オベロンみたいな理解者系生徒を先生の傍に置きたかった話 作:星ノ瀬 竜牙
9/21に日間ランキング9位に行ってました。
ありがたい限りです。これからも適度に頑張ります。
よろしくお願いします、先生
「だからもし───彼女と出会うことがあれば、先生。あの娘のことも、どうか……よろしくお願いします」
何処かの誰かと、そんな約束をしたような……気がした。
────
「"……ん……ここ、は……"」
目を覚ます。広い部屋、うっすらと視界に映る窓から見える景色は下に街並みが拡がっているのがわかる。ここが、高所であることをなんとなく理解する。
「『先生』? どうやらお目覚めだったようですね」
「"君は──"」
声をかけられる。声の主を探して、視線をそちらに向けると、そこには紺色に寄った黒い髪、特徴的な尖った耳。眼鏡をかけた少女が立っている。美人といって差し支えない大人びた女性だ。そして
その少女は目の前にいる大人びた彼女とは何処か正反対のような……透き通った長い白髪に、同じように澄んだ青い瞳、純白の翼。お姫様や天使を思わせるその佇まいはまるで、童話からそのまま飛び出てきたような可憐な少女であった。隣の少女とは正に真逆、子供らしい可愛さを備えていた。
「申し遅れました。私は
七神 リンと名乗った大人びた少女のお辞儀にこちらも頭を下げる。
「そしてこちらは──」
「
「"うん、初めまして。よろしくね"」
妃童 ティアと名乗った可憐な少女の自己紹介にもまたよろしくと返す。
「……そして、あなたはおそらく……私たちがここに呼び出した先生……のようですが」
「……ああ、すみません。推測形でお話したのは、私も先生がここに来た経緯を詳しくは知らないからなのです」
リンの言葉に、そういえば……と思い返す。不思議なことに、ここに至る経緯がどうだったのか曖昧だ。電車で来たような気もするし、別の何かで訪れたような気もする。誰かにここに来ることを約束したような覚えだけは確かにあるけれど……
「まあ、間違いはないと思います。
少女、ティアの言葉は確信めいたものだった。こちらを先生だと断言し、確信しきった言葉。一寸たりとも疑いすらしてない、純粋な言葉。
「……ティアさんがそう言うのでしたら、きっと間違いはないのでしょうね。こほん、失礼致しました。先生。混乱なされている最中かもしれませんが……今は、私たちについてきてください」
「──どうしても、先生にやっていただかなくてはいけないことがあります」
「"私がやること……?"」
「そこまで深刻に考える必要はありませんよ、先生。ただちょっとだけ、学園都市の命運を賭ける大事なことを手伝ってもらいたいだけですから」
「ティアさん」
「……おっと。ふふ、失礼しました。冗談……ではまあないのですが、そのぐらい大袈裟な方が、気も引き締まるというものでしょう?」
ティアの言葉をリンは咎めようとする。その視線をのらりくらりと躱すようにしながらティアはくすり、と微笑んだ。
「さ、行きましょう。先生、リン代行?」
「……はあ……まったく……すみません、先生。このまま彼女について行ってもらえると助かります」
「"わかった"」
ティアの誘いに赴くまま、リン、そして先生の順に歩き少し大きなエレベーターに乗る。階層がかなり多く、この場所が高いことをさらに理解させられる。
「学園都市『キヴォトス』へようこそ、先生」
「"そういえば、さっきも言ってたけど学園都市って?"」
「ああ、それは読んで字のごとくですね。このキヴォトスは数千の学園が存在しているんですよ。そしてその無数の学園が集まって、ひとつの巨大な都市を形成しているんです。だから『学園都市 キヴォトス』と呼ばれているんですよ。
……もちろん、先生がこれから勤めることになる……勤務先もここになりますね。先生なので当然なんですけど」
「"なるほど……ありがとう、妃童さん"」
リンの言葉に対する疑問を解消するために、ティアはそう言って説明する。
なるほど確かにここはそういう意味では学園都市なのだろう。
「いえいえ、お構いなく。……それと、ティアで構いませんよ」
「"わかった、ならティアって呼ばせてもらうね"」
「ふふ、はい」
「こほん……先生がいらっしゃった場所とは色々な事が違っていて、慣れるのに最初は苦労するかもしれませんが……先生なら、きっと大丈夫でしょう。あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですからね」
「……当の本人は色々私にぶん投げてますけどね」
リンのそんな全幅の信頼を置いた言葉に対して、ぼそっと呟くティア。
「ティアさん」
「──おっと、失言でした。今のは聞かなかったことに」
それを、聞き逃すような彼女ではなく再び咎めるような視線を送られ、すっとティアは先生の後ろに回る。
「……こほん、今の話はこの後ゆっくりと説明することにしまして──」
機械音がエレベーター内に鳴り響く。どうやら目的の階に到着したらしい。
エレベーターから外に出れば、なんだか周りが騒がしい様子を見せているようで……?
