A.すいません。一日2千文字に増量した結果です。
誤字脱字は執筆が一段落したら纏めて直します。
時は少し遡り、前半戦終了間近での事。清澄高校の控え室では咲がカンドラである事を暴露したため、部員全員が大混乱に陥っていた。部長の久や咲の理解者を自称する和が、あらかじめ咲がカンドラである可能性を皆に説明していたのだが、その努力は咲の危うい闘牌の前に脆く崩れ去った。もちろん皆も最初は咲の応援に集中していたのだが、
「・・なぁ、これって咲はわざと負けようとしているんじゃ・・」
という京太郎の弱気な発言で皆の不安が爆発してしまったのだ。
更にそこへ記者達がいち早く特ダネを得ようと大挙して押し寄せていた為、中も外も非常にうるさかった。
そんな中、うるさい報道陣を見事にすり抜けて控え室に入ってきた者達がいた。そう、ステルスの桃子にそのパートナーの加治木、そして龍門渕の天江衣である。
中に入った3人は自分達が知っている情報をある程度共有する事で、部員全員の沈静化を図る事に成功。その過程で清澄高校の部員達と合宿の時以上に仲良くなるという副次効果ももたらした。
そして現在、咲がおそらく休憩のため試合会場から出てしまったので、もしかしたらマナーの悪い記者に捕まっているかもしれないと考えた過保護な和が外に飛び出そうとしていたところである。
「落ち着くがよい原村、咲なら無事に戻ってくる。・・咲を信じろ。」
「で、でも咲さんは酷い方向音痴で・・」
「ああ、それならもう治ってるっすよ。」
「ええ!?そうだったんですか!?」
なんとなくそうだとは思っていたものの、実際に本人に確認する事なくずるずると疑問を引きずっていた和だったが、唐突な真実の暴露という不意打ちを喰らって大いに驚いてしまった。そんな和とは対照的に、部長こと久は心の中で冷静に整理をつけていた。
(ああ、やっぱりそうだったのね。でなきゃ毎週遠出する事なんてできないものね。)
「・・じゃあ、これで清澄の皆さんが知りたい事は全部知れたって事でいいっすか?」
「そうね。・・あっ!?そうだ、3人ともこの後時間あるかしら!?」
「・・?この後は桃子と一緒に適当な所で後半戦を見ようと思っていたが、まだ何かあるのか?」
「出来れば後半戦の試合の解説もお願いしたいのだけれど、いいかしら?」
(さっきの話だと、この2人と咲は1年前にはすでに知り合いだったらしいじゃない。そしてカンドラが活動を始めたのも丁度その時期!この2人はカンドラ誕生の経緯に迫る貴重な証人!ここで逃がす手はないわ!その辺の事も根掘り葉掘り聞かせてもらうわよ!)
「お!衣は良いぞ!やはり咲の試合はちゃんと見ておきたいからな。ここなら邪魔も入らないであろうし!」
「私も賛成っす!」
「桃子が良いなら私も構わん。」
「OK!お礼にここに置いてあるお茶とお菓子、好きなだけ食べて頂戴!」
その発言に目を輝かせて喜ぶ衣と桃子。それを横からあーだこーだと騒ぐ優希。そんな光景を少し離れた所から見守る和とまこ。一見幸せそうに見える景色だが、これから聞かされるカンドラの在り方を清澄の皆が知った時、この光景は瓦解する事になる。
「「「「よろしくお願いします。」」」」
4人の挨拶と同時にブザーが鳴り響く。いよいよ大将戦も大詰め、後半戦の開始である。
宮守女子 100700 東
姫松高校 129500 南
清澄高校 80700 西
永水女子 89100 北
東1局
ついに後半戦が始まった。現状で最も勝っているのは、当然持ち点が最多の姫松高校である。しかし、肝心の姫松の大将こと末原恭子は何も能力を有しておらず、唯一持っていた超人的な分析力も咲の奸計の前に効力を失ってしまった。つまり、今の末原は他の能力者達からして見れば、絶好のカモであった。
(よし、後半戦も頑張るよー!でもやる事は変わらないね。前半戦同様、後半戦も末原さんを狙い打って1位を目指す!ただそれだけ。)
(・・まずは姉帯さんの注意を引きます。注意が引けたら"恐ろしいもの"を我が身に宿す。そして姉帯さんを真っ向から打ち破り、そのまま咲さんも倒します。)
(やる事は変わらん、他家を警戒しながらの早上がり。これ以外ないわ。)
(・・・・・今頃清澄のみんなはどうしてるのかな?ちゃんと加治木さんの言う事聞いて落ち着いていれば良いけど。)
始まって早々に仕掛けたのは霞であった。霞は豊音の注意を引く為に、豊音が賽を回す前に自身の霊力を解放、それに気づいて霞の方を見た豊音。
(な、なにこれ!?もしかして役満クラスの大物手を作る気!?)
豊音の表情から注意を引けたと確信した霞は、そのまま恐ろしいものをその身に宿した。
「・・ふぅ、ではいきます。」
そう呟いてから数巡後、配牌の時点で手牌に萬子が全く無いのを皆訝しんでいた時であった。
「自摸。」
霞が自摸アガる。役は清一色、自摸、ドラ1。8000、4000の倍満であった。
「なっ!?嘘やろ!?」
「す、すごい!?」
「・・・」(ふふ、やるなぁ。)
皆が驚くのも無理はなかった。何も知らない人なら、霞がたまたま倍満をアガったと思うだけであるが、この場の3人には今のが霞の能力であると分かっていた。そしておそらく、霞のこの能力は後半戦が終わるまでずっと続く事も、なんとなく理解できてしまった。そしてそんな事実に一番震えていたのは現在トップの末原であった。
(アカン、アカン!?配牌の時点で何か変やと思ってはいたけど、流石にこれはアカン!?多分このオッパイお化けは手牌を一色に染め上げる能力を持っとる。しかもこの感じ、話に聞いとった場を支配するタイプの能力や!?てことはこのオッパイお化けがスタミナ切れにならない限りずっと清一色が続くって事やろ!?)
