A.大人とは皆情けない生き物なのです。
例の如く、誤字とかあったらすいません。
完結したら一気読みして、運良く気づけたら直します。
桃子が追いかける少し前、カンドラに言いたい事を言って帰路についていたネリーは、
(キマった!これで後は個人戦で優勝するだけ!優勝すればスポンサーからお金がたんまり!カンドラもネリーを特別視してくれる!一石二鳥ってやつだね!)
調子に乗りまくっていた。そんな彼女を後ろから呼ぶ声が。
「おーいネリーさーん!」
「ん?あれ?どうしたの、何かあった?」
「いやいや、実は白糸台の麻雀部員達が嶺上さんの居場所を探っていまして・・」
「ああ、チャンピオンこと宮永照ね。」
「いやだから、照さんだけじゃなくて白糸台の麻雀部員全員が探ってるんです!」
「え?そうなの?」
「そうなんすよ!だから私がステルスで貴女を見えなくしてここまで案内してきたってわけっすよ。」
「ああそういう事。じゃあ帰りもステルスでネリーを見えなくする必要があるってことね。」
「話が早くて助かるっす、ではでは。」
そう言うと桃子はオーラでネリーと桃子自身を包んでしまった。
「これで大丈夫っす。では帰りの案内は..会場の出口まででいいっすか?」
「うん、そこまで行けば後はホテルに行くだけだから大丈夫。」
「では行きましょう!」
意気揚々と歩き出す桃子。そんな桃子の様子に少し呆れ気味に笑いながら付いていく。
(はぁ、取り合えず今日中にやりたい事はやり終えたかな。)
桃子の後をついていく中で今日の出来事を振り返っていたネリー。そして、とある事を思い出す。
「あ!カンドラにチャンピオンとの関係聞くの忘れた!」
「え!?急にどうしたっすか?」
「いや、この前カンドラに会った時にチャンピオンがカンドラにガン飛ばしてたから2人の関係が知りたいなぁって。」
「(ガン飛ばしてたのはネリーさんの方だって嶺上さんは言ってた気が・・)あの2人については後々分かるっすよ。」
「・・?どういう意味?」
「言葉通りの意味っす。ネリーさんも知っての通り嶺上さんは今回インターハイの”裏方としても"呼ばれてるっす。」
裏方・・その言葉を頭の中で反芻する。インターハイの裏方・・裏方、つまり解説の小鍛冶選手みたいなものだろうか?
「・・?カンドラが実況したりするの?」
「いや、そこまではしないっすけど・・まぁインターハイを勝ち残っていけば分かる事っす。だからあんまり気にしなくても大丈夫っすよ、今は。」
そう言われて渋々納得したネリー。ふーんと頷くのを最後に再び穏やかな沈黙が流れる・・がしかし、
「あ!カンドラの電話番号聞くの忘れた!?」
「さっきからなんなんすか!?どんだけ忘れてるっすか!?それともアレっすか!?緊張して頭が真っ白になっちゃってたっすか!?」
「そう言う貴女はうるさいよ!せっかく周りから見えなくなってるのに騒いだら意味ないじゃん!」
そんなこんなで互いに言いたいことを言いまくりながら進む2人。お互いに自身の不満をぶちまけ合っていたが出口に着く頃にはある程度落ち着いた。
「ああ、もう出口っすか。なんか予想より疲れたっす。」
「それはこっちの台詞だよもう..ここまで案内してくれてありがとう。カンドラにもよろしく言っておいて。ああ後、何度でも言うけどカンドラの相棒は絶対ネリー以外いないから。そこんとこ忘れないでね。」
「私も何度でも言うっすけど、私は別に嶺上さんの相棒ってわけじゃないのでそこんとこよろしくっす。」
互いに言いたい事を言い終わった、そんな空気だった。
「・・んじゃ、またカンドラに会う時はよろしく。」
「はいっす。お疲れ様でしたっす..インターハイ、頑張って下さいっす。」
ネリーは振り向かずに手だけ振って返した。そのまま信号を渡ったところで人込みに紛れて見えなくなった。
「さてと、じゃあ戻るとするっすかね。」
そう言うと桃子は会場の中へと戻って行った。
ところ変わってカンドラ視点。桃子がネリーを追いかけてから少し経ったあと、
(ふふ、ネリーさん可愛かったなぁ..そしてオーラも使えるようになってた。)
カンドラはネリーの成長に内心歓喜していた。彼女の雀士としての本能がネリーの成長を実感して刺激されたのだった。
(ネリーさんの所属する臨海女子学園はDグループ。という事は順調にいけば準決勝で清澄とかち合う事になる。ふふ、楽しみ。)
いずれ来る知人との決闘に興奮が抑えきれないカンドラ・・いや咲。とそこへ
「咲ちゃん、いる?」
「あ、健夜さん!今回はちゃんといますよ!」
ガチャリ 扉を開けて入ってきたのは今大会の解説を務める小鍛冶健夜その人だった。
「良かった、また迷子になってたらどうしようかと思ったよ。」
「さすがにもう迷子になったりしませんよ..健夜さんの教えのおかげです。」