「代行!見つけた!! 待ってたわよ!今すぐ連邦生徒会長を呼んできて!
……って、うん? 隣の大人の方は……?」
「首席行政官、お待ちして──」
「げっ──」
「──……お待ちしておりました」
黒髪の少女がふと、こちら……というか、今後ろに隠れたティアを見てなにか言おうとしていたような気がした。
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」
ツーサイドアップの腰まで伸ばした菫色の髪、同じ色をした瞳の少女、黒い長い髪と血のような赤い瞳、そして黒い翼の少し大きな少女、サイドテールの純白の髪に、赤い瞳の少女、リンのような特徴的な尖った耳と黒縁のメガネ、そしてクリーム色に近い髪の少女が、リンに対して何かを問いつめるように話しかけてきた。
「ああ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね」
「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん?」
「こんな暇そ……失礼、大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かっています」
「──今、学園都市に起きている混乱の責任を問うために、でしょう?」
リンの面倒くさそうな、少々辛辣な言葉を耳にして思わず苦笑いしてしまう。
どうにも彼女も彼女で色々と手を焼いているようだ。
「そこまでわかっているなら何とかしなさいよ! 連邦生徒会なんでしょ!!
数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!? この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!!」
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したという情報もありました」
「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」
「戦車やヘリコプターなど、出所の分からない武器の不法流通も、2000%以上増加しました。……これでは、正常な学園生活に支障が生じてしまいます」
やいのやいの、とリンに対して苦情を告げる彼女たちを見て、首を傾げてしまう。
「"……ティア、彼女たちは……?"」
「左から順に、ゲヘナ学園の風紀委員会所属の
小声で後ろに隠れたティアに聞くと、彼女もまた小声で名前を紹介してくれる。
──二名ほどにだけ、少し気まずそうな顔を浮かべている。少し無遠慮に聞いてしまっただろうか。
「そして……あー……えーっと……トリニティ総合学園の正義実現委員会の副委員長の
「"教えてくれてありがとう。あと、ごめんね"」
「……いえいえ、これぐらいならお構いなく」
どうも、彼女たち……トリニティ総合学園の少女たちと何かあったようだが……今はきっと触れるべきではないのだろう。と判断して、その辺りは問い詰めるのをやめた。
「こんな状況で、連邦生徒会長は何をしているの? どうして、何週間も姿を見せないの? 今すぐ会わせて!!」
「……あー、こほん。それは不可能なんですよ、ユウカさん」
「貴女は……たしか──」
「妃童 ティアです。お見知り置きを」
「あ、どうも……って、そうじゃなくて! 不可能ってどういうこと!?」
「……すごく言いづらい話ではあり、本来は機密情報なのですが……さすがにこれ以上は隠しきれませんし、先生も到着したことですから……いいですよね、リン代行?」
「…………そうですね、これ以上は不可能ですし……致し方ありません」
「……?」
リンとティアの掛け合いに、ユウカは首を傾げる。一体何の話だ、と不思議そうな様子だ。
「はい、それじゃあ……ぶっちゃけますね。
───
「は──?」
「──はあああああ!?!?!?」
「やはりあの噂は……」
いやー、参りましたね☆ なんててへ、と笑うティアの言葉に対して、驚愕するのはこの場に訪れていた四人であった。
「……そのため、結論から言いますと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です」
「権限ぐらいは
「ティアさん」
「おっと」
何度目か分からないリンの視線にひょい、と先生の後ろに隠れるティア。
「認証を迂回できる方法も模索しましたが……
「その言い方では……今はその方法がある、ということになりますが、首席行政官?」
「……はい。この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」
「!?」「……!」「……この方が?」
視線が、スーツの上から白衣を着て、連邦生徒会のものと同じ名札を首から下げている大人へと集まる。
「"……?"」
「"あ、私か"」
そういえば、先生ってさっき呼ばれたんだった。とぽん、と手を打ち自覚する。
「ちょっと待って! そういえばこの先生はいったいどなた? どうしてここにいるの?」
「……キヴォトスではないところから来た方のようですが……先生だったのですね」
