オベロンみたいな理解者系生徒を先生の傍に置きたかった話 作:星ノ瀬 竜牙
気が向いたら切り分ける形でパヴァーヌとか、対策委員会とか、その辺も書きたいなって感じです。
そのうち連載形式にして書き始めるかもしれません。
トリニティへ
「はぁ、トリニティへ行く?」
「"うん、だから一応報告をと思って"」
きょとん、と椅子に座ったまま書類の整理をしていたティアは先生の言葉に首を傾げる。
「いえそこは先生の好きにしてくださればいいとは思うんですが……何故わざわざ?」
「"ほら、ティアってその……"」
少し言い淀んでから、先生は口を開く。
「"トリニティのこと、あんまりいい感情持ってないんじゃないかなって"」
思い出すのは、以前出会ったヒフミという少女とのやり取り。
元トリニティ生徒である、ということは教えてもらってはいたが彼女との会話で「帰るつもりは毛頭ない」と言い切っていたのだ。
……その後に聞かされた「トリニティでの対人関係に疲れた」という言葉。
そこから彼女の身に何が起きたのかは薄々と察せはする。
だからこそ、先生としては彼女のことを思うとあまりトリニティへ干渉するのは良くないのではないか、と思ってしまったのだ。
「ああ、そういう……
まあ、その件に関しては
「"───そっか"」
その言葉を聞いた時、少しだけ悲しくなってしまった。
既に妃童 ティアはトリニティに対して
だからこその無関心。嫌いだから嫌な顔をするとか、好きだから恥ずかしそうな顔をするとか、そういうことすらなく。ただひたすらに
こうなってしまった経緯を知らない身ではあるが、それでも……彼女がそうなってしまうほど悲惨な過去があったのだろう、とは理解できてしまう。だからこそ、こう思ってしまうことがある「私がもっと、早くキヴォトスについていれば」と。
「ああ、一応言っておきますけど……先生が罪悪感を抱える必要はありませんよ。遅かれ早かれ、私はこうなっていたと思いますし……それに……もし、先生が早く訪れていたのなら、きっと
「"……うん、そうだね"」
やっぱりだ。彼女は時折だが、
そうしていつものように私にフォローを入れる。ありがたくもあり、申し訳なくもなる。情けない話だ。先生でありながら、いつもこうして彼女に助けられているのだから。
「まあ、先生の補佐としてあまり手を貸せなくなることは申し訳なく思いますが……それでも、いざという時は手を貸しますのでご安心ください。
いつものようにスピードスターの如く、駆けつけますので」
「"あはは、頼もしいね"」
彼女の言葉に、思わず笑みが零れる。いつだって、そう……いつだって彼女はいざという時、必要な時にはそばに居た。駆けつけてくれた。だから、その言葉に安心する。頼ってしまう。
それがきっと良くないことだと、薄々分かっていても。
「……いや、その……たしかに。確かに、私は言いましたよ?
別にどちらでもいい、とは。でもですよ。でも……だからってすぐにこうなるとは思いませんよねぇ!?!?」
「"うん、ごめんね……"」
「何を考えてるんですかティーパーティーは!? もしかしなくとも頭湧いてるんですか!? 権限的にはシャーレが上だと理解した上でその要求!? バカはどっちですか!? 出るとこ出ましょう先生!! 代行辺りに言えばこれ勝てますよ!!!」
「"わー!? 待って待って!!"」
怒りが収まることを知らないのか、ティアのその叫びに慌てて止めに入る。
このままだと本当に行動に移しかねない。
「……ふぅ……失礼しました……取り乱しました、先生。
先生のことですから、何かお考えあってのことだと少し考えれば分かることでしたね……申し訳ありません」
「"いや……うん……こっちも、すぐにティアと相談するべきだったね。ごめんね?"」
「……お気になさらず。そもそも、トリニティへの介入の条件として
そう、彼女がトリニティの制服を着ている理由はそこだった。
シャーレの介入を許す条件として、そのシャーレに所属している元トリニティ生徒である妃童 ティアを一時的とはいえ復学させること。それがトリニティ側が課した要求であったのだ。
無論、それを無視して強制的に介入することも不可能ではなかった。シャーレには、それだけの権限があるからだ。
だが……先生としては生徒に悪印象を与えるような行動は取りたくなかった。そしてなにより── 今、トリニティを渦巻く問題は、シャーレ……というよりもその大本たる連邦生徒会にも関係のあることではあったからだ。そんな案件において、シャーレが無理に権限を行使する訳にも行かず……こうして、ティアがトリニティへの復学をする他に手段がなかったのだ。
「それにしても、成績の低い少女たちに指導……ですか……これまた、面倒な立場になりましたね、先生」
「"まあ、そうかもね……"」
体のいい厄介払い。というか、シャーレとしては大きく動けない立場に置かれ、それでいて今回の一件が失敗すれば少なからずシャーレとしての信用は落ちるだろう。という、そういうすごく面倒な立場に置かれたのだ。
ティアの言葉に思わず苦笑してしまう。
「……相も変わらず、そういう手段しかとらない人ですね。
……だから、救えないんですよ。誰ひとり」
「"……ティア?"」
「いえ、こちらの話です。それよりも、補習授業部……でしたっけ。名前通りに捉えると……酷い話ですね。そのまま直球的に言われるとは、
「"あはは……"」
それは、否定できなかった。補習授業が必要なのだと直球的に言われている部活。成績が優秀でない生徒たちがそこに集められていることも相まってかなんとも言えない表情しか浮かべられなかった。
「そういえば……」
「"? どうしたの、ティア?"」
「私も補習授業部の一員になるのに生徒の資料を貰っていないな、と」
「"あっ"」
そういえば渡してないじゃん、と気付いた先生は慌てて彼女に資料を手渡す。
「"ごめんね、すっかり忘れてた"」
「いえ、まあ私の復学なんて事態になったんですし頭から抜け落ちていても仕方ありませんよ。それじゃあ、拝見しますね」
「"うん。何か気になる子の名前とかあったら教えてね"」
「いえ、それに関しては心配ないと思いま──」
ペラペラ、と資料を捲り……生徒一人一人を確認していく中で彼女の手がピタリ、と止まる。
まるで、信じられないモノを見たようなその顔がやけに印象に残った。
「───どういうつもり。何を考えて……ここに、貴女が──」
「"……ティア?"」
その形相が、何処か怒りに歪んでいたように見えて……少し心配するように、声をかけてしまう。
「……っ、失礼しました。少し、顔見知りの名前があったので」
「"それって、ヒフミのこと? 私もヒフミに関してはびっくりしたけど"」
「いえ……ヒフミさんじゃありません。もう1人、旧知の仲だった人がいるみたいなんですよ、補習授業部に」
「"そうなんだ。じゃあ仲良くできるかな……?"」
もう1人、知り合いがいるというのなら少し安心した。
彼女にとってトリニティは居づらい場所だ。だからこそ、知人が多いことに越したことはないと思っていたし。
「どうでしょうね……」
「"えっ……?"」
「いえ、なんでもありませんよ。ただまあ……旧知の相手であるからと言って……仲が良いとは限りませんよ」
そう口にするティアの顔は、少し悲しそうで……寂しそうで。
それでいて……瞳の奥に浮かぶ情景は何一つ期待していないようで。
その姿が少しだけ、気になってしまった。
「改めまして、紹介に預かりました。妃童 ティアと申します。
皆さんにはシャーレの部長、と言った方が伝わりやすいと思いますが……この度、一時的ではありますが復学する運びとなったので、しばらくの間授業に追いつくために補習授業部の皆さんといっしょに学ばせていただくことになりました。よろしくお願いしますね?」
「え」
「……どう、して──」
「?」
「……!」
彼女の自己紹介に、それぞれが違った反応を見せる。
驚くもの、困惑するもの、不思議そうにするもの、そして、少しばかりの憧れを持つもの。
まあその中でも一際目立ったのは──
「ぇぇえええええ!?!?」
「うるさっ──!?」
ヒフミの絶叫とも言える程の驚愕の声だろう。
「え!? ティアちゃん!? なんでっ!?!?
「ッ──」
「私だって叫びたいんですけど……やむにやまれぬ事情がこっちにもあるんです……」
「そ、そっか……いきなりごめんなさい……」
「いえ、まあ……あの時ああ言ってたくせに図々しいとは思いますが……しばらくはよろしくお願いしますね、ヒフミさん」
「っ……うん!」
思わず顔を顰める。あまりにも純粋に彼女が喜んでいたから。
とはいえ、それも一瞬だ。気付かれないほどの刹那のみ。すぐに取り繕ったような顔になり
「……貴女が
「あの……?」
「妃童 ティア様……!」
「"……様?"」
「うん???」
正義実現委員会の証である黒い制服に身を包んだ桃髪の少女、
「……あの、コハルさん? ティアちゃんがなにか……?」
「なにって、知らないの!? トリニティの生徒でありながら、優秀な成績を持っていて、その結果連邦生徒会の生徒会長に直接スカウトされて連邦生徒会入り! そして今ではシャーレの部長として八面六臂の活躍……! 私たちにとっては憧れのその人じゃない!!」
「あー……」
「"……本当なの?"」
「ざっくりと言えば……まあ……とはいえ……」
「なるほど……
嘘は言っていない。だが、そこには幾つか抜け落ちていることがある。
……それを知っているが故に、気付きにくい程の些細な変化ではあるが、僅かながら不愉快そうに顔を顰めるのはティアだった。
そしておそらく事情を軽く耳に挟んでいるであろうヒフミ、ともう1人の桃髪の少女……
そのことを知らない先生、そして残るひとりの補習授業部の少女……
「……訳あってトリニティへの復学とそれによって復学前に受けていなかった授業の補習をすることになったので、今回はコハルさんと同じ立場になりますね、よろしくお願いします♪」
「っ……! よ、よろしくお願いしますっ!」
誤魔化すように笑みを浮かべつつコハルを見るティアに対し、コハルは緊張した様子で顔を赤くしたままぺこり、と頭を下げる。
尊敬されることにはあまり慣れていないのか、ティアは少しばかりむず痒そうに苦笑していた。
「なんというか、ここまで純粋な好意を向けられると恥ずかしいものですね。
で……貴女が、白州 アズサさん。ですよね?」
「……ああ、そうだ」
シュコー、シュコー。と独特の呼吸音を響かせる。なぜにガスマスク……と思いつつも触れないようにしながらそのガスマスクをつけている少女、アズサの顔を見る。
その視線には何か、意図したものがあるようで、それでいて何もないような感覚に陥ったアズサは首を傾げたままティアの顔を見つめる。
「ああ、失礼。不快にさせてしまったのなら申し訳ありません。
まさか、トリニティ生徒で人の目がある中で思いっきり爆弾を仕掛けるような問題児がいるとは思っていなかったのでつい……」
「む、私は決して問題児なんかじゃないぞ」
「…………これはまた……改めてこれからよろしくお願いしますね。アズサさん」
「ああ、よろしく頼む。ティア」
見事に問題児だな、とティアは困ったように笑う。
明らかに個性が強い。色んな意味で。これでは先生も手を焼きそうだ。と、少し同情的な視線を送ってしまう。当の本人は、何故こちらを見たのか少し怪訝そうにしていたが。
そして、最後に1人。
距離を測りかねている、かつての知人と視線が合う。
「……ああ、
これから補習授業部で一緒になる、妃童 ティアと申します。以後よろしくお願いしますね?」
「────ッ……よろしくお願いします、妃童さん」
たった一瞬。けど、その僅かなやり取りで彼女達がギクシャクしている関係性なのだ、と理解してしまう。ティアのあからさまな拒絶を含んだような言葉。そして、普段の大胆さがなりを潜めてしまうほど大人しくなった浦和 ハナコ。
誰が見てもわかるほどに、ギクシャクしている。
だからすぐに気付く。ティアの言っていた旧知の相手とは浦和 ハナコだということ、そして仲が良くないという言葉の意味に。
ティアがああいった態度をとること自体が珍しいのだ。浅くはない関係性ではあるのだろう。
("一筋縄じゃいかなさそうだね……")
心の中で先生はそう考える。できるのなら、仲良くして欲しいし……もし、喧嘩している仲だったなら仲直りして欲しかった。
ただ、そうできるほど簡単な話ではなさそうだとあの二人の様子を見れば理解してしまった。
前途多難だなぁ。と思いつつも先生は仕切り直すように手を叩き──
「"まずは、一次試験の突破を目指そう"」
と、告げて各々がそれにこくりと頷くのだった。
「……まさか、いや本当にまさかですよ。
私とヒフミさん以外……一次試験、全滅とは……」
「ど、どうしてこんなことに……」
「"あはは……"」
結論から言おう。補習授業部1回目のテストは失敗であった。
順調そうに見えていたのだ、白州 アズサはしっかりと励んでいたし、下江 コハルは自身をエリートと自称していたから大丈夫だと思っていた。そして浦和 ハナコもまた勉強内容を理解していた様子を見せていたから一次試験で全員100点満点中60点以上を取って合格、そのまま補習授業部はあっさり解散するものと思っていた。
だが、結果はご覧の通り。
結果──合格
妃童 ティア:96点
結果──合格
白州 アズサ:32点
結果──不合格
下江 コハル:11点
結果──不合格
浦和 ハナコ:2点
結果──不合格
3/5が不合格という目も当てられない状況である。
そしてこのことから分かることは──
補習授業部の合宿が決定した。ということだ。
「……まあ、薄々察してはいましたけどね。こうなるんじゃないかと」
「ティアちゃぁん……」
「よしよし、ヒフミさんは悪くありませんからね」
思わず涙目で泣きつくヒフミの頭を撫でながら、ティアは深々とため息を吐いたのであった。
「あら、先生。お疲れ様です」
夜、先生は1人でティーパーティーの
「補習授業部の方はいかがですか?
……と言いつつも、すでにお話は聞いております。どうやら最初の試験は上手くいかなかったようですね」
ナギサは少し苦笑いをうかべる。
「ですがまだ、あと2回……試験の機会は残っていますので……」
まだ、挽回のチャンスはありますよ。と言いつつ、ナギサは机の上にあるチェスの駒を動かしていた。
「"……チェス?"」
「ああ、これですか? ええ、趣味で嗜んでいまして」
チェスの盤面を見る。黒側はキングとクイーン、残りの駒はポーンだけであるのに対して、白側はキングが1つとルーク、ビショップ、ナイトが3〜4駒。非常に珍しい構図だな。と思う。
「"これ、1人でやってたの?"」
「はい、今は私1人で。うるさいミカさんもいないですし。
……昔は、ティアさんと指していたりもしていたのですが」
ああ、そういえば……と思い返す。
ティアもまたチェスをよく1人でやっていた。今、ナギサのやっている盤面から、ポーン、ルーク、ビショップ、ナイト、クイーン、キングを使った基本的な盤面まで。時々、彼女と対局させてもらっていたけどその時はだいたいこちらが負けて終わりだったなぁ、と苦笑する。
「……そうですか、ティアさんは……まだ嗜んでいてくれているのですね」
少し、ほっとしたように呟くナギサ。
それを見るとやはり、何か浅からぬ縁があるのだろうな。とは思ってしまう。
「コホン、失礼致しました。今日は先生に、お伝えしておきたいことがあったのでお呼び立てしたのですが……」
ちらり、とこちらに視線を寄越す。
「それよりも先に、先生の方から何か言いたげなことがあるように見受けられますね」
見抜かれているのなら、言うべきだろう。と、ナギサに向き合う。
「"うん、じゃあ遠慮なく言わせてもらうけど……"」
「"3回とも不合格になったら、補習授業部のみんなはどうなるの?"」
「……小耳に挟まれたのでしょうか? 出処は……ヒフミさん、ですかね。
もしくは……ティアさんが、気付かれたかのどちらかでしょうか」
「"どっちも、かな"」
ヒフミから聞いていたのもあるし、ティアが「これ、3回猶予があるってことに良くない意図が含まれてますよ」と、呆れたように言葉にしていたことを思い出す。
「まあ、それがおふたりの良いところでもあるのですが……」
「……その質問について、お答えしますと……ご想像の通りでしょう。
試験で不合格を繰り返す、落第を逃れられそうにない、助け合うこともできない……だとすればみなさん一緒に、退学していただくしかありません」
「"……そっか"」
「ええ、そうです。トリニティにももちろん……落第、停学、退学などに関する校則が存在しますからね」
「ただ、手続きは長く面倒なものでして……たくさんの確認と議論を
彼女の言葉に、ふと引っ掛かりを覚えた。
……じゃあ、ティアはどうやってトリニティを退学したのだろう。
ナギサが面倒だというほどの手続きであるのなら、ティアがその手続きを踏んだとはどうも思えなかった。
「……ああ、ティアさんに関しては……連邦生徒会……より正確に言うのでしたら、連邦生徒会長からの介入があったのです。なので、こちらの手続きの殆どを踏み倒すような形での退学だったのです。
……本人がそれを望んでいた以上、私たちからは何も言えなかったのですが」
「"そうなんだ……"」
それはよっぽどの事じゃないだろうか、と思うが、あまり詮索はすべきではないだろうと、言及はしない。
「……今回の補習授業部に関しては、その意趣返しのようなものではあります」
「"意趣返し"」
「はい、先生やティアさんには悪いとは思いますが……
今回急造した補習授業部は、その面倒な手続きを無視できるように調整してあるのです。先生……シャーレの権限を少しばかり組み込ませていただきましたからね」
補習授業部の顧問となる以上、先生がそれなりに動きやすくする必要はありましたし。と笑うナギサを見て意趣返しという言葉に苦笑してしまう。
まあ、確かに意趣返しのようなものだろう。かつて無理矢理その権限を使ってこちらの手続きを無視したのであるのなら、こちらもその方法を使わせてもらうまでだ。とやっているのだから。
「そして何より補習授業部は──……」
そこで、ナギサの表情が変わる。
「
「"───!!"」
ティアが何か意図してやっている、と忠告はしてくれていたが……まさかそういう意図だったとは予想していなかった。だから、ナギサのその言葉に思わず驚愕する。
「"……どうしてそんなことを"」
「あの中に、
「"……裏切り者?"」
どういうことだ、と思わず顔を顰める。なんのつもりで。
なんのために、裏切りを。
「……その裏切り者の狙いは、
「この言葉が持つ重さを理解していただくには……『エデン条約』とは何か、という説明が必要ですね」
「エデン条約とは……簡単に言いますと、トリニティとゲヘナの間に結ばれる不可侵条約です。
その核心は、ゲヘナとトリニティの中心メンバーが全員出席する、中立的な機構を設立することにあります」
「『
「これにより、2つの学園の間で全面戦争が起きることはなくなります。誰かが踏み込めば、両陣営が仲良く共倒れしてしまうことになりますので」
つまるところ、これからはいがみ合わずに仲良くしましょう。そういった意味を持つ条約なのだろう。
「……先生。トリニティとゲヘナの長きに渡る敵対関係は、お互いに大きな重荷になっています
エデン条約はその無意味な消耗を防ぐための、恐らくは唯一の方法であり、キヴォトスにおける力のバランスを保つための方法でもあります」
「そしてこれは、連邦生徒会長が提示した解決策でもありました」
「"──それは"」
シャーレにとっても他人事ではない。
彼女が後任として選んだのが先生であり、シャーレである以上……エデン条約はシャーレにとっても蚊帳の外の話ではないことになる。
「……彼女が行方不明になってしまい、一度は空中分解しかけたものを、私の元でどうにかここまで立て直したのです。
そしてこの念願の条約が締結される直前まで来た、というこのタイミングで……
「まだ、それが誰なのかは分かりません。特定には至りませんでした。
そこで、次善の策として……その可能性がある容疑者を一箇所に集めたのです」
それが補習授業部なのである、ということだとナギサの言葉から察することができる。
「……裏切り者はそこにいます。ですが、誰なのかは分かりません。
であれば、1つの箱にまとめてしまいましょう……いざという時、まとめて捨ててしまいやすいように」
「もう、お分かりでしょう。それが『補習授業部』です。先生には、その『箱』の制作にご協力いただきました」
「……申し訳ありません。こんな、
罵るつもりはない。それに、利用するだけだったなら……
「"でも……"」
「"本当に私を利用する気だったら、こうして今話してくれてないよね"」
わざわざこうして私に裏切り者がいることや、エデン条約のことを話したりはしないはずだ。
「さすが……理解が速いですね」
ティアさんがそばにいる理由も理解できます。とナギサは笑う。
「言っても信じてもらえるかどうか……と思っていましたが、仰る通りです。こうなったらお話は早いですね」
「先生、補習授業部にいる裏切り者を、探してはいただけませんか?」
「"……"」
やはり、そう来たか。と彼女のお願いを聞いて顔を顰める。
「先生を、トリニティを騙そうとしている者がいます。
平和を破壊しようとするテロリストです。私たちだけではなく、キヴォトス全体の平和を、自分たちの利益と天秤にかけようとしているのです。
裏切り者を探し出すことが、キヴォトスの平和に直結します。
いかがでしょう、連邦捜査部シャーレとしてご理解いただけますと幸いなのですが──」
ああ、なら彼女の誘いにはこう答えよう。
「"……私は私のやり方で、対処させてもらうね"」
生徒を疑う、信じない、そういったことをするつもりはない。
それは、先生としてすべきことじゃないとそう思っているから。
「…………そうですか、分かりました」
「ですが、先生。……ゴミを細かく選別して捨てるのが難しい時は、箱ごと捨てるというのも手段の1つ。……そうは思いませんか?」
「"思わないかな"」
「……そうですか。ああ、それともう一点。試験については基本的に……私たちの手のひらの上にあります。
例えば『急に試験の範囲が変わる』ですとか、『試験会場が変わる』ですとか、『難易度が変わる』ですとか……そういったことが起きないことを祈っていますが……」
こほん、と咳払いしてナギサは笑う。
「失礼しました、良くない物の言い方でしたね。
それではこれからも、引き続き……補習授業部をよろしくお願いします、先生。
私たちの方から、先生に対して不利益や損害を与えることはありません……と、言いたいところですが……」
「"……そうとも言いきれないんだね?"」
「そうですね……簡単にはお約束しかねます」
時と場合、状況によってはシャーレに対しても危害を加える可能性はある。そう彼女は真っ向から言い切る。
「ですが、だからといって、先生が生徒たちを放っておくような方ではないと思っておりますので……これからの展開は私にも予測しきれておりません」
「どうかこの結末が……できるだけ、苦痛を伴わないものであることを願うだけです」
「ああ、ですが……1つだけお伝えしておきますと……
一次試験において、私たちの方では如何なる操作も行っておりません。この部分については、誓って嘘では無いことをお約束します」
尤も、信用は出来ないでしょうが。とナギサは苦笑しつつもそう告げる。
彼女の言葉はつまるところ、あの点数はそのまま彼女たちの実力であり……このままいけばヒフミやティア以外は順当に不合格へと進むだろうということであった。
「先生なりのやり方……それが、トリニティに利するものであることを願っていますね」
「"ナギサ、最後にこれだけ聞かせて"」
「……なんでしょうか」
「"ティアを補習授業部に復学させたのは、あの子が裏切り者だと思ったから?"」
「───」
踏み込んだその言葉に、一瞬だが、ナギサは戸惑うような素振りを見せる。
「……ええ、少しはそう思っています。トリニティの元生徒であり、連邦生徒会に所属していて、連邦生徒会長と深く関係があった人物。
……シャーレという立場になった彼女なら、エデン条約の妨害を手引きすることは簡単でしょうから」
「"でもティアは──"」
「──ですが、復学させたのは裏切り者であるかどうかを判別するためかと言われたら違うと言い切れます。
……それだけは、必ずお約束できます。私のティーパーティーとしての立場を賭けてでも」
「"……そっか"」
「"ありがとう。ティアのことを思ってくれて"」
随分と、あの子は慕われていたらしい。
ナギサからも、大きな信頼があるのだな、と思わず我がことのように嬉しく思ってしまう。
「……いえ、お気になさらず」
「……それでは、先生。ごきげんよう」
「"うん、またね。ナギサ"」
そうして、ナギサとのやり取りは終わった。
───これが始まりだ。
これから起きる悲劇、そして蠢く悪意、それら全ての始まりの合図。
それを理解するのは……もう少しだけ、先の話。
妃童 ティア
色んな思惑に巻き込まれてトリニティに復学した。
(なお、元凶側の模様)
この時点で既に黒服を介してベアトリーチェと接触しており色々暗躍中。
なので実はナギサの裏切り者扱いも正解だったとかいうオチ。
トリニティの生徒何人かとは因縁がある。
まだトリニティにいた頃は、ナギサとチェスを指したり、ミカとお喋りしたりしていたことがある。
余談だがトリニティは死ぬほど嫌い。反吐が出るぐらいに。
嫌いを通り越して無関心になりつつある。
番外編ティアちゃん(血迷ったら書く用)
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ASMRシチュ
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バレンタインシチュ
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その他