牙守の一族   作:わんころ

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 境界壁・舞台区画。ここで“火龍誕生祭”の運営本部が置かれ、同時にギフトゲームも開催されている。

 

「いやー、順調順調。僕の出る幕無いね」

 

 舞台のセコンドで腕を組んで苦笑いする真司。

 今まさに、舞台の上では耀が石垣の巨人を叩きのめして、彼とその傍らに居る三毛猫へとブイサインを向けてきていた。

 歓声が上がる。“ノーネーム”だろうと、勝者は祝福されるもの。そこに差は無い。

 まだまだ興奮冷めやらない会場。しかし、それも一人の柏手によって水を打ったように静かになる。

 

「最後の勝者は、“ノーネーム”出身の春日部耀となった。これで決勝枠は全て埋まったか?決勝戦に関しては明日以降の日程となっている。詳しいルール説明は、ふむ…………今回のもう一人の主催者であると同時に今回の祭典の主賓から説明していただこうか」

 

 宮殿のバルコニーより観客たちへと言葉をかけていた白夜叉は、振り返る。

 そこに居たのは一人の少女。幼く、緊張している様子だがその深紅の髪を持つ少女の頭には、龍の純血、星海龍王の龍角があった。

 彼女こそ、この北の階層支配者の一角、“サラマンドラ”の新たなる頭首、サンドラである。

 緊張した面持ちで、彼女は玉座より立ち上がった。そして、そんな少女へと先達として白夜叉は笑みを向ける。

 

「初の大舞台を前に緊張する事は分かる、が皆の前では笑顔を灯せ。我々は、下層のコミュニティたちにとっての心の拠り所であるのだから。余裕が無かろうとも、それすら笑みで塗りつぶせ。何より、そのような顔では私の送った衣装の映えも半減してしまうというものよ」

 

「は、はい……!」

 

 スッと息を一つ吸い込んで胸を張り、サンドラは前へと進み出る。

 

「ご紹介に上がりました、北のマスター・サンドラ=ドルトレイクです。この度は、北と東の共同主催、火龍誕生祭へとご足労頂き、感謝申し上げます。皆さまの協力のお陰で、こうして無事祭典の中日を迎える事が出来ました。明日以降のゲームの進行に関しては、皆さまの招待状をご確認くださいませ」

 

 良く通る少女の声に促され、観客たちはそれぞれに招待状を取り出した。

 その書面。文字を形成する線たちが蠢き、その形を変えていく。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

『ギフトゲーム名 “造物主達の決闘”

 

   ・決勝参加コミュニティ

         ・ゲームマスター“サラマンドラ”

         ・プレイヤー“ウィル・オ・ウィスプ”

         ・プレイヤー“ラッテンフェンガー”

         ・プレイヤー“ノーネーム”

 

   ・決勝ゲームルール

         ・お互いの創造したギフトを比べ合う

         ・ギフトを十全に扱うために、一人まで補佐が許される

         ・ゲームのクリアは、登録されたギフト保持者の手で行う

         ・総当たり戦を行い、勝ち星の多いコミュニティが優勝

         ・優勝者はゲームマスターと対峙

 

   ・授与される恩恵に関して

         ・階層支配者の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームを開催します。

 

                              “サウザンドアイズ”印

                                “サラマンドラ”印』

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 二人揃って招待状を覗き込んでいた耀と真司はそれぞれに顔を見合わせる。

 

「総当たり戦、ね」

 

「つまり優勝するなら最低二勝は必要って事?」

 

「だろうね。ベストは全勝だけど……うん、そう甘くは無いと思うな」

 

 ギフトゲームに絶対はない。二人も、これまで勝ってきたギフトゲームが必ずしも勝てて当然である、というものは無いと考えていた。

 

「相手コミュニティは、全員格上だと思って対応するべきかな」

 

「うん。注意しないと」

 

 とりあえず、帰路に就きながら二人は明日へ向けての打ち合わせ。と言っても、基本的にはプレイヤーである耀を最優先。真司は肉盾ないしは、殿、先鋒といった具合に矢面に立つ形になるだろうが。

 そろそろ夕暮れの時間。如何に箱庭の大結界や、火の意匠を用いたランプなどがあれども少し肌寒い時分。

 

「……」

 

「寒い?」

 

 僅かに肩を震わせ抱き上げた三毛猫を少し強く抱きしめる耀を見咎めたのか、真司が問う。同時に、彼は羽織を脱ぐと彼女へと差し出した。

 

「良いの?」

 

「勿論。あ、ちょっと待って…………臭わないよね?」

 

 ニオイを確認して、再度差し出す。

 数度、差し出された真紅の羽織と真司の顔を見比べた耀は、やがておずおずとソレを受け取り袖を通した。

 ひらひらとした見た目の羽織だが、風を通さず仄かに暖かい。少なくとも先程よりは遥かにマシだ。

 

