雀荘荒らしの咲   作:ロクナナエイト

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Q.このシリーズの主人公の名前を言ってみろぉ!
A.咲と照のダブル主人公にするはずでした。

Q.なんでネリーや豊音が主人公してんだオラァ!
A.なんでやろうなぁ。

Q.このシリーズの説明欄に”結構短めになる予定です”って書いたのはなんなんやワレェ!
A.当初の予定では11月中に書き終わる予定でした。すいません。


豊音と二十面子の出会い1

 

 

 私の生まれ育った家庭は率直に言って変だったね。片田舎の山の中腹にあるのは兎も角、我が家には何故か、私が生まれた時からお母さんしかいなかったから。

 

「お母さん、何で家にお父さんがいないの?」

 

 幼い頃の私は、まだ場の空気というものを読む事が出来なくて、母の地雷を週に一回は踏み抜いていたらしい。

 

「・・それはね、私がお父さんを愛してしまったからだよ。」

 

 一筋の涙を流しながら、無理矢理笑顔を作ってくれたお母さん。まだ6歳だった私は、その涙の意味を理解する事ができなかった。

 

 ___あの出来事から10年近くが経ち、私の背が190cmを越えようとしていた頃、当時通っていた高校に1人の教師がやって来た。

 

「あんた、姉帯豊音かい?」

 

 季節は秋、まだ東北地方特有の厳しい寒さが本格化する一歩手前の時期。そろそろコタツを出そうかと、放課後に一人で廊下を歩いていた時に、その人に出会った。

 

「お婆さん、誰?」

 

「私かい?私は熊倉トシ、あんたのお母さんの知り合いだよ。」

 

 その言葉に大きな衝撃を受けたのを、今でもハッキリ覚えている。普段山に籠って人に会おうとしないお母さんの知り合い。一体何者なのだろうかと非常に興味をそそられた。

 

「お、お婆さん、お母さんを知ってるの?」

 

「ああもちろんだよ。最後に会ったのは、あんたがお母さんのお腹の中にいた時だったからね。あんたが知らないのも無理ないさ。」

 

 それからの流れはスムーズだった。しばらくお母さんの過去話で盛り上がっていた私達は、その日の内に一緒に我が家へ行くことになった。我が家のチャイムを鳴らして家に入れば、すぐにお母さんが台所からすっ飛んで来た。そしてお母さんは久しぶりに熊倉さんに会う事になった訳だけど、普段人に会っても無表情なお母さんが、この時だけは嬉しそうな顔をしていたのが印象的だったな。それから2人はすぐに私を部屋の外へ追い出して、こっそり内緒話を始めちゃって、気になった私はこっそり聞き耳を立てた。

 

「・・豊音にも・・神様は・・半人・・血が・・」

 

「私の先祖が・・今ならまだ・・鹿児島で・・ダメだったよ。」

 

 神様とか先祖とか、普段聞きなれない単語ばっかり聞こえてきて、でもこの時の私には何の事か全く分からなくて、取り合えず2人はオカルトな関係なんだなって自分を納得させた。そうして聞き耳を立てていたら、

 

「豊音!もういいわよ!」

 

 お母さんからの合図がきたので部屋に戻る。戻って最初に目に入ってきたのは、お母さんの滅多に見られない心からの笑顔だった。

 

「豊音、こちらの熊倉さんは、これからも豊音の通っている学校に顔を出すそうだから、熊倉さんの言う事をしっかり聞くのよ。」

 

 これが熊倉さん・・いや、熊倉先生との出会い。お母さんの言った通り、その後も熊倉先生は学校に足繫く通って、私が授業で分からないとことか、進路で迷っているとこなんかを分かりやすく教えてくれて、だから一度、何でこんなに良くしてくれるんですか?って聞いたことがあった。そしたら・・

 

「・・罪滅ぼし、なのかねぇ。あんたのお母さんのお母さんを助けられなかった事に対する罪。あんたのお母さんが今なお苦しんでいる事に対する罪、あんたがこれから先体験するであろう苦痛に対する罪。・・私の先祖が犯してしまった禁忌に対する罪。」

 

 と答えた。当時の私はやっぱりよく分からなくて、でも熊倉先生が苦しんