あの後、依頼失敗の報告のためベイラムに戦闘記録を提供したところ本来の報酬の数倍の金を受け取ることとなった
どうやらシースパイダーとの戦闘データがかなり貴重でありRaDの戦力偵察よりもよほど価値があるためとのこと。
それからしばらくすると海越えを果たしたレイヴンの噂を聞き、企業や傭兵たちも続々と海を越え中央氷原に乗り込む
海越えに手を貸した傭兵としてその実力を買われた俺もその部隊の一つに混じり、海を越えオールマインドにより提供された現地の共有ドックに身を置いていた。
海越えを果たした企業や傭兵たちだが彼らにも生活の拠点は必要だった。
そこで、アーキバスとベイラム二つの企業が共同で廃墟となっていた中央氷原の街の一つを整備し、傭兵や企業の人間たちのためのちょっとした繁華街ができていた。
ベイラムとRaDからの報酬もあり、懐が温かかった俺は街へ息抜きに赴いていたのだが...
「そこのおにーさん、傭兵さんだろう?よかったらアタシの今夜を買わない?」
「ッスゥー...や。間に合ってますんで...」
こ の ざ ま である
童貞ヘタレ陰キャ野郎が異世界に来たからって急に変われるわけがないだろ
職場の同僚ともまともに会話できなかった俺があんな扇情的で綺麗なお姉さんと目を合わせてまともに話せるわけもなく、目をそらしそくささと逃げる
酒、コーラル製のドラッグ、女、快楽を満たすための全てがこの町にはあったがアニ〇イトもメ〇ンブックスも(あるわけが)ない
俺みたいなやつとはとことん相性が悪いようだ、ノリが前世の歌舞伎町みたいなもんだしな...。
...なんというかこの三つは人類の技術がどれだけ進歩しようとなくならない業のようなものなのかもしれない。
もうヤダおうちかえるぅ...
...ドン!
逃げることに意識が向きすぎて前を見ていなかった。
背の高い男性にぶつかってしまった
振り返ったその男は顔に大きな傷のある強面の老人だった
「す、すすすすみません!!命だけは...!」
「...!ああ、いや、問題ない。君は確か...」
よく見ると車椅子を押しているのがわかる、この町では珍しい。
それにしても渋い良い声だ、聴いていて安心するというか、聞き覚えがあるというか...
「あ、じ、自分はナガラ...いやクロウって言います、一応傭兵の端くれをやらせてもらってます...」
「そうか、君が...これも巡りあわせか」
男が車椅子ごとこちらへ向き直る
車椅子には病院服を身にまとった白いロングヘアーの少女が座っており、虚ろな瞳でジッとこちらを見つめていた
幼いが整った顔だち、しかし腕や頭部には真っ白な包帯が巻かれていた。
彼女の乗る車椅子からコードが伸びており後頭部と直接つながっている、恐らく一人の時は車椅子を思考で動かすのだろう
見ているだけでも痛々しいその姿に思わず顔をしかめる
少女は無表情のままこちらに手を伸ばし俺の服の裾を掴んだ
「えっと...?」
「どうやら君を気に入ったらしいな、第四世代型が好き嫌いといった感情を表に出すのはとても珍しい...」
...この子が俺を?なぜ???
というか第四世代型って強化人間のってことだよな?まさか...
「俺はハンドラー・ウォルター...独立傭兵クロウ、少し付き合ってもらおうか」
「ええええええっ!?」
やっぱりウォルターさんじゃねえか!!!
てことはこの娘レイヴンかよ!?
───────────────────────
それから俺とウォルターとレイヴンの三人は街の裏路地にある隠れたバーに来ていた
俺を真ん中にカウンター席に左にウォルター、右にレイヴンといった配置で座る
レイヴン、何故ウォルターではなく俺の隣に...?