少し照れながら笑う咲。同時に被っていたウィッグやサングラス、そしてロングコートを脱いでいく。
「いやいやそんな事ないよ。咲ちゃんは最初に会った時にはもう”ほぼ仕上がってる”状態だったもん。放っておいても迷子癖は治ってたよ。」
「そうですかね?健夜さんにオーラのいろはを教えてもらった後も結構迷いましたけど。」
「あはは・・いやでも最初に会った時は本当にすごかったなぁ。心がボロボロでも目的の為に覚悟を決めて牌を打つあの在り方。麻雀で勝てないと本能で分かっても喰らいつく不屈の精神。あの時の麻雀は最高だったよ!・・まぁでも結局咲ちゃんボロ負けしちゃったけどね。」
1人過去を振り返ってうっとりし出す小鍛冶健夜、そんな彼女とは対照的にプンプン怒り出す咲。
「うう、いつまでも人の過去をグジグジほじくって!ホント嫌な人!」
そういうと咲はプイッとそっぽを向いてしまった。
「ふふふ、怒った咲ちゃんも可愛いよ。」
怒った咲に悪びれもせずに後ろから抱きしめる、それを咲は拒まなかった。
「小鍛冶さん、今8月なんですよ。さすがに暑いです。」
「クーラーが効いてるからいいでしょ。」
「はぁ、ホント甘えん坊ですね。」
そう言うと咲は健夜の腕を払って代わりに膝に寝るように促した。
「膝枕ならいいですよ。」
「うん、いつもありがとう。」
「全く・・私に甘えたいなら素直に最初から言えばいいんですよ。『大事な用があるから部屋で待っていて』なんて仰々しい言い回しなんてしないで。」
お言葉に甘えて咲の膝に横になる。健夜が咲と初めて会った時からずっと続いているお決まりのパターンだった。横になってから数分後、健夜の目がぼーっとして意識が虚ろになっていく。
「ねえ咲ちゃん、私って咲ちゃんの役に立ってる?」
「もちろん立ってますよ。私にオーラのいろはを教えてくれて、日本中のグレーな雀荘を紹介してくれて、安全に賭け麻雀ができるように裏から手を回してくれて・・これだけ役に立っているんです。何を不安がる事があるんですか?」
おどけた調子で話す咲。そんな咲とは対照的に健夜は胸の内の不安を吐露する。
「でもその代わりに咲ちゃんはカンドラって名前で追われる存在になっちゃった。」
「それが麻雀協会の重鎮からの指示だったんですからしょうがないじゃないですか。」
「うん、今の麻雀業界をもっと盛り上げるために新しいタイプの広告塔が欲しいって要望。私は咲ちゃんにその役目を被せる代わりに、咲ちゃんが安全に賭け麻雀ができるように協会に掛け合った。」
「はい、結果として麻雀関係のメディアは正体不明の雀荘荒らしカンドラを大々的に報道。今や麻雀関係者で知らぬ者などいないと言われるくらいには浸透したんじゃないですかね。」
「そして咲ちゃんは日本中の雀荘で連勝して能力とオーラの完全なコントロールが出来るようになった、本来の目的である大金も手に入れた。最後は手にした大金を使って願いを叶えてハッピーエンド・・にはならなかったね。」
「・・はい、私にはまだカンドラとしてやらなきゃいけない事が沢山ありますから。」
2人で物語を語るかの如く言の葉を積み重ねる。健夜はこの時間が大好きだった。咲と自分が運命共同体になったような気がするからだった。・・だからこそ、終わった後が辛いのである。
「・・今でも思うよ。私にもっと権力があれば、咲ちゃんに雀荘荒らしなんかさせなくてもよかった。私が必要な分のお金を払ってマスコミも黙らせる事が出来たら、それで良かったんだって。」
「でも今それをやったら健夜さんがマスコミに追われて最悪炎上する事になりますよ・・」
「それでもいい、それで咲ちゃんの心の中に私が残るなら・・その方が良い。」
「・・健夜さん、それ絶対他人の前で言わないで下さいね。」
「うん、分かってる。自分でもアラサーが何言ってんだろうって思ってるから。」
沈黙が流れる。その沈黙の中で健夜はありもしない妄想に耽る。
(もし咲ちゃんと私が同級生だったらどんなに良かっただろう。きっと学校に行くのが楽しかっただろうなぁ、麻雀だって毎日やったに違いない。)
健夜の妄想している過去は彼女がインターハイで優勝したあたりの事である。当時の健夜は学校でも浮いていた、いや浮いているというよりは避けられていた。彼女が自身の能力に目覚めたのは麻雀部に入ってすぐの事、もちろん麻雀部の部員はそんな健夜を最初は歓迎したが、徐々に健夜の能力を恐れて距離をとるようになり、インターハイに参加する頃には完全に避けられていた。
(結局インターハイでもなんかスッキリしなかったんだよなぁ。もちろん他の参加者の人も強いには強いんだけど、なんていうのかなぁ・・命を賭けてでも私を倒す!っていう殺気?が足りないのかな?)
