【2巻発売中】TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。~ヘッドショットロリがダンジョンの秘密に迫る配信~ 作:あずももも
『……ああ、また……ごめんね、春海……』
慌ててテレビを消しながら……だらしのない僕をじとっと見ていた母さんが一転、急に泣きそうな顔になってイスから立ち上がる。
「……母さん」
ぽつり。
こぼれた声は、ここ2年くらいですっかりに慣れた幼い声。
幼い、女の子の声。
――――肉体的には母さんの子供じゃなくなったらしい、僕の声。
そうだ。
僕は、「かつての母さんと僕」を、今の体で――居間に立って見ているんだ。
『ごめんね、ごめんね……「ダンジョン関係」のこと、また聞かせちゃって……気をつけてたのにね。やっぱりもう、テレビは録画かインターネットのじゃないとだめなんだね……ニュースは避けてるのにねぇ……』
……ぎゅっ。
起きているようでいて寝ていて、寝ているようで起きていて。
目は開いているしちゃんと背を伸ばして座っていて――なのに目は半開きのままなんにも考えていなくって、両腕は箸と茶碗を落としたままテーブルに乗っけている僕は、テーブルを回ってきた母さんに……静かに抱きしめられている。
『分かってる……分かってるよ……! 春海が……春海が「あの日」、「女神様」に助けられたとは言っても、「あのときのこと」を思い出そうとすると、そうなるってぇ……!』
「………………………………」
母さんが、泣いている。
普段は勝ち気で、父さんや僕と口喧嘩になると頑固として断固として自己主張を曲げなくって、自分が間違ってても最後には口論で納得させてくる、母さんが。
映画とかドラマの泣けるシーンでしか泣いたことのない母さんが、泣いている。
「………………………………」
……肩をふるわせながら、僕を抱きしめながら――泣いている。
けども。
知らない。
僕は、知らない。
こんな母さんを、知らない。
――――いや。
「……ここは、過去」
僕は、長すぎる金色の髪の毛を振りながら室内を見渡す。
――僕が家を出る前に買い替えたはずの古い電子レンジ、快適な一人暮らしから文句を言われてしぶしぶ帰ったときに『ああ、もう仕舞ったよ。だってあんた、年に何度も帰らないじゃない』ってしまい込まれたはずの、制服とかコートを掛けていた――そしてこの瞬間にはやっぱり制服が掛かっている、僕のハンガーラック。
それらが、ある。
まだ、ある。
「……大学に入るまでの、僕の普段の……」
日常――――――だったはずの、一場面。
僕の、知らない日常。
『こんな生活を……』
僕の肩にすがり付いてた母さんが、顔を上げている。
――その真正面に居るはずの、小さくなった僕を素通りして。
『あと、何年も……っ!』
……そんな泣き顔、見ているだけで胸が痛くなるのに。
『「中学のときのあんたが――春海が【死んだ】あのときに、女神様が」』
………………………………。
意識が、飛んでいた気がする。
『……分かってる。分かってるよ。春海がこうして生きているのは、奇跡だって。どんな神さま仏さまに願っても叶いっこない……初詣やお盆で祈っても叶いっこない、とんでもない幸運だって。あの日から「居なくなった」たくさんの人たちの1人だったはずなんだって!』
母さんが、叫んでいる。
なのに――耳元で泣きながら話す母さんが居るのに、僕はただただ真正面を見ている。
光のない瞳を開いて――「ただ、呼吸をしている」だけだ。
『でも……! 普通に生きていて、ダンジョン関係の全部の情報を遮断するなんて……いくらなんでも、無理なんだよ……!』
「……ダンジョン関係の、情報」
そういえば、僕は。
「社会人をしばらくやるまで、ダンジョンのことを『何かの流行りのゲームの話』だって、ずっと思い込んでいた」。
『学校でも、相当迷惑をかけてるし心配させてるんだよね……みんな、優しいよね、はるみぃ……っ』
◇
『………………………………』
『……せんせー、征矢君が』
『あー……ごめん、みんな。言葉には気をつけていたつもりだったんだがな……先月から「無かった」から、口が滑った。すまないな、みんな』
突然に世界が変わったらしい。
「……これは……中学の……?」
ぽつり。
そうこぼす僕は、やっぱりひとりぼっちだ。
見慣れたはずの――忘れたはずの、中学……3年生かな――教室の、何度目かの席替えで座ってる、教室の中央の僕の席の真横に立っていて。
学生服の中学生たちと教師しか居ない空間に、長い金髪な上に白い布を巻きつけた格好の僕が居るのに、誰も僕のことを見ていない。
当然か。
だってここは、僕が知らない過去の一場面なんだから。
『大丈夫です、先生。私も、去年のでPTSDですけど……最近は、だいぶ』
『俺もです。けど、征矢は……春海は』
急に中断した授業。
その教室で、真っ先に駆けつけてきた生徒たちが――ああ、見覚えはある……けど、名前はぼんやりとしている――僕の肩に手を置いて、教師へ言う。
『――どのクラスも、だいたいこんなもんなのに』
『学校によっては「通常教室」と「自宅学習」に別れてるのにね』
彼らが見渡した教室は、
「………………………………ああ、そうだったね」
――――――「半分」が、空席だった。