「...君は飲める口かね?」
「ま、まあ、仕事に差し障らない程度なら...」
「無法者の多い独立傭兵らしからぬ答えだな。だが嫌いではない」
その後ウォルターのおすすめという謎の黄緑色のカクテルに口をつける。
...あ、美味しい。
あまりきつ過ぎないさわやかなミントの香りとチョコの優しい甘さが広がる、見た目とは裏腹にとても飲みやすい
...ちなみにレイヴンは大きなジョッキに注がれたジュースを両手で持ちコクコクと飲んでいた
「まずは礼を言わねばならん、海越えの際に621...レイヴンに手を貸してくれたと聞いた」
「い、いやあ、あれはその場の流れといいますか...流石にあの状況で一人残して逃げ出すのもなと思いまして...」
本当は腹いせで一発ぶんなぐってやろうとしていたなんて言えない...!
「レイヴンも君を高く評価しているようだ、なんでも君と戦えば勝てるヴィジョンが浮かばない、とな」
「か、買い被りですって!壁越えに海越えまで成し遂げた話題の傭兵とランク圏外の俺を比べるなんてそんな...」
クイッ
いつの間にかジュースを飲み干していたレイヴンに袖を引かれる
結構量あったよね!?もう飲み干したのか...
レイヴンが少し手を動かすと空中に端末が投影され文字が表示される
恐らく思考を直接文字に起こせるのだろう
[シースパイダー型と戦っているときクロウは一度も直撃を受けなかった、まるで敵の動きが全部わかっているみたいに]
「ほう...」
ば、バレてる...!
確かにあれの動きは何度も戦ったおかげですべて頭の中に入っている、慣れれば硬いだけの大したことはない敵だ、死にたくもないしつい調子に乗って全部避けてしまっていたが...
「や!あの!あれは偶然、たまたま上手くいっただけでして...」
「...君が実力を隠したいというのならそれでもかまわない、だが私たちとしては君は敵に回したとき企業以上の脅威となりうる存在だと考えている」
ウォルターはスーツの懐に手を突っ込み何かを取り出そうとする
「ま、まさか銃!?俺を殺すためにここに...!?」
「...ふっ、そんな足がつく真似はしない。もしやるなら...そうだな、最初に飲んだカクテルに遅効性の毒でも混ぜているさ」
は、鼻で笑われた...
ウォルターは懐から旧世代型の端末を取り出し何かを入力する
彼の手が止まると同時に俺の端末に新着メッセージが届いた
「私の連絡先だ、君はどの企業にも属さない独立傭兵、いずれ依頼を出すこともあるだろう」
「そ、それは...まあ、報酬と条件次第ということで...」
まさかオーバーシアーの計画に俺を巻き込むつもりか...?
いや、まさかな、精々621のための囮や露払いが関の山だろう
「安心しろ、断っても暗殺するような真似はしないと約束しよう、可能な限り好条件も提示させてもらう」
「そ、そうですか...ハハハ」
...しかし、どうするべきだろう。
彼らにがっつり協力した場合、俺とレイヴンは世界の敵にして世紀の虐殺者となるだろう
無論何も知らず敵として焼かれるよりは生存の可能性があるだろうが...
「...今日はここまでとしよう、レイヴンも限界のようだ」
レイヴンのほうを見ると瞼を閉じうつらうつらと船をこぎ始めている
こんな幼い子にこの星の命運がかかっているなんて...
この星が企業や組織の手によって滅びのカウントダウンが進められているのは間違いない
現状維持における頼みの綱の惑星封鎖機構もオールマインドの手の中
解放戦線に手を貸したとてその後の保証はどこにもない。
もしその時が来てしまったら俺は...どうすれば...
ふと気が付くとウォルターとレイヴンは居なくなっていた。
さりげなく支払いを済ませ、俺の分まで払ってくれていたのはさすがあのイケオジ、イメージ通りというかなんというか...
「選択か...」
俺も店を後にし、帰路に着くのだった
───────────────────────
"...彼が、クロウ...レイヴン、彼はあなたの..."
うちのレイヴンは喋れないし歩けないし感情希薄だけど体動くし飲み食いはできるからよそのレイヴンちゃんより軽傷かもしれない、もっとガッツリなんも出来ない方が良かったかな?と思わなくもないけど…みんなはどんなレイヴンちゃんが好きかな?
あと、これも立派な集団幻覚だからな?