牙守の一族 作:わんころ
「真司君、新しい剣を手に入れたのね。アレも、妖刀なのかしら?」
「だろうな。どうなんだ?白夜叉」
「うむ、少々仕事を任す事が決まってな。アレはその契約料の様なものなのだが……」
「だが?」
「闘鬼神に、あのような機能があるとは知らなんだ」
バルコニーよりゲームを観戦する白夜叉は興味深そうに、顎を撫でる。
「そうなのか?」
「ああ。本来は大抵のものを両断できる切れ味と、軽く振るうだけでも飛ばせる剣圧。後は、柄を握るだけでも飲み込まれかねない邪気を持つ程度でな」
「……それは、程度、でおさめて良いものなのかしら?」
「確かに危険なものだが……妖刀のギフトというものは基本的に、そういうものであるとしか言えん。話を戻すが、闘鬼神そのものの危険度は他の妖刀とそう変わらん。しかし、あのような青白い電光の如き剣気を纏うとは」
彼女の見つめる先では、地獄の業火と群青の剣閃が真っ向からぶつかり合っている。
妖刀という区分の恩恵に対する理解はあまり進んでいない。これは、このギフト自体の特性である使用者を選ぶという点から。
力で抑え込んで振るったとしてもそのポテンシャルは、真の担い手には遠く及ばない。
自然と前のめりになる十六夜。その好奇心は、妖刀へ。
「俺も振るえば、ああなるのか?」
「さてな。そもそも、握ることが出来るかどうかも分からんぞ」
「そこまでか?」
「ああ、そこまでだ。特に、叢雲牙。アレは、真司の手にあるからこそあの程度の気配しか発しておらん。もし仮にアレが単体で箱庭に顕現していれば、強大な魔王となっていたやもしれん」
「……妖刀って刀、道具よね?意識があるの?」
「勿論だとも。持ち主である真司は知っておるはずだが……聞いておらんのか?」
「「知らねぇな/知らないわね」」
昨晩、“百鬼の荘園”に絡まれた事を聞いたが、更に聞かなければならない事が増えた。
このゲームの終わりに待っているであろう追及など知る由もなく、戦いは佳境を迎える。
*
強い。それが、ジャック・オー・ランタンの抱いた相対する少年への感想だった。
特に厄介なのが、圧倒的な邪気を放つ
その一方で、真司もまたジャック・オー・ランタンの強さを感じていた。
特に厄介なのが、まき散らす炎。近付くだけでも肌が焦げるのではないかと思えるほどの熱量を含み、木の根はまるで紙屑のように焼かれている。
(相性的には、鉄砕牙の方が良いのかな)
迫りくる炎を切り払い、真司は思考する。
闘鬼神は癖なく扱いやすいというのが彼の印象。邪気は強いが、そもそもそれらが通じない彼には余り意味はない。
特別な仕様が無いからこそ、担い手の技量がダイレクトに反映される。
来馬森真司の剣術は、斬り覚えの剣術。そもそも手ほどきを受けていない為、完全な我流だ。
だからこそ、強い。
(突っ込んできますか。であるのなら、振るわせない)
炎を切り裂き突っ込んでくる真司を迎撃するべく、ジャックはランタンを持ち上げる。
今の真司は闘鬼神を振り被ったような体勢だ。自然と、そこからの攻撃は限定される事になる。
振り撒いても切り裂かれる炎だが、その切り裂く際には隙が生まれる。そこをジャックは狙っていた。
だが、
「ッ!」
真司は、更に踏み込んだ。具体的には、足場の木の根が砕けるほどの凄まじい力で更に前へと飛び出して後三歩はかかっていたであろう距離を、一歩で詰めたのだ。
だが密着状態。剣を振るうには近すぎる。
ジャックの拳が動き、その前に真司の左腕がブレた。
「フッ!!!」
「ヤホッ!?」
カボチャ頭の眉間へと重く鋭い衝撃が叩きつけられ、ジャックの体は後方へと吹っ飛んだ。
その一撃は、闘鬼神の柄頭に因る殴打。
型が無いからこそ、その攻撃は様々。刀身のみならず、柄頭、鍔、場合によっては鞘まで使って戦う泥臭い戦法こそが彼の戦い方だった。
白煙を上げる眉間の当たりを撫でて、ジャックは空中へと留まった。
「ヤホホ、やりますねぇ。大言壮語ではないらしい」
「……その額、カチ割ってあげようと思ったんだけど存外硬いね」
「それは当然……とはいえ、長引かせるのも宜しくないでしょう?」
掲げられるランタン。地獄の業火が猛り狂う。