この事実に末原の手が震えだす。幸いまだトップを維持出来てはいるが、今の自摸で永水が2位に浮上。さらに今後も清一色を自摸アガる事を考えると、早ければ東4局に姫松は1位から転落する事になる。
(敵は永水だけやない、宮守や清澄だっているんや。永水が1位になって能力を解除したら、今度は残った2人が私を集中して狙ってくる事間違いなしや。アカン、どうにかして逃げなあかん!)
一方その頃、清澄高校の控え室では
「おおー、この永水の大将さん、霊力を使って何かを召喚、いや憑依させたっすね。」
(・・私も何かそういう存在と契約して、桃子と対等になれたらなぁ。)
「だが遅すぎたな。咲に勝ちに行くのなら大将戦の前半開始前には降ろしておくべきだった。」
咲をよく知る者達による解説と実況が繰り広げられていた。
「すいません、ちょっといいですか?」
「ん?どうした原村?やっぱり宮永の事が心配か?私も桃子に出会ってすぐの頃は・・」
「いえ、そうではなく。皆さんが言う霊力?っていうのはいったい・・」
「ああ、そうっすね。まずそこから話すべきでした。すいませんっす。」
そう言うと桃子は机の上に置いてあるペットボトルのお茶を一口飲んでから話始めた。そんな彼女に清澄の面々の注目が集まる。
「まず最初に原村さんは超能力とか幽霊とか、そういうオカルト的な存在を信じているっすか?」
「いえ、そんなものは存在しないと思っています。」
(うーんそう来るっすかー、でも原村さんの能力を考えるとそういう風に思っちゃうのも仕方がないっすかねぇ。)
「分かったっす。なら竹井さん、今から竹井さんに分かるように話すので、後で原村さんにも分かるように説明してあげて下さいっす。」
「ええ、構わないわ。」
「では改めて、霊力とは・・まぁ簡単に言うと人間が本来持っている気力、元気、精神力といった精神に由来するエネルギーを他者に渡す事に特化させた状態のもの、って感じっすかね。」
「他者に渡す?それってオーラや能力とどう違うの?」
「うーん、これは一から説明した方が良さそうっすね。」
そう言うと桃子は、控え室の机の上に常備されていたメモ帳を手元に引き寄せると、何やらペンで書き始めた。
「まず最初に人の身体があるじゃないっすか。この身体に先天的か後天的かは知りませんけど、何かしらの超常の力が備わっていて、それを自由に使えるのが皆さんが言う能力っす。」
「なるほど、その能力を使うのにさっき言ってた精神力とかが必要になる訳ね。」
「そうっすね。例えるならスマホの充電と同じ感じっすかね。スマホの本体が人の身体で、スマホの中のアプリを起動するのに電気が必要なように、身体の中の能力を使うのに精神力が必要になるって感じっすね。」
「へー、結構単純な仕組みなのね。じゃあさっき言ってた霊力って言うのは?」
「霊力を電気で例えるなら・・電気のエネルギーを別のエネルギーに変換したものが霊力って感じっすね!」
「・・?。えっと、つまり?」
「えーっと、じゃあ今戦っている霞さんを例にしてみますか。」
そう言いながらTVの方へ顔を向ける桃子。それに倣って清澄の面々全員が同じようにTVの方へ向く。
「皆さんには多分見えてないと思うっすけど、今の霞さんには神様のような何かが降りてきています。」
「じぇ!?神様を降ろす!?あの巨乳の人ってそんなヤバい奴だったんだじぇ!?」
「そうっすね。麻雀で清一色を連発できるような能力を持った存在っす。これが麻雀じゃなく別の競技だったらと思うとぞっとするっす。」
「・・で?あの巨乳の大将に憑いてる存在を例にすると?」
「例にすると・・今霞さんはあの存在を自由自在に操っている風にも見えるんすけど、実際は違います。実際は霞さんがあの存在に、自身の精神力を”あの存在が食べやすいように”加工して渡しているっす。だからあの存在は霞さんの言う事を聞いている、って感じっすかね。」
加工という単語を桃子が口にした途端、話を黙って聞いていた染谷が口を開く。
「加工?料理のようなものか?」
「ああ、それに近いっすかね。料理に例えるなら、自分の精神力を食べる相手が美味しいと感じるように味付けをして渡しているような感じっすかね。それで食べた方は美味しいと感じた分だけ能力を使って助けてあげるって感じっすね。」
「要するに、能力を持っている人を試合中に呼んで、能力だけ発動してもらってるって事でいいのかしら?」
「はいっす、もちろん精神力が減るのは呼んだ方っすけど。」
「なるほどね。じゃあ最後に、オーラってどんなものなの?」
「・・オーラっすか?うーん、正直オーラの説明が一番ムズいっすね。」
「ムズい?というと?」
「えーとっすねぇ。これは感覚の話なんで何とも伝えづらいっすけどー・・竹井さんは小学生の頃とかに魔法少女とかに憧れた事とかありません?」
「え!?・・それは、興味はあったけど、自分がなりたいとまでは・・別に・・。」
「じゃあ京太郎さん。京太郎さんはヒーローごっことかした事あるっすか?」
「おう!もちろんあるぜ!幼稚園児の男子はみんなヒーローに憧れるもんよ!」
「それに近いっすね。その理想を現実に反映させるのがオーラって感じっす。」
「・・?ごめんなさい、その説明だとよく分からないわ。」
「んーじゃあ・・」
「・・桃子、そろそろ話し疲れただろう?私が代わるから少し休んでいろ。」
「え!?でも・・」
「いいから休んでいろ、私達はこの試合が終わった後に宮永を迎えに行かなきゃいけない。その時にも桃子の能力が必要になってくる。だから今は気力を充実させておけ、な。」
「・・分かったっす。」
「ふふ、いい子だ。モモ。」
唐突に桃子の代わりをし出すと言い出した加治木。断ろうとした桃子だったが加治木の気遣いに甘える形で代わる事を決断。その際に惚気る事も欠かさない上級生加治木。
(・・何で最後に惚気たんです?)
