牙守の一族   作:わんころ

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「足りないものを知覚しろ。そうすれば、ここからは直ぐにでも出ることが出来る」

 

 漆黒の闇の中に一人残された真司は、岐路に立たされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箱庭でも屈指の元魔王、白夜叉。

 箱庭下層に下りる為にその力の大部分を封印している現状の彼女だが、それでもその力は並大抵のものではない。

 彼女の下で始まったのは、箱庭に関する授業と、それから現状における自分たちの立場。

 

「――――あ、おんしは別口で用がある」

 

「へ?」

 

 目まぐるしく世界の変わる中でただ一人、真司の視界は暗闇へと飲み込まれる。

 残った面々が吐き出されたのは、白銀の世界。白い雪原と凍てつく湖畔、そして水平に回る太陽。

 突然の世界の中で面食らうが、それでも不敵な笑みを浮かべながら、十六夜が噛み付いた。

 

「おいおいおいおい、アイツだけ特別扱いかよ」

 

「ふふふ、そう噛み付くでない。あ奴には悪い事をしてしまったのでな。黒ウサギの新しい同士とはいえ、力が覚醒していない状態では一般人でしかない。違うか?」

 

「覚醒していない?」

 

「おんし等も見たであろう?あの錆び刀」

 

「あのボロイガラクタか?」

 

「ガラクタ……まあ、確かに扱えなければそうであろうが……うーむ、まあ詳しい話が出来るでもなし。何より、こっちの話を終えてからとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どうしよっか」

 

 上も下も、右も左も分からない漆黒の世界。

 浮かんでいるのか座っているのか、何も分からない中で真司は一人そこに居た。

 唐突に放り込まれた世界。そこで何をするでもなく、何が出来るでもなく、ただただそこに居るだけ。

 

「足りない物、か」

 

 気持ち、その場に座り込んで胡坐をかいて考える。

 

「……そもそも、僕は一般人なんだけどね」

 

 第一に、ソレが来る。

 来馬森真司は、一般人だ。特殊な恩恵など持ち合わせておらず、自覚できるだけの力を有している訳でもない。

 十六夜の様なパワー、スピードは無い。飛鳥の様な、言霊は無い。耀の様な、他生物と会話できるような力もない。

 

 だがしかし、彼は確かにこの世界(箱庭)へと招かれた。

 

「コレ?」

 

 気になるのは、やはりこの世界で手に入れた錆び刀。

 

「足りない物、足りない物……戦う力?」

 

 ふと口から零れるその単語。それは同時に、彼が内心で抱いていた不安の一端でもあった。

 真司は、己が一般人であると自覚している。特別頭が良い訳でも、力が強い訳でもないという事も。

 

 そんな自分は、最も役立たずである、と。

 

 思わず、真司は拳を握った。

 

「……それは、嫌だ」

 

 真面に理由など聞いていない。それでも、黒ウサギが態々自分達を招いたのは、何かしら理由があるのだろうと、ある程度予想もついていた。

 話した時間も短いが、それでも彼女らが善性である事は理解できた。

 

 彼女らは、真司が真面に働けずとも投げ出す事は無いだろう。

 だが、そんな事は本人が耐えられない。

 

 知らずの内に、真司は立ち上がっていた。

 

「ああ、嫌だ。情けなさすぎる」

 

 嵌っていない最後のピース。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「だって、おかしいでしょ。一度も見た事が無かったのに、初めて見たその瞬間に「これは自分のモノだ」なんて思うんだから」

 

 気味が悪い。そう評したのは、視界に収める度に手を伸ばしたくなる欲求に駆られてしまったから。

 

 真司が胸の内に抱いている欠落感の心当たりは、最早これしか残っていない。

 今のところ手元には無いが、しかしその点に関しては特段心配はしていなかったりする。

 というのも、

 

(呼び出し待ち、の様な気がする)

 

 予感があるから。後は、腹を括るだけ。

 

「はぁ……アレから逃げたくてここまで来たはずなんだけど」

 

 ぼやきながらも、真司は錆び刀をズボンのベルトへとねじ込んで固定して暗闇の虚空へと視線を向けた。

 数度息を吸って吐いて、そして一つ間を開ける。

 

「――――来い、叢雲牙(そううんが)

 