健夜が麻雀に求めていたもの、それは麻雀での能力のぶつけ合いである。麻雀をやり始めた時に能力が覚醒した健夜にとって、麻雀は公的に能力をぶつけ合っても問題ない遊び、程度の認識であった。そんな彼女は結局、大人になるまで麻雀の本来の遊び方を本当の意味で理解する事はなかった。それから大人になり、本来の麻雀の遊び方を知る事になって..健夜は絶望した。
(能力の無い人でも楽しく公平に遊べるのが麻雀・・理屈はそうかもしれないけど私にはつまらない。相手の為に手加減なんてしたくない、麻雀は勝負なんだから全力でぶつからないと失礼だよ・・はは、結局こんな私の事を本当の意味で理解してくれる人はいなかったな・・今まで)
そう、健夜は渇いていた。世界で様々な強者たちと戦いその中で熱くなる事も多々あったが、健夜の渇きが潤う事はなかった。・・そんな麻雀人生に見切りをつけて、地元でただ死んでいないだけの一生を歩んでいくつもりだった健夜にとって、咲という人間は・・麻薬のようなものだった。
(咲ちゃんに会ってから全てが変わった。確かに最初に会った時の咲ちゃんは私に遠く及ばなかった。それなりに善戦はしても結局負けて折れるって思ってた。でも咲ちゃんは折れなかった、必死に私に喰らい付いてきた。点棒が無くなっても直ぐに再戦を要求してきた。・・そして、私が全力のオーラをぶつけても壊れなかった。その時になって、私は生まれて初めて誰かに負ける事を怖いと思った。)
形勢が逆転した。目の前の少女は自分がどれだけオーラをぶつけても壊れないのだ。それはつまり、少女の脳が"こいつにはいつか勝てる"という結果を無意識に導き出した事に他ならなかった。
(結局麻雀で負けはしなかったけどオーラの勝負は引き分けに終わっちゃった。まぁそれも当然だよね、どれだけ強いオーラを放っても心に傷がつかないんだもん。最強の盾だよ、防御力最強だよ。しかも防御だけじゃなく攻撃も強いとか反則だよ。)
自分を本当の意味で負かす可能性を持った存在、それが健夜の咲に対する第2印象だった。
(はぁ、やっぱり咲ちゃんが私と同い年だったらなぁ。そうだったら今頃2人で麻雀界の全てを支配してたりしたのかなぁ。いやでも、そうなるとお互い多忙を極めるから、今みたいに咲ちゃんとイチャイチャしたり本気の麻雀したりする事はなかなか出来ないだろうし..そう考えると今が一番良かったり?)
過去を振り返るのをやめて馬鹿馬鹿しい妄想にシフトチェンジした健夜。するとそこへ..