(代わる必要があるのは分かったけど、最後の惚気いる?)
(・・相変わらずの惚気ぶりよのぉ。でも咲が雀荘荒らしを始めた頃からの付き合いらしいし、そういう意味では衣の先輩でもある。無下にはできん。しかしいったい、咲はこの2人のどこを気に入っているのやら。)
「・・さて、オーラについての説明だったか?」
「そう、憧れが関係しているんでしょ?」
「ああ、オーラとはすなわち自身の理想の姿の具現化。そしてそれを周囲に押し付けるのが最大の特徴でもある。」
「周りに押し付ける?」
「そうだなぁ、桃子を例にすると、まず桃子の能力は自身の存在感を物凄く薄くして周りに気付かれなくするステルスタイプの能力・・で合ってるよな、モモ?」
「そうっすね、そしてその能力を補う為にオーラを使ってるっす。」
「じぇ?能力を補うってどういう事だじぇ?」
「さっきも言ったが桃子の能力は自分の影を薄くする事。だがこれは雀卓に着いてしまえばどうしても効果が弱くなるのが弱点だ。いくら影が薄くても、相手が桃子の方を意識している間は桃子の動きは読まれてしまうからな。」
「そうっす。影が薄くてもそれは薄いだけ。実際にそこにいる以上完全に消え去る事は不可能っす。」
「そこでオーラの出番だ。オーラで成りたい理想の自分を思い描いてそれを能力と併用する。桃子の場合は”完全なるステルス”。誰も桃子の存在を認知できない、桃子の座っている席は元々空席だった。だから桃子の手牌も捨て牌も無いのが自然。そう思い込む、そしてある時気付く。試合は終わっていた、結果は桃子の一人勝ち。その卓に着いていた者は、皆揃って桃子の前に点棒を差し出す事になる。って感じかな。」
「せ、先輩。そこまで熱く語ってくれるのは嬉しいっすけど・・恥ずいっす。///」
(また惚気やがった!この先輩、隙あれば彼女の惚気話を突っ込んでくるタイプの人だ!会社の打ち上げとかで、ウザイから一人だけ飲みに誘われないタイプの人種!そしてそれを全く苦に思わない!何故なら!家に帰ればイチャイチャできる相手が常に待っていてくれるから!勝ち組!圧倒的人生の勝ち組!)
「で、そんな感じの自分を想像したら、後はそれをオーラで周りにいる人間に流し込むだけ。オーラを流し込まれた人間は、本能的にそのイメージを実感して自分じゃ勝てないと委縮する。これがオーラの正体だな。」
「うんうんなるほど、つまりオーラっていうのは自分の強化と同時に相手の弱体化もできる場の支配って感じで捉えても大丈夫な感じ?」
「おお!そうそうそんな感じだな!無論能力や霊力とも併用できるから使えておいて損は無いぞ。ただ併用する分、精神力がとんでもない勢いで減っていく事になるからあまりお勧めはしないが。」
「でも桃子ちゃんはやってるらしいじゃない。それはいいの?」
「桃子の能力は常に発動している分、ほぼ燃費ゼロみたいなものだからな。オーラと併用してもいきなり倒れるような事にはならないぞ。」
「なら次に・・」
「・・ん!?ちょっと待て竹井!?」
質問を続けようとした竹井だったが、それを加治木が止めた。止めた理由は尋ねるまでもない、加治木の目線はTVに釘付けになっているのだから。どうやら大将戦が面白い展開を迎えているようだ。
(?、手牌がなんか変な感じだよー?)
(これは・・咲さんが能力かオーラで干渉している・・の?)
(何や?何で2人がこのタイミングで不思議そうな顔するんや?宮守はともかく永水は調子ええんやから不思議がる理由なんて無いやろ?)
末原の想像通り、ここまでは永水の思い通りに事が運んでいた。東2局に霞が恐ろしいものの能力を遺憾なく発揮して緑一色を自摸あがり、16000、8000の役満をアガった。この時点で1位だった姫松高校が2位に転落。末原の最悪のケースの上をいく結果となった。そのまま東3局でも霞がアガるかと思ったが、ここで豊音がオーラを解放、恐ろしいものの支配に乗る形で末原や咲の捨て牌を鳴きまくっての裸単騎。からの霞の字牌切りを狙い撃っての対々和、混老頭、ドラ2で霞から12000を奪い取る形となり、戦況は霞と豊音の一騎打ちの様相を呈していたところであった。そして東4局が開始されて皆が配牌を確認しているこのタイミングで、咲が動いた。
「流石の咲さんも動かざるを得ない・・という事でよろしいでしょうか?」
「・・ふふふ。」
「今の私の発言はそんなに面白かったですか?」
「はい、面白かったですよ。」
「・・宮永、いい加減相手を煽るのはやめときって。最下位が偉そうな態度とるもんやない。」
「・・ご忠告ありがとうございます、末原”先輩”。」
(宮永さんすごい!劣勢なのにあんなに堂々としてる!かっこいいなー!)
