その時、照は何を思うのか!?
インターハイ準々決勝2日目
この時点で生き残っている高校は16校。それを2日かけて更に半分にするのがこの準々決勝である。2日で8校に減らすので、1日2試合ずつ行われる予定となっていた。
1日目で生き残ったのは阿知賀、千里山、新道寺、そして白糸台の4校。そして2日目の今日、現在時刻は午後4時を過ぎた。既に片方のブロックは大将戦を終えて、生き残った者達の安堵の吐息が聞こえていた。
残ったのは有珠山高校と・・もちろんネリーが所属する臨海女子高等学校である。こちらのブロックは大将戦が開始されて早々、ネリーが運命操作を発動して素早く終わらせた。予定よりだいぶ早く終わってしまって暇になったネリーは、やる事も無いのでもう一つのブロックの様子をTVで観戦する事にした。
「この原村って子さぁ。」
「・・ん?もしかして私に話しかけているのか?」
「サトハ以外に誰がいるのさ、それでこの原村って子がさぁ。」
「原村?・・ああ、インターミドルのチャンピオンだったかな。この子がどうした?」
「・・ムカつく。」
「?・・何処がだ?」
「胸だよ胸!こんなデカい胸した人間はジョージアじゃいなかった!ジョージアに住んでいる人は大抵貧困に喘いでいたからね!」
「・・つまり、お前にとって巨乳は裕福の象徴って事か?」
「そうだよ!だからムカつく!私が欲しいものを沢山持ってる癖に胸まで裕福なのがムカつく!」
「お前の欲しいもの?・・原村が金持ちなのがムカつくって事か?」
「それもあるけどそれだけじゃないよ!お金なんかじゃ手に入らない、最高のものをコイツは持ってる!それをコイツ自身が自覚してない!・・気がする、だからムカつく。」
「気がするって・・確信が無いのによくそこまで怒れるな。」
「うっさい!私はサトハとは違うものが見えてるの!見えないサトハは黙ってて!」
「先に話しかけてきたのはお前だろ・・はぁ(溜息)まぁいい、私はみんなの分のジュースを買ってくる。その間に大将戦が始まったらメールで教えてくれ。」
そう言って控え室の扉を開けて買い物に出かけてしまった。残ったネリーの他に、控え室には他の3人が思い思いの時間を過ごしていた。そんな中、何となく最後のブロックの中継を見ていたネリーは、ある事を思い出す。
(・・そういえば、カンドラと話した後の帰りに、あの子、『清澄高校は嶺上さんも注目してるっす!』とか言ってたっけ。)
清澄・・ネリーは清澄があまり好きではなかった。本人も何故かは分からないが、とにかく清澄にムカついていた。特に原村に・・
(何でだろう?この中継を見るまで清澄の事なんて無関心だったのに・・この原村って子を見てから無性にイライラする。原村の能力に嫉妬?いや・・確かに原村の能力は麻雀では便利そうだけど、麻雀以外では大して役に立ちそうにないね。うん、私には要らない。だとすると・・やっぱ胸?いやいや、そりゃあ私だって女だからね、胸は欲しいよ。・・でもやっぱり、私の中で一番大事なのはカンドラだよ。)
色々思考するが結局何にイラついているのか分からないネリー。そんな風に自己分析をしている合間にも局はどんどん進み、気づけば副将戦は終わっていた。
(あ、副将戦終わってる。どれどれ点差はっと・・うわ何これ?姫松が切り上げ13万で清澄がほぼ10万、他2校が8万5千・・地味な戦いだなぁ。これだけ長い間戦っても点差が大きく開かないって事は、この4校の実力が拮抗してるって事でしょ?
