険なんです……ハルさん相手では……!

 

えみは、ハルのかわいすぎるハラスメントの次にはアルハラに悩まされていた。

 

「かいちょーさーん」

 

「はて、ここには儂らしか居らぬし、秘密は絶対厳守じゃのう? まぁ漏らしたらどうなるのかは全員知っておるし、警察も軍も実質的な支配下にある。ある程度なら都合の良いように動くじゃろうなぁ」

 

とぼけた顔の老人――『会長』直々に権力の乱用がささやかれる。

 

えみは窮地に居た。

 

「だってー。ほらー、お酒ー。お姉さんと呑もうよぅ、おいしいよぅ、飲み潰れたらぐへへ介護してあげるからさぁおっぱいちゃぁん」

 

「……この後がありますから」

 

えみは断固として拒否。

 

アルハラに加えてセクハラも予想されるどころか「食われかねない」危機感も覚え、幼い子供にしか興味のない彼女は鳥肌を隠しつつ抵抗する。

 

「んー、やっぱ配信で頼られてるだけはあるのねぇ」

「まじめな子は好きよ? 絶対に裏切らないし」

 

……「ハル」の配信が「終了」してから少し。

 

配信サイトやら各SNSやら各掲示板やらグループチャットやらでひたすらに操作していた疲れが押し寄せた「12人のうちの9人」からは疲れが見える。

 

――まさかハル……さんが、あんなことになるなんてね。

 

「『クレセント』ちゃんは実地で大変だったのに済まないねぇ……肉体運動のあとは情報工作させちゃって」

「い、いえ」

 

「飴ちゃんいるかい?」と言う老婆の声と……しゅっと円卓を流れてくる飴ちゃん。

 

これは……祖父母の家に行かないと手に入れられないタイプの飴ちゃんだ!

 

えみはちょっとだけ感動した。

 

「でも『クレセント』は良いよなー、だってハルちゃんの傍にいて良いんだもん」

「ずるいよねー」

 

「え、えっと……ごめんなさい……」

 

「いえ、『クレセント』さんには現実でのハルちゃんのサポートをお願いしています。その負担はかなりのものですから」

「表と裏と両方だし、今回みたいに表のためにダンジョン走り回った直後に裏で工作とかあるから許したげようよ」

 

「分かってるって、言っただけー。ただのグチー」

「私も言っただけー。……先に顔見せできてたら、私がお世話できたのに……」

 

――き、気まずいわ……。

 

というか本当、『クレセント』って……もう少しネーミングセンスというか――。

 

貰って食べないのも悪いからと飴ちゃんを頬に入れ、懐かしい微妙な味にも頭を抱える、えみ。

 

「こほん」

 

咳払いが1つ。

それが再開の合図らしく、緩んでいた空気が一瞬で引き締まる。

 

「では始めようか」

「左様」

 

「爺、それ好きだよなほんと」

「左様――普段からの口癖じゃ」

 

「それでいてネットの書き込みで操作してるときは普通にネット言葉で――」

 

「黙りゃ」

「はーい」

 

地下の会議室。

 

スクリーンで投影されている、つい先ほど終わったばかりなはずの「金髪幼女250階層RTA配信」な画面。

 

それが完璧な編集とともに薄く照らされ、ため息の広がる中、議長らしき存在が口を開けた。

 

「2人も正式に加わらせ……加わってくれたことだし、改めてコードネームでの自己紹介と行こうかの。儂は『会長』。ダンジョン関係で何かあったら融通効かせるぞい」

 

老人が一言を述べ、次に七三分けの男性が手を挙げる。

 

「私は『部長』です。いわゆる公安――一般的な理解で問題ありません――というものの所属となります。ハルちゃんに関しては超法規的な措置を適用できるため、何かあれば私に連絡を。いざとなれば、なんとでも理由を付けて機動隊を送ります」

 

――最初に会った2人ね。

まさかここまで何回も……とは思わなかったけれど。

 

ハルの無事を確認して引き上げ、病院で寝ているままの「彼」の検査の最中に召喚された、三日月えみ。

 

勧められた椅子に浅く腰掛けるしかない彼女は、2回目の会合でも固くなっていた。

 

