牙守の一族 作:わんころ
騒動に事欠かない。それは、真司が箱庭に来て常に持ち続けている感想だった。
腰の左側に鉄砕牙と闘鬼神、背には叢雲牙を背負って白夜叉の後をついて行った先では、見慣れた顔ぶれに出会った。
「あ、真司居た」
「やあ、春日部さん。おはよう………まだ換金するギフトは無かったと思うけど?」
「うん。違う用事。真司は?」
「野暮用、かな。一応話し合いは終わってるよ」
白夜叉との話をする気は、真司には無い。
自分に任された仕事、というのもあるがそれ以上に、妖刀の危険性というものを改めて理解する事になったから。
出来る事なら、彼ら彼女らには知らせたくなく、巻き込みたくなかった。
幸いと言うべきか、耀は突っ込まなかった。代わりに気になる事を一つ。
「ソレ、新しい剣?」
「まあね。ギフトゲームが戦闘系ならお披露目できるかも」
闘鬼神の柄を軽くたたいて、真司は笑みを浮かべる。
十六夜が頭脳労働も行けるのに対して、彼の場合はどちらかというと荒事一辺倒。頭の回転は悪くないが、如何せん知識量が圧倒的に足りない。
一応、その点をカバーする勘の良さはあるものの、やはり頭脳戦は向いていない。
その後、縛られたジンを真司が左肩に担ぎ上げて一同は白夜叉の部屋へと向かった。
途中、商業コミュニティのゲームが説明されたが、現状の“ノーネーム”では参入は愚か、そもそも参加権が無い。
「経済圏その物が、ギフトゲームになる、か。何というか、壮大だね」
「だな。貨幣の配合や比重が均等なら、物を言うのは刻まれた旗印がそのまま価値を持つ。流通率がそのまま支配権の広さって事だしな」
「確かに競い合うって面なら分かりやすいね。ただ――――」
「ああ、“ノーネーム”お断りってのもよく分かる」
“ノーネーム”はその他大勢。旗印も無ければ、名前も無い。そんな相手を商売相手として受け入れても、経済圏を広げたとは到底言えない。
改めて、現状をどうにかせねばならないと考えを改めつつ六人は改めて白夜叉の私室へと辿り着いた。
「さて、本題に入る前に一つ確認しておかねばならんことがある。“フォレス・ガロ”とのギフトゲームから、おんし等のコミュニティが打倒魔王を掲げたコミュニティである、といううわさが流れている。それは真か?」
「ああ、その話?ええ、本当よ」
白夜叉の問いに、飛鳥が頷く。周りの“ノーネーム”の面々も驚いた様子は無い。
「ジンよ。それは、コミュニティのトップとしての方針か?」
「はい。僕らには、名も旗印無い。それでも進んでいくのなら、分かりやすい目的を喧伝するのが一番手っ取り早い。そう決めました」
「覚悟の上であるのだな?そのような目標を掲げれば、当然ながら何の関係もない魔王と敵対する事にもなるのだぞ?」
「覚悟の上です。今のコミュニティの力ではどうしたって上層へは向かえません。であるのなら、相手から来てもらう他ない」
「それに、それこそ望む所だろ。魔王を倒して隷属させて、更に強い魔王に挑む。コミュニティの力も増せて、尚且つカッコイイだろ?」
ジンの言葉を引き継ぐようにして、不敵に笑う十六夜。
白夜叉は、逆廻十六夜を買っていた。へらへらとした愉快犯的素養があれども、その実リアリストな部分もあり、リスクを天秤で正確に測れる、とも。
黒ウサギ達の引き運は随分と良いらしい。改めて頭の中で頷いて、白夜叉は口を開く。
「ふむ、そこまで覚悟しているのなら、これ以上の言葉は不要か」
「ま、そうだな。それで?本題ってのは、何なんだ?」
「うむ、実はだな。その“打倒魔王”を掲げたコミュニティに、東のフロアマスターとして正式な依頼をさせてもらいたい。宜しいかな、ジン殿」
「!は、はい!謹んでお受けいたします!」
子供を見る様なものではなく、一人の集団の長として認められたような気がして、ジンは背筋を伸ばし頷いた。
「さて、何から話すべきか…………北のフロアマスターの一角が世代交代をした事は知っておるか?」
「え?」
「いいえ。それが、今回の話に関係している事なの?」
「まあの。そ奴は亜龍として見てもかなりの高齢でな。急病による交代ではあったが……此度の大祭は、その代替わりした新たなるフロアマスターの門出を祝うものだ。火龍の生誕祭だな」
「「龍?」」