「温かいね。ギフトじゃないの?」

 

「多分、違うんじゃないかな。ギフトだったら、ギフトカードに記入されるだろうし。まあ、便利だから使ってるってだけだよ」

 

 左手を鉄砕牙の柄の上に乗せながら、真司は肩を竦めた。

 “ノーネーム”の四人それぞれに言える事だが、彼らはそれぞれに自分の事を完全に把握しているとは言えない。

 追々、解き明かそうとは考えているものの、どうしても目先の問題の方が優先となってしまう。

 

 他愛の無い会話を交わしながらの、店へと向かう道すがら。

 

「「?」」

 

 不意に、二人の足が止まった。

 止まった理由は、奇妙なニオイがしたから。

 それは一瞬のことで、嗅覚の鋭い二人でなければ気付かない程僅かなもの。しかし、同時に何故だか妙に気にかかった。

 

「今、ニオイがしなかった?」

 

「した。甘いニオイ?」

 

「僕には、(こう)かと思ったよ。神社でも嗅いだことがある様な甘いニオイだったね」

 

 鼻を鳴らし周囲を見渡すが、原因は分からない。

 自然と足が止まり、唐突に二人は振り返った。

 

「あはっ、鼻が良いんだねぇ」

 

「…………誰かな?」

 

 咄嗟に、真司が耀を庇うようにしながら前へと出る。その手はいつでも鉄砕牙を抜刀できるような状態で。

 二人の背後に現れたのは、長い黒髪を高い位置で結った人物だった。

 背が高く、線が細い為に性別のいまいちハッキリしない、誰か。

 その誰かは、剣呑な気配を発する真司へとニンマリとした笑みを浮かべる。

 

「良~い殺気~。でも、今日は殺り合いに来た訳じゃないからねぇ」

 

「よく言うよ。斬りかかってくる気、満々だった癖に」

 

「あ、分かっちゃう?でも、仕方ないじゃん。“猿”の奴がしくじったりするからさぁ、興味も湧いちゃうってもんだよ」

 

「猿?」

 

「アレ?忘れちゃったぁ?君の仕留めた、猿鬼の事ぉ」

 

 そう言われ、真司は思い出す。というか、忘れられる筈もない。

 初めてのギフトゲームであり、自身の力の使い方、その指向性を知る事の出来た一件。

 

「……百鬼の荘園」

 

「ピンポーン。俺は、蛇鬼ねぇ」

 

 ケラケラと嗤う蛇鬼。その雰囲気は独特で、本質が掴めない曖昧さがある。

 

「ま、今回は本当に顔合わせだけなんだよねぇ。今うちって内部で色々割れちゃっててさあ」

 

「ソレを、ここで言う意味あるのかな?僕としては、さっさとお帰り願いたいんだけど」

 

「あっは♪残念ながら、関係あるよォ。なんたって、百鬼の荘園に新メンバーを迎え入れるかどうかの話なんだからさぁ」

 

 蛇鬼のその言葉に、耀の眉毛がピクリと跳ねた。会話には参加していなかったものの、話の流れは聞いていたために分かる。そして、今この場で言い出したという事は、

 

「……真司を連れて行く気?」

 

「またまたピンポーン。俺らとしてもさぁ、そこまで妖刀に耐性のある人材って居ない訳。ましてや、叢雲牙まで。危険だからぶっ殺そうって奴も居るけどさぁ、俺としては来てほしいなァって」

 

「生憎と、コミュニティには困ってないんだ。勧誘なら、諦めてもらおうか」

 

 本格的に鯉口を斬り始める真司。

 そんな相手に、蛇鬼は両手を上げた。へらへらとした態度は収まらないが。

 それだけ強さに自信があるのか、或いはもっと別の勝算があるのか。それは、蛇鬼のみぞ知る事。

 

「あはっ、振られちゃったぁ。でもまぁ、覚えといてよ。俺としては身内が増えるのは大歓迎だからさぁ」

 

 不穏な事を言い残して、蛇鬼の姿は雑踏へと消える。

 完全に気配が消えたことを確認して、真司は鉄砕牙より手を離した。その眉間には深々と皺が刻まれているが。

 

「真司、どういう事?」

 

「…………はぁ……厄介事、かな」

 

 うなじに手を添えて首を動かす真司。

 まさか自分の案件がこうしてすり寄ってくるなど思いもしない。特に、先程相対していた蛇鬼は真司の見立てではかなりの気分屋。オマケに強い。

 1コミュニティを相手にする以上、どうしたって挑むプレイヤーの立場にならなければいけない真司としてはあの手の輩が厄介過ぎた。

 何より、隠し事の一つがバレた。

 

 無垢な瞳で見つめてくる少女へ言い訳を考えながら、真司はもう一度空へと息を吐き出すのだった。

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