牙守の一族   作:わんころ

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 月夜の晩。空に輝くのは、十六夜の月。

 月光に照らされながら、来馬森真司は自身の得た力への理解を深めるべく検証を行っていた。

 場所は、“ノーネーム”の本拠地。百二十人の子供たちが暮らす別館入り口の前だ。

 

「僕の髪、白くなってる?」

 

「ああ、なってるな。四割程度って所か?」

 

 叢雲牙を背負った真司の手にあるのは、巨大な片刃の剣だった。

 反りが深く、幅の広い刀身と鍔に該当する部分は白いふさふさとした毛に覆われそこから刀身とは逆に伸びる柄はボロボロの状態。

 

「にしても、鉄砕牙だっけか?あの錆び刀がそんな形になるとは、俺も思いもしなかったぜ」

 

「それは、僕もだよ。妖力?の有無が大事らしいね」

 

 そう、この巨大な牙の如き刀は元々はあの錆び刀なのだ。

 真司の力の覚醒と共に、妖刀はその本来の姿を表していた。

 鉄砕牙。それがこの妖刀の銘だ。

 

「それにしても、“牙”ね。鉄砕牙は妖怪の牙を基にして造られたらしいけど……どれだけ大きな妖怪だったんだろうね」

 

 鞘へと妖刀を収め、真司が取り出したのはシルバーホワイトの一枚のカードだった。

 ギフトカードと呼ばれるコレは、この箱庭の世界においても必須級のギフトの一つ。コレがあれば、自身がどんな恩恵を宿しているのかを把握する事が可能で、ギフトの収納も可能。

 

 カードに表示されるのは、来馬森真司・ギフトネーム“牙守”“叢雲牙”“鉄砕牙”

 

 妖刀の扱いと、適正に特化している内容だ。その一方で、彼の肉体の変化が明かされていないが、コレは白夜叉曰く、ギフトではなく体質に因るものだろう、という見立てだった。

 十六夜が大きく伸びをする。

 

「にしても、そろそろ奴さんも腹括ってくれねぇかな。風呂入れねぇんだが?」

 

「僕のせいかな?無駄に、緊張させちゃったかもしれない」

 

「はっ!アレで緊張するってんなら、真司の背中の剣抜いて時には、失禁してるだろ」

 

 言いながら、十六夜は小石を拾い上げて近くの茂みへと投げつける。

 投石自体危険な行為ではあるが、彼の場合は文字通り桁違い。

 第三宇宙速度で飛来する小石は、そのまま砲弾の様な威力と速度、破壊をもたらした。

 同時に、茂みから吹っ飛ばされた黒い影たちへと、真司が抜刀した鉄砕牙の切っ先を向けてその動きを制する。

 衝撃に別館の窓が揺れて、慌ててジンが飛び出してきた。

 

「ど、どうしたんですか!?」

 

「侵入者らしいぜ?例の“フォレス・ガロ”の連中じゃないか?」

 

「まあ、目的は察せられるけどね」

 

 穏やかな口調だが、真司の目は厳しい。現に、突きつけられた鉄砕牙の刃は僅かながらも揺れず小さな動き一つ見逃さないだろう。

 一方で、吹き飛ばされた衝撃で気絶した者はそのまま転がっていたが、意識を保っていた者は妖刀の切っ先を突きつけられつつ息を呑んでいた。

 

「何と出鱈目な力か……!蛇神を斃したという噂は本当だったのか…………!」

 

「妖刀使いもかなりの力量と見た………これならば、ガルドとのゲームでも或いは…………!」

 

 彼らから敵意は感じられない。一応、変な動きが出来ないように制されてはいるものの、それでも襲い掛かって来る事は無いのだろう。

 同時に、雲で切れていた月明かりが彼らを照らした。

 

「おお、何だお前ら。人間じゃないのか?」

 

 十六夜が驚くのも無理はない。侵入者たちは、それぞれ人としての形を保ちながらも犬の様な耳のある者や、爬虫類の様な瞳をした者などが居たのだから。

 

「我らは人をベースに、様々な“獣”に関するギフトを有しているのだ。だが、ギフトの格が低く、こうして中途半端な変幻しか出来ずにいる」

 

「へぇ?……ま、気になる事は後でも良いか。お前ら、何か用があってここまで来たんだろ?ほれ、さっさと話せ」

 