末原に窘められて大人しく引き下がった咲。しかしこの局、この場にいる咲以外の3人は、咲の底知れぬ実力の一旦を垣間見る事となる。
「リーチ。」
8巡後、静かにリーチを宣言した咲。このリーチに他の3人は戸惑った。
(なんやコイツ、私が前半でリーチを追っかけられた事をもう忘れたんか?)
(このタイミングでリーチ?確かに私の恐ろしいものの支配は続いているけれど、それは他の人の能力やオーラを無効化できるって訳じゃない。それを咲さんが知らないはずもないし、一体どういう事かしら?)
(え!?いいのかなー?一応こっちも追っかけリーチをかける事はできるけど・・いや、ここで手を抜くのは宮永さんに失礼だよね!よし!)
「追っかけるよー!通らばーリーチ!」
当然豊音は追いかける。待ちは1萬、4萬、3筒、6筒の4面張。そして咲が牌を引く。その牌は・・
「ふふ、自摸!」
咲が引いたのは中!豊音が張っていない中!
「え!?うそー!?」
「リーチ、一発、自摸、一気通貫、混一色、中、ドラ2!12000、6000の3倍満!」
何故か豊音の先負の能力は発動せず、代わりに咲が3倍満をアガる結果となった。
宮守女子 91700 東
姫松高校 103500 南
清澄高校 93700 西
永水女子 111100 北
「あはは!さすがは咲だ!これでこそ衣を倒した者としての威厳が出るというものだな!」
「いやー、このオーラの使い方は見事としか言いようがありませんっすねー。」
「3倍満と聞けば字面はすごいが、ドラや一発が重ならなければこうも点数は伸びなかった。今回のアガりはたまたまだと、他校の選手にも出来る限り警戒させないプレイスタイル。根っからの策謀家だな、参考にしよう。」
咲をよく知る3人が揃って褒めるこの結果。しかし清澄の面々からして見れば、色々と疑問が残る闘牌だった。
「す、すいません!皆さんには宮永さんが何をやったのか理解出来ているのですか!?」
「ん?当然だ。というより衣らと同じように能力やオーラが使える面々からして見れば、咲のやった事など簡単に理解できるぞ?そうは思わないか、竹井久?」
「んえ!?・・いや、私も解説して欲しいかな・・なんて。」
「ならそれも合わせて、さっき中断した能力の解説もするとしよう。」
「ごめんね、ゆみ。お礼にこのドーナツも食べていいからね。」
(・・合宿の時も思ったっすけど、この人私の加治木先輩に馴れ馴れしいっす。)
ギュッ・・
(?・・!、やれやれ。)
頭ナデナデ・・
「それでさっき宮永がやった事だが、そもそも宮永は試合開始前からオーラで場を制していたんだ。」
「・・はい?」
「こればっかりは能力やオーラを使える人間でも、宮永の濃度変化を見破るのはほぼ不可能だからな。一般人にはまず知覚出来ないだろう。だから気づけなくても仕方ない、あまり気にするな。」
「いやそうじゃなくて、咲が最初から場を制していたっていうのは?」
「ああそっちか。最初に宮永がカンドラだと正体を明かした時、まず白いオーラを雀卓一体が包み込めるように薄く延ばすようにしながら放出していて、次に雀卓一体の濃度100%の白いオーラに黒いオーラをちょっとずつ混ぜていく。その変化に気付けなかった3人は知らず知らずのうちに黒いオーラの影響を受け続けていたって事だな。」
「ちょっと確認しておきたいんじゃが、その口ぶりだと咲はオーラを2つ持っとるって認識でいいんじゃな?」
「ああいや、厳密には一つなんだが、宮永のオーラ・・というより宮永の理想の自分像がかなり特殊でな。だからこそ、ああいう芸当が出来る訳でもあるんだが。」
「・・実際に見てもらった方が早いっすよ先輩。」
加治木の膝の上でそう呟く桃子。彼女の視線の先には、先程の加治木と同じようにTVがあったが、映っていたのは能力を持っていない末原であった。
続く。
IF展開 もしも姫松が決勝戦まで残ったら
私、末原恭子は今、人生最大のピンチに立たされている。
「ロン!リーチ、一発、断么、一盃口。8000の満貫です、末原”先輩”。」
「・・はい。」
みんなが繋いできてくれたバトン、宮永照にトバされそうになりながらも漫が泣きながら必死に渡してくれたバトン、他のみんなも強敵にボロボロにされながらも、それでも繋いでくれたバトン。それが・・こんな・・。
「ロン!三色同順、純全帯么九、ドラ4。16000の倍満です、末原”先輩”。」
(ちょ、ちょっとテル、こんなの聞いてないって!?サキってこんなヤバい子だったの!?)
(こ、これが伝説の雀荘荒らしの闘牌!・・酷いなんてものじゃない!勝つ為にここまでするの!?)
「・・・・・」
もう返事をする元気もあらへん。・・そりゃそうや。決勝戦の最後も最後、大将戦が始まって開始早々、宮永が私を嶺上開花で狙い撃ちや。宮永が早仕掛けの鳴き麻雀をするなんてデータに無かったで。・・まぁ、なんの能力ももっとらん私じゃそもそも何も出来へん。というか、私の持ってる牌が全部危険牌に見えるんやけど、これも宮永の能力か?それともただの”事実”か?・・もう、なんでもええか。
このまま仲間が必死になって繋いだ点棒を、ただただ宮永に持っていかれるだけのATMや、私は。最初から宮永は私を貯金箱として利用するつもりやったんや。だから2回戦3回戦で私に振り込みまくったんや。私という貯金箱を決勝まで持っていく為に、決勝で今まで振り込んだ分以上の預金を引き出す為に。・・はは、通帳代わりの得点版にマイナス表記を付ける気なんやな。ホンマ、流石カンドラさんやで、金勘定にはうるさいってか?
