牙守の一族   作:わんころ

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 980000キロ。最早想像する事も難しいそれだけの距離があれば、文化というものは大きく変わる。

 問題児たちが転移してきたのは、北側四〇〇〇〇〇〇外門・三九九九九九九外門にある“サウザンドアイズ”の元支店がある小高い丘。

 飛び出せば、そこからは北の街並みを見下ろすことが出来る。

 

「赤い壁と炎……硝子の街!」

 

 キラキラと目を輝かせる飛鳥。彼女だけでなく、他三人も新たな街に小さくない感動を抱いていた。

 目を引くのは、やはり天衝く高さの境界壁か。そして、この北の街の発展にも大きな影響を齎す重要な要素でもあった。

 

「へぇ……!980000キロも離れてれば文化も違うか。歩くキャンドルスタンドをこの目で拝めるとは思わなかったぜ」

 

「ふふ、違うのは文化などだけではないぞ?そこの境界門を出れば、外は一面の銀世界でな。それを箱庭の結界と灯した炎によって常秋の景観を生み出しているという訳だ」

 

「なるほどー……暖色系が多いのはその為、かな…………ん?」

 

 不意に、真司は何かに気付いたのか遠くを見た。

 

「んー……?」

 

 手を庇にして目を細め、そして小さく呟く。

 

「黒ウサギ――――」

 

「見ィつけたのですよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 さん、と真司が続ける前に遠く離れた時計塔を足場にした黒ウサギがドップラー効果と共に襲来する。

 逆立った緋色の髪と、それから一つのクッションを挟む事に一度の跳躍で襲来したその勢いから彼女の怒りというものが察せられて余りあるというもの。

 同時に、彼女の激怒の原因となっている三人が動き出す。

 

「逃げるぞ!」

 

「逃がすか!」

 

「え、ちょっと――――」

 

 十六夜が飛鳥を抱き上げて一目散に跳躍。展望台から飛び降りる。それから耀が旋風と共に空へと逃れようとする、が一手遅かった。

 ブーツの足首辺りを掴まれ引き寄せられ、目がキマッテいる黒ウサギに抱きすくめられる。

 

「ふ、ふふ。捕まえたのですよ、耀さん!!!モウ、逃ガシマセン……!!」

 

 色々とヤバい。主に壊れた様な笑みを浮かべながら迫ってくる黒ウサギは、生半可なホラーよりも遥かに恐ろしいものがあった。

 

「後デ タップリト オ説教 デス……フフフフ……絶対ニ逃ガシマセンカラネ?」

 

「りょ、了解」

 

 反論など許さない。そう言わんばかりの圧は、如何にゴーイングマイウェイの嫌いがある耀であっても抗う事など許されないものだった。

 着地した黒ウサギは、そのまま女怨霊の様な首の角度で蚊帳の外であった真司へと目を向けた。ハイライトの消えたその目は恐ろしいなんてものではない。もしも彼にしっぽがあれば股の間に入り込んで出て来なくなるだろう。

 

「真司サンハ、私ノ味方デスヨネ?」

 

「へ?……ッ、ああ、うん!勿論!黒ウサギ様の味方ですよ!ハイっ!」

 

 脂汗を滲ませながら、真司はぎくしゃくと右手と右足、左手と左足を同時に交互に出しながら黒ウサギへと近付き耀を受け取った。

 黒ウサギは、そのまま眼下の街並みへと飛び出してしまう。

 吹き荒れた暴風が彼女の怒気を更に表していた。

 

「……本当に、何したのさ」

 

「……」

 

 抱えていた耀を下して真司が問うが、しかし答えは返って来ない。

 ただどこか落ち込んだような、それこそ怒られた仔犬の様な雰囲気を発する少女に深く追求する気にもなれず頭を掻いた。

 何と声を掛けるべきか。下手な励ましが出来る程、真司は口が達者ではない。

 そんな二人へと、助け舟を出したのはこの場の最年長だった。

 

「まあ、なんだ。積もる話もあるだろうし、あ奴らも直ぐに戻って来んのなら店の中で待つとしよう」

 

 白夜叉に促され、二人も展望台を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鹿威しの音が中庭に木霊する。

 胡坐、正座、片足を庭に垂らした胡坐。といったそれぞれの座り方で三人は縁側に並ぶ。

 

「ふふ、成程成程。おんし達らしい悪戯ではある…………が、“脱退”というのはちとやり過ぎではないか?」

 