「私は『社長』だ。ダンジョン商会として展開している――海外のシェアにも力を入れている会社のだね。ああ、君たちなら格安で何でも用意するし、ハルちゃんウォッチのためならポケットマネーを提供する意思がある。特に『クレセント』君はダンジョンに潜ることも多いから何でも言いたまえ」

 

「は、はい……」

 

壮年の男性は一見して優しそうだが、そういうものに疎いえみでさえ、ニュースやネット記事で顔を見たことのある経済人――油断はできない。

 

「アタイは『マザー』。第一線からは退いたけど『上』とかがいちゃもん付けてきたらアタシに電話しな。あの子はアタイの孫に準ずる扱いで通すよ」

 

マザーを名乗る老婆もまた――えみの記憶のどこかにあるほどの有名人だったはずだ。

 

えみは、この場の人間のあまりの立場に縮こまるしかない。

 

「偉い人ばっかねぇ……あー、偉い人たちのお酒はおいしいわー」

 

この中では恐らくもっとも一般人に近い「姉御」というショタコン、社会人3年目の彼女は深々と腰掛けて一見かしこまってはいるが、高そうなワインを堂々と呑んでいるふてぶてしさを兼ね備えているようだ。

 

さすがにそこまでの胆力は――ごく一部を除き常識的な女子高生のえみには備わっていない。

 

「僕は『首席』。『クレセント』さんとは歳が近いからぜひ仲良くしてね。普段は合衆国と連合王国を行き来して忙しいけど、ある程度なら有名な教授にもコンタクト取れると思うよ」

 

「私は『天才少女』。私は大体欧州にいるわ。私がなんか言えば大抵の機材とかプレゼントしてもらえるから言ってね。あ、ハルちゃん関係なら最優先で論文書いたりするから、協力お願いすることあるかも。そのときはよろしく、『クレセント』さん」

 

高校生と思しき青年に中学生に見える少女が――始原として活動が長いらしく、堂々と名乗りを上げる。

 

「……残念ながら国内勢の残り2人はリモートで参加してもらったものの、今は欠席じゃ。あの配信の後始末もあるのでの」

 

「外国勢の2人のうちの1人は……いえ、良いでしょう」

 

「……?」

 

「一気に人が増えても覚えきれないでしょ?」

「え、ええ……それはそうですが……」

 

「この場に居ない人物」たちへの、含みを持たせるような言い回しに疑問を覚えるものの、言われたとおりに覚えきれない以前に圧倒されて心的負担が大きすぎるえみは……ひとまず気にしないことにした。

 

「では、11人目と12人目のおふたりも軽くで良いのでお願いします。例により実名は出さないように……まぁ出しても問題はありませんが、雰囲気です」

 

「こういうのって秘密結社って感じで楽しいよね!」

「分かるー。欧州で誘われたのはもっと豪華だったわ!」

 

そこで回ってきた自己紹介へは、アルコールのほどよく回った「姉御」が先手を取る。

 

「はーい、末席に加えていただきました『姉御』でーす。あ、会社の件、マジありがとうでした。電凸と誹謗中傷とか昇進とか株価やばかったんで」

 

「今後も何かあれば連絡さえあれば何とかします。ああ、情報開示請求も好きなだけ使ってください。ハルちゃんのためでもありますので……今後のことも含め、悪質なのはガンガンと」

 

「サンキュー。やー、あの弁護士さんすっげーですわ。通常の手続き飛ばすとか、さすがね!」

 

そして全員の視線が、残ったえみに集まる。

 

「――オブザーバーの『クレセント』……です。……あの、この名前、変えちゃダメですか……?」

 

「クレセ――げほっげほっ! ……あはは、三日月ちゃんだからクレセント! やっぱ安直すぎー! あははっ、クレセントちゃんかわいー! お酒呑も?」

 

「……うぅ……あとお酒は結構です……」

 

どうやらここでは直接に名前を呼ばないらしい。

だからコードネーム的なものをもらうらしいのだが……。

 

――「クレセント」は無いでしょう……!

 

何よそれ、中二病とか言うものじゃないの!?

しかも何のひねりもないし!

 

えみは赤くなった顔をじっと押さえる。

 

ここは、耐えるしかない。

なにしろえみは、逆らうことができない。

 

彼女の、ハルへの数々の言動は――この場に居る全員が知ってしまっているのだから。

 

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