牙守の一族 作:わんころ
『ギフトゲーム名 “FAIRYTALE in PERSEUS”
・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜
久遠 飛鳥
春日部 耀
来馬森 真司
・“ノーネーム”ゲームマスター ジン=ラッセル
・“ペルセウス”ゲームマスター ルイオス=ペルセウス
・クリア条件
ホスト側のゲームマスターの打倒。
・敗北条件
プレイヤー側のゲームマスターによる降伏。
プレイヤー側のゲームマスターの失格。
プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
・舞台詳細・ルール
*ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。
*ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。
*プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く) 人間に姿を見られてはいけない。
*姿を見られたプレイヤー達は失格となり、同時にゲームマスターへの挑戦資格を失う。
*失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うが、ゲームを続行する事はできる。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、“ノーネーム”はギフトゲームに参加します。
“ペルセウス”印』
*
契約書類へとサインをした直後、六人の姿は白亜の宮殿の外にあった。
周りを見渡せば、本来ならば街並みが広がっていた筈だというのに、今では異質な空間へと浮かぶ孤島と化している。
“ペルセウス”とのギフトゲーム。半ば不意打ちの様に始まったものだが、戦力として数えられる者が両手で足りてしまう“ノーネーム”の現状、これしかなかったとも言える。
「姿を見られれば失格、か。ペルセウスの神話をなぞれって事だな」
十六夜が呟けば、ジンが頷きを返す。
「それならルイオスも就寝中、という事になりますね。もっとも、流石にそう簡単にはいかないかと思いますが」
「YES。ルイオスが神殿の最奥にて待ち構えている、と思っておいた方がよろしいです。問題は、我々が不可視のギフトなどを持たない事。多くの兵士たちが待機しているであろう神殿を攻略するには、やはり綿密な作戦が必須でしょう」
「そうね。こちらのゲームマスターであるジン君が最奥に辿り着けずに見つかれば、その時点でこちらの負け。かといって、ジン君一人を送り出してルイオスに勝つことはほぼ不可能。なら、三つの役割が必要ね」
契約書類へと目を通しながら、黒ウサギと飛鳥の声が響く。
彼女らに倣うように契約書類へと視線を向けた耀も頷いた。
「うん。まず、ジン君とゲームマスターの居る場所にまで辿り着いて倒す役割。それから、索敵と不可視のギフトを持ってる相手の撃退。後は、失格覚悟で囮になる露払い、かな」
「索敵の方は、目鼻が利く春日部で良いだろ」
「黒ウサギは審判としてしかゲームに関われませんので、ルイオスの打倒は十六夜さんお願いします」
「それじゃあ、僕らは囮と露払いかな」
「……仕方ないわね」
ムスリと唇を尖らせる飛鳥。だが、彼女のギフトはルイオスに通用しない事が既に知れてしまっていた。何より、彼女の力はタイマンよりも不特定多数との戦闘向き。露払いの最適解だった。
真司の方も特に不満は無い。戦力の分配に異論は無く、別段自分が特別強いとも思っていないので。
だが、
「いや、真司の方はサブプラン程度になるべく向こうに見られないように動いた方が良いだろうぜ」
待ったをかけたのは十六夜。
