魔法科高校の超天才清楚系病弱美少女ハッカー   作:さこここ

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この流れで主人公は入学……出来るよね?出来ると言って。


入学Ⅰ

 真夜を救出した後、私は明星宮へ移動した。理由は真夜の保護と四葉への交渉材料とするためだ。本来の流れでいけば真夜は拉致・強姦によって生殖能力を無くしてしまうハズだった。四葉家当主が主体となり崑崙方院へ報復を行う。そうして積もり積もった恨みから司波達也という世界にとってイレギュラーとも言える存在が誕生してしまう訳だ。

 だが私の介入によってその歴史は覆された。激怒した四葉が崑崙方院を壊滅させる未来は変わらないが真夜と深夜の心のため、そして私の今後の計画のためにも一族の命懸けで行う復讐を思いとどまらせる必要がある。それには真夜の身柄が必要だったのだ。それに私の巫女になってくれるとしっかり言質も取ったんだしさてお仕事お仕事。

 

 実は、私は葉山との面識がある。元老院のエージェントとして四葉家に赴く人間の選定を行う際、その最終決定権は四大老が持っているのだが人員の推薦に関しての取り決めはなかった。そのため当時は元老院の連絡員として魔法協会、国防軍との意思疎通を取りまとめていた実力のある葉山を推薦。明星宮からの推薦のため、道理を持たない元老院のメンバーに断れる訳もなくこうして葉山は史実通り四葉家へ派遣される事が決まったのだった。

 そこで葉山を内々に明星宮に招き、私との面通しを行ったという訳だ。当時はまだ30代にさしかかった頃だったが、それでも動揺を表情に出さない胆力には感心させられるばかりだった。元老院へ定期報告に訪れる葉山は、その足で明星宮までやってきてくれることがある。そこで紫と静と一緒に美味しいコーヒーの入れ方とかを研究している。収穫時期に被れば私が霧乃神社で育てている超貴重コーヒー豆を葉山に融通したりもする。なんせ霧乃神社に派遣している巫女がコーヒー好きという事で餞別にあげたつもりがいつの間にか日本に古くからある、という事になっていたしコーヒー文化の火付け役のような豆だからだ。神社の一角を使って生産しているだけの量しか穫れないため値段もとんでもなく高い。ちなみにコーヒー大好きな石川啄木にあげたら狂喜していて少し怖かったのを覚えている。

 

 

 

 少し話が脱線したけど、葉山が元老院から与えられている役目は十師族の中でも精神干渉魔法を研究している四葉の監視である。これは私が四大老がコソコソ密談していたのを確認しているから間違いない。権力にすがりつく老人にとってみれば保身が第一で、自身の権力を侵しかねない存在として台頭してきた現代魔法を有する強力な魔法師一族の存在が邪魔に映る。であれば元老院に目を向けられないような状態を維持してやれば良い、つまり十師族で十師族を監視させてやれば良いと考えるのは自然な流れ。つまり葉山という存在は四葉家につけられた首輪の鈴、という事だ。

 

 元老院は以前より四葉家に生まれた真夜と深夜の魔法的資質の内容を知りたがっていた。これは自身の脅威になるかを測りたかったのだ。葉山にしてみれば元老院からの命令を拒否することは出来ず、生まれたばかりの赤子に対して、他人の持っている固有魔法や魔法資質を探る事が出来る四葉英作に調査を依頼。結果、両名から高い精神干渉系魔法の適性が確認されたため、元老院は一計を用いる事を決めた。これが今回の【少年少女魔法師交流会】に乗じた四葉真夜の拉致・強姦に踏み切った内幕であった。

 

 

 

「──―護衛の連絡はどうなっている!!」

「大亜連合の手引きではないのか!?」

「七草の長男も深手を負ったと聞いているぞ!」

 

(あらら……大騒ぎ、ですね)

 

 当時と状況は違うけど、なんだか私が初めて地球に降り立った時を思い出してしまう。さて、これ以上会議をヒートアップさせる訳にもいかないしいざ、四葉本家へ突撃しましょう(ヤケクソ)。ただし、いきなり室内に移動したせいで大騒ぎになりかけた前回の反省を踏まえて今回は玄関へ移動することにした。あの後晴明とか一条天皇に「そなたはもう少し常識というのを学ぶべきだと思う」的なことをチクチクと言われたんだよね。

 

 

 

(うむむ……困りましたね。インターホンはどこでしょう?)