「はい、こちらの先生は……これからキヴォトスの先生として働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物でもあります」
「行方不明になった連邦生徒会長が指名……? ああもう、ますますこんがらがってきたじゃないの……」
「まあ、あの人そういうところ──」
「ティアさん」
「あ、はい」
さっきから定期的に連邦生徒会長への辛辣な評価を投げようとするティアとそれを阻止するリンが視界に入るが、それを一旦は置いておいて……目の前の少女たちに挨拶をする。
「"初めまして……でいいのかな?"」
「"今日からこのキヴォトスで働かせてもらう先生です。よろしくね"」
「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの──……って、挨拶は今はどうでもよくて……!!」
「そのうるさい方は気にしないでも構いませんよ。続けますと──……」
「誰がうるさいって!? 私は早瀬 ユウカ!! 覚えておいてください、先生!」
「"うん、よろしくね。ユウカ"」
名前は既にティアから聞いていたけど、なんというか元気な子だな、という印象を抱く。それでいて真面目気質な少女だろうか。
「……こほん、先生は元々……連邦生徒会長が立ち上げた……ある部活の担当顧問としてこちらに来ることになりました。それが──」
「──連邦捜査部、『
「単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを制限なく加入させることすらも可能であり……各学園の自治区で、制約なしに戦闘活動にも介入可能……ですよね、リン代行」
「……ええ、概ねはティアさんの語った通りです。なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが……」
ティアの説明に頷くリン。なるほど、どうやら先生としての役割はそこにあるようだ。とひとり納得する。確かに、彼女の言うとおり権限としては余りにも大きすぎる。例え「大人」であったとしても、これだけの権限をひとりに集約させるのは中々どうして、とてつもないことであることぐらいは予想できる。
……言ってしまえば、こちらの行動ひとつで他学園の存続すら決定しかねないような、そんな代物だ。
末恐ろしい。と思うのは仕方ないことだろう。
「……まあ、不気味な話ではありますよね。先生を幾ら信頼している、と言っても持たせている権限が大きすぎますから」
そんな
「……シャーレの部室は、ここから約30km離れた外郭地区にあります。
今はほとんど何もない建物ですが連邦生徒会長の命令で……そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます」
「ですので、先生をそこにお連れしなければなりません」
そう言いながら、リンは何処かへと通信を繋げる。
「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……」
『あー、シャーレの部室ぅ?……ああ、外郭地区の? そこ、今大騒ぎだけど?』
ヴィン……とホログラムの映像が現れ、桃髪のツインテールの少女の顔が映る。モモカと呼ばれた人物で間違いないようだ。
「……大騒ぎ?」
『矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ』
「……はい?」
『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。
……巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?』
『それで……どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?』
「…………」
『まあでも? もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事……あ、先輩。お昼ご飯のデリバリーが来たからまた連絡するね!』
「……………………」
「……あちゃー」
プツン、と途切れたモモカとの通信に対してリンは無言になり……ティアは苦笑して大袈裟なぐらいに手で顔を覆う。
少しして、リンがプルプルと身体を震わせる。あ、これは怒ってるやつだ。と何となく直感的にそう思った。ティアもそれに気付いたようで、ささっとこちらの背に隠れた。
「"あー……深呼吸、する?"」
「……だ、大丈夫です。……少々問題が発生しましたが、大したことではありません」
「いや、大した事じゃ──」
「ティアさん?」
「あっ、なんでもないです。黙らせていただきます」
す、と逃げるようにこちらの背を盾にして姿を隠すティアに思わず苦笑する。
リンの視線が、先程まで抗議していた少女たちに向く。
「……?」
「な、なに……? どうして私たちを見つめてるの……?」
「ちょうどここに、各学園を代表する……立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」