はーー(溜息)、何か真面目に戦うのが馬鹿らしくなるなぁ。この実力じゃあ、どの高校が勝ち上がってきても私達の決勝進出は揺るがないね。こんな弱い人達を相手にするのも面倒だし・・準決勝はどっか適当な高校を狙い撃ちしてトバす作戦に切り替えるよう、サトハにお願いしようかな。)
最後のブロックで繰り広げられる接戦を見たネリーは、そのレベルの低さに落胆した。しかしそれも仕方なし。日本に来る前のネリーならともかく、今のネリーは運命操作に加えてオーラまで使えるようになっているのだ。もはや能力を1つ使える程度の相手では話にならないのである。
自分達の決勝進出は揺るがない。どの高校が上がって来ても大丈夫だろう・・そう判断したネリーはチャンネルを切り替えようとリモコンを手に取り・・
・・そこで手が止まった。
「え?」
TVに映っていたのは、副将戦が終わって選手のいなくなった試合会場であった。そこに1人、ゆっくりと中央の雀卓へ近づいていく者がいた。
「カ・・カンドラ!?」
ロングコートに黒いマスク、サングラスに長髪のウィッグ。紛れもなくカンドラであった。
「ふふふ、楽しみだな♪」
カンドラが楽しそうに呟いた。・・試合会場の中央には選手達が生き残りを賭けて戦う雀卓が設置されていた。そんな高校生雀士から神聖視されている雀卓の周りを、自身が支配者だと言わんばかりにカンドラはゆっくりと回り続けていた。そしてそんな奇妙な光景が全国に生中継されているのである。
(傍から見れば部外者が雀卓の周りをウロウロしているこの状況、何も知らない人はどう思うんだろ?・・暴動とか起きないよね?解説の健夜さんが上手く盛り上げてくれる事を祈ろう。)
実は少し不安になっていた。とそこへ・・
タッタッタッタッ・・
「に、二重面子さん!?」
「お、一番乗りは豊音さんでしたか!お久しぶりです!半年ぶりくらいになりますか?」
「お、お久しぶりです!?約7ヶ月ぶりくらいになります!」
「ふふ、正確に答えて下さりありがとうございます。」
カンドラはそう言うと手を差し出し握手を促した。もちろん豊音は両手で握り返す。更にそこから豊音は190cmを超える巨身を活かして腕をブンブンと上下に動かし始めた。
「ま、また二十面子さんに会えて嬉しいです!あ、あの時みんなを助けて頂けてなかったらどうなっていた事かと・・」
「あはは、その話はまた今度にしておきましょう。今は全国に中継されていますから。」
その言葉でハッと我に返り手を離す。離されたカンドラはすぐに腕の調子を確認した。カンドラにとってもこの後に控えている事を無事にやり終える為に腕は必要不可欠なのだ。・・いつまでも腕の調子を確認しているカンドラの様子を見ていた豊音は次第に不安で涙目になっていた。とそこへ・・
スタッ・・スタッ・・
「お久しぶりです嶺上さん。私の事を覚えていらっしゃいますか?」
その声に反射的に顔を向ける。目の前には巫女服を着た清廉な女性が立っていた。
「お久しぶりです霞さん。・・あの時は色々とすみませんでした。」
そう言うと申し訳なさそうに頭を下げようとするカンドラ。そんなカンドラを霞は止めた。
「謝罪なんてなさらないで下さい!確かに嶺上さんの行動で本家は一時の間大混乱に陥りましたが、その渦中にいた姫様はとても満足されていました。ですから気になさらないで下さい。」
「小蒔ちゃんが満足していた・・のですか?」
「はい!『あのように刺激に溢れた時間は生まれて初めてでした。また嶺上さんと一緒に冒険に出かけたいです!』と・・」
「そうでしたか。・・じゃああの時、私が小蒔ちゃんを連れだしたのは正解だったと・・そう思っても良いんでしょうか?」
「はい。私からもお礼を言わせて下さい。姫様は幼いころからずっと自由とは程遠い生活を送っていましたから・・姫様に一時でも夢を見させて頂いて、本当にありがとうございました。」
霞はそう言って深々と頭を下げた。すぐにカンドラが頭を上げるように促し、そこから2人の雑談が始まった。そんな霞とカンドラの関係が気になった豊音は2人に質問しようとするが、さらにそこへ・・
タッタッタッタッ・・
「アンタが巷で噂のカンドラさんか。」
小走り、いや早歩きで近づいてきたのは姫松高校の大将こと末原恭子であった。普段からあまり感情を表に出さないタイプの彼女であったが、その顔は怒りに満ちていた。
「はい。私がカンドラですが・・何か?」
「何かじゃないねん。何でアンタみたいな部外者の雀荘荒らしが我が物顔でそこにおんねん。」
出会って早々にカンドラを強い口調で批難する末原。しかし末原の指摘は当然のものであった。今カンドラの立っている場所の近くには一見するとただの雀卓が置かれている。しかしそれは、今年のインターハイで日本一を決める為の神聖な”戦場”でもあった。いくらカンドラが雑誌やラジオで有名だったとしてもこの場においては部外者である。部外者はさっさと出ていけ・・末原は遠回しにそう伝えたのだった。しかしカンドラは、
「部外者?・・私がですか?」
若干とぼけた様子で答えた。その態度にイラっときた末原が捲し立てる。
「そや、例え私と同じ姫松の代表やとしても・・これから始まるのは大将戦なんや。大将戦が終わるまではそれぞれ4校の大将以外はみんな部外者や。・・分かったらさっさと退き《どき》や。自分、まだ16なんやろ?年上の言う事は大人しく聞いとくもんやで?」
末原の指摘は的を射ていた。彼女の理論全とした発言に他の2人も何も言えずにカンドラの出方を伺っていた。肝心のカンドラは指摘されてからしばらくの間動かなかった。そのしばらくの間、3人の間にはある共通の疑問が浮かんだ。そもそもカンドラは一体全体どうしてここにいるのか?そもそもどうやってここを通過したのか?