ガチャリ
「ただいま戻りましたっす!ってアレ?小鍛冶さんじゃないっすか、お疲れ様っす!」
桃子が案内を終えて帰ってきた。扉を開けて真っ先に飛び込んできたのはもちろん、咲が健夜を膝枕している光景なのだが桃子は動じなかった。
「こんにちは桃子ちゃん。ちょっとこのままでいいかな?」
「あ、全然大丈夫っすよ。いつもお仕事お疲れ様っす。」
そう言うと桃子は部屋の隅の座布団に座ってケータイを弄り始めた。
「ところで健夜さん。この後時間ありますか?」
「え?・・うん、今日はもうお仕事入ってないけど?」
「なら久しぶりに4人で打ちましょう。本番前に出来る限り仕上げておきたいので。」
そう言うと咲は桃子の方へ顔を向けて、
「桃子さん、加治木さんのご予定は・・」
「大丈夫っすよ。嶺しゃ..咲ちゃんがそう言うと思って、私も先輩もあらかじめ予定は開けておいたっす。」
「そうでしたか..すみません桃子さん、私の特訓に付き合ってもらう形になっちゃって。」
「この程度お安い御用っすよ!というより、先に特訓に付き合ってくれたのは咲ちゃんの方じゃないっすか!咲ちゃんが私の能力を鍛えてくれたからこそ今の私があるっす!むしろ私を特訓相手に選んでくれて嬉しいっすよ。」
「そう言ってもらえると助かります。では加治木さんが着き次第始めるとしましょう。」
そう言うと咲は部屋の隅に置いてあった全自動卓を真ん中へと運び始めた。雀卓を運ぶ中、咲は思う。・・自身といずれ戦う事になる選手、彼女たちはみな能力やオーラ、技術を駆使して自身を倒そうと本気で来る。そんな強い者達に全力で答えたい。そんな咲の心情が如実にオーラに反映されて、オーラが揺らめいていた。・・そんな咲のオーラを見た健夜は・・
(ああ、出来る事なら結婚したいなぁ。)
膝枕が終わってもなお、ウトウトしていた。
一方その頃・・
ネリーを見失った白糸台の面々は途方に暮れていた。ネリーを見失ってからしばらくの間は会場の中を探し回っていたが、部員の1人が会場から去っていくネリーと、それを見送る桃子の姿を目撃した。即座に菫に報告して、すぐさま桃子を追うように指示した菫だったが、指示を終えた時には桃子の姿は煙の様に消えて見えなくなっていた。
菫の計画にかなりの狂いが出た事もあり、とりあえず今日は全員ホテルへ帰って明日に備える事になった。
「すいません!自分がネリーちゃんを見失ったばかりに!」
自分達の宿泊する部屋へ着いて早々、机に額を付けて誠子が謝罪し出した。
「・・誠子ちゃんは悪くないよ、向こうが一枚上手だっただけ。ですよね部長?」
「全く持ってその通りだ。まさか嶺しゃ・・咲ちゃんに学生の協力者がいるとは思わなかった。」
「しかも能力持ちだったんでしょその子!?それもステルスタイプの!?」
「ああ、・・すぐにその子の身体的特徴と能力を元にして他の部員達に色々探させたよ・・そのかいあって、長野県に1人それらしい人物がいるという情報を掴めた。」
「・・長野県。」
長野県という単語に少し反応した照。しかしそれ以上言葉が続く事はなかった。
「その子の名前は東横桃子。鶴賀学園麻雀部の1年生、鶴賀学園は今年の長野県のインハイ予選で決勝まで残ってはいるが、清澄に一歩及ばなかったようだ。」
それを聞いて複雑な顔をする一同。そんな中、菫は少し嫌な想像をしていた。その一番の理由として、天江衣の存在があった。
(天江衣・・彼女が出場する限り龍門渕高校が長野県の代表になる事は確実だった。鶴賀学園には悪いが、例え清澄高校が出なかったとしても例年通り龍門渕高校が予選を突破して、鶴賀学園が長野県の代表に成る事はなかっただろう。だが清澄高校が出場した事で皆の予想は大きく外れ、龍門渕も鶴賀学園も予選敗退した。端から見れば、ぽっと出の清澄高校に全国への切符を取られた事になる。そんな高校の選手同士の仲が良いはずがないと思うのが普通・・だが)
会場でネリーを能力で案内していたのは、清澄と関係が良くないと思われていた鶴賀学園の東横桃子であった。これが意味する事は・・
(天江衣も来ているのか?)
そう、天江衣も咲の協力者として東京に来ている可能性があるという事であった。
(だとしたらまずいな。今日会場にいた東横桃子は自身の能力を使ってまで嶺上ちゃんをサポートしていた。照曰く、公共の場で能力を使うのは諸々のリスクが伴うから使わないのが普通との事。
でも彼女はやった。何故ならそれは、ネリーちゃんと再会する事が嶺上ちゃんの目的だったからだ。つまるところ、彼女は嶺上ちゃんの為なら自分だけがリスクを背負う事になっても構わないという事。
ではもし、嶺上ちゃんの目的が”邪魔者である白糸台をどうにかしたい”などという目的に変わったらどうなる?天江衣が"東横桃子と同じくらい"嶺上ちゃんと協力関係にあるのだとしたら、間違いなく龍門渕の財力でこちらの妨害をしてくるはず!)