「えっ?」
「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。それでは、行きましょうか?」
リンの言葉に困惑しながら引き摺られていきそうな少女たち。
それを見ながらそー、っと離れようとしたティアを、リンは呼び止める。
「それじゃあ私は後で合流しますので……」
「ティアさん?」
「あっ……いや、だって……えっと……色々と事情把握してるでしょう……!? 気まずいんですけど……!?」
「ティアさん」
「アッ、これ意見通じないやつですね!! これがパワハラってやつですか!!! こんなところで経験したくなかったですねくそぅ!!」
横暴だー!と隣で泣き叫ぶティアを見ながら、苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「だからって、なんで私たちが不良たちと戦わなきゃいけないのよっ!?!?」
銃撃音が鳴り響く中、少女……早瀬 ユウカはごもっともな意見を叫んでいた。
「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから……」
「それは! 聞いたけど!! 私はこれでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど!!? ああもう……なんで私が……!!」
「是非もなし、ですね〜……あ、ユウカさんそこ危ないですよ?」
「へ? あいたたたっ!?!? アイツら違法
ティアの言葉にキョトン、とした後に撃たれたユウカは涙目になりながら愚痴るように声を出す。
「……伏せてください、ユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定されてはいません」
「うちの学校ではこれから違法になるの!! 幾ら撃たれても平気って言っても傷痕が残るような弾を使えるままにできるわけないでしょ!?」
「……まあ、確かに。今は先生が一緒ですし、その点には気を付けましょうか」
「先生を守ることが最優先、あの建物の奪還はその次です」
ちらり、とハスミは遮蔽物に身を潜めている先生を見てそう告げる。
「ハスミさんの言う通りです。……先生は、キヴォトスではないところから来た方ですので……私たちとは違って──」
「弾1発でお陀仏しかねませんからね」
「……ティアさん」
「おっと失礼致しました。ハスミせ……ん、んっ、ハスミさん。でも、まあ事実ですから。……もっとも? 正義実現委員会の副委員長と、トリニティ自警団の人がここにいるんですし? そういう事は起きないと思っていますけど?」
「……分かっています」
にっこり、とティアはハスミとスズミに対して皮肉を混じえたような笑みを零す。
……なんというか、彼女たちはやはり色々と浅からぬ因縁がありそうだ。と傍から見ていて感じてしまう。
「そうね、先生。決して戦場には出ないでくださいね! 私たちが戦っている間は、安全な場所にいるように!」
「"それなんだけど──"」
ユウカの警告に対して、意見を告げる。
「"私が、みんなの指揮をする。それはダメかな?"」
「え、ええっ!? 戦術指揮をなされるんですか!? いや、まあ……先生ですし……おかしなことではありません、けど……」
「分かりました、これより先生の指揮に従います」
「生徒が先生の言葉に従うのは自然なこと、ですね。よろしくお願いします」
「……まあ、この際です。指揮は任せました。行きましょう、先生」
ティアの合図を皮切りに、先生の指示に従い少女たちは不良生徒を鎮圧していく。
先ほどまでと違い、スムーズに、それでいて圧倒的に効率よく制圧していった事実に少女たちは驚いた様子を見せる。
「……なんだか、戦闘がいつもよりやりやすかった気がします」
「やっぱり、そうよね……?」
「ええ……先生の指揮のおかげで、普段よりずっと戦いやすかったです」
「流石は先生、
各々が驚いているなか、ティアだけは感心したようにニコニコと笑っていた。
まるで全て知っているかのように振る舞う彼女に、少しくすぐったさも感じる。こちらを見透かしたような青い瞳のせいだろうか。
「……ふふ、それでは次の戦闘でもよろしくお願いします。先生」
そうして次の戦闘区域まで向かう少女たちと先生。
「シャーレの部室はもう目の前よ!」
『聞こえますか、こちら七神 リンです。今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました。
……
「よりにもよって七囚人の彼女ですか……厄介ですね……」
「"七囚人……?"」
「はい、分かりやすく言うなら……学園都市の中でも手を付けられない極悪人生徒たちの総称ですね。七人いるので七囚人です」
「"なるほど……?"」
『ティアさんの言った通り、似たような前科が幾つもある危険人物です。くれぐれもお気を付けて』
「……まあ、多分なんとかなるとは思いますけどね、色んな意味で」
『……?』
「"……??"」
ティアの言葉に、揃って首を傾げるのだった。なんというか、こちらの顔を見つめていた気がするけど……いったい?