「さよう。五四五四五外門に本拠を構える“サラマンドラ”。北のフロアマスターの一角であるのだが、おんし等はどの程度フロアマスターについて知っておる?」
「私は全く知らないわ」
「私も」
「俺はそこそこだな。要は、下層の秩序と成長を見守る存在だろ?」
「後は、魔王に対する対抗馬になるって話だよね。その代わり、平時の権力と地位を得てるって話」
そこから十六夜が幾つかの補足を交えつつ、
特権的な階級を有するが、その分雑事など様々な仕事が舞い込む彼ら。
揉め事の調停や、土地の分割、統治権の分配。上位階層へと上がれるかどうかの見極めに関する門番的立ち位置等々。
加えて、箱庭の天災である魔王が襲来した際には率先した対処、矢面に立つ事を求められる。
十六夜の説明の上りに、真司が白夜叉へと水を向けた。
「そういえば、北のフロアマスターの一角、と言ってましたけど北側には複数のフロアマスターが居るんですか?」
「ああ、そうなる」
「元々北側は、過酷な環境であると同時に鬼種や精霊、悪魔と呼ばれる力の強い種族が多い場所でもあり、治安が悪いんです。ですから、如何にフロアマスターといえども、単独では御しきれず…………ソレはそうと、“サラマンドラ”とは過去に交流もあったんですが、頭首様が変わられていたとは……後任はどなたが?やはり、長女のサラ様か、もしくは次男のマンドラ様が?」
「いや、頭首は末の娘である、サンドラが火龍を襲名する事となった。おんしと同い年のあの子じゃよ」
「は……?」
目が点になるというのは、正にこの事。そうお手本にされそうなほど、ジンはポカンと口を開いて間抜け面を晒す事になる。
直後に、爆発。
「サ、サンドラが!?いや、え……?彼女、まだ僕と同じで十一歳ですよ!?」
「あら、ジン君も十一歳で私たちのリーダーを務めてるじゃない」
「そ、それはそうですけど……」
「なんだ?もしかして、御チビの初恋の相手か?」
「ッ!?し、失礼な事を言わないでください!!」
顔を真っ赤にして反論するジンだが、そんな態度も十六夜と飛鳥の茶化しに油を注ぐだけだ。
騒がしい三人だが、興味のない者も居る訳で。
「それで?私たちは何をするの?」
「うむ、先も言った通りこの生誕祭は新たなるフロアマスターであるサンドラのお披露目も兼ねておる。しかしまあ……幼いという事もあって東の私へと共同主催の話が来たのだ」
「あら、それっておかしくないかしら?話の通りなら、北には複数のホストマスターが居るんでしょう?そのうちの誰かと、或いは複数と行うものじゃないの?」
「それは、そうなのだが…………」
「……その新しいホストマスターが幼いからこそ、じゃないかな。要は“サラマンドラ”の弱体化を狙って自分たちの支配領域を広げたい、とかね」
「ハッ!まあ、在り来たりだがそういう事だよな?」
「…………呆れた。修羅神仏の集う箱庭であっても思考回路は人間なのね」
「うう……手厳しい、が否定も出来ん。全くもってその通りだからの。そもそも、今回東のマスターである私へと共同祭典の申し出がされたのも事情があってな」
「……ちょっと待って。その話、長くなる?」
「うん?まあ、一時間程になるか」
「それは不味いかも。黒ウサギ達に追い付かれる」
耀の言葉に、三人がハッとする。一方で、真司は同期三人へとジト目を向けた。
「また何したのさ、三人とも」
「おいおい、俺達が何かした前提か?……っと、言ってる場合じゃねぇな」
「白夜叉様!どうかこのまま――――」
「ジン君、黙りなさい!」
何かを叫ぼうとしたジンの口が勢いよく閉じて、悶絶させられる。
更に十六夜がスルリと真司の隣を取ると、彼の肩を組むようにして押さえつけてきた。
「白夜叉!今すぐ北に向かってくれ!」
「むう?それは構わんが、良いのか?北へ向かうという事は、詳細を聞かずに了承する事となるぞ?」
「構わねえ!どっちみち事情は聴くだろうし、何よりそっちの方がオモシロイ!」
「ちょ、十六夜君、重い……!」
真司の声も意味を成さず、白夜叉は目を真ん丸にした後、哄笑を上げた。
「なるほどなるほど、面白い、というのは重要だ。我ら修羅神仏にとってみれば実に実に重要な事柄だ。良かろう、ジンには悪いが面白いのなら仕方がない」
そして響く、柏手。
たったそれだけで、彼らは凡そ九八〇〇〇〇キロの距離を移動するのだった。