この時、菫は心から自身の生まれに感謝していた。自身が財力に恵まれた家系に生まれて本当に良かったと。・・菫は1年前に、セレブ特有の情報網から天江衣について聞いていた。
彼女の両親が死んで龍門渕家に引き取られた事、龍門渕の家長は彼女の能力を怖がって、彼女を家の離れに隔離した事、きっと彼女の心を本当の意味で理解できる者は永遠に現れないであろう事・・しかし、
(現れた・・彼女の真の理解者が。嶺上ちゃんが咲ちゃんだとしたなら、長野の予選で天江衣は嶺上ちゃんに敗れた事になる。そして孤独の能力者が敗れて行き着く先は・・)
そこまで思考した菫は照と淡を交互に見る。照はホテルの窓から見える都会の夕焼けを堪能しながら1人黄昏ていた。淡の方は長野県で予選敗退した東横桃子が、咲とどのようにして仲良くなったのか気になっていた。そんな2人を見て、菫は最初に淡と出会った時の事を思い出していた。
(出会った頃の淡は一言で言えば怪獣だった。溢れんばかりのオーラで凡人を蹴散らして、能力の無い人間を無価値だと決めつけていた。・・そんな淡を手懐けたのが照だったな。淡が照に負けて、ようやく自分を飼ってくれるご主人様を見つけたと言わんばかりに照に執着しだした。そんな淡を照は拒まなかった。)
それから色々あって、今年のインターハイに出場するメンバーを選出する為に、麻雀部に所属する人間全員が照の指導を受けた。結果、淡のお眼鏡に叶う3人が後から合流して出来たのがチーム虎姫であった。
(淡は俗に言う”牌に愛された子”だ。そんな淡と同じで、牌に愛された子である天江衣が咲ちゃんに敗れた。・・なら当然、咲ちゃんに執着する・・よな。)
菫は自身の計画に大きな変更を加える事を決意した。今後宮永咲と接触しようとすれば、天江衣が邪魔をしてくる可能性がある。・・ならば。
「仕方ない・・みんな、聞いてくれ!」
部長の号令で虎姫の皆が菫に注目する。
「まずはみんな、開会式と嶺上ちゃんの捜索お疲れ様。嶺上ちゃんには会えなかったが、彼女の協力者らしき人物を特定する事は出来た。とりあえずは一歩前進だ。」
「じゃあ明日もサキを探す?」
「いや、明日からはインハイに向けて最後の調整を行う。今後の咲ちゃんの捜索は他の部員達に任せて、私達はインハイを優先する。少なくとも決勝を勝ち抜くまでは。」
「え!?でもそれでは照先輩のコンディションが・・」
「照には悪いがインハイの方が優先だ。相手が能力を使ってまで逃げの手を打ってくる以上、こちらとしても手の出しようが無い。(それに天江衣が背後にいる可能性もあるしな。)」
「うん、私もそれで良いと思う。こっちに相手を追跡するタイプの能力が無い以上、ここはインハイを優先するのがベスト。」
菫の一方的な提案に一切の不満を漏らさない照。照自身もずっと前に覚悟はしていたのだ、今日咲に会えない場合を。無論そうなった後にどうなるのかも。・・照は白糸台のエースなのだ。
エースとして、3連覇を成し遂げなければならない。3連覇を達成する事は照にとって、過去の弱かった自分と決別したと咲にアピール出来る絶好の機会なのだ!強さを証明して咲に認められる事でようやく照は・・妹の手を引いて生きる事が許されるのだ。
そんな照の壮絶な覚悟や菫のインターハイへの熱意と比較して、虎姫の後輩3人は些か緊張感が足りていなかった。
(さ、さすが照先輩!実の妹と仲直りできるチャンスを先延ばしにしてでも、白糸台の3連覇を優先する気なんだ!・・私達白糸台の名誉を守る為に・・)※名誉を守る為ではありません。
(私だけこっそり抜け出してサキを探しに行こうかな?どうせ準決勝まで大将戦回ってこないだろうし。)※慢心の極み
「(うーん、このホテルのお茶は・・まあまあかな。※こんな時でもマイペース)・・では、照先輩の同意も得られたので、部長の案で決まりって事でいいですか?」
尭深の確認にその場の全員が頷いてその場はお開きとなった。
こうして白糸台の面々は咲との再会を一旦保留にして、インターハイに全力で取り組む方へと舵を切った。白糸台の3連覇がかかっている事もあり、その決断に異議は出なかった。
それから5日後、インターハイに参加する全ての高校が全力で戦い、その中から勝ち残った上位16校が雌雄を決する・・準々決勝が開始される日となった。