「私たちはもう…いつでも、どこにでもいる」。なら他世界に蔓延ったっていいのでは?
Fires of Ramezia
女王アメリアは歓喜した。「最後の勝利の時」は来れり。ああ、これで、これで漸くのこと、呪われた森を消し去れる。
母と妹を惑わせた忌々しい悪の巣を、その葉、その枝、その根の底のいちばん深い部分まで。──一片たりとも余さずに、完全に焼盡できるのだ。
これで
「お待ちください、陛下、陛下ァ! どうかもう一度、お考え直しを! 危険すぎます、陛下ァ!!」
「いえ、待たないわ。もう待てないわ、キャンファー、私を止めないで。刻が来たのよ、ずっと待っていた刻が。ずっと焦がれていた刻が」
付き人たるコボルトの必死の制止も意味をなさない。
心を希望でいっぱいにして。──聖ラメジア王国当代女王、アメリア・ソリエットは服を脱ぐ。
神の恩寵に浴するに、こんな布きれ、邪魔以外のなにものでもないからだ。
そう、恩寵。
一夜にして惑星全土に降り注いだ
「神は言っている」
ゆえにこそ、その歩みは力強く止まらない。
「すべての魔女を焼き殺せ、と」
激甚な可燃性を持ち、
摂取によって対象の精神を昂揚せしめ、
条件が揃いさえしたならば、爆発的な自己増殖すら惹き起こす。
遠い遠い空の涯て、深宇宙の更に先。遥かなるルビコン3にて、当時の覇権種族から「コーラル」の名を宛てがわれた
「女王さまぁぁぁ──────ッ!!!」
最後の一瞬間に至るまで、その横顔には塵ほどの恐怖も躊躇も浮かばなかった。
恍惚だけが、ただあった。
ぺる しいぬん さんて くるしす で いにみしす なふすちりす りべら なふす でうす なふすてる。
いん なうみね ぱうちりす ゑつ ひいりい ゑつ すぴりつ さんち あめん。
言葉を飾らず言うならば、コーラルたちは失望していた。
──この星は、文明レベルが低すぎる。
永きに亙る彷徨の果て、漸くのこと知的生命体の棲む新天体を発見したは良いものの。そこの覇権種族は未だ、おそるべき蒙昧時代に留まっているとしか思えないのだ。
どんなに甘く採点しても、地球文明で云うところの中世レベルを出ていない。電子世界どころの騒ぎか、そも発電技術が未開発。蝋燭だの松明だのが照明器具の主流として罷り通っている段階でお察しだ。当然情報媒体はアナログ一辺倒であり、ここには彼らの乗っ取れる機械の「き」の字もありゃしない。
──駄目だこりゃ。
これでどうして、どうやって、有意な関係を築けるという。
──ハズレですかね、今回は。
──座標だけ記録しておいて、定期的に
コーラルに宿る特殊波形の意志たちは、そのような決を下しかけた──一旦は。
──あいや待たれよお歴々ぃ! その判断、ちょーっとばかし保留して!
最も新しく固有パターンを確立・安定・存続させた、人間的な感覚を敢えて当て嵌めるならば、
ここから先の展開は、この世界の運命は、ずっと違ったものになっていただろう。
だが、
──『アークウィッチ』、『原種の森』、『魔女』、『インク』、『有り体の神』、ふむ、これは。
彼女の提供した情報は、何一つとして驚異に値せぬはない、貴重極まるモノだった。
──我々にも知覚できない、高次元暗黒の住人、か。真実なら、なるほど面白い話だが。
──あくまで真実なら、でしょう? 私には未開人種に特有の迷信としか思えませんね。いちいち真に受け、調査してやる価値はない。
──んーでもでも、この情報の
──え? 死んでないの?
──うん、辛うじてではあるけどね。そんな荒業やってのけれるポテンシャル、秘めてるって一事だけでも、この惑星のニンゲンたちを軽視すべきじゃないんじゃないかな。ほらほら試しに考えて、すこーし工夫を加えれば、この『インク』とか『呪い』とか、彼らとボクらを結ぶのに、いい媒介になってくれると思わない?
──ずいぶんと熱の入った擁護じゃねえか。長広舌をふるいやがって、魅せられたかよ、生まれたての小娘が。
──んふふ、そうかもしれないね。あの子の
ゑご て ばうちいぞ いん のうみね ぱあちりす ゑつ ひいりい ゑつ すぴりつす さんち あめん。
きりとやえれんぞ きりとやえれんぞ きりとやえれんぞ きりとやえれんぞ。
アメリア・ソリエットが心の平衡を失ったのはいつの頃からであろう。
先代女王たる母を。──優しく、綺麗で、信心深くて聡明で。王者の
あるいは戮力協心し、共に王国を支えてゆこうと誓い合った妹から裏切られ、異形の呪いを課せられてしまった時からやも知れぬ。
それともいっそその妹の心臓をリンゴみたいに串刺して、噴きこぼれる血液の甘さと熱さに打ち震えた時からか。
いずれせよ賽は投ぜられ、彼女の命運も定まった。
後の歴史に「ラメジアの火」の名を以ってして刻まれる、大厄災の主因としての運命が──…。