【2巻発売中】TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。~ヘッドショットロリがダンジョンの秘密に迫る配信~ 作:あずももも
「えみちゃん……やっぱり私も……」
「駄目。ここぞという場まで、るるは陽動以上の動きはしないで」
「でも! このままじゃ、みんなが!」
「その鎌での攻撃は、魔王に通じる――リリや短刀使いの2人よりも、ずっと」
何回か攻撃を試したものの、かなり警戒されてたせいでダメージを与える距離まで近づかせてもらえず、結果として温存される形になって――えみさんが傷ついちゃったのを青い顔で見つめる、るるさん。
この中で唯一、HPをそこまで減らしていないるるさん。
………………………………。
その、やるせない気持ちは……前の僕なら、理解できなかった。
けども、今なら分かる。
何かはできるはずなのに、手出しさせてもらえない――あるいはなんにもできなくって、見ているだけ。
そういう場面を、僕はこの姿になってから何度となく経験したから。
「……るるは、ハルさんとアルさん以外で魔王に届きうる――人間の中で、唯一の切り札。どれだけ私たちが傷ついても、るるだけは守る。それがパーティーの……リーダーとしての判断よ」
「パーティー」。
その意味は、きっと。
「……ずるいよ、えみちゃん。ここは地球でもないのに」
「いいえ? ここは『ダンジョン』だもの。『ダンジョン攻略パーティー』へあなたを引き入れたのは、私よ。だから……言うことを、聞いて」
【るるちゃん……】
【えみお姉ちゃん……】
【なかないで】
【えみちゃんが満身創痍に】
【そろそろリストバンド使った方がいいんじゃ】
【すっごく久しぶりの2人のやりとりが……美しい……】
【えみちゃんは、やっぱりお姉ちゃんなんだ】
【思い出した えみちゃんはママだったんだ】
【そうだな】
【特にるるちゃんに対しては、いつも公開お説教とかするくらいには面倒を見てきたんだもんな 『不幸』時代から、何年も】
【るるちゃんの『不幸』を怖がらずに、ちょっとしたアクシデントを笑いに変えてあげていたんだ それが、えみちゃんなんだ】
るるさんの、鎌を構えてこわばっていた肩から……ちょっとだけ力が抜ける。
「――行きますよっ!」
「おう!」
「はいっ!」
「……朕も疲労しておる。加減できずに殺してしまっても――さすがに恨むまいな!」
何度目かの、リリさんとアリスアレク姉弟の息を合わせた突撃。
それに対しておじゃるさんがブレスで牽制と反撃を試み――何度目かに水の奔流が叩きつけられる。
「……さすがに、保有魔力量が厳しいですか」
じゅうう。
最前線で火と水が衝突してもくもくとした煙が爆ぜる。
――けれども、それに勝った火が炎となり、3人を軽く焦がしながら通り抜けていく。
「――――――ここっ!」
「もう、その動きには慣れたわ」
「なら!」
「私たちがっ!」
しゅんしゅんっ。
おじゃるさんに群がる3人が、至近距離で剣を縦に横にななめに、上から下から立体的に振る。
けれどもレベル差のせいでおじゃるさんの方がずっと速く回避――多少は服や腕、ふとももへ攻撃がかするものの、たぶん動き続けている3人に水を掛け続けている1人への負担の方が、多い。
レベル差――HPとMPの差が「継戦能力」という形で、明らかに現れている。
「………………………………」
「……そう睨むな、神族。朕は、待てば勝てるのだ」
それを、見続ける姉さん。
――姉さんはみんなの戦いを見ているからこそ、手を出さない。
おじゃるさんに届くのは、彼女の拳だから。
だから――みんながそうと知って陽動と攪乱をしているのを、見続けている。
【魔王を削ることはできたけど、相応にみんなもダメージを……】
【なによりスタミナの差がなぁ】
【まるで初心者が高難易度ダンジョンのボスと戦っているような……いや、せいぜいが中級者が上級ボスと……程度か】
【攻撃は通じてるんだ ただ、単純なステータス差が】
【かなりいいとこまで追い詰めたんだがなぁ】
【女神たちと人間の総出で、世界の魔王を半壊以上だもんな】
【アルちゃんは?】
「ふっ……ふっ……」
とんっ、とんっ。
姉さんが、何度目かの威嚇をしている。
「………………………………」
姉さんがいつでも動ける動きを始めると、動きが鈍るおじゃるさん。
――まだ、戦場はひっくり返る可能性がある。
少なくとも、絶対的強者のはずのおじゃるさんは、そう認識している。
【また闘気を溜め続けてるな】
【ちょっとあふれちゃってるけど、まだ大丈夫そう】
【ならいいか……】
【草】
【草】
【まだまだ戦う気で頼もしいけど、アルちゃんもそれなりに……】
【そして、俺たちのハルちゃんも】
【銃がないなったか】
【ないないだね】
【ないないでなかないで】
【弓矢を並べてはいるけど、銃と比べると……】
【そんなハルちゃんを見た魔王、露骨にハルちゃんへの警戒を解除】
【さっきまではアルちゃんへと同じくらい見てたけど、もう……】
【まぁ残ってる武器じゃ、銃と比べると威力も命中率も速度も段違いだからなぁ】
「――――じゃが、邪魔じゃ。喰らえ」
ばしゅうううっ。
「――っ……!」
「うおお!?」
「きゃぁ!?」
全身から炎を爆発させ――リリさんがガードしながら上方に飛びながら回避するも――僕の勘違いじゃなければ女の子なはずのアリスさんが男らしく腹筋から力を入れた声を上げて、アレクくんが女の子らしい悲鳴を上げながら爆風で飛ばされていく。
【あああ】
【ああああああ】
【褐色っ子たちが】
【熱そう】
【リリちゃんは無事か】
【反応速度……いや、疲労度の差か……】
【自分がダメージ受けてもなブレス……自爆覚悟の全身ブレスは卑怯】
【アルちゃんが言ってたろ ヴァーリトゥード――なんでもありだって】
【え、でも今回のブレスは威力が……大丈夫か……?】
【大丈夫だって信じよう】
「――――――ちほ! 私よりも!」
「――っ! おふたりとも、こちらへ! 厳しそうならリストバンドを!」
みんなの、注意が離れる。
おじゃるさんが、フリーになる。
「しっ――――」
「……もうじきにこの空間も戻り、朕は本来の姿へ戻る。アルよ――諦めよ」
「すると思うのか――なっ!」
ばしんっ、ばしんっ。
3人が吹き飛ばされた空白へ、姉さんが滑り込んでの肉弾戦が始まる。
「――今のノームたちには、余裕を持った転移魔法は使えない! 危険を感じたら君たち自身の装置で逃げて!」
九島さんが駆け寄る方向へ向け、姉さんが声を上げる。
「………………………………」
「………………………………」
るるさんの、目が。
僕の目と、ぴたりと合う。
「………………………………」
「………………………………」
僕たちは、お互いでもなんて言ってるのかはさっぱり分からない。
けども。
――――――僕は、持ってる中で1番いい弓と矢のセットを両手に、立ち上がった。