「とにかく、今はシャーレの部室に向かいましょう! 話はそれからよ!」
ユウカの言葉にそれぞれが頷き、先生の指揮に従う形で不良生徒たちの鎮圧を行っていく。
「……! 前方に騒動の中心人物、ワカモを発見! 対処します!」
「あらあら、連邦生徒会の子犬たちが現れましたか……お可愛らしいこと」
狐のお面を被った黒い着物の少女が、こちらに視線を送りながら立ち塞がっている。
「お久しぶりですね、ワカモさん」
「おや、ティアさん、ごきげんよう。あれから調子はいかがですか?」
「……まあ、ぼちぼちでしょうかね。そういうワカモさんは、お変わりないようで」
「ふふ、ええ。お互い様でしょう。トリニティの──……失礼、これ以上は不躾ですわね」
「よくわかっているじゃないですか。……申し訳ありませんが、ここは押し通らせていただきますよ」
「ふふふ……できるのであればやってみてくださいな……!」
ワカモとティアはお互いの銃を構えて、撃ち合いを始める。
……どうやら二人は顔見知りのようだが……?
「"……ティアって、ワカモと知り合いだったんだ"」
「その、ようですね……」
「"……? ハスミたちは、知らなかったの?"」
「…………ええ、恐らく、私たちが知らない間に、知り合っていたのでしょう」
「"……そっか、ごめんね"」
「……気にしないでください。もし、非があるとするならきっと……こちらですから」
「……なんというか、大変ね」
薄々と、ユウカやチナツも察してはいたのだろう。ティアという少女とトリニティの
それ故に、距離感を測りかねているのは傍目から見ればなんとなくは気付けてしまった。
だからこそ、少し同情したようにユウカはハスミを見つめる。
対人関係ほどなかなかに難しいものはない、それ自体少しは理解してはいるから。
「……頃合いですか。では、
ティアさん、勝負はここでお預けということで」
「いたた……相変わらず強いですね、ワカモさん……」
撃ち合っていた途中で、ワカモは何か考えがあるのか退散する。
お預け、というにはティアがかなりボロボロではあったが。
「って、逃げられてるじゃない!? 追うわよ!?」
「いいえ、生半可な行動をしてはなりません。私たちはあくまでも……シャーレの奪還。このままシャーレのビルまで前進するべきです」
「…………そうね、追うのは私たちの役目じゃないでしょうし」
「罠の可能性もありますからね」
「……それに、矯正局やヴァルキューレに任せるのが1番ですからね、あの手合いは。
すみません、勝手に彼女とやり合ってしまい……」
「"大丈夫、それより……無事で何よりだよ。ティア"」
「───……なるほど、あなたはそういう方なんですね」
「"……?"」
「いえ、こちらの話です。お気になさらず」
ティアの言葉に首を傾げるが、気にしないでくれ、と言われたのでひとまずは置いておくことにした。
「建物の奪還を優先、このまま引き続き進むとしましょう」
ハスミの言葉に各々が頷き、そのままシャーレのビルに向かって前進する。
そして、建物の前まで到着した時……ゴゴゴゴ、と大きな騒音が鳴り響いた。
「……なに、この音は?」
「これは……気を付けてください、巡航戦車です……!」
「クルセイダー1型……!? 私の学園の制式戦車と同じ型です!」
「不法に流通された代物ね……! PMCに流れたのを不良たちが買い入れたのかも……!」
「"つまり……?"」
「ガラクタなので壊しても問題なし、ってことですね」
「そういうこ──……危ないっ!?」
「っ!!」
「っ、先生!?」
そんな彼女たちの会話の最中、クルセイダー1型……戦車からの砲撃がこちらに飛んでくる。
撃ち落とす? 無理だ、今からでは間に合わない。回避? できる時間はない。
「"あ──……"」
これ、死んだ。そう確信して、視界が炎に包まれた──
「いや、おいおいおい。バカかアンタ。油断しすぎでしょ……ここはアンタにとっては
……だから、まあ……今回だけは、オレが助けてやる。全ては夢、一夜の狂騒だった、ってね?」
「……生……! 先生……!! 先生……!!」
「"……てぃ、あ……?"」
「良かった、無事ですね!!? 怪我はありませんか!?」
「"あ、うん……なんとも、ないよ……?"」
覆いかぶさり、少し焦げた頬や服のままこちらを見つめるティアの顔を見ながら……混乱したまま、無事であることを告げる。
……おかしい。今、間違いなく……死んだはずだ。あの砲撃を食らって……五体満足なはずがない。なのに……痛みもなければ……熱さすら感じていない。
今、ある感触は……ティアの重みと、手の温かさ。そして……冷たく硬いアスファルトの感触だけだ。
「……よかった……
「"……──え?"」
「……? どうかしましたか?」
「"あ、ううん……なんでもないよ……?"」
違和感。ほんの少しだけ覚えた違和感。それが何故か消えなかった。
……確かにさっき、戦車は砲撃を行ったはず……? 撃つ……前……? 夢、だったのだろうか……?