明らかな大技。真司は闘鬼神を足場へと突き立てると、鉄砕牙の鯉口を切って抜き放つ。
右手に鉄砕牙。左手に闘鬼神。異形の二刀流だ。同時に、彼の髪の色も更に進み、約半分が白銀へと染まっていた。
「背中のモノは抜かないのですか?」
「危ないからね」
闘鬼神の切っ先を突きつけて、鉄砕牙は肩に担ぐ。
決着の時。
ジャックの頭上では太陽の如し火球が形成され、一方で真司は妖刀を体を右に捻る様にして掲げ、構えた。
そして、
「――――勝者、春日部耀!!」
黒ウサギの宣言が、固唾をのんで見守る観衆へと響く。
そう、このゲームは激突する者達が主役ではない。
炎が霧散し、昂っていた妖気は空気の抜けた風船のように萎んでいった。
「ヤホホ、アーシャは敗れましたか……」
「まあ、走力勝負なら春日部さんに分があったからね」
フワフワと足場まで降りてきたジャックに対して、真司も鉄砕牙を鞘へ納め、闘鬼神の剣身には鞘代わりの白刃布が巻かれこちらも鉄砕牙の隣へと収まった。
先程までの荒ぶる気配は何処へやら、ジャックは疑問を口にする。
「解せませんね」
「何がだい?」
「その背の妖刀は、このゲームに参加したとしてもおかしくない出来でしょう。出場されなかった理由でも?」
「さっきも言った通り、純粋に危ないからさ」
肩を竦め、真司はほんの少しだけ叢雲牙を抜いてみせる。
刀身が鞘から僅かに外気へと晒されたその瞬間、悍ましい気配が本当に一瞬だけ流れた。それも、鞘へと収められれば直ぐに治まり、気のせいであったと思えるほど瞬きの時間。
それでも、十分だった。
「成、程……随分と恐ろしいものを持っていらっしゃるようで」
「まあね」
全力を尽くさねばならない場面ならばそうも言っていられないだろうが、それでもおいそれと出す訳にはいかない代物。
ただの人間が持つには過分にも思える力を有する少年。そして、アーシャに勝利したであろう少女の姿を思い浮かべたジャックはカボチャ頭を振った。
「やれやれ、驕っていたつもりは無いのですがね。中々どうして、素晴らしい人材をお持ちのようで」
「言っておくけど、僕より強い人も居るからね?」
「ヤホホ!そのような相手では、本当に私のカボチャ頭を砕かれてしまいそうだ」
「笑い事じゃないと思うけど……」
「いえいえ、素晴らしいプレイヤーというのはコミュニティ問わずに称えるべき者。それはそうと、貴方のお名前をお聞きしても?」
「僕?……来馬森真司」
「いつか、我らがコミュニティへと挑戦しに来られた際には、不死の怪物ジャック・オー・ランタンとして本気のゲームを約束しましょう」
「それは…………そうだね。その時には、こっちも本気でカボチャ頭を割りに行くよ」
歓談する二人の先では、耀へとアーシャが噛み付いている姿が見えた。
仲良く、とまではいかないまでも交流は生まれている。
和やかな歓談は、しかし唐突に終わりを告げた。
空より数多降り注ぐ、黒く輝いた
笛を吹く道化師の印が押されたそれは、これより始まるゲームを宣言する。
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『ギフトゲーム名 The PIED PIPER of HAMELIN
・プレイヤー一覧
・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界門の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ
・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター
・太陽の運行者・星霊 白夜叉
・ホストマスター側 勝利条件
・全プレイヤーの屈服・及び殺害
・プレイヤー側 勝利条件
一、ゲームマスターの打倒
二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します
“グリムグリモワール・ハーメルン”印』
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魔王襲来である