 

 秘匿されている四葉本家に、不意の来客を想定したインターホンなどの設備がある訳もなく瞬間移動で──『ヒマリ様、駄目ですよ?』──ムムム。早くも面倒くさくなった私がいざ瞬間移動しようとした途端、半透明になった安倍晴明の姿が脳裏に浮かんだから止めておきましょう。うーん、素直に『ごめんくださーい』しましょうか。

 

「ごめんくださーい」

 

 ……

 

 ……

 

 …………

 

 …………

 

 うーん、反応がない。おかしいな。ちゃんと家中に響き渡るようにご挨拶したはずなんだけど。もう少し声を大きくしてみようか。

 

 

「ごめんくださ────ーケホッ」

 

 

 大声出しすぎて喉が少し痛くなってしまった。今回は魔法も使ったし、言い争いをしている彼らも私の事を気付いてくれるでしょう。そうして待つこと数分。どうやら葉山が私の事に気付いてくれたようで、玄関をガラリと開けて顔を見せてくれた。少し老けただろうか? それとも立派になったと褒めるべきか。

 

「お久しぶりにございます、ヒマリ様」

「ふふっ、お久しぶりです葉山さん。ビックリしましたか?」

「相変わらずお茶目なところは変わりませんな」

「そうでしょう、ええ、そうでしょう!」

 

 久しぶり、といっても葉山が派遣されてから10年と少ししか経過していない。さすがの葉山の顔にも疲労と焦燥の色が隠しきれていない。葉山自身、今回の騒動の原因には何となく見当がついているはず。義憤と悔恨の情が見えているのも自身の持つ親愛の情が真夜にも向けられている事を自覚した故の結果だろう。葉山にも子はいるだろうし、赤子の頃から面倒を見ていた真夜への情が芽生えてしまうのは仕方のない事だ。まあ今は葉山の内面の話は置いておく。

 

「して、ヒマリ様がこちらに来訪なされたのには四葉家に降りかかっている(わざわい)と関係がありますかな?」

「それ以外に何があると言うので──―」

「葉山!! 貴様会議を放り何をしておる……何者か!?」

 

 玄関で葉山とやり取りをしていると、恐らく四葉家の分家当主であろう男がツバを飛ばしながら近づいて来た。そうして私の姿を確認すると、躊躇なく魔法を放ってきた。やはりピリピリしてますね。この喧嘩っ早い彼は椎葉家の当主か……。リストバンド型のCADを操作して魔法式が展開される。

 ふむ、私に向けられたのはドライアイスの弾丸か。しかも殺傷性が抑えてある事から中途半端な魔法であると言わざるを得ない。自身が敵であると判断したのならば、それこそ必殺のつもりで魔法を放たねば殺されるのは自身になるというのに、放たれたのは私を女性と侮ったのか殺傷性ランクを抑えられた魔法。突然の状況に動揺しているのかもしれないが、「魔法師は事象をあるがままに、冷静に、論理的に認識できなければならない」という言葉はなかなか重みのある薀蓄だと感じてしまった。

 

「障壁展開」

 

 この程度の威力であれば【クラインフィールド】を使うまでもない。懐に忍ばせていた短銃型の引き金を引くと、私の目の前に押し出されるように情報強化された空気の壁が出来上がる。そこに無数のドライアイスの粒が当たっては砕け、当たっては砕けていく。それは彼が魔法の発射地点を変えても同じこと。所詮直線的な魔法しか撃って来ていないので私を中心に半円状に障壁を展開してしまえば何の問題もない。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことだし、私も行動に移りますか。未だに魔法で攻撃を続ける彼を気絶させようかと思ったところで攻撃が止んだ。どうやら葉山が攻撃を止めるよう説明してくれたのかもしれない。ナイス葉山。

 

「お待ちください、あの方は敵ではございません!」

「何っ!? 葉山、貴様何のつもりだ!」

「元老院の関係者を害しては四葉の今後に関わってしまいます!!」

「……元老院だとっ!?」

 