「こっちは片付いたわよ!? ティア、先生は無事!?」
「なんとか!! 怪我もなさっていませんし、ご無事です!!」
「よかった、それなら安心ね……」
少し離れた場所から、ユウカの声が聞こえる。……どうも、制圧が終わったようだった。
その言葉を聞いて、安全だと認識したのか……ティアは、ゆっくりと離れて立ち上がる。
「先生、立てますか?」
「"……うん、ありがとう"」
ティアの立った時にできた日陰の中に座り込んだままだった私に、彼女は手を差し伸べる。その手を掴んで、よいしょ、と立ち上がる。
……うん、立ち上がれる。足も、手も無事みたいだ。本当にアレは、夢だったのかもしれない。
『「シャーレ」部室の奪還完了を確認。私も、もうすぐ到着予定です。建物の地下でお会いしましょう、先生』
「"ここが、シャーレ……"」
私が、勤めることになる場所。これからこの場所を皮切りに、きっと沢山の出来事が起きるのだろう。と、なんとなく……そんな予感がしていた。
「それでは先生、私はリン代行と合流次第……地下の方へ向かいますので、お先にどうぞ」
「"うん、ありがとう。ティア"」
「"みんなも、助けてくれてありがとう"」
「っ……い、いえ、これぐらい大したことでは……」
「……こちらこそ、指揮に感謝します、先生。私もたくさん学ばせていただきました」
「……またいずれ、先生とは会うことになると思いますが……ティアさんのこと、よろしくお願いします」
「……私からも、お願いします」
「"……うん。わかったよ"」
ティアが離れた後に、そう頭を下げるハスミとスズミにこくり、と頷く。
……彼女たちの間にどんな因縁があるのかは、預かり知らない。けれど、いつか……仲直りできたらな、とは先生として思う。そのためには……少しずつでも、ティアがみんなと打ち解けられるようにしないと。
……見ていてはっきりと分かったのが、少しだけ彼女は他の皆に対して一線を引いているところがある。あの子の笑顔は殆どが仮面だ。多分、偽っている。
指摘するつもりはないが、それはとても……悲しいことだと、そう思った。
「……うーん……これが一体何なのか……まったく分かりませんね。これでは壊そうにも……」
「……あら?」
「"君はたしか──……"」
ワカモ、と呼ばれていた少女だ。何故か、シャーレの地下室でばったりと出くわしてしまった。
「"えーっと……初めまして……?"」
「あら……あららら……?」
「…………」
「"……ワカモ?"」
「ぁ……ああー……し、し──」
「"……し?"」
「失礼いたしましたー!!!」
狐のお面に似合わないほど素早い身のこなしで、脱兎のごとくワカモが逃げ去って行くのを眺める他なかった。
「"…………いったい、なんだったんだろうか"」
思わず首を傾げる以外のことが、できなかった。
それからしばらくして、リンとティアが一緒にシャーレの地下に訪れる。
「お待たせしました、先生」
「……? なにか、ありましたか?」
「"あー、うん……大丈夫"」
なんとなく、だけど確信めいてはいた。あの子はきっと、もうここへ危害を加えないだろうとだけは。だから、なんでもない、と彼女に対して返す。
「……そうですか? それならば良いのですが……失礼、本題に入りましょう。
ここには、連邦生徒会長が残したものが保管されています」
リンが説明をする横でティアが、何かを手に取ってこちらへと持ってくる。
「……どうやら、傷はひとつもなく無事のようですね」
ティアに白い板状のものを手渡される。
「受け取ってください、先生」
「"これは……タブレット端末……?"」
「はい。これが、連邦生徒会長が先生に残した物……『シッテムの箱』です」
「"シッテムの……"」
その名前は何処かで聞き覚えがある気がした。……ふと、その端末を手に持っていたティアへと視線を送る……彼女はにっこり、と微笑むだけだった。
「普通のタブレット端末に見えますが……実は正体の分からない代物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みのすべてが不明……
ですが、連邦生徒会長はこの『シッテムの箱』は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだ、と言っていました」
「……私たちでは起動すらできなかった物ですが……先生ならこれを起動させられるのでしょうか、それとも……」
「"…………"」
「……ふふ、
「ティアさん……?」
ティアの言葉に、こくり……と頷く。そうだ、私は覚えている。