「ん?なんや。もう南入りか、早いなぁ。」
「・・末原先輩、ご自身の状況がどうなっているか、本当に分かってますか?」
「・・・分かっとるわ(小声)」
「確か末原先輩、2回戦の時に私に言いましたよね?ここで戦えているのは仲間のおかげだって・・そして次に、お前は最下位で恥ずかしくないのか?私だったら仲間に合わす顔が無い、と・・今思えば、これは凡人とは一線を画す人間が抱く感想ですね。普通の人だったらこんなカリスマじみたい台詞出てきませんよ。では改めて、末原さん、もうすぐ前半戦終了間際ですが、その前にトビそうになっている現状をどうお考えで?」
宮永の言葉の一つ一つが自分を貫いていく。ああ、私はなんて大馬鹿だったんや。何で宮永の手のひらで転がされていると気づかへんかったんやろう?昔の自分を引っぱたきたい気分や。でももう遅いんや、私はここで宮永に殺される、社会的にも、精神的にも・・いっそ飛び降りでもして最後くらい宮永を驚かせたろか?いや、宮永はカンドラとして裏社会を見てきたんや。今更死体の一つでビビるようなタマやないか。はは・・・ホンマ、死にたいわぁ。
そんな事を考えている内に南4局は終わっていた。ちなみに全員ノーテンやった。
(・・せっかく前半戦終了まで生き残ったんや。後半戦で派手に散るか、渋とく粘るか・・とりあえずトイレ行ってから考えるか。)
・・・・・取り合えずトイレでやる事をやった。そして洗面台で手を洗って、鏡で顔を・・何やこの顔、涙でぐしゃぐしゃやないか。いつの間にこんな事になっとったんや?アカン、もう自分の顔すら直視出来へん。ていうかアカン、涙が止まらへん。
「・・うう、ぐすっ、・・だれか・・私を助けてや・・」
弱々しく助けを求める。でも誰も助けてなんかくれへん。・・当たり前や、相手の力量すら測れずに馬鹿みたいに突っかかって痛い目見に行ったんは他でもない自分や。そんな馬鹿に誰が救いの手を差し伸べるんや。
「・・助かりたいですか?」
突然の声掛けにサッと顔を向ける。声を掛けてきたんは私を散々ボッコボコにした宮永やった。
「・・うっさい、どっか行けや・・」
自分でも情けなくて死にたくなるような覇気のない声しか出せへん。でも宮永はそんな私をいつもみたいに馬鹿にしたりはせずに、優しく抱き着いて頭を撫で始めた。
「・・前半戦はごめんなさい。でも私にも大事な約束があって、どうしても1位にならなきゃいけないんです。だから確実に点棒を取れる末原さんに決勝まで残ってもらう必要があったんです。」
・・不思議や。宮永の言ってることは最低やのに、それをどこかでしょうがないなと許している自分がいる。思えば最初からそうやった、いきなり煽ったかと思えば急に好意を寄せてきたりと、宮永は私の事が好きなんか嫌いなんかよう分からん反応しかしてこうへんかった。私を利用したいだけなら、わざわざそんな面倒くさい事せずに淡々と接してくれば良かったはずやのに。
「なぁ宮永。お前は私をどうしたいねん?」
思わず心の中で思っていた事が声に出てもうた。でもしゃあないわ、もう取り繕う元気もあらへん。このまま後半戦も宮永にいいようにやられるんなら、私にもこの死神の真意を聞く権利くらいあるやろ。
「・・末原さん、助かりたいですか?」
「・・え?」
「ここから逆転したいですか?無論1位は譲れませんが、末原さんを自然な形で2位まで押し上げる事くらいならやってもいいですよ。なんなら私に末原さんが迫っていい勝負に持ち込むけど惜しくも1位に届かない、みたいに演じるのも構いませんよ。そうすれば末原さんの社会的地位も守られるでしょう。」
その言葉に身体全体がガクガクと震えだす。宮永といい勝負に持ち込む?私が?ラスから1位に迫る勢いで?・・はは、地位が守られるどころやない、上がりまくりや!お前は自己意識が低いかもしれへんけどなぁ、高校生麻雀界の間では、もうお前は宮永照と並んで伝説的な立ち位置なんやで!そのお前をあと一歩のところまで追いつめたとなったら、どんだけ周りから称賛されると思っとんねん!後輩からの憧れも、先輩からの信頼も、監督からの期待も、私の守りたかったもんが全部守られるんや!これ以上のアガリは無い!
「・・ホンマか?ホンマにやってくれるんか?」
「ええ、末原さんがちゃんと報酬を払ってくれるのなら、ですが・・」
「報酬・・金か?いやちゃうな、お前はもっとええ稼ぎ口があるもんな。なら臓器か?臓器売買か?・・ええで、心臓はやれへんけど・・いややっぱやるわ。本来ならここで社会的に死んで引きこもるか自殺も視野に入れてた身や。今更命なんかいらんわ。」
「・・分かりました。そこまでの覚悟があるのなら・・」
そう言って宮永は私から離れる。・・正直もっと撫でて欲しかったな。自分でも何でか分からんけど、このまま宮永に赤ん坊みたいに甘えてたいわぁ。
「ここに、額をつけて下さい。」
宮永は手の甲を見せつけるようにして腕を伸ばした。
「・・これは、私が宮永に忠誠を誓え、っちゅうことでええんやな?」
「はい、厳密には末原さんは将来、私の秘書になって欲しいんです。もちろん私を絶対に裏切らない事が前提です。」
「・・そんな事でええんか?というより私なんかでええんか?分かってるとは思うけど、私めっちゃ麻雀弱いで?」
「ふふ、雀士の秘書に必要なのは強さではありません、分析力です。末原さんは自分を分析するのが苦手のようですが、他人の分析力に関しては最高のものを持っていると私は考えています。」
「・・そうか?なら何で今私はこうして宮永に生殺与奪を握られてんのやろうな?他人の分析が得意ならこんな事にならないように回避できたはずやと思うけど・・」
「・・それは私が初対面の時から貴女をオーラで誘導していたからです。ですから貴女に落ち度はありません。それでもあえて上げるのであれば・・貴女の今までの人生で能力を開花させるような出来事が起きなかった運の悪さ・・でしょうか。」
さらっと言われた事実に瞳孔が開く。今コイツは何て言った?会った時からオーラで誘導していた?