「そ、それは…………少しは私も思ったけど。で、でも、黒ウサギだって悪い。お金のことを言ってくれれば、ここまでしなかったし……」

 

「それは、日頃の行いの結果から、とも思わんか?……まあ、若い内は衝突する事もコミュニケーションの一つではあるが……そっちはどうだ?真司よ」

 

「僕ですか?」

 

「然様。思う事があるのなら、ハッキリと言っておくべきだぞ?」

 

「うーん……」

 

 太ももに着いた頬杖の格好で顎を撫でつつ、真司は言葉を選ぶ。

 

「……まあ、喧嘩両成敗、って所では?」

 

「ほほう?自分の名前が勝手に使われた事は、良いのか?」

 

「それは……まあ。十六夜君たちにも一応の仲間意識がある事も分かりましたし……素行はどうあれ、隠し事が罷り通るのは宜しくないですから」

 

「そうか」

 

 どちらにも、それぞれの言い分がある。そういう時に、一歩引いて状況を俯瞰するものが居るというのは中々に恵まれている事だ。

 真司としては、確かに脱退騒動は宜しくない。しかしその一方で、何も言わずにゲームの機会を一つ奪おうとするのもいただけない。

 無論、後者に関しては金銭面という物理的な障害がある為に致し方ない事であると理解しているが、その一方で隠し通せば良い、と考えられている事には苦言を呈する他ない。

 だからこそ、どっちもどっち(喧嘩両成敗)

 

 茶を啜り、和菓子を頬張る。そこでふと、耀が別の話題を切りだした。

 

「そういえば、頼み事ってギフトゲームの事?」

 

「うん?まあ、ソレもあるが。特に二人に出てほしいゲームがある」

 

「僕らに?」

 

「正確には、どちらかに、といった所か」

 

「うむ。これなのだが」

 

 そう言って、白夜叉が袖から取り出したのは一枚のチラシ。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

『ギフトゲーム名 “造物主達の決闘”

 

   ・参加資格、及び概要

         ・参加者は、創作系のギフトを所持

         ・サポートとして一名まで同伴を許可

         ・決闘内容はその都度変化

         ・ギフト保持者は、創作系のギフト以外の使用を一部禁ず

 

   ・授与される恩恵に関して

         ・“階層支配者”の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言する

 

  宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

 

                              “サウザンドアイズ”印

                                “サラマンドラ”印』

 

 

~~~~~

 

 

「……創作系ギフト?」

 

「うむ。人造、霊造、神造、星造問わず、製作者の存在するギフトの事をこう呼ぶ。過酷な環境である北側では、こうした創作系のギフトが重宝されておってな。その美術性や技術などを競い合うゲームというものが時折こうして行われているのだ。二人のギフト、生命の目録(ゲノム・ツリー)や各種妖刀は技術美術共に優れている。特に、生命の目録は人造とは思えぬほどの出来よ。展示会に出しても良かったのだが、そちらは期限が切れておるからな……」

 

「へぇ……でも、妖刀の展示は危なくないですか?主に、邪気とか」

 

「まあの。という訳で、どうだろうか?どちらかを主として、もう一人サポーターといった具合になるが」

 

「「…………」」

 

 互いに顔を見合わせる二人。

 

「僕としては、出てもいいと思うな」

 

「そう?」

 

「うん。階層支配者にギフトを御願いできるのなら、結構良いモノも貰えるだろうし」

 

「良いモノ……」

 

 龍には興味あれども、ゲームそのものにはさほど惹かれないのか耀の反応は芳しくない。

 だが、少しの間を挟んでふと彼女は白夜叉へと顔を向ける。

 

「ねぇ、白夜叉」

 

「うん?どうかしたか」

 

「このギフトで、黒ウサギと仲直りできるかな?」

 

 彼女の気にしていたのはそこだった。

 喧嘩両成敗と真司は言ったが、彼女はその喧嘩の経験自体が少ない。

 だからだろうか、当然ながら仲直りの機会というものも奪われていく訳で。

 少女の事情を察したのか、白夜叉は慈母のような優しい笑みを浮かべた。

 

「勿論だとも。おんしにそのつもりがあるのなら、な」

 

「それじゃあ、出ようかな…………あ、真司」

 

「僕も手伝うよ。巻き込まれたとはいえ、僕も脱退騒動には一枚噛んでいるみたいな事になってるからね」

 

「決まったの。では、そのようにエントリーしておこう。良いゲームを期待しておるぞ」

 

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