 敢えて()()()()()()()()()()話の続きを促す十六夜。

 その表情を視界の端で捉えた真司だが、何も言わずに鉄砕牙を引いて肩に担ぎ話を聞く姿勢となった。

 促された彼らは沈鬱そうに黙り込むが、意を決したのか目を見開き、同時に深々と頭を下げる。

 

「どうか、恥を忍んで頼みたい!我々の……いや、魔王傘下のコミュニティである“フォレス・ガロ”を完膚なきまでに叩き潰してはくれないだろうか!?」

 

「嫌だね」

 

 決死の思いで告げられた言葉は、しかし間髪入れずに拒否られる。

 隣で聞いていたジンも、そして侵入者たちも呆気にとられたかのように、ポカンと口を開けるばかりだ。

 

「どうせお前らも、ガルドって奴に人質を取られてる連中だろ?大方、明日のギフトゲームに向けて餓鬼どもを攫って来いって言われてきたんだろ」

 

「あ、ああ……そこまで見抜かれているとは。我々としても、人質をどうする事も出来ずに――――」

 

「その人質、もう居ねぇから。この話題は、終了な」

 

「なっ…………」

 

「十六夜さん!?」

 

 告げられた衝撃の事実に言葉もない侵入者たち。そして、呆気に取られていたジンが聞き咎めたのか、鋭い声で糾弾してきた。

 

「何故その事を――――」

 

「隠す必要があるのか?結局、明日のゲームでお前らが勝ったら露見する事だろ、早いか遅いかの違いしかねぇよ」

 

「だからといって、そんな……他に言い方があるじゃないですか!?」

 

「無いよ、ジン君。どれだけ不憫でも、同情の余地があっても、少なくともこの人たちにする配慮は、僕らには無い」

 

 静かにキッパリと告げる真司の言葉に、ジンは目を剥いた。

 問題児の中でも、彼は感性的に自身に近いと思っていたのだ。だからこそ、ここまで厳しく、冷たい声色で断言されるとは思いもよらなかった。

 固まったジンから視線を外し、真司は侵入者たちへと視線を向ける。

 

「貴方達は確かに人質を取られて嫌々やってるつもりかもしれない。でも、()()()()()()()()()()()?」

 

「そういうこった。命令だろうと何だろうと、こいつらはやった。ガルドって奴が大本だろうが、結局は同じ穴の狢じゃねぇか」

 

 吐き捨てる様にそう言った十六夜に対して、侵入者たちは項垂れる。

 理由はどうあれ、彼らはガルド=ガスパーの片棒を担いできたのだから。

 

「ひ、人質たちは、本当に……?」

 

「…………はい。ガルドは、攫ってきたその日の内に彼らを手に掛けていた様です」

 

「そんな………!」

 

 侵入者たちは、拳を握りながらも同時に悲嘆にくれる。

 十六夜たちの言うように、同じ穴の狢だ。それでも、止まれなかった。止まる訳にはいかなかった。

 いつか、人質たちに会うために。

 しかしその思いは踏み躙られた。もう二度と出会えることも無い。残ったのは、ただ只管に手を汚し続けたという事実だけだ。

 すすり泣きすら聞こえてくる。そんな彼らを眺めながら、真司は鉄砕牙を鞘へと納めた。

 彼らの気持ちに配慮しないとは言ったが、分からない訳では無い。少なくとも、真司が同じ立場ならば手を汚していたかもしれないのだから。

 もっとも、その前に人質をどうにか連れ出す方法を考えただろうが。

 

 一方で、十六夜の方はというと、この状況を利用しようかと算盤を弾いていた。

 

「お前ら、“フォレス・ガロ”とガルドが憎いか?再起も出来ない程に、叩き潰されて欲しいか?」

 

 故に、一手を打ち始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『漸く、漸くだ……我が担い手に出会うとは…………』

 

 声が木霊する。

 

『時を数えて千を超えたか?…………まあ、良い。だが…………』

 

 声に怒りが滲む。

 

『アレは、要らぬ……アレ等は要らぬ………鉄砕牙、そして天生牙。要らぬ、要らぬ……!』

 

 声が重く響く。

 

『我以外の“牙”は、我が担い手には必要無い……!!!』

 

 瘴気が、妖気が、邪気が渦巻く。

 

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