 葉山が椎葉家当主の視線を塞ぐように前に立ったことで攻撃の手がピタリと止まる。いくら頭に血が上っていても『元老院』の単語で冷静になれるだけの理性を残していたらしい。私自身は椎葉にもましてや四葉にも含むところはない。だが元老院は別だ。彼らは疑心暗鬼と権力に固執するあまり、十師族を強く警戒しており中でも四葉を敵視する一歩手前まで来ている。シナリオ通りに事態が推移すれば四葉家は、分家も合わせて合計で30人近い戦闘魔法師を失う事になる。ならばその戦力、明星宮が役に立てようではないか、という事で四葉家には不利な形で私との交渉に臨んでもらう必要がある。

 

「ふふっ、椎葉家当主殿。どうされましたか? 顔色が悪いですよ?」

「…………ヒィッ」

 

 鏡を見なくても分かる。私は今最高に悪い顔をしている。ニヤァ……ではなくニチャァ……って感じの笑顔だ。葉山の腰が引けているのが少しショックだが、コラテラルダメージと割り切ろう。

 

「先ほどの魔法は……」

「おい、椎葉の! 一体どうした!」

「何事か!」

 

 そうこうしているうちに先ほどの魔法は一体何事か、と血気盛んな四葉家の人間が集まってくる。ふむ、やはりこれだけの戦力を失うのは日本にとって痛手としか言えない。元老院がいかに妄執に取りつかれ、現実が見えていない組織かが分かるだろう。私が四葉の人間を品定めしていると、私達を囲んでいた人垣が割れ、一人の男が歩いてくる。葉山から状況の説明があったのだろう、険しい顔をしている。

 

 彼が十師族の中でも最強と名高い四葉家現当主、四葉元造、か。確かに風格を感じる。彼は私が見て来た中でも上位に位置する強者であることは間違いない。身体から滲みでるオーラと表現したら良いのか、存在の密度が違うのだ。これは情報次元における格の強さが影響しているが、それにも増して強い心を有していると『境地』というヤツに至りやすい。精神は肉体を超越する状態といえば分かりやすいだろうか。精神は(肉体と共鳴し)肉体(の限界を突破し己)を超越する、というのが正しい表現だけど、今となってはこの考え方を伝承しているのは霧乃神社を始めとした京都の伝統ある名家くらいだ。これを他人の指南無しで身に付けているのは強者といって差し支えないだろう。

 

(やはりここで彼を殺す事こそが元老院の思惑でしょうね。そして彼もそれを承知で大漢の報復へ打って出るつもり、ですか)

 

「私が四葉家現当主、四葉元造と申す。血の気が盛んな分家の非礼を詫びよう」

 

 そういうと、四葉元造はゆっくりと頭を下げた。

 

「ええ、存じてますよ。私の名前は明星ヒマリ、明星宮の主です」

「ッ! そうですか。して明星様は如何様でこちらにお越しになったのでしょうか?」

「ええ、ええ。気になりますよね。もちろん、お話したいのは山々なのですが国家の重要機密に触れてしまう部分もあるのでそこに居る葉山と……あとは当主の皆さんだけを集めていただけますか?」

「ふざけるな!! 我らを何だと────グッッッ!!」

 

「貴方達が今、一番欲しいであろうとある女の子のお話を──」

 

 暴発しそうになった男に威圧を与えて黙らせる。恐らく彼は当主の補佐をしているのだろう。自らの主を守ろう、という気概は買うが喧嘩を売る相手を間違えてはならない。

 

 

「──知りたくないですか?」

 

 四葉元造は少し瞑目すると、すぐさま会議の準備を行うよう葉山を始めとした執事に告げた。つまり私の言葉に従うという事だ。こうなればさすがに逆らおうという気概のある人間はいない。少々力業がすぎたかもしれないが、こうして四葉家と明星宮の接触が行われた。

 

 

 

 少しして、洋風の部屋に通されるとそこには四葉元造、椎葉、津久葉、黒羽、静、武倉、新発田それに葉山が既に集まっていた。私が参加者を見まわし元造に了承の意味を込めて頷くと交渉が始まった。

 

「では明星様、要求をお聞きしましょう」

「ええ、単刀直入に言いますが四葉真夜ちゃんは明星宮の方で身柄を保護しています」

「何と!!」

「明星宮とは聞いたことがありませんが一体……」

 