「ちょっと待て、つまりお前は初めて会ったあの時から私をオカルトじみた力で操ってたんか?」
「操るだなんて人聞きが悪いですね、私がやったのは誘導ですよ、ゆ、う、ど、う。最初に会った時はわざと末原さんを煽って怒りを抱かせました。普通ならその怒りはゆっくりと鎮火していくものなんですけど、それを私のオーラで長引かせるように調整しました。そして前半戦終了時、今度は末原さんに好意の言葉を投げかけて、その言葉が末原さんの奥深く届くようにオーラで調整した、ただそれだけです。要は末原さんが試合中に普段よりも感情的な行動をとるように誘導しただけなんですよ。結果として、普段から冷静な分析を心掛けていた末原さんが感情的になった結果、相手の力量を計り損ねたまま決勝戦まで来てしまった。ただそれだけなんですよ。」
それを聞いてなんとなく頭の中が整理されていく自分がいた。確かにそうや、普段の私ならもっと冷静に物事に対処していたはずや。いくら宮永がオーラで誘導した言うても、結局宮永がしたことは私を試合中感情的にしただけ。それも試合が終われば元通りになる程度の安いもんやろうし。それなのに、たかが1時間ちょいの試合の結果で熱くなって、顧問や先輩後輩の声を無視して突っ走って無様を晒したのは、他でもないこの私や。
「・・なんや、結局私の精神が未熟だったってだけの話か。」
「・・死体に鞭打つようで悪いのですが、その通りです。2回戦の顔ぶれを見た時、唯一能力を持っておらず、精神的防御が一番脆弱だったのが末原さんでした。続く3回戦でも、今やってる決勝戦でも・・末原さんだけが能力を持っていないとインターハイが始まった時から分かっていたので・・」
「なんや、最初からこうするつもりやったってことか。雀荘荒らしでその日暮らししてるってもっぱらの噂やったから、選手の能力の把握なんて面倒な事する性格とは考えへんかったなぁ。・・はは、こうして振り返ってみるとアレやな。私は一番警戒しなきゃいけない選手の事を一番舐め腐ってたってオチかい。ははは・・笑える・・」
「・・それで、どうしますか?私の将来の秘書になりますか?別に断っても構いまんよ、変わりに後半戦で早々に散って頂きますが。」
「・・なぁ、宮永の感情を誘導?するオーラって奴。逆もできるんか?」
「逆?」
「私がどんな目にあっても動じない、鋼の精神を保てるようにしてくれたりも・・できるんか?」
「・・ええ、出来ます。具体的には、この後の後半戦の最初に私のオーラで2人を威圧しまくります。そうすれば2人の手は鈍るはずなので、貴女は2人の直撃を警戒する必要が無くなり手作りに集中できます。そのまま2人が私に狙われている事を脅威だと感じてくれれば、少なくとも東2局までは手が遅くなるはずです。そこをすかさず攻めまくります。私はその後もオーラで2人の場の支配を崩す事に集中するので、貴女はとにかくテンパイ目指して頑張って下さい。その時にできるだけ顔を伏せて打ってくれるとなお良いです。」
「・・なるほど、2人には私が顔を伏せて打っていても、試合を諦めているとしか思えへんもんな。そのまま私が何回かアガっても、向こうは宮永に邪魔されたせいだと思ってコッチを警戒する事も無い。」
「はい、これなら末原さんが諦めずにどん底から這い上がって成り上がりった、という展開に自然に持っていけると思います。」
(ホンマにどこまでもコッチの事情を組んでくれるなぁ宮永は。・・よし、もう私が助かるにはこの道しかない!覚悟を決めろ末原恭子!宮永に人生を捧げるんや!)
「・・分かった!その話に乗る!だから頼む宮永!お前こそ私を裏切ってくれるなよ!お前に裏切られたら・・私はもう・・死ぬしかないんや!」
ガバッ!
覚悟を決めて言ってはみたものの、やっぱり怖くなって思わず宮永に抱き着いてしもうた。でもしゃあないやん。怖いもんは怖いんや。
いきなり抱き着いたからてっきり面倒くさい顔をされると思っとったけど、私の心配とは裏腹に宮永は笑って私の頭を撫でてくれた。・・ああ、やっぱ宮永の手は暖かいなぁ。
(ふふ、本当に末原さんは色々な意味で可愛いですね。末原さんをそこまで追い込んだのは私なのに、その私に泣きながら笑顔で縋り付くなんて・・本当に可愛いですよ。インターハイが始まった時はここまで上手くいくなんて思いもしませんでした。本来の目的も達成して、こんな拾い物までできるなんて、ラッキーとしか言いようがありません。これならわざわざ忠誠の証を立てる必要もないですね。)
「・・末原さん、そろそろ戻らないと。」
「ああスマン!?すっかり忘れとったわ!?」
宮永に言われて夢心地から覚める私。もっとあの温もりを感じていたかった。
「じゃあ、会場で待っとるで宮永。」
「はい、私は時間ギリギリに行きます。お気をつけて!」
宮永に気遣われながらトイレを後にする。そのまま1人で廊下を走る、すると・・
「す・・ら・・ん・・」
「ん?」
「すえ・・ら・・さん」
「誰や?・・」
「末原さん?」
「うおあ!?」
唐突に意識がハッキリと覚醒してベットから起き上がる!?ここはどこや!?