この箱の起動の仕方を、理解している。
「……では、私はここまでです。ここから先は、全て先生にかかっています。
……私たちは、邪魔にならないように、離れています」
リンとティアが、距離をとる。
……シッテムの箱を、起動させる。
箱に表記が浮かぶ。
分かっている、覚えている。だから、自然と指が動いた。
先生が無事に、シッテムの箱を起動させたのを確認して……ティアはくすり、と笑う。
「ティアさん」
「……なんですか、リン代行?」
「……最初から、
「さあ、どうでしょうか。……それは、私と彼女の間の秘密ということで」
「…………分かりました、深くは聞きません」
「ふふ、ありがとうございます」
リンの言葉に、ティアは微笑む……が、何かに気付いたのか……
「ティアさん……?」
「ああ、失礼……少し、
「???」
ティアの言葉の意味を理解できなかったリンは不思議そうに首を傾げるのだった。
「お、電源付きましたね。……どうやら権限を回収したみたいです」
「そのようですね……」
パチン、と明るく照らされたシャーレの地下室を見上げてティアはポツリと声を漏らす。
「……はい、こちらリン。……はい、分かりました。
サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました。これからは、連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められますね」
「……お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします」
深々と頭を下げるリンに対して、大したことはしていないよ、と苦笑する。
「ああ、それと……ここを攻撃した不良たちと停学中の生徒たちについては、これから追跡して討伐いたしますので、ご心配なく」
「……狐と兎を使うので?」
「ええ、そうする予定です」
「……なるほど、なら私はこのまま先生のサポートをすれば?」
「はい。当初の予定通り……これから先、ティアさんは私と同じ立場になります」
「形式上ではありますが……連邦生徒会 生徒会長代行、統括室首席行政官七神リンより、妃童 ティア、貴女には連邦生徒会 生徒会長代行及び、連邦捜査部S.C.H.A.L.Eの部長に任命いたします」
「拝命しました。これより私、妃童 ティアはシャーレ所属となります。以後、身分はシャーレ預かりとなりますので、ご確認のほどをよろしくお願いします」
リンによって手渡された書類を確認しつつ、形式上の挨拶をティアは済ませる。
「"……? ティア……君は、もしかして"」
「ええ、まあご想像の通りです。以降は私はシャーレの部長として……先生の補佐、及び先生不在時のシャーレの代行を勤めることになりますので、今後ともよろしくお願いしますね?」
頭を下げた後に、微笑むティアを見つめこちらこそ、と頭を下げる。
どうやら彼女とは長い付き合いになりそうだ。
「『シッテムの箱』も渡しましたし、ティアさんも無事シャーレ預かりとなりました。私の役目は終わったようですね」
「……お疲れ様です、リン代行」
「"ありがとう、リン"」
「いえ、こちらこそ。……あ、そうでした。もうひとつ。先生、ついてきてください。連邦捜査部『シャーレ』をご紹介いたします」
リンに案内されるまま、ついていく。
「……ここが、シャーレのメインロビーです。
長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎えることになりましたね」
『空き室 近々始業予定』と書かれていた張り紙を、リンは剥がしドアを開ける。
「……そして、ここはシャーレの部室となります。ここで、先生のお仕事を始めると良いでしょう」
「"私はこれから何をすれば……?"」
「シャーレは、権限だけはありますが目標のない組織なので……」
「アレをしろ、コレをしろ、みたいな強制力はありませんよ。
キヴォトスのどんな学園の自治区にも唯一自由に出入りでき、所属に関係なく……先生が望む生徒を部員として加入させることもできます」
割とめちゃくちゃなこと言ってますよね〜、なんてティアが隣で笑う。
「面白いですよね。捜査部とは呼びましたが……その部分に関しては、連邦生徒会長も特に触れていませんでした。つまり分かりやすく言えば──」
「先生がやりたいことをやっていい、というわけですね。
……信頼されてますね、先生?」
リンの説明に割り込むように、ティアは言う。
