【2巻発売中】TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。~ヘッドショットロリがダンジョンの秘密に迫る配信~ 作:あずももも
「……準備はいいかな、魔王」
「うむ、問題はないのでおじゃ――朕も、異論はない」
さっきまではふよふよほわほわしていた空気が、引き締まっている。
「君は1人、私たちはたくさん。けど、君と私たちの実力差からすれば」
「無論。神と魔の勝敗は幾千年前に決して久しい――そして朕は勝者として君臨してきた。ゆえに朕は貴様らからの攻撃を躱し、耐え続ければ黒髪の女神どもの空間魔法を解析、解除し、やがては元の姿に戻ることができる。そうでなくとも時間が経てば朕の配下が必ずや食い破ってこよう。そうだ、時間こそ朕の味方よ」
「そうだね。時間が私たちの敵だ。だから、君が外と合流する――それが、私たちの負けの合図。そうなったら……たとえまだ戦えるとしても、私たちは降伏する。それ以上の戦いは、意味が無いから。ハル、いいよね」
「? あ、はい」
お互いの陣営のトップたちがおはなししてるのをぼーっと見ていたら急に話を振られた。
こういうのってよくあるよね……会社の会議の終わりに「じゃあ新人の……今日1回も発言していない君、何かあるかね?」みたいな感じの。
ああいう風に急に振られると、たとえ聞いてても思考が吹っ飛んで忘れちゃってうまく話せないからやめてほしいんだよね。
「……貴様もハルのように堂々と構えたらどうだ?」
「ハルはハル、私は私だよ」
「そうか――――――なら」
――ごぉぉぉぉっ。
やる気に戻ったおじゃるさんの周囲に、まぶしいオレンジの炎が渦巻いている。
魔力の奔流。
たとえ角と羽と尻尾をもぎ取られたとしても、それでもレベルは100――僕たちが相対したことのない、地球の人間な僕たちが目にしたことのない強さの敵なんだ。
まさしく、魔王。
それが、おじゃるさん。
【とうとうか……】
【やっぱ、戦うしかないのか】
【他に方法は……】
【無理だろ】
【だろうなぁ】
【少なくとも魔王は時間経過で元の姿とレベル600億とかいうバグった強さに戻っていくし、隔離してるけど外では宇宙大戦争真っ最中で、魔王軍の増援も厳しいらしいし……弱らせたおじゃるだけと戦えるようにするためのダンジョン魔法ってのが、この空間だからなぁ】
【名残惜しかったけど、決着つけなきゃだよな】
【ノーネームちゃん&ノームちゃんの魔力が尽きたり外からの介入があればおじゃんだし】
【これって種族同士の大戦争だからね】
【俺たち辺境の安全圏だった場所からすると実感は薄いけど、それなんだよな】
【矢面に立ってる世界の人たちや滅ぼされた世界の人々……魔王の傘下の魔族たちからすれば、ここで戦わないのはあり得ないもんな】
【普通に力と数ですりつぶせる相手から局所的に押されてるだけって認識だろうし】
【自分たちの王様が不意打ちで取られてるだけだし】
【相手が神族っていう旧支配者だから付き合ってるだけとも言えるもんなぁ】
【しかも万が一、事故で魔王が死んだとしても代理とか次の魔王とか立てて普通に戦うよなぁ魔王軍 だって、世界制覇目前なんだから】
【あくまでハルちゃんやアルちゃんたち神族っていう特別な存在との直接対決だから乗ってくれてるだけで、今までもやろうと思えば物量で押しつぶせたはずだし】
【戦争は、終えるのが最も難しい 双方がそれなりに納得できる推移と決戦と結果とがないと泥沼だからな】
【魔王軍による一方的な掃討戦になってるとはいえ、数千年続いてるんだもんなぁ……この戦争】
【だからこそ、今なんだ】
【ああ】
【本来は戦力差で押し込められるはずだった状況が、アルちゃん率いる反抗軍とハルちゃんの一撃、このダンジョン魔法でもしかしたらって だから、今しかないんだ】
【くっころとかえみちゃんとかいうギャグ展開とかほんわかとかなでなでとかバブみとかあったおかげで、どんな結果になろうとも少しは和解の兆しも見えてきたんだもんな!】
【草】
【シリアス!!】
【シリアスさんはかよわいから俺たちで守護らねば】
【シリアスさん……どこ……ここ……?】
【シリアスちゃんは俺の家で大切にしてるよ】
【お前!!!】
【悲報・固有名詞「えみちゃん」】
【同じく「くっころ」と並ぶ歴史に残る偉業だね】
【偉業……?】
【偉業だろ? どっちが勝とうとも勝者のトップをげんなりさせたって意味で】
【草】
【えみちゃん……どうして……】
【冗談はおいておいて がんばれ】
【応援することしかできないけど、がんばれ】
【最後まで見てるから、がんばれ】
【それしかできないからこそ、全力で応援する がんばれ】
【お願い……がんばって】
【ハルちゃん、がんばれ】
【アルちゃんもみんなも、がんばれ】
着物の裾や袖が渦巻く魔力でばたばたとはためき、その燃えるような髪の毛は本当に燃えているようにゆらゆらと漂うおじゃるさん。
姉さんと九島さんによしよしされて元気になった彼女は、けれどもどうしても戦って決着をつけたいらしい。
いや……着けなきゃいけないのかもね。
おじゃるさんは王様なんだ、たとえおじゃるさん自身は戦いをやめたいってどこかで思っていたとしても、自分に従っている人たちとか自分が滅ぼしたり支配している世界の人たちのことを考えたら――みんなが納得できる結果を見せないと、いけない。
立場。
えらい人は、大変なんだ。