【2巻発売中】TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。~ヘッドショットロリがダンジョンの秘密に迫る配信~ 作:あずももも
槍を全身に打ち込まれ、身動きが取れなくなって地面に伏せている巨大なドラゴン。
おじゃるさん。
息も苦しそうで、ぐるるると続けるものの……その声はよわよわしくて。
「――さぁ魔王。勝敗は決した。君は、幼い私たち女神に――そして、君が見下していた人間に、屈したんだ」
こつん。
無機質なタイルに、姉さんの足音。
僕と同じサンダルのはずなのに、やけにその音が響く。
「君は、敗北したんだよ。私たちに。だから……もう、負けを認めてくれ」
しゃらんっ。
ぼくと同じように腰に巻いた金属の鎖が、歩くたびに地面を――タイルを、叩く。
「私たちは――君を、この場で殺すこともできる。君を、終わらせることができる。なにしろ、本体で出てきてくれているからね。……少なくない命が、失われすぎた。むしろ、この配信を観ているほとんどの文明が、それを望んでいる。魔に属さないもののほとんど全員が、望んでいる」
殺す。
姉さんが。
おじゃるさんを。
「………………………………」
「……ハル。生きるためには、ときとして相手の命を奪う必要もあるんだよ。魔に属さない、すべての存在の命が掛かっているんだ。ここでなにもせずに見逃したら……絶対に、復讐に来る。そのときはもう、これまでよりもやり方も荒くて……きっと、あえて残虐に殺してくるだろう」
「……でも」
ぎゅっ。
頭での理解と体での理解が合わさってくれなくって、なにかがあふれそうなのを……僕は、服をつかんで耐える。
【ぶわっ】
【ハルちゃんが】
【なかないで】
【泣いてはいないけどすごくつらそう】
【ハルちゃんってば優しいからなぁ……】
【優しすぎるのが唯一の欠点だよ、ハルちゃん】
「魔王。決めてくれ。敗北を認め、おとなしく去ってくれ。……私たちには君を追撃する理由も、余力もないのは理解しているだろう? 私たちはただ、親世代の破壊的結末から――残っている人たちを、そっと見守りたい。ただ、それだけなんだよ」
『――――――――………………………………』
しん。
静まり返る空間。
ものすごく広いけど、おじゃるさんの全身が思いっきり飛び上がったら天井に頭をごつんってしちゃいそうな程度のサイズ感の空間。
ごつんってしたら……すごい音が響きそうだ。
きっと、すごく痛い。
だからお願い、おじゃるさん。
もう、降参して――いつか、くっころさんのダメダメさをふたりでため息つきながら話そう?
『――――この方法だけは、使いたくはなかった。嗚呼、屈辱だ――侮辱だ。死ぬ方が余程に良い。だが――――』
「!?」
ぎぃんっ。
魔王さんの体から、とてつもない魔力がほとばしる。
真っ赤な光。
炎。
熱。
赤とオレンジと白と青が混じって、その温度が加速度的に上昇していく。
……これは、まさか。
「くっころさんのときみたいに……」
「自爆!? 不味い! ノーム、ノーネーム! 急ぎこの空間を解除して! 私たちも巻き込まれる!」
【!?】
【あー、くっころのときもそうだったか】
【おのれG!】
【G、爆発四散せよ】
【草】
【言ってる場合!?】
「だいじょぶ」
「もんだいない」
けれども、2人は静かにそのまばゆい光を眺めているだけ。
「何を――――――――」
「さいごっぺ、だけど」
「まだまだ、やるき」
ふたりが同時に指さした先の、おじゃるさんだったはずの巨体が――みるみるうちに小さくなっていく。
魔力が、凝縮されていく。
熱が――ただの1点に、圧縮されていく。
――あまりにも大きすぎる恒星は、その重力を溜め込みすぎて小さくなりすぎるらしい。
ブラックホール。
くっころさんのときは、それで僕たちを飲み込もうとしてきた。
けれども――おじゃるさんは。
「……自爆ではない……? それに、魔力を大量に消費しているから、脅威ではなくなりつつある……けど」
――からんからん。
数百本の銛が、魔王さんを押さえつけていた楔が、地面へ落ちていく。
「自ら小さくなって……いや、これは」
「――――――この恥辱を受けて、でも」
ゆらり。
姉さんの声を遮るように……花火の煙の中から、誰かの姿が。
――――――――「人」の姿が、出てくる。
…………え?
「人?」
女の子の……声?
「――――魔王、お前……!?」
【!?】
【!?】
【唐突にえっちな予感がするぞ!】
【草】
【お前……】
【でも、シルエットにおしりが!】
【え? マジ? お、マジだ】
【お前ら!!】
【草】
【ばかばっか】
【なんでここでコメント欄が急加速してるんだよ草】
【だって……】
魔力の暴力が薄れてきたその先で、かがんでいた「誰か」立ち上がる。
――まだ収まりきっていない魔力がバックで光り、黒い影の誰か。
……振袖?
いや、違う。
――しゃらんっ。
頭に乗せた、ごつい帽子から垂れているたくさんの小さな鈴が鳴る。
和服に見えるけど、その袖も裾もとっても長くって、地面に盛大に垂れていて。
真っ赤と金きらで目が痛くなるような布地が、その女性らしい姿を覆い隠していて。
まだ、その小さな体での二足歩行に慣れていないのか、ふらついていて。
けれども、その顔に浮かべられた感情は。
「――人を模するは、げに屈辱。だが……この姿になれば。お優しい神々共は、朕へ手出しを――――できまい?」
にやり。
長い髪の毛の美人さん――「人間」が、おじゃるさんらしく嗤った。