保険程度ではあるが、もし仮に作戦が破綻した場合における予備のプランを軽く作っておくほうがいいと考えての言葉だった。
「そこまで強い相手かしら?」
「いえ、十六夜さんの言う事も一理あります。何より、一筋縄ではいかない相手でしょうから」
「それって?」
「黒ウサギの見立てではありますが、ルイオスさんのギフトの一つが――――」
「隷属させた元魔王様、だろ?」
黒ウサギの言葉を引き継いだのは、十六夜だった。
ギョッと彼の顔を見れば、素知らぬ顔。
「ペルセウスの神話通りなら、この世界にゴルゴンの首がある筈がない。アレは、戦神に献上されてる筈だからな。にも拘らず、アイツらは石化のギフトを使ってくる。とすれば、そもそも前提が違うんだろ。箱庭に招かれたのは、星座のペルセウス。さしずめ、アイツの首から下がってるのはアルゴルの悪魔って所か?」
「…………アルゴルの悪魔?」
四人が首を傾げる中、驚愕の表情を黒ウサギは十六夜へと向けていた。
「ま、まさか、箱庭の星々の秘密を……?」
「まあな。元々、興味はあったし、この前見上げて推測して、ルイオスを見て確信した。後は手が空いてる時に白夜叉に機材を借りてチョチョイと、な」
事も無げに言ってのけた十六夜に、しかし黒ウサギは驚愕を禁じ得ない。
彼女は、逆廻十六夜の戦闘力を知っている。しかしその一方で知識面にも秀でているとは思いもよらなかったのだ。
「もしかして、十六夜さんは知能派にございますか?」
「おいおい、俺は根っからの知能派だぜ?何だったら、この扉も開けてやるよ」
「…………因みに、どうされるのですか?」
「ハッ!決まってるだろ」
つかつかと宮殿の扉へと近づく十六夜。
そして、
「こうすんだよッ!!!」
振り上げられた足が宮殿の扉を蹴り壊す。
*
先頭を春日部耀。最後尾を来馬森真司。
鼻が利く二人がそれぞれに前方と後方をカバーするこの陣形。真司が最後尾なのは、風をはらんで大きく広がる羽織がジンを目晦まししてくれるから、という理由もあったりする。
飛鳥が囮となって暴れ、彼らの下へとやって来るのは足止めされなかった者達や、或いは不可視のギフトを持つ者達。
「ふっ!」
抜刀、と同時に鉄砕牙から放たれる衝撃が宮殿内の一部を破壊し、通路を瓦礫の山で塞いでしまう。
叢雲牙では威力があり過ぎる上に、強力な邪気が周りに自分の存在を喧伝する事に繋がってしまう。その点、鉄砕牙は破壊力で劣れども使い勝手が良い。
道の封鎖は、後続を断つための物。厄介なのは、やはり対応しにくい後方からの追撃であるから。
鉄砕牙を鞘へと再び納めて駆ける真司。
前を見れば、耀が不可視の敵を一人叩きのめして、その兜をジンに渡そうとして十六夜と何やら話し合い、そして十六夜が被っている。
「作戦変更かな?」
「ああ。このまま不可視のギフトを集めるのも悪くはねぇが、時間をかけすぎるのは宜しくない。って事で俺と春日部の二人で不可視のギフト持ちを狩る」
「僕はジン君の護衛かな?」
「最悪姿を見られた上で暴れてやれ」
「了解」
真司の頷きを確認して、二人は物陰から飛び出した。
同時に、真司は羽織を脱ぐとジンの頭に被せる。
「とりあえず、もしもの時はその羽織を盾にして。僕は、周りの警戒に当たるから」
言いながら、真司は直ぐに抜刀できるように鉄砕牙の鯉口を斬りつつ周囲を見渡す。
今の彼の髪色は約四割が白銀へと染まっていた。耀ほどではないが、音やニオイは通常の時よりも広く、そしてハッキリと聞こえるし嗅ぎ取れる。
時折足音の近付いてくる方向へと風の傷を放って目晦ましとしながら、待つ――――
「ッ!?」
不意に迫ってきた
「“ノーネーム”はこれで、残り三人か。その内、月の兎はジャッジマスターとして参加しない事を考えて、残り二人」
現れたのは、藍の髪を長く伸ばした白銀の武者鎧を纏った人物だった。その手に握られているのは、一振りの脇差。