 そう言うと、四葉元造の視線が鋭くなる。人質を取られている、と思って当然だろう。だがそれを追及せずひとまず自身の中でとどめたのは高評価。分家の当主の反応も喜ぶ者、訝しむ者の2つに分かれた。明星宮を知らないのも当然だが、それは置いておく。

 

 ですが、と私が続けたことによって注目が集まり、再び静寂が訪れる。

 

「貴方達には死んでいただかなければなりません」

「静かに……明星様、続きを」

 

 各当主の怒りが爆発しそうになったタイミングで元造が存在感を放つことで彼らの暴発を抑え込んだ。そして続きを促された私は、粛々と説明を始める。

 

「貴方達は今、妄執に取りつかれた元老院の老人共によって戦力を削られようとしています。元老院の存在は知っていますね? 彼らは自らの保身のため四葉を売りました。ですのでその時点で真夜ちゃんの拉致計画は確定していたのでしょう。そうして真夜ちゃんの救出と報復を行う際に四葉の戦力……つまり貴方達を殺す事、これが元老院の思い描くシナリオです」

 

 分家の当主も、四葉の置かれた現状を認識したのか怒りよりも困惑の感情が強いようだ。

 

「正しくは、死んだように見せかけていただかなければなりません」

 

 そういうと、ここに集った者たちは理解の表情を浮かべる。

 

「なるほど。我らに一芝居打てと、そうおっしゃっているのですな?」

「ええ、そうです。元老院を排除するのが一番簡単ではあるのですが曲がりなりにも彼らは古くから伝わる名家の者ばかりです。今は時期が悪い」

「我らは身を隠さなければならない、と言う事ですか」

「そこに関しては問題ありません、明星宮の管理している島に身を隠していただこうと思っています」

 

 こうして四葉家による崑崙方院襲撃・大漢への報復の準備は整っていく。そうして話す事は話したしお開きにしようと思っていたが最後に言い忘れていた爆弾を投下した。

 

「それと四葉真夜と七草の婚約を破棄していただきたい」

「は?」

 

 四葉元造はとてつもない親バカだった。何を言っているんだコイツは、と言いたげな表情をしており、そんな彼の反応はとても面白かった。今でも本人に会う時は必ずからかっている程には間抜けな顔であった。まあ私が婚約破棄を言い出さずとも、軽い男性恐怖症を発症した真夜を見た元造なら、真夜のために行動しそうではあったけど。

 

 結局、真夜を四葉家に戻した時に真夜自身が「私はヒマリ様の巫女になりますっ!」と元造に宣言したことで事態はおさまり、婚約は破棄され原作通り。まあ後継者の問題があってなかなか巫女に出来ていないのが心苦しい。早く達也と深雪が独り立ちして欲しい。それよりも深夜の方が沖縄の一件で死にかけた所為で巫女になっているのだから世の中分からないものである。

 

 大漢を滅ぼした18年後に深夜は司波龍郎と結婚。2079年に司波達也を出産、翌年の2080年には司波深雪を出産。結局、四葉に介入したは良いものの私は自身の知る未来のシナリオを確定させるため司波達也という命が誕生するのを見守る事しか出来なかったが、原作と比べると四葉の現状はかなり改善傾向にあるといってよいだろう。

 

 例の30人はというと硫黄島の地下にいるか、当時の私が作った四葉家の地下施設で生活している。そろそろ元老院の掃除が出来そうなので陽の光を浴びるのはもう少しだけ待っていて欲しい。

 

 ◇◇◇

 

 

 思えば久しぶりに筆を執った。もちろんそんな事をしなくとも、能力で四葉本家がある村へは直行出来る。ではなぜそれをしないのか。端的に言えば、私の身体が脆い、というところにある。神だから不老不死で最強無敵なのでは? と思うかもしれない。この認識は半分合っているけど半分間違っている。

 私は()()()としての格はこの世界において最上位に位置している。情報体としての格、というのは言い換えれば神としての能力や器の大きさ、信仰心によって決まるモノだと思ってもらえたら良い。だけどこれは情報次元における話であって、この格は現実世界には反映されない。どういう事か? 

