牙守の一族 作:わんころ
真紅の羽織に、腰の左側には錆び刀。背には異形の大太刀。
「目立ってる」
「そう言われてもね……」
耀に指摘され、真司は頬を掻いた。
一夜明けて、“ノーネーム”の一行は今回のギフトゲームが行われる会場へと向かっていた。
その道中で目立つのは、種族柄の黒ウサギとそれから傍目からでも分かる禍々しさのある剣を背負った真司だ。
鞘に納めている限り大人しいものなのだが、やはり敏感な者は叢雲牙の毒気に気付くらしい。
であるのならギフトカードに収めてしまえば良いのかもしれないが、
「まさか、収めた叢雲牙が勝手に飛び出してくるとか思わないでしょ」
「アレはびっくりした」
「それにつられて、鉄砕牙も出てくるし。持ち運ぶのならこうしないとどうしようもないよ」
そう、やむにやまれぬ理由があったのだ。
妖刀はギフトの括りの中でも特殊な場合がある。その中でも、“牙”を冠する妖刀群は取り分けだ。
「白夜叉様のお話では、“牙”と付く妖刀は強力な妖怪や悪鬼羅刹に関するものが多いというお話です。そして、力有る存在は例え本体から切り離されたとしてもその力は衰える事は無い、とも」
「つまりその……叢雲牙と鉄砕牙だったかしら?その二振りも特別という事?」
「鉄砕牙はとある大妖怪の牙を打ったものらしいのデス。一方で、叢雲牙は更に歴史が古く太古の時代より存在しているとか。本来は、持っただけでも瘴気、邪気、妖気の三種類の毒気によって参ってしまうものらしいのですが………真司さん、本当に何ともありませんか?」
「全く?……うん、僕が原因の話だけどさ。今日のギフトゲームに関しての話もしておくべきじゃないかな?」
悩んでも仕方がない、と真司が話を切り替えに掛かる。彼自身、力の無さを埋める為に納得しようとはしているのだが、如何せん叢雲牙自体に対する小さな蟠りとも言うべきものは残っている。
そもそも、真司は自分の事を知らない。正確には、自身のルーツを良く知らない。
自分の実家の事、家系の事。何故妖刀とも呼ばれる刀を祀っていたのか、そしてその刀を自分のモノに出来てしまったのか。
来馬森真司は、まだまだ何も知らない子供でしかなかった。
*
“フォレス・ガロ”と“ノーネーム”によるギフトゲーム。
その結末は、“ノーネーム”の勝利という形で幕を閉じた。
耀が大きな怪我をしてしまったが、それでもそれ以外に何も無かったことは僥倖だったと言えるだろう。
黒ウサギは耀を抱えて一足先にホームへ。十六夜たちはやる事があるとその場に残り、真司はというと、
「…………」
一人路地に入っていた。
暫く進んで、人々の雑踏が遠くなり薄暗く、黴臭いニオイが鼻につく辺りで彼は立ち止まった。
「僕に用事かな?」
虚空へと声を投げかける。傍から見れば、大きな独り言にしか思えない。
だが、
「――――叢雲牙を寄こせ」
ザラザラとした声と共に、空間が歪む。
奇妙な風体だった。瓢箪の様な見た目の面を被り、覗き穴は上下に小さく開けられそこから赤い眼光が覗いている。
左右の腕の長さが違い、右腕は宛らテナガザルの様に長く、毛むくじゃら。左腕は人の形をしていながらも毛むくじゃら。
指は、その一本一本が串の様に細く、そして長い。アイアイという猿の中指に似ていた。
「叢雲牙を寄こせ、ね。理由を聞いても?」
「知れたこと……最上位の妖刀をこれ見よがしに見せつけるのならば、奪われたとて文句は言えまい?」
「別に見せびらかしてるつもりはないんだけどな」
右手で頬を掻きつつ、左手は鉄砕牙の鍔元へと添えられる。
強弱を測れる程経験がある訳では無いが、襲われたとしても対応できる。それが、真司の見立てだった。だが、油断もしない。
ギフトの概念は、単純な当人同士に実力差だけで勝敗を決する事は無いから。
しかし、ここ箱庭にもルールがある。
「ならば、戦え。ギフトゲームだ」
