牙守の一族 作:わんころ
「待ちなさい、真司」
「嫌だ」
真紅の羽織を着た黒髪に左の一房だけが真っ白な特徴的な髪をした少年は、声を掛ける眼鏡をかけた男性の言葉に立ち止まる事無く引き戸の玄関口へと手をかけた。
「父さん達が何百年と守って来たものも分かるよ。でも!あんな気味の悪いモノをに祀ってる神社を継ぐなんて、僕は御免だ」
それだけ言って彼、
周囲を森に囲まれた小高い丘の頂上に建てられた神社。それが、真司の実家だ。
名前はそのまま、“来馬森神社”。歴史も古く、数百年とも千年とも言われる地域に根付いた古い古い神社である。
石鳥居の下を抜けて、長い石段を駆け下りながら真司は歯を食いしばっていた。
彼自身、単なる反抗期で跡継ぎの話を蹴った訳では無い。ただ昔から、この神社に祀られている物を見せられた時から彼はどうしようもない嫌悪感を抱く事になった。
石段を駆け下りた真司は足取りを緩めつつ小走りで近くの公園へと駆け込んでいく。
若干荒れた息のまま座り込むベンチ。彼の他に公園の利用者は居らず、閑散としていた。
補足をすると、真司は両親や神社自体を嫌っている訳では無い。寧ろ、好いているだろう。
だが、それら一切合切が祀られている存在に打ち消される。
「はぁ……」
背もたれに体を預けて、真司は空を見上げた。
(アレさえ無かったら……)
ご神体として祀られた代物をどうにかこうにか無くす方法を考える。だが、この場でパッとそんな意見が思い浮かぶのならそもそもここまで困っていない。
どうしたものか、と再度ため息を空へと吐き出して、
「ん?」
不意に気付く。
何かが落ちてくる。それも風に煽られて前後左右へと不規則に揺れ動きながら、しかし真っすぐに真司の手元へと落ちてくる。
コバエでも叩き潰すかのように両手で落ちてきたソレを挟み叩く真司。
それは一通の封筒だった。
「……えぇ」
裏表、とひっくり返して見分した真司は露骨に眉を顰める。
封筒の留め部とは逆に書かれた宛先は、自分の名前だったから。
怪しい。そしてこういうオカルト紛いに関して今の真司は、少々過敏になっている節もあった。
しかしただ捨てるのも忍びない。何より、このまま捨ててもし仮に別の不都合が降りかかるのなら、それはそれで困るというもの。
意を決して、真司は封を開いた。
取り出されたのは、一枚のレターカードだ。
『悩み多し異彩を持つ少年少女に告げる
その
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
我らの“箱庭”に来られたし』
書かれていたのはそれだけだ。
文へと目を通して、真司は首を傾げた。
「全てを、か……」
家族や友人を捨てて行く。この文面を完全に信じている訳では無いものの、一考してみる理由にはなった。
勢い、というものは恐ろしいもの。
真司の背を先程のやり取りが押してしまう。
「何かが変わるのなら、ソレも良いかな」
瞬間、世界は大きく開けていた。
上空四千メートル。風を切る音が鼓膜を叩く中で、四人の少年少女と一匹の三毛猫は見た事も無い世界へと放り出されていたのだから。