 声量は呟く程度。しかし効果は劇的だ。

 何も無かった空間に、黒紫色の瘴気が立ち込め、黒い龍を模した邪気が駆け、膨大な妖気が膨らんだ。

 数ある妖刀の中でも、きわめて異質。その上、妖気のみならず邪気や瘴気までも内包するが故に並大抵の者では扱えず、仮にその柄を握ることが出来たとしても刀に宿った悪霊によって操られる始末。

 対処法は、無理矢理従えるか。或いは、誰も触れられない場所に封印するか。破壊も出来ず、遠ざけるしか道が無い。

 

 だがこの時、数百年、いや千年単位の時を超えて、妖刀は担い手を定める。

 

 真司の目の前に現れた異形の大太刀。

 骨の様な白い柄と、その柄頭に嵌め込まれた大きな紫の水晶。鱗を連ねた様な鞘に収まったソレは、淡い紫色の妖気を発しながら暗黒の中に浮かんでいた。

 

「すー……ふぅー……よしっ」

 

 一つ深呼吸を挟んで、真司は妖刀の鞘を掴む。

 瞬間、その手を伝って届けられるのは三つの毒気、ではなく歓喜の感情。

 そして、引き抜かれる。

 

 叢雲牙は、妖刀という括りだがその実態は刀身の細い諸刃の直剣である。

 抜き放たれた剣身は、一度も手入れされずとも一切の曇りも錆も刃毀れもありはしない。

 鞘を放り、柄を両手で握って大上段へと担ぎ上げる。

 

「せー…………のッ!!」

 

 掛け声と共に、振り下ろされる一刀。

 暗闇は切り開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは、突然の事だった。

 耀が白夜叉の提示したギフトゲームを見事クリアした後のことだ。

 

「む?」

 

 白夜叉が顔を上げる。

 太陽が水平に回る空。昼とも夜とも言えない白夜の空。

 そんな空に、唐突に亀裂が走った。同時に、その漆黒の亀裂より膨大なまでの黒紫色の瘴気が宛ら火山の様に噴き出してきた。

 突然の異常事態に目を剥く“ノーネーム”の一同だが、その一方でこのゲーム盤の持ち主である白夜叉は笑みを浮かべていた。

 

「ようやっと戻って来たな」

 

「えっ…………まさか!」

 

 白夜叉の呟きを捉えた黒ウサギは、慌てて亀裂へと目を向ける。

 亀裂の縁に手が掛けられる。そこから顔を覗かせたのは、()()()()()()()()()()()()()()()真司だった。

 亀裂に掛けた手とは逆の手には、禍々しい気配を放つ大太刀が握られている。

 顔を覗かせた真司は、黒ウサギ達に気付くと軽く手を振った。

 

「あ、皆居た」

 

 軽い調子でそう言うと、彼は軽やかなジャンプと共に雪原へと降り立った。

 先程分かれた時より前と変わらない態度と雰囲気だ。変化は一つ、彼の右手に握られた傍目からでも分かる禍々しい気配。

 

「イメチェンか?真司」

 

「え?………あ、これ?」

 

 十六夜の問いに、真司は右手の剣を持ち上げる。

 そうだけど、そうじゃない。

 確かにどこから持ってきたのかも分からない剣に対する疑問はある。しかしもう一つ気になるのが、最初は一房程度だった白髪が頭の半分を覆っている事だ。

 だが、当の本人は()()()()()()()()()()()()()

 

「鞘」

 

 ポツリと呟けば、塞がろうとしていた空中の亀裂から細長いものが飛び出してきて、掲げられた真司の左手に収まる。

 そのまま鞘に剣を収めれば禍々しい気配は収まってしまった。

 同時に髪の色も、元の黒髪に一房の白が混じる様なものへと戻ってしまう。

 

「ふっふっふ、どうやら力は得たらしいな」

 

「あー、はい……白夜叉さんは、僕のこの剣の事を知ってたんですか?」

 

「いいや?正確には、おんしの一族に関しての触りを知っておるだけだな」

 

「真司さんの一族、ですか?」

 

「さよう。“来馬森”という苗字は、そもそも隠し名として変化していた結果の形に過ぎん」

 

「へー……そうなんですね」

 

「おんしの事なんだが?」

 

「いや、その辺は興味なくて……」

 

「そうか……まあ、とにかく。おんしの苗字は自身の役割を秘密裏に伝えていくためのもの。本来の読みは、こうなる」

 

 白夜叉が空中に文字を示す。

 

「――――牙守(きばもり)の一族。“牙”と呼称される妖刀を管理、使役する一族。それがこやつの一族よ」

 

 

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