 

 私が現実世界で過ごすための器はこの世界の法則に則っており、現実世界の影響を受けるという事である。つまるところ、達也の『分解』が発動されてしまえば私の器は塵になってしまうのである。もちろん私は自分自身に情報強化を掛けているので簡単に分解されたりはしないだろうけれど、そうなってしまう可能性がある。器が塵になったところで私が死ぬ、という事はない。私が死ぬ若しくは消滅するということは、この宇宙の滅亡を意味している。

 

 ただ、今の四葉本家には司波兄妹が滞在している。第一高校入学前の段階で、私の存在が彼に察知されるのは今後の事を考えて避けたいし私の正体を明かすとしてもそれはもっと後になってからだと考えている。故に司波兄妹が四葉との繋がりを隠しているように、私もまた私の素性を隠さねばならない。現状、私の正体を知っているのは天皇、皇后、宮内庁の各部門のトップ。これに加えて四葉元造と四葉真夜に四葉深夜、執事の葉山のみという事になる。元老院? 知らせる訳ないじゃないですか。

 

 一条天皇との出会いから私の噂が一般市民に一切流布しなかったかと言われると、そういう事はない。ただその記録の全てを火事に見せかけて消去させてもらったり、私の事を言いふらそうとした役人の席は次の日からは新しい人が座っている。私は私の管理する世界に、私に頼り切るような甘えた人間が溢れかえるのは許さない。電子上にも私に関する一切の記述は存在しておらず、戸籍などに関する書類は全て私達の根城である書陵部で管理している事からも、如何に私が私自身の存在を秘匿、隠蔽することに力を注いでいたかお分かりいただけるだろう。

 

 そんな私が偽名とはいえ魔法大学付属第一高校の一年生として電子上に痕跡を残す、というのは私の正体を知っている人からすれば有り得ない話。

 

「ふぅ、真夜に手紙も送りました。後は天皇に一言だけ伝えておきましょうか。深夜~?」

 

 まだまだ寒いのでコタツで暖を取りながら、私の使用人兼巫女である明星深夜(旧姓四葉深夜)を呼ぶ。

 すると同じくコタツに入ってくつろいでいた割烹着にエプロン姿が良く似合う16、7歳くらいの少女が居住まいを正す。

 

「はい、いかがしましたかヒマリ様?」

「宮内庁長官に伝言をお願いしたいのと、あと4月になったら真夜と葉山を呼んでお茶会をしたいから穂波と一緒に準備をお願いしますね」

 

 こうして明星ヒマリの第一高校入学宣言を端に発した騒動はまず明星宮から宮内庁へ飛び火。今上天皇とは小さい頃から色々と無茶苦茶をやっていたので、報告に赴いたヒマリをうらやましそうに眺めるだけだったが、ヒマリの事情を知っている職員は天皇の目の前で卒倒。平安時代から天皇の守護を担ってきた神がお散歩感覚で高校行ってきます、と言っているのだ。

 世界群発戦争は30年前、その後勃発した大越戦争が10数年前に終戦したものの世界情勢は未だに平和とは言えない混沌とした状況。特に十三使徒と呼ばれる国家公認戦略級魔法師が存在している中、皇居の守りの要であるヒマリの不在はいただけない。たとえ明星ヒマリの部下である(もり)に24時間365日身辺を守られているとはいえども、不測の事態が起きないとは限らない。

 

 本来は宮内庁内の会議が紛糾していたところで気にも留めなかったのだが、この騒動が元老院を始め十師族に嗅ぎ付けられる事を嫌ってヒマリが会議に介入。「じゃあ私の身体が明星宮にあれば問題ないのですね!?」と若干イラつきながら発言したところ、ヒマリの事情を知っている職員を始め、秘密裏に皇居の守りを担っている魔法師とヒマリの事を認識している職員も、心臓を直接掴まれたような威圧感に対して首を縦に振るしかなかったとか。

 

 2095年3月。

 

 会議の結果、ラジコンよろしく第一高校へ通うための身体を制作しなければならなくなった明星ヒマリはナノマテリアルとユニオンコアの技術を応用。あらゆる体内の組織をナノマテリアルによって作成し、その結果ヒマリそっくりのナノマテリアル人形が完成した。当然ヒマリはそれだけでは満足しなかった。司波達也が精霊の瞳(エレメンタルサイト)を使用可能な事から、万が一エイドスをスキャンされてしまった時に怪しまれる可能性を排除するため神様の能力を躊躇なく使用。こうして万が一精霊の瞳(エレメンタルサイト)やそれに準ずる瞳で観察されても違和感を与えない完璧なヒマリの身体が完成した。ちなみに車椅子に慣れすぎて今更歩きたくなかった怠惰なヒマリは自分の本体と同じく病弱な身体スペックとなっている、えっへん。