「末原さんどうしました?随分うなされていましたけど?」
「み・・宮永・・あれ?・・決勝戦は?ていうかなんで下着?」
「決勝戦?決勝戦の実況なら明日・・というか今日の朝9時からだけど。」
「へ?実況?・・ああ、そうか。もうあれから10年か、早いもんやな。」
「10年?・・ふふ、もしかしてあの日の事を夢に見てたの?」
「せや、というか宮永。よく見るとお前あの頃からかなり成長したな、髪だってこんなに伸ばして。」
「ふふ、末原さんもあれから大分変りましたよ。」
「せやろか?」
「そうですよ。私、末原さんの方言を聞くの久しぶりですもん。」
そう指摘されてハッと気づく。
「そう・・でしたね。すいません、以後気を付けます。」
「んもう、すぐそうやって畏まるんだから。」
「当然でしょう。私がもう立派な社会人であるのと同じように、貴女ももうちんけな雀荘荒らしなんかじゃない。今や世界ランク5位の日本を代表するトップ雀士なんですから、自覚を持って下さい。」
「ちょっと前まで1位だったんだけどね。少し公式戦に出なくなっただけでこれだよ、本当に面倒くさいなぁ。」
あれから全てが変わった。あの後会場に一番遅くやってき宮永は当初の作戦通り、後半戦開始早々阿知賀の穏乃に32000点を直撃させて2人からモロに警戒される事になった。その隙をついて私が跳満や倍満を直撃させて点を奪い、まず阿知賀を追い抜き、続いて白糸台を追い抜いた。そして宮永にも直撃を喰らわせて、あたかも私と宮永の実力が拮抗しているように演出して見せた。
そのまま試合は終了して結果は1位が清澄で2位が姫松、その2校の点差は僅差であった。ちなみにこの年の麻雀界では『今年のインハイ決勝!主人公は姫松の末原だった!』みたいな題名の記事が3分の1を占める年になったらしい。・・正直悪い気はしなかった。
でもここからが地獄だった。結局あの対決は宮永と私が手を組んだものだったと監督や監督代行、そして部長に見抜かれてしまったのだ。もちろん見抜けたのはその3人だけだったし、私を庇ってくれる子の方が大半だった。
だから一応、卒業するまでは学校に通えた。そして卒業を機に関西から逃げた。逃げた先は関東の長野県・・そう、私は2つ年下の宮永の元に逃げ込んだのだ。幸い宮永はこの時点では姉とまだ不仲で、家には宮永とその父親しかいなかった。宮永の説得もあって私は同棲する事を宮永父に許された。そうして家に居候していた私は、バイトと両立して秘書としてのスキルを身に着けるために資格の勉強を始めた。
でもその生活もきつかった。バイト代の多くを宮永・・咲の父に渡していたとはいえ、他人の家でフリーターを2年も続けるのはきつかった。そしてそんな辛さから逃げるために咲に暴言を吐く事もかなりあった。正直咲から捨てられてもおかしくないような事も言っていた・・と思う。
でもその度に咲は私を癒してくれた。どれだけ酷い事を言っても咲は私を甘やかして癒してくれた。・・そんな咲に私はどんどん溺れていった。リストカット、オーバードーズ、首吊り未遂のような事もやった。そうまでしてでも咲の気を引きたかった。咲の愛が欲しかった。仲間から失った信頼を、咲1人から補おうと必死だった。自分は悪くないんだと思いたかった。
そうして2年が経って、咲がプロ雀士の仲間入りを果たすと人生は一変。咲は仕事で多忙になり、当然それを私が管理するので私も多忙になった。でもそれが心地よかった、これでようやくフリーターからの脱却や、晴れて立派な社会人や。・・そう思えた。
でもやっぱり過去の傷は治らない。10年経った今でもなお、私の母校姫松の名を麻雀界で聞くたびに胃が痛くなる。かつての仲間が自分を責める幻聴が1日中聞こえるようになってしまう!心臓がキューってなる!咲に抱きしめて欲しくなる。咲に守って欲しくなる。あの決勝戦の時のように、私を救って欲しくなる。
だから月に数回、こうしてベットで肌を重ねるのだ。そうだった、トッププロであるこの人に娼婦のような恰好をさせて娼婦のような事をさせている屑は・・他でもないこの私だったのだ。
「・・宮永さん、あの・・」
「さっきからどうしたの?いつもみたいに咲って呼んでいいんだよ。」
「・・いえ、その・・何であの時、私なんかを救ってくれたのかなって・・」
「・・前にも話したと思うけど、アレは貴女のせいじゃない。貴女は私に利用されて、私は貴女を利用した責任を取った。それだけだよ。」
「それは私に都合が良すぎます。大人になった今なら分かりますけど、能力の使える雀士っていうのは、少ないけど確かにいます。それこそ町や村に数人は必ずいるってくらいに。そういった雀士にその場凌ぎの対策しかしてこなかった私が痛い目を見るのは道理ですよ。だから貴女は悪くありません。私が悪いんです。」
「つまり?」
「つまり・・貴女はもう、私を捨てたっていいんです。いい加減自分の幸せを掴んで下さい。」
私はもうこれ以上貴女に迷惑をかけたくないんです。貴女は昔みたいにもっと沢山の人を救う事を目的にするべきだ。そうして世界へ羽ばたいて、いつかは貴女自身の幸せを掴んで下さい。でないと・・私が貴女を閉じ込めてしまいたくなる。私が貴女から離れられなくなってしまう。