試合会場の入り口には警備員が常に待機しており、部外者が気軽に通れるようにはなっていない。という事はカンドラは何かしらの形で大会そのものに関わっていて、それが理由で特別に試合会場へ通らせてもらった、という可能性があがる。
しかしそれではカンドラが沈黙している事の説明がつかない。正当な理由があるのならすぐに言えばよいのだ。にもかかわらず、カンドラは依然として沈黙している。何故だろうか?・・そこまで思考した3人はそれぞれがカンドラの方を改めて見る。やはりさっきからカンドラは何も言わずに固まったままである。実際には1分くらいしか経っていないのだが3人は5分くらい経ったと感じていた。
もしやこのまま試合開始まで沈黙しているつもりなのかと末原が危惧したその時、
「・・・ククク・・フフフ・・アハハハハハハハハ!」
カンドラが大笑いし出した。
「な、なんや!?何が可笑しいねん!?」
「アハハハハ・・ハァ、ハァ。いやすいません、ご指摘がごもっともだなと思って。」
「そ、そか。分かってくれればええねん。」
「いえいえ、こちらこそすいませんでした。ではそろそろ帰るとします。・・すいませーん!警備員さーん!」
そう言うとカンドラは、何故か試合会場の入り口にいる警備員を呼んだ。
「は?警備員なんか呼んでどないすんねん?」
「理由はすぐに分かりますよ。というより、末原さんの方こそ本当に分からないんですか?」
「・・?分からないって何がや?」
「私がここに来た理由ですよ。一目見て”末原さんは分析が得意なんだ”と私は思ったのですが、分析が出来るのは麻雀に関する事だけですか?」
カンドラの煽りともとれる台詞に少し頭に血が上った末原。そこまで言うなら推理してやろうと、ムキになってカンドラの行動の意味を理解しようとした。しかしいくら考えても末原には分からなかった。末原が30秒くらい悩んでいると・・
「・・!もしかしてー!」
(うお!?何や姉帯か、びっくりさせんなや。)
思いもよらない所から発せられた声に思わずギョッとする末原。感嘆の声を上げたのは意外にも豊音だった。
「ふふふ、頭の固い末原”先輩”には残念ですが時間切れです。それでは答え合わせとしましょうか!」
末原に年上煽りを入れつつ、まるでエンターテイナーであるかの如く大きく右手を広げて注目を集めるカンドラ。そのまま振り上げた手を自身の左肩へと置き、次の瞬間!カンドラのトレードマークとも呼べるロングコート、それからウィッグとマスクが大きく宙を舞った。
「な、まさかアンタ!?」
コートの下に着ていたのは、白を基調とした青い襟のセーラー服。その真ん中には、一年生が着用する赤いリボンタイが巻かれていた。そんな昔ながらのセーラー服を制服に指定している高校は、4校の中で一つだけ。
「やっぱりだー!貴女が二十面子さんだったんですね!」
ウィッグの下には赤茶色のショートカットが隠れており、その一部から、彼女の家系の特徴である角のような癖毛がハネていた。
「・・貴女が、そんなまさか。」
カンドラを表すものは最早サングラスだけだった。カンドラはそのサングラスにゆっくりと手をかけて・・そっと、外した。
「清澄高校麻雀部所属・・大将、宮永咲。それが私です。」
そう言って何処か儚げな様子で微笑みながら3人をそれぞれ見つめる咲。傍から見れば特に変なところは無い普通の少女である。しかし見つめられた3人は感じていたのだ。今から絞首台で斧を振り下ろす処刑人が放つような、ハネた首がゴロゴロと転がる様を無感情に見つめるカラスのような・・無慈悲な視線を目の前の彼女から向けられているのだと。これから自分達は処刑されるのだと、そう・・理解してしまったのだった。