【2巻発売中】TSしたから隠れてダンジョンに潜ってた僕がアイドルたちに身バレして有名配信者になる話。~ヘッドショットロリがダンジョンの秘密に迫る配信~ 作:あずももも
「――魔王オ・ジャールは、彼女の勢力で発生した内乱に勝たなければならない。それも可能な限りに早く、かつ、以後の反乱を生まないよう徹底的に。でなければ広大な世界は無数の勢力に分割され、戦禍はいつまでも続くだろう。……善悪を置けば、彼女の勢力が最大勢力として君臨していたたおかげで魔族側の領域は安定していたから、その混乱は彼女の集団以外にも波及してしまうんだ」
この広い空間に対して、すごく小さな声。
話す内容に対して、すごくゆっくりな声。
けれどもそれは真っ直ぐに、僕の耳に入ってくる。
「魔族が……しかもその最大勢力のトップが、元から崇拝していた対象の神族や他の被造物はともかく、数だけは多いゆえに見下していた人間すら対等に認め、全ての勢力に対して停戦を宣言した。この千載一遇の流れは――止めては、ならなかった」
「え? あ、はい、そうですね。元々おじゃるさんの魔王軍、いちばん強くて偉いはずのおじゃるさんを無視してめちゃくちゃやってたらしいですし。おじゃるさんも、その人たちを止めたいって」
「……魔族や魔物の生態からして、魔力と体力で劣っている種族を狩るのは本能。暴走したゆえの本能から見れば仕方のないことではある。――けれど、彼女は彼女の意思で、それを止めようとし……大多数の仲間だった者たちを敵に回した。あのままでは、いくら最強の生物とはいえ彼女の求心力は衰えていっただろう」
この前もそうだったけども、今回も大きな船に乗っている銀髪の子――この前は僕と同じく幼い感じだったけど今回はもうちょっと背も伸びて大人びてるのはなんでなんだろう――は、難しい言い回しをする。
何回聞いても「おじゃる」が「オ・ジャール」ってなってるし、やっぱ翻訳魔法も万能じゃないってことなんだろうけども。
「あ、でも」
それでも僕は、はっきりと言っとかないといけないんだ。
「この前はおじゃるさんが悪い――少なくとも僕たち人間基準では――でしたけど、今回は仲間なので、おじゃるさんをまたひっぱたくのはちょっと……」
「?」
少しだけ眠たげな目を開いて首をかしげると同時に、リリさんみたいに紅い瞳が銀の前髪の中で揺らぐ。
「……ああ、そうか。別の僕のことか。だが、人間とは……いや、そうか。僕と同じなら……うん、種族も。うん、そっちとは会ったことがあるかもね。僕たちは個体差があるけども、だいたいどの世界でもやってることは同じだから」
「?」
今度は僕の首が傾く。
前髪をさらりと流れる金髪。
なんだか噛み合っているようでいて噛み合っていない会話。
けれど、なんだか落ち着く会話。
「僕は君と似たようなものなんだ。だから、理解したよ」
「そうなんですか?」
「そうなんだ。……まぁ生き別れの双子とか、そういうものだと思ってくれ。一卵性双生児は遺伝的に思考も嗜好も似通っていて、全く別の世界で生まれ育ってもやることはだいたい同じだと聞いたことはあるだろう?」
「そういえばそうですね」
つまりは双子さんってことか。
それ以外のことは、最初の会話からなんにも分かってないけども。
それにしても、双子。
ノームさんとノーネームさん、アル姉さんと……僕は、結局なんなんだろうね。
「で、だ。僕たちの目的は、魔王オ・ジャールを援護することにある。そのために、君が喚ばれた」
よかった。
今度はなんにも悪くないおじゃるさんを、前みたいにすっごく大きい大砲でひっぱたくことにならなくって。
………………………………。
……理由もなしに僕からひっぱたかれたら……おじゃるさん、トラウマになりそうだし……おじゃるさんが傷ついた顔で泣いてたら、さすがの僕でも心がじくじく痛みそうだし。
「では、始原の神よ。こちらだ」
「あ、はい」
かっこいい宇宙船の司令室みたいなところに居た彼女が腕で指す方向に歩いていく。
「………………………………」
広い空間。
ここが船の1番前――船首とかなのかは分からないけども、部屋の正面に向かって見上げる方向から流れてくる暗い雲が、僕たちを包むように後ろへ流れていく。
……イスさんに乗って飛んでたときよりも、もっともっと太くて長い雲の渦。
この先は、どこに向かってるんだろう。
「?」
全然身じろぎすらしないし、そもそも視線を感じなかったから意識していなかった姿が、僕の視界に入る。
――ここの人たちが身につけているような色素の薄い服装を、もっとこう……シンプルにして、スーツみたいな硬めの素材とかっちりとしたシルエットにして、さらに頭からすっぽりと文字っぽいものが描かれている白い布の帽子を被って、顔まで覆われている人たち。
そんな人たちが、何十人も僕たちを囲んでいる。
……人が多すぎるから索敵スキルは切っているし、そもそもとして敵意とかは一切ないから気づかなかったのかは分からないけども、僕はちょっとだけびっくりした。
服装のせいで背丈と――すごい筋肉質とかすごい背の高さとか、その逆とか、えみさんみたいな体つきの人が居るなってくらいしか分からない。
髪の毛すら隠れていて、誰が誰やら……なんだかすごい格好だね。
「あの人たちは?」
「祈りを捧げる者だね」
「祈り?」
その人たちは何をするでもなく、ただ壁際に立って――背丈も性別も様々だ――長い袖を合わせている。
あれが、お祈り。
……あー、必勝祈願とかかな。
うん。
たとえ非科学的だったとしても、大切なことの前には祈りたくなるよね。
まぁ実際には魔力を持たない僕たち人間でも微弱ながら世界のシステム的なものにアクセスできるから、実は科学がぜんぜん追いついてないだけであれも立派な魔法でも――――――
「………………………………?」
また、知らないことを知っている。
しかも、何冊の本で何度も読んだように、前提の知識として知っている。
それについて――僕は、首をひねりひねり不思議がった。