「ふーん、そうなんだ。末原さんそんな事考えてたんだ。」
「はい、ですから・・!」
言葉を続けようとした口の動きが止まる。唐突にオーラをぶつけられて身体がこわばってしまう。アカン、この話は咲にとって不快やったらしい。
「末原さん、”怒って”。」
言うが早いか、咲はオーラを私の頭に直接流し込んできた。途端に思考に靄がかかり、次第に怒りの感情が私を支配し出す。
「う・・いやです・・やだ・・やめて・・」
「いいんですよ末原さん。我慢しないで、醜い本音を私に聞かせて。」
その言葉で私の中の怒気がどんどん膨張していき、あっという間に怒りが全身を支配した。
「う・・ぐぐ・・宮永・・お前・・!!」
怒りに身を任せた私は咲の肩を引っ掴んでそのままベッドに押し倒す。端から見れば下着姿の女2人がこれから性交するようなシチュエーションに見えなくもないが、馬乗りになっている女から吐き出された言葉にそんなムードはぶち壊された。
「咲!お前はいつもそうや!いつもいつもそうやって私を甘やかして、私を簡単に救済して!そのくせ自分は何にも見返りを求めない!まるで英雄やないか!なら英雄は英雄らしく数多の人間にその愛を振りまけばええねん!いつまで私にばっかり愛を注ぎ込むつもりやねん!私だけやない!天江もネリーも小蒔も原村も・・みんなお前からの無償の愛に苦しんどる!どうしてお前は見返りを求めない!頼むから求めてくれや!でないとこっちが罪悪感で壊れてまう!そしたらまたお前は愛を注ぎ込んで治しにくる!負の連鎖やないか!頼むから・・私らにもっと頼ってくれや・・でないと・・お前が急にいなくなってしまわないかって・・怖くて怖くて・・気が違いそうになってくる。いっそお前を監禁でもした方がええんとちゃうんかって・・間違えそうになるんや。」
言った・・言ってしまった。ずっと心の内のさらに奥底に隠していた秘密を、咲はあっさりとオーラを使ってこじ開けてしまった。・・死のう。こんな醜い本音を知られた以上、もう咲に捨てられるのは眼に見えている。幸い、今泊っているこの部屋はホテルの最上階だ。飛び降りには最適だ。咲に捨てられるくらいなら、私は自分から死を選ぶ。
あの時は咲の救いの手を取ってしまったが、今度は咲も救いはしないだろう。そう考えた私はベッドから降りて・・
ガバッ!
・・またか、またお前は私を救う気なんか?いい加減にしろや。このシチュエーションでそんな事やられたら、もうお前の為に人類全員敵に回すくらいの事しないと釣り合いとれへんやん。
「末原さん、大丈夫ですよ。私は貴女を捨てたりなんてしません。だから行かないで。」
「・・嫌や、咲が絶対に私を捨てないって証拠を見せるまでは信じられへん。」(アカン、メンヘラみたいになってもうた)
「・・えっと、末原さんの言いたい事を要約すると、もっとわがままを言って欲しいって事でいいですか?」
「せや、咲はもっと私らにわがままを言ってもええ。うんと迷惑をかけて、私達無しじゃ生きられないってくらいまで堕落するのが丁度ってとこやな。」
「・・ふふ、その願いなら案外すぐ叶うと思いますよ。」
「!?それはどういう・・」
「そのままの意味です。きっともうすぐ忙しくなります。その時は私に力を貸して下さい。」
こうして私が感情的になった時、普段なら咲はオーラを使って落ち着かせてくれる。でも今回はそれをしない。という事は、オーラを使う必要すら無い。オーラを使わなくても私が落ち着くと考えている。・・何故なら、咲の言う言葉が嘘じゃないと、すぐに分かるくらいの何か大きなイベントがすぐそこまで迫っているという事・・か。
「・・分かった。今日はそれで満足するわ。ほな寝よか。」
「はい・・おやすみなさい。」
そう言うと、先程の事など無かったかのように眠りについた咲。・・とっさに納得してしまったけど・・さっきの話、ホントに信じてええんか?またいいように誘導されただけとちゃうんか?
(・・ま、しゃあないか。とりあえず今日は咲に捨てられなかっただけで良しとするか。でもアレやな、いつまた咲に捨てられないかで不安になるか分からんしな。せや!明日の朝に龍門渕から手錠を届けてもらうよう手配しとこか!もし咲が私を捨てようとしても手錠で繋がりさえすれば、物理的に離れられないから捨てようがないもんな。)
そんな事を考えながらベッドで横になっていると、割とすぐに睡魔が襲ってきて、あっという間に私の意識は微睡みの中へ落ちていくのだった。
朝8時
「・・んん、ああもう朝だね。」
朝日の光を浴びながら起床する咲。目覚めた咲はそのままベッドから起き上がると大窓の方へ歩いて行った。
「・・もうすぐだよ、光ちゃん。やっと光ちゃんを全ての危険から守れる力が手に入ったんだ。だから待っててね、もうすぐ光ちゃんを迎えに行くから。」
大窓全体から入ってくる朝日を一身に受けながら自らの覚悟を晒す咲。その表情は、かつて宮永家で3人が遊んでいた時のそれと・・全く同じ、いい笑顔であった。
IF・STORY END
Q.IF STORY なんで書いたの?
A.すいません。どうしても末原×咲のドロドロ依存系の小説が
書きたかったんです!