牙守の一族 作:わんころ
魔王に奪われた仲間の奪還。
その主目標であった金髪の吸血鬼、レティシアの受難は実のところ石化が解かれた後にも待っていた。
事はそう、ホームの大広間に石化した彼女を運び込み、そこで解呪した時。
「「「それじゃあ、これからよろしくメイドさん」」」
「え?」
「………真司さん?」
「イテテ……僕に言われても困るな」
突然の奇行に走る問題児三人から視線を外した黒ウサギの鋭い眼光が壁際に座り込んで妖刀を傍らに置いていつものように真紅の羽織を着た真司へと向けられた。向けられた当人は、バツが悪そうにガーゼの張られた頬を撫でる。
「まあ、今回のギフトゲームに関する僕らへの報酬って事だよ。まあ、僕は辞退したんだけど」
「そういう事よ。今回貴方達って本当についてきただけでしょう?」
「うん。私も思いっきり殴られたし、石にもなっちゃった」
「僕に関しては、何とも。まあ、仕事は最低限したかな」
「挑戦権に関して持ってきたのも、俺と真司だしな。という訳で所有権の分配が、3:3:2:2だったんだが、真司が辞退したから3:3:4といった具合に話はついた」
「な、何て事を言ってるんですかこの問題児様たちは!?」
黒ウサギが白目を剥くのも無理はない。漸く助けた仲間、それも憧れの先輩が唐突に従者という立場に放り込まれる様を目撃したのだから。
しかしその一方で、彼らの言い分も一理ある。
労働には対価が必要だ。そして、“ノーネーム”には功労者に対する褒賞を用意できる状態ではない。
幸いと言うべきか、寧ろ不幸と言うべきか、レティシアは案外乗り気。
「ん……まあ、君達がそう望むのなら、私としても喜んで家政婦として働かせてもらおう。それだけの恩義があるというものだからね」
「レ、レティシア様!?」
稀に見るほどに、黒ウサギは焦っていた。
先の通り、レティシアは黒ウサギの憧れの先輩。その先輩をメイドとして扱う事など思いもよらない上に、良心の呵責が訪れる。
姦しくなる一同を尻目に、真司は頭の後ろで手を組むとそのままソレを枕に壁に背を預けて目を閉じてしまう。
怪我の治療をされたからといって、体の芯に残ったダメージは消えていない。癒すには休息が必須だった。
程なくして寝息が聞こえてきた。これに、耀が気付く。
「真司、寝てる」
「あら、本当ね。一番怪我が酷かったから、かしら」
「む?それならば、毛布を持ってくるとしよう。所有権以前に、彼もまた私の為に尽力してくれたことには変わりがないから」
飛鳥にメイド服を宛がわれていたレティシアが毛布を取りに部屋を後にし、その後を案内としてジンが付いていく。
そんな中で面白い事の好きな十六夜は、沈黙を保っていた。
その様子に、黒ウサギが首を傾げる。
「十六夜さん?どうされたのですか?」
「……いや、ちょっと気になる事があってな。黒ウサギも見ただろ?ルイオスがアルゴールを呼び出した後に、降ってきた石化した雲を
「アレですか……勿論、覚えていますよ。寧ろ、あそこまで濃い瘴気は早々にお目に掛かれるものではないと思うのですが………」
「そこだ。アレを撃ったのは真司だ。つまりアイツは、
十六夜が引っ掛かっているのが、そこだ。
巨大な石の山が落ちてきたのは世界が褐色の光に包まれた後。つまりその後に動けたのは、光を放ったアルゴールとギフトの持ち主であるルイオス。それからあの場に居た、十六夜、ジン、黒ウサギのみの筈だった。
にもかかわらず、瘴気の竜巻は光の後に飛んできた。
アルゴールの魔王は、星霊だ。この箱庭における最強種の筆頭。他二種族と比べても頭一つ抜けている力を有している。
もっとも、今回の場合はルイオスの力不足の結果、実力の半分も出せていなかったかもしれないが。
それでも放つギフトは、相当な力を有していた筈だ。それこそ、十六夜のようにギフトを無効化できる能力でもなければ、問答無用で石化する。
「……やはり、真司さんの持つ妖刀が原因でしょうか?」
「多分な。ただ、妖刀ってのが、そこまでの力を持ってるのか?ってのが俺は気になる。元々は村正の事でもあるし、なら妖怪が関係してるとして……星霊に勝てるか?」
妖怪の中には、神に匹敵、ないしは凌駕する存在も居る。
有名どころなら、八岐大蛇だろうか。日本有数の神格であるスサノオをして、八塩折之酒で酔いつぶれた所を不意打ちで首を斬って殺す他手段が無かった。
その他にも、天狗などが神格化された例などもある。
要するに、根源的に妖怪は神へと転じやすく。神格を得る為の条件をクリアしやすい面があった。
「…………戦いてぇな」
「うぇ!?い、いいい十六夜さん!?」
「いや、な。ルイオスも元魔王様も肩透かしだったろ?その点、真司は面白そうだと思ってよ」
「ダメですからね!?お二人とも、“ノーネーム”の大事な戦力である以前に仲間なのですから!争い合うなど、言語道断です!」
ギャンギャン咆える黒ウサギを片手で押さえながら、十六夜は頭を回す。
無論、今この瞬間に唐突に殴り掛かるような真似はしない。真司も全快ではないし、やるなら互いが万全の状況を求める。
彼は問題児。オモシロイ事を求めてやって来たのだから、その手掛かりは逃せない。
*
“ペルセウス”とのギフトゲームから、三日後。“ノーネーム”の一同は、水樹の貯水池近くに集まっていた。
色々とあり過ぎたせいで先へと伸びてしまった歓迎会を行うためだ。
流星群を眺めながら、真司は周りから少し離れて一息ついていた。
「ふぅ……」
背負っていた叢雲牙を自身の肩に立て掛けるようにしながら、水の入った瓶を傾け煽る。
はぶられているという訳では無い。自主的に距離を取っているのだ。原因は言わずもがな、叢雲牙だ。
どうにも、獄龍破を自分の意思で撃ってから叢雲牙の気配が強まっていた。その状態を表すかのように、真司の髪の約一割が白銀の色へと染まって戻らなくなってしまったのだから。
子供たちの中には、感覚が鋭敏な者も居る。彼らに配慮した結果だった。
「……~♪」
胡坐をかいて頬杖をつき、目をつぶって鼻歌を歌う。
それは、四季を歌う内容。何故だか頭に残って、時折自然と零れてしまうそんな歌だった。
時間にすればそれほどではない。
ふと、水を飲もうと目を開けて、
「うぉおおおおおお!?」
間近で自分を見てくる耀とそれから、いつの間にやら近付いてきていた子供たちとその他“ノーネーム”の面々に驚かされる事になった。
「え、なに?何事?」
「ん、綺麗な歌だった」
「…………歌ってた?僕」
「うん」
「それは……とんだお耳汚しを」
「いえ、綺麗な歌だったわよ?何なら、ここで歌ってみてほしいぐらいだわ」
「無茶言わないでよ。僕は、歌手でもなければそもそも人前で歌えるような度胸なんて無いの」
そう言って水瓶を煽った真司はそっぽ向く。その耳が赤くなっている事から、結構本気で照れているらしい。
因みに、彼が周りの動きに気付かなかったのは偏に気を抜いていたから。完全にリラックスしてしまっていたからだった。
仲間の思わぬ一面を目撃しながら、夜は静かに更けていく。
“ノーネーム”の再起は、まだ始まったばかりだ。