【2巻発売中】TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。~ヘッドショットロリがダンジョンの秘密に迫る配信~   作:あずももも

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26章 僕の死と、XXX年先と12年前と
819話 僕の、知らない日常-1


カランカランカラン――――――カラン。

 

左右の腕に装着されていた機械の輪が、数度の回転ののちに静止する。

 

リストバンド。

生命維持装置とほぼ等価の、ダンジョン産の技術の粋。

 

床へ衝突して回転したそれらが静止して、場が音を吸い込む。

 

――「彼」が「幼い体」になってから、なんとなくで頭頂部の髪に着けるようになっていた「王冠」型の装着部品もまた、ワンテンポ遅れて甲高い音を立てる。

 

それは、配信ドローンの起点となるもの。

毎晩に頭から外して眠り、毎朝に装着していたそれもまた、落下した。

 

ゆえに、ハルの視線より上から流れていた配信は――地へと伏せる。

 

【は】

【え】

【?】

【今の】

【何が】

【視点が急に】

 

【お、上がり始めた】

【びっくりした】

 

【ノーネームちゃんたちのあんよよよよよよよよよ】

【ぺろぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ】

【幼女の生あしししししししししししし】

【裾からみええええええええええ】

 

【草】

【お前ら……】

【え、でもなんで急に視点が低く】

【ひゅんってした】

 

配信カメラは周囲の音と光、動きを捉え「最も配信映えするよう設定された」デフォルトの動きを開始し――機材を見下ろしている2人の少女を見上げるように回転しながら浮上していく。

 

――――――だからこそ。

 

【え】

【ハルちゃん……居なくね……?】

【頭の上の機材と……両腕の、リストバンド……?】

 

視聴者たちは。

 

本来なら勝手に体から外れて落ちるはずのない、ハルが常に身につけているはずのそれらが無造作に転がっている光景で、理解できてしまった。

 

ハルが――――――消失しているという、異常事態を。

 

「……え。ハル……ちゃん?」

 

「ハルさん、が……?」

「……ハル、様……?」

 

その場を――黒き女神たちに手を引かれていくハルを遠目に眺めながら、床に転がる魔王へ近づいていた彼女たちもまた、理解できてしまう。

 

ハルが、消失した。

 

その事実を。

 

――――宙域では、無数のドラゴンたちが壮大な戦いを繰り広げている。

 

だからこそ。

 

【え……】

【ハルちゃんが……】

【消えた……?】

【なんで】

【待って理解が追いつかない】

【ノーネームちゃん?? ノームちゃん??】

【転移魔法か何かが失敗したとか……ないよな……?】

 

誰も、一言も発せなくなったその場――――ダンジョンの中は、不気味な静けさに感じられた。

 

 

◇

 

 

『……春海? 食事中に本を読むのは行儀が悪いからやめなさい』

 

居間。

 

リビング。

 

見慣れていた、いつもの空間。

そこで僕は、母さんとごはんを食べているらしい。

 

時刻は……カーテンを開いた窓から日が差しているから、昼間。

 

昼ごはん。

 

土日か祝日か、それとも。

 

「………………………………」

 

なぜか僕が居たそこは、僕が家を出る――少し離れた会社への就職のために独立する前に、毎日見ていた場所。

 

――どう見ても中高生な僕が、ぼさぼさの髪の毛に度の強いメガネで覆われていて、服にも無頓着で母さんの買ってきたものをだらしなく着ていて……電子書籍を読むための端末をむさぼりながらごはんを食べている場面。

 

『春海』

 

『や、だって母さん』

『だっても何もありません』

 

そして、幼くて生意気な僕が言う。

 

『テレビ観て食べるのと本を読んで食べるのと。タブレットだから両手は空いてるし、たいして違いはないでしょ?』

 

『テレビは集中してないからいいの。でも春海、文字を読んで集中しているじゃない』

『母さん、さっきまでの特集、食い入るように見てたけど? テレビなのに』

 

屁理屈。

 

知識だけあるのに、まだ社会とかを全然知らない――こまっしゃくれた子供の反論。

 

けれど、それは。

 

『それ、お父さんに言って取り上げてもらうわよ。「紙の本じゃなくなったせいでテーブルに置いたまま本を読めるようになったせいで、お行儀も悪くなってますます陰気になって悪影響だから」って言って』

 

『………………………………』

 

口達者な母さんには――いや。

社会に出てからの年上の女性社員の人たちや、幼女になってからのるるさんや九島さんで学んだんだ。

 

女の人には、どうあがいても口では勝てない。

 

ああ言えばこう言う、こういえばああ言う――そして、誰々に言いつける。

仲間を呼ぶ、泣く、ちくちくいつまでも言ってくる、ことあるごとに掘り返してくる。

 

それを薄々としか知らずとも……けれども家庭内ヒエラルキーを理解している幼い僕は、しぶしぶとタブレットを伏せた。

 

『最初からそうすればいいのよ』

『………………………………』

 

『だいたいあんたはね、いつもいつも……』

『………………………………』

 

そうして「女性の機嫌を損ねた」罰として、ほんの数分でも耐えるしかない空間を味わう。

 

いや。

 

味わおうとして――――

 

『――番組の途中ですが、今入ったニュースです。1分ほど前、■■県■■市■■地区で、「ダンジョン」の発生予測が――――』

 

『――――――――――――』

 

――――かくっ。

 

かちゃん、かちゃん……かたんかたん。

 

僕の首がいきなり傾いて――しぶしぶで持ち上げようとしていた茶碗がテーブルに転がり、もう片手に持っていた箸がテーブルの縁から床へ、落ちていく。

 

「………………………………」

 

まるで、糸の切れた操り人形のよう。

 

それが――かつての、僕だったらしい。

 

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