 

 ヒマリとしては司波達也を観察するために同じクラスになる方が都合が良かったため、ヒマリボディの魔法的資質はギリギリ二科生相当のラインへ落としてある。こうしてヒマリボディを使いこなし、万が一の可能性を考慮しつつ入学試験を全体の105位で突破。明星ヒマリは『霧乃ヒマリ』の名前で国立魔法大学付属第一高校へと合格を果たした。

 

 誤算だったのは内親王に私の事がバレてしまった事。皇室の人間は古くから陰陽道に親しみを持っていたため、陰陽道が廃れて久しい今でも少なからず陰陽術について知識を有している。私の友である安倍晴明の血が入っているからなのか、()()は古式魔法に対して高い適性を有して生まれて来た。幼少期から私の事を姉と慕ってくれていた可愛い娘だったため『お姉様、私も魔法を使ってみたいです!』なんて上目遣いで言われたら教えてしまうに決まっている。

 

 そうして私が魔法の先生として幼少期から彼女の指導を行った結果、育ってしまった。古式魔法はその秘匿性が故に魔法の習得には修行、という形を取る。起動式さえ判明すればコピー出来てしまう現代魔法と比べて、難解な古文書を読み解き自らの感覚で魔法を構築して修行を重ねた結果、初めて一人前の古式魔法師として術を行使することが出来る。いわばスマートな時代に即していない古臭い手法の連続なため、どうせすぐに飽きてしまうだろうと天皇も私も考えていた。

 だけど何を思ったのか知らないが、彼女は飽きる事なく修行を重ね小学生のうちに一人前の古式魔法師として成長してしまった。その後も(もり)のメンバーを相手に自己研鑽を重ね、皇室の中では一番の古式魔法師へとなってしまった……なっちゃったのである。最近では竜神の喚起に成功したらしく、もう手が付けられない状態となってしまっている。多分皇室の護衛よりも強い。同じく古式魔法が使える天皇も変な汗をかいていた。

 

 そんな彼女の名前は巳子(みこ)内親王殿下、という。私はミコちゃんと呼んでいる。国が研究している調整体の遺伝子は一切含まれていないのに魔法師らしい左右対称な身体をしているため、容姿は非常に整っている。頭脳明晰で他人を利用することに長けているが、その実かなりの甘えん坊で人の目がないと抱き着き癖が酷い。

 

 皇室の人間は古くから学習院へと進学するのだが、私と高校生活を共にできると知ってしまったためか学習院への進学を物凄く渋った。それはもう酷かった。結局、公務と高校の勉強が済んだ後の時間を使って魔法の指導をする事で何とか納得してくれたが、私も天皇も彼女の「お願い」に抵抗できない。まあ彼女も昔からお願いに関する見極めが異常に上手かったので無茶なお願いはしてこないのだが……。

 そして困っているのが、事あるごとに「九校戦が楽しみだね」とか「お姉様はもちろん首席合格だよね」だとか謎のプレッシャーを掛けられているところだ。私が二科生として入学するという事を知ったら一体どうなってしまうのだろうか。それに私の身体は脆いし素性を隠す意味でも九校戦には参加することはない。司波達也がエンジニアとして大活躍する(予定)ので私が参加しても悪目立ちはしないだろうけど、普通に常識的に考えてムリな話だ。魔工科が開設していればCADの技術スタッフとして九校戦に関わっても違和感はないんだろうけど、一年生の時点で達也みたいに爪をチラ見せしちゃうのは私的にはいただけない。

 

「今から既にミコちゃんの反応が怖いです……」

 