ああ、確かに……とても信頼されているんだと、理解できる。自由にしていいだなんて、そんなことを許してしまうのは確かに、大きな信頼の証なのだから。
「……本人に聞いてみたくても、連邦生徒会長は相変わらず行方不明のまま。私たちは彼女を探すことに全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応できるほどの余力がありません」
「今も、連邦生徒会に寄せられてくるあらゆる苦情……支援物資の要請、環境改善、落第生への特別授業、部の支援要請などなど……。
もしかしたら、時間が有り余っている『シャーレ』なら、この面倒な苦情の数々を解決できるかもしれませんね」
「……それ、俗に言う雑用なのでは?」
「ティアさん」
「おっとやぶ蛇でしたか」
リンの鋭い視線を躱して、ティアはくすくすと笑う。
「こほん……その辺りに関する書類は、先生の机の上にたくさん置いておきました。気が向いたらお読みください。──すべては、先生の自由ですので」
「それではごゆっくり。必要な時には、またご連絡いたします」
ぺこり、と頭を下げてリンが去る。それを見届け……一呼吸置く。
「"……さて、と。それじゃあ、ティア。早速だけど……シャーレの初仕事、始めようか?"」
「はいっ。連邦捜査部『シャーレ』の部長としての初仕事……誠心誠意、務めさせていただきます。
……先生、改めまして……よろしくお願いしますね?」
白い少女は、手を差し伸べる。だから、私はその手をとって……握り返す。
それを見て少女はくす……と微笑む。それはまるで、童話のお姫様のような綺麗な笑みだった。
「"うん、改めてよろしくね。ティア"」
「はい、よろしくお願いします、先生♪」
──……これが、後に……世界の敵となる、ひとりの少女との出会いであった。
そして──
ちなみに余談ですが、ティアちゃんのイメージソングがあるとするなら「ヒガン」か「バッドオンリーユー」か「フォニィ」です。参考までに。
妃童 ティア
思ってた以上にトリニティ嫌いな部分が表に出てた。もっとちゃんと偽れ?
プロローグの時点から実は暗躍している。戦車周り手引きしたりしてた。
けど、さすがに先生にぶっぱされるとは思ってなかったのでめちゃくちゃ内心焦ったらしい。
押し倒している構図は、NIKKEのプロローグのマリアンみたいな感じ。
ちなみにその後先生を立ち上がらせる時はいつもの「運命」の構図になってたりするのは余談。
ユウカに対して
この後、先生とまとめてお説教される。金銭管理が下手っぴなことをめちゃくちゃ怒られた。
ちなみに嘘偽りなく本気で凹んだ。
チナツに対して
なにも? ただ生真面目な風紀委員だな。とは思う。
ゲヘナの中では珍しい常識人っぷりに驚いてはいる。
ハスミ、スズミに対して
かつての知人ではあったがそれだけ。……思うことはない。
ワカモに対して
なんだかんだ知り合いで仲は多分いい。ティアの過去を知るひとり。
彼女がどういう人物が好きになるかとかは、嘘を見抜けるその眼のせいでなんとなく気付いていたので、先生に惚れるだろうなと思っていたら案の定だったので笑ってはいる。
余談だが、別に彼女に対して怒りなどは持ち合わせない。
彼女たちの悪性を否定も肯定もしない。ただ妃童 ティアが怒りを覚えるのだとするのなら、その彼女たちが持ち合わせている悪性すらも、己の責任だとそう捉える傲慢なある人物にのみである。
リンに対して
気の毒だな。と同情はしている。アイツに全て押し付けられて可哀想に……アイツも酷いことするよねぇ……とはよく口にする。その度にアロナの中にいる彼女に言葉のナイフが刺さっているらしい。
アロナに対して
その中に彼女がいることに気付いているし知ってはいる。だが、言及することは基本的にない。無論、隠すつもりもない。そのため、もし先生に……アロナは連邦生徒会長と関係がある?と聞かれた場合はある。と正直に答えるだろう。
先生に対して
思うところは沢山ある。この先のことも含めて。
……初めて出会ったこの時、純粋に心の底から気遣われたことに驚いていた。
──嘘偽りない、この人の言葉に戸惑った。特に、嘘と欺瞞に満ちたあの学園にいたからこそ、この大人の人間性に困惑した。
それと同時に何処までもその本質が彼女とそっくりであることに、苦笑もした。
プロローグとかエデン条約編とかの本編での活躍シーン
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欲しい
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いらない