「殺してでも奪いに来るかと思ったけど?」
「如何に叢雲牙があろうとも、あの階層支配者には敵わない。であるのなら順当な手段で手に入れるまで」
見た目に反して、最低限の領域は守るらしい。その場から跳躍し、長い右腕をたなびかせて近くの建物の屋根の上へ。
「今宵だ。月が頂点に掛かる頃、街の外へと来い。そこでギフトゲームを開催する」
「……それに僕が乗る理由が無いけど?」
「であるのなら、“ノーネーム”の餓鬼を殺す」
「やらせるとでも?」
「“フォレス・ガロ”の馬鹿どもと一緒にするな。我らには、遠隔呪術を使える者も居るのでな」
それだけ言うと、屋根の向こうへと消えていく異形。
少しの間戻ってこないか警戒していた真司だったが、音が遠のいていくのを確認し左手を鉄砕牙より離した。
そして、ため息を一つ。
「…………行くしかない、か」
“フォレス・ガロ”の蛮行を知っている以上、悪辣な手段を取ってくるコミュニティが居る可能性は必ず持っておかなければならないと真司は学んでいた。
相談はしない。自分が原因であるし、今日はギフトゲームを終えたばかりであり、更にその準備というだけで黒ウサギはてんてこ舞いだった。
この誰かに頼れないという面もまた、真司の悪い点なのだろう。
*
時は流れて、夜。
大半が廃墟と化している“ノーネーム”のホームを抜け出す事はそう難しい話ではない。ついでに侵入も。
妖刀を手に入れてから格段に上がった身体能力を発揮しながら、真司は夜の闇を駆け抜けていた。
程なくして、箱庭の外壁と内側を繋ぐ階段を下り、彼の体は箱庭の外に辿り着く。
「スンッ…………」
鋭く短く、鼻で周囲のニオイを嗅ぐ。身体能力と同時に鋭敏となった五感を駆使して、探すのは昼間に出会った異形の相手。
真司は気付いていないが、今彼の髪は約一割程が白く染まっていた。
彼の髪色は、一瞬のメーターだった。
人であるか、人ならざる者であるか。その配分。
ニオイを辿って駆ける事、数分。月が天頂に至ると同時に、真司の姿は森の中にあった。
ギャップ、と呼ばれる場所が森にはある。これは、様々な要因で森に生えた樹木の一部が間引きされたように無くなり、草本などが茂った場所。要は、森の中の空白地帯。
「逃げずにやって来たか」
「逃がす気なんて無い癖に、よく言うよ」
月明かりに照らされて、異形が現れる。
左右で長さの違う腕を体に絡めながら、異形は仮面の覗き穴から覗く眼光を細めた。
「今宵、我は真なる
長さの違う腕が左右へと開かれ、眼光が怪しく光る。
同時に、異形の傍らに現れる一枚の、
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『ギフトゲーム名 “
・プレイヤー一覧 来馬森真司
・クリア条件 夜が明けるまでに百の“猿”の討伐
・クリア方法 気絶、昏倒などの非殺傷による無力化は無効
・敗北条件 夜が明ける。プレイヤーの戦闘続行不可。降参は無効とする
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下“プレイヤー”はギフトゲームに参加します
百鬼の荘園 印』
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シンプルなゲーム内容だ。同時に、彼らの周囲半径三キロにドーム状の結界が張られる。どうやらこれが今回のゲームのフィールドであるらしい。
同時に、それらは現れた。
「っ………」
反射的に、真司は鉄砕牙を抜いた。
真司を取り囲むようにして現れる無数の大小様々な猿たち。
大きいものでは三メートルは優に超えているだろうか。その額には一本の角が見える。
「我は、猿鬼。そして狒々と猩々の霊格を持つ。さあ、始めよう。叢雲牙を寄こすがいい!!」
もっとも大きい猿の号令と共に、百の群れが襲い来る。
一夜の演武、開幕だ。