 私が達也のようにならないために一高生の前ではミコちゃんとの繋がりを見せつけてはならない。今回の九校戦は間違いなく天覧試合となる、絶対にだ。ミコちゃんにはよく言い含めておかなければならない。絶対に人の目のあるところで私に甘えるな、と。これを十師族、特に七草なんかに見られてしまえばいらない探りを入れられて、その結果七草を潰さなければいけなくなってしまう。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 2095年4月、国立魔法大学付属第一高校。明らかに第一高校の制服ではない物を身にまとった美しい少女が真っ白な車椅子で移動していた。何を隠そう明星ヒマリ改め霧乃ヒマリである。

 入学式の2、3時間前にもかかわらずヒマリが校内をうろついている理由はその服装と車椅子にある。国内では十三使徒の五輪澪も使っているパワーアシスト付きの車椅子の持ち込み申請、身体が不自由なため第一高校の制服の不着用の届け出をしなければならないのだ。そのため明星ヒマリはパワーアシストの車椅子を操作しながら一路、一高の職員室へと向かっていたのだった。

 

『ただいまより第一高校入学式のリハーサルを行います。関係者の方は講堂へ集合────』

 

 中条あずさのアナウンスが校舎に響く。どうやら今から入学式のリハーサルを行うらしい。特例としてIDカードの受け取りを終え、入学後の手続きを一足先に済ませてしまった。これだけ時間が余るならもう少し到着を遅くしても良かったと少し後悔。それに身体の事もあってか、辛いようであれば入学式を欠席しても良いとも言われてしまった。

 今時電子メールで済ませれば良いのに、と思いつつもペーパーの申請書を提出、先生方との挨拶を終えさあ一休み、と思ったところ校門の前で2人の少年少女が何やら言い争っていた。否、司波兄妹が言い争っていた。かの有名なシーンである……が公安職員の小野遥が居る手前、学校の敷地内でのあのやり取りはあまりにも迂闊。

 

 どうやら小野遥は司波兄妹を只者とは見ていないのか、距離を測りかねているようで接触を控えているのかその姿は周囲には見えない。が私からすれば発見は容易い。司波兄妹から見て200mほど離れた校舎の中。その位置から司波兄妹を探っているのは分かり切ったこと。であれば極小規模の古式魔法を用いて小野遥の認識を少しズラしてやれば監視は意味をなさない。

 

「納得できません! どうしてお兄様が補欠なのですか!? 入試の成績はお兄様がトップだったではありませんか! 本来であれば私ではなくお兄様が──―」

「深雪……」

「ここではペーパーテストより魔法実技が優先されるんだ。補欠とはいえよく一高に受かったものだと」

「そんな覇気のないことでどうしますか! 勉学も体術も、お兄様に勝てるものなどいないというのに……魔法だって本当なら──「深雪!」──ッ!!」

「それは口にしても、仕方のない事なんだ。分かっているだろう?」

「も、申し訳ございません……」

 

 原作において司波達也がカウンセリングの対象となった要因は深雪のこの発言にあると思っている。ただでさえ、入試の異常な成績で目を付けられているというのに力を隠しているかのような発言はその異常性を小野遥に認識させるのには十分過ぎた。

 

 こうして深雪が口にした第一のいわば『匂わせ』ワードを公安職員である小野遥に察知される事なくやり過ごす事が出来たのだった。これで司波兄妹、特に司波達也が小野遥に警戒されてカウンセリングに呼び出される事にはならない……と思いたいがどうなる事やら。

 

 この兄妹、傍から見ていると四葉との関係を秘匿する~と言っておきながらあまりにもボロが多い。これが妄想の小説の中の出来事であれば特に思う事はないのだが、実際にこう……目の前であんなにイチャイチャした上で、核心に迫ってしまうようなワードを口にされては私としてはたまったものではない。あの兄妹にはこの高校生活をなるべく無事に、平穏に送ってもらわねばならないのだ。それが地球滅亡もとい私の生活上もっとも重要な課題となる。一時期、対策に迷っていた時期は四葉家から二人を引き取ろうかとも考えていたのだが、真夜が強姦されなかったことで歴史が変わり四葉家の魔法師に対するスタンスは若干柔らかいものとなっている。

 

「ハァ……疲れたので帰りますか」

 

 精神的なダメージを負う筈がないのに、どっと疲労感を感じた私はさらなるトラブルに巻き込まれないため入学式を欠席することにしたのだった。目指せ、名もなきモブ生活。




わぁ、入学出来たぁ(涙目)
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