【2巻発売中】TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。~ヘッドショットロリがダンジョンの秘密に迫る配信~ 作:あずももも
【ハルちゃん……】
【なかないで】
【俺らの世界も、ダンジョンが出現するまでは戦争ばっかしてたからなぁ】
【本当にな】
【それが本能ではあるんだけど……うん でかいミサイルとか戦艦とか、それひとつで……って】
「ハル。人間たちは……どんな種族でも知性を獲得し、言葉を生み出したら早くて数千年で――長くて数十万年で、たったの1発で自らを滅ぶすことが可能な遠距離武器を開発できる。知っているだろう? いや、魔力を持たない種族はまだいい。ある程度育たないと、それが作れないから。けども――産まれながらにして自然にそれを持つエルフたちや一部の種族は、かなりの確率で文明の初期から高位魔法での殺し合いをしたりする。それが、知性を獲得してしまった生物の宿命なんだよ」
「はい――けども。僕の知る人間さんたちは、使う前に自制できました」
「偉いね。私の観測した最寄りの世界では、できたばかりのそれを2発、同胞に放ち――すぐさまに真っ青になって、以後は威嚇にしか使わなかった。それでもとんでもない被害が出たけども、とんでもなく理性的な世界なんだ。うん、そこで踏みとどまれただけで、とんでもなく優秀なんだ」
ぽつり。
2回目の攻撃でまた燃えるお船が増えているのを――さりげなく羽で僕たちを隠しながら、見上げたままの彼女がつぶやく。
【優秀……そうなのか】
【こんなバカやれてるのも、裏を返せば……だからな】
【ああ……】
【使ったのか……】
【どうして……】
【うちのとこは科学者たちが総出でストップかけたからなんとかなっただけらしいしなぁ】
【そのときに大規模な戦争してたら……うん】
「……使った、んですか。あれを」
「うん。状況によってはね」
「使うんですか。大半は」
「うん。絶滅寸前まで行くケースも多い」
【絶滅……】
【草枯れる】
【そらそうよ……】
【昔流行った人類全滅もの あんな世界になったところがあるどころか、大半なのか】
「ひどい、ですね」
姉さんは、きっと、悲しんでいる。
なんともない顔をしているのは、たぶん――この場では自分がトップだから。
指揮官が泣いてちゃ、戦いなんてできないから。
責任。
偉くなると、いろいろ大変なんだ。
だから僕は学生時代も目立たないようにして適当な係――生き物係とか掃除係とかしかせず、会社に入っても目立たない社員として、間違っても管理職になんてならないように適当に済ませてて。
ダンジョンでもパーティーを組まず、何かあっても僕1人しか怒らないし困らないって、そうして逃げていて。
「けども――その結果、使って踏みとどまった世界は、使わなかった世界よりも引き金ははるかに重くなった。魔王たちの介入なしに自滅する可能性は、君たちよりもはるかに低いんだ。自分たちで痛みと重さを体感したから。……自分たちの拳の重さと痛みと恐怖は、それを自分で体験して泣かないと理解できないから。それは今、燃えていても痛みは感じていないだろう魔王も同じこと。彼だけがかつての大戦をたった1人無傷で生き残っちゃったから、止められない」
そうか。
おじゃるさんは――僕みたいに痛い目に遭ったことがない上に、僕とは違って力を持っていて、僕とは違って関心が外へ、それも支配へと向いただけなんだ。
「……どっちが良かったんでしょう。強すぎる力を使ってお互いに泣くのと、そうしないようにしようって話し合って痛みを知らないのと」
「分からない。だけど――使っても使わなくても、その世界の人々が決めたことだ。私はジャッジできない。できるのは、人では敵わない存在――魔王へだけ。私たちは、被害が出るのをただ眺めることしかできないんだ」
【アルちゃん……】
【ケンカって、小さいうちにしとくもんだって言うもんな】
【動物だってそうだよ 子供のうちに兄弟でじゃれ合うついでに噛んだり引っかいたりし合って、お互いに痛みを知るんだ】
【適度な痛みは必要なんだよな それを知らないで他者へ向けないためにも】
盗み見る姉さんの目は――涙をたたえている。
けども、それを流しはしない。
「……それで自滅した世界は、それこそ無数にあるから。人間も魔族も……どちらもね。それでも私たちはそれをじっと見て、けども手を出さずに魔王との戦いを進めることしかできない」
「ぎゅ」
「……ノーネームさん」
「……君たちは、本当に優しいね」
くっころさんに抱っこされたノーネームさんが、姉さん――アルさんを抱きしめている。
【なかないで】
【美しい……】
【これは女神】
【宗教画だな】
【人の痛みを悲しんでくれてる神々の光景だもんな】
「……人間って、愚かですから間違いもたくさんするんです」
「うん……だからこそ、必要なときに手助けして導かないといけないのか私たちなのに……」
「それはきっと、魔王さんもです。勝ちすぎたら、調子に乗るものなんです」
「……うん」
――ああ。
姉さんは――神族たちは、本当に人間のことを想って見守る種族なんだ。
僕たちみたいな人間は、そんなことも知らないで好き勝手して。
――なのに、それでもピンチのときはこうして駆けつけてくれている。
それはまるで――無償の愛をいつまでもくれる母親みたいだ。