【2巻発売中】TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。~ヘッドショットロリがダンジョンの秘密に迫る配信~ 作:あずももも
僕を引っ張ってきた以上、ここに居るはずなのに居ないノーネームさん。
あの子はなぜか、子犬とか子猫とかみたいに僕に懐いているからほっといてもそのうち戻ってくるからいいとして……頭下げてくる人たちの間をずっと歩くのはなぁ。
「この神魔共同全種族連合解放軍銀河系合同作戦司令部直轄地球宇宙軍極秘特殊作戦部隊旗艦第7世代型恒星間航行機関搭載改良型時空跳躍魔法搭載試作船・ハワイは巨大だからまだまだ歩くけど……転移魔法でひとっ飛びする?」
キャシーさん、よくひと息で言えるね。
僕、途中で噛んだり息継ぎするのかなって、毎回息を止めて聞いちゃうよ。
「どのくらいです?」
「んー……あと1時間くらいは歩くかなぁ」
こんな中を、1時間。
廊下の果てまで並んでいるんだから、やっぱり。
「じゃあ転移で――」
「あ、でも」
キャシーさんが、前を指さす。
――その先に、それこそ無数に並んでいる列を。
「みんな、ハル様にひと目会いたいって、1ヶ月前からそわそわしてたんだけど」
「えっ」
なんで?
「そのために、この数年間……訓練の中でこの権利を勝ち取るために熾烈なバトルを繰り広げてきたんだけど」
なんで?
「ハル様がやだって言ったら転移で移動するって伝えてはあるけど」
「「「………………………………」」」
廊下の、はるか先を眺めてみる。
……すっごくたくさんの人が、ちらちらとこっちを見ている。
「どうする? ハル様がやだって言えば、みんな、納得はするわよ? すごくがっかりするだろうけど」
………………………………。
……こういうの、僕、苦手なんだけどなぁ……。
「……羽で飛ぶだけなら」
通り過ぎるわけじゃないけども呪いの呪文とか掛けられるわけじゃない、そんな絶妙な速度でなら、まぁ……。
「さすがはハル様ね! そう言うと思ってたわ!」
そう声を上げた彼女が腕を上げると――あっ。
「……イスさん?」
「あの『神器』を一部再現した移動用ポッドよ! こういう広い場所だと、みんなこれに頼りっきりね!」
ふよふよと浮遊する、丸い車椅子みたいなやつ。
それが、僕たちの前に浮いている。
……かっこいい。
「僕、そっちでも――――――――」
「さぁ! ちょっとだけ速度上げて行くわよ!」
「………………………………」
……それ、かっこいいから乗ってみたかったのに。
なんで僕、羽なんか生やしてるんだろ。
生やしたくて生やしたわけじゃないのに。
………………………………。
あれ?
「?」
何かの違和感を覚えて振り返るも――そこには、僕の呼吸に合わせて揺れる、静かな白い羽が揺らめいているだけだった。
◇
「この先が、神魔共同全種族連合解放軍銀河系合同作戦司令部直轄地球宇宙軍極秘特殊作戦部隊旗艦第7世代型恒星間航行機関搭載改良型時空跳躍魔法搭載試作船・ハワイの司令室よ!」
「そうですか」
そろそろ飽きてきた呪文を楽しそうに唱えるキャシーさんの後ろをぱたぱたと飛んできた僕は、ようやくに……こっちへ頭を下げて僕たちが通るたびに念じたりすすり泣いたり気絶したりする人たちの長い列を終えた。
………………………………。
長かったんだ。
とっても。
ああいうの、もう当分は要らない……僕は部屋の隅っこで誰にも気にされずに石ころのふりをしているのが好きなんだ、るるさんたちみたいなダンジョンアイドルさんたちみたいに、みんなから注目されるのは苦手なんだ。
長い長い廊下――中をトラックとかでも余裕で通れそうなくらいには広くって、何度か上下左右に、これまたトラックも積み込めそうなエレベーターで移動したりした、その先。
雰囲気が明らかに変わった先の扉が、静かに開く。
「――――――おや。ずいぶん掛かったね」
その先の部屋から、誰かの声。
「ハル様は結局、希望者の前を歩いてくださいましたので」
「さすがは配信者をしている女神。ファンサービスも充実しているんだね」
それに対するキャシーさんの声は、凜としている。
甘えんぼな感じの声音から、落ち着いた女性のそれへ。
こういう使い分けができるのは、やっぱり大人になったなぁって地味に嬉しいポイントだね。
けど……ファンサービス?
さっきの、ファンサービスだったの?
……アイドル扱いにしては、ずいぶんと、こう……感情が重かったような……?
そんなことを思いながら、ふよふよとキャシーさんに続いて入った空間は――もうおなじみになっている、転移魔法とかイスさんに乗ってるときに見える薄暗いトンネルの中……それを全面展望の、まさに作戦司令室的な場所。
広い。
単純に、広い。
あと、かっこいい。
SFチックな風景って、良いよね。
「改めて、始原の女神。遠路はるばるの来訪、感謝する。……この作戦は、君『たち』の力が大前提だ」
僕たちの真ん前に立って話しかけてきたのは……どこかで見た覚えがあるし聞いた覚えのある声だし、特徴的な話し方の女の子だった。
ちょっと前の――そうだ。
でっかいおじゃるさんの鼻面へでっかい大砲を撃ち込んだ、あのときにも会ったような。
……つまり、ここは――あのときと、同じく。
「魔王、オ・ジャール――最大勢力の反乱軍を叩くための作戦。これは、女神ハル……『始原』である君にしかできないものだそうだからね」
「? ……ああ、おじゃるさんですか」
ちょっと戸惑ったけども……やっぱり翻訳魔法は万能じゃないらしい。
「おじゃる」さんが「オ・ジャール」とか……あ、でも、こっちの方がかっこいいかもね。