その群青色の刀身からは白い煙の様なものが上がっており、息を吸うだけでも嫌に冷たい空気が漂っていた。
「見つけたのなら、そのまま放置してほしいんだけど」
「そうもいかない。さっさとお前たちを追い払い、ルイオス様の機嫌を取らねばならん」
「……そっか。それじゃあ、僕も貴方を何処かへと行かせる訳にはいかないな」
見つかってしまった事はこの際問題ではない。
問題なのは、この目の前の鎧の相手が、真司の感覚網に一切かからなかった事。それこそ、音もしなければニオイも、気配もしなかった。
(不可視のギフトか、それともこの人自身のギフトなのか。それにあの刀……)
カタカタと揺れる叢雲牙と自身の感覚から、真司は武者鎧の持つ刀が“牙”を冠する妖刀の一つであると気が付いた。
思い出すのは、
率直な所、あの一振りがあるだけで戦局は大きく変わる。それほどまでの力が、“牙”と呼ばれる刀にはあるのだと知ることが出来た一件。
睨み合いの間を挟んで、どちらともなく飛び出した。
大きさなどに差があれども、どちらも妖刀。物理的な破壊をする事は、そう簡単ではない。
「我が“
その一撃を躱せたのは、偶然に因る所が大きい。
ほぼほぼ反射で傾けた頭部のすれすれを、鋭い氷柱の先端が通り抜けていった。同時に烈凍牙と噛み合っている鉄砕牙の刀身の一部に薄い氷が這った。
烈凍牙の能力は、氷結。氷を自在に操り、精製、操作を可能とするというシンプルなもの。
だが、シンプルだからこそ強いとも言えた。
今も、烈凍牙の切っ先が離れた真司へと向けられた。
「うおわっ!?」
瞬間、その切っ先より群青色の氷の刃が一気に伸びてくる。
鉄砕牙を盾に防ぐが、伸び続ける刃は踏ん張っていなければそのまま押し飛ばされそうなほどの力強さを持っていた。
氷の刃を押さえていた真司は、不意に鉄砕牙の切っ先側の刀身を支える左手の力を緩めた。同時に柄を握る右手を少し前へと突き出した。
そうなると、自然上から見た時に鉄砕牙は切っ先を下げた斜めとなる。
火花を散らして氷の刃が鉄砕牙の表面をズレた。同時に柄の方向から真司は前へと飛び出していく。
風の傷があるとはいえ、自在な中遠距離攻撃を可能とする氷使い相手は分が悪い。
距離を詰める事は常套手段だろう。実際、真司の選択は間違いではない。
しかし、常套手段であるからこそ、相手には予想もしやすい行動ではあった。
「……ッ!」
真横から伸びてきた氷のギロチンを、寸での所で躱して真司は大きくその場から飛び退いた。その頬からは、一筋の血が流れる。
「勘が良いな」
「……首刎ねる気だった?」
「貴様は危険過ぎる。ルイオス様に近づける訳にはいかん。特にその、背負った剣は宜しくない」
「……その割には、貴方からそのルイオス様に対する敬意は感じられないけど?」
「……」
真司の言葉を受けてか、武者鎧は氷によって延長していた刃を元に戻して妖刀を下す。
「仕方ないであろう?ここは、“ペルセウス”。英雄の子孫によるコミュニティ。ルイオス様はアレだが、それでも正当な後継者。蔑ろには出来ん」
性別すらも分からない武者鎧の言葉に乗るのは、侮蔑にも似た感情だった。
実際問題、“ペルセウス”のリーダーであるルイオスの人間性は終わっている。終わっているが、腐っていても鯛は鯛。神輿が無くてはコミュニティが崩壊してしまう。
成程、と真司も思う。血筋による継承は、単純な就任とはまた違う一種の神聖さすら孕むのだから。
不意に、真司は背後に気配を覚える。
「……悪いね。厄介そうな相手に見つかってさ。羽織はそのままで良いから、ルイオスは任せるよ」
虚空へ向かってそう呟けば、背後の気配は答える事は無く、しかし少しの間を置いて一気に離れていった。
ソレが誰だったのか。真司は察している。
鉄砕牙を肩に担ぎ上げる様にして、彼は前を改めて見た。
「
その右目は、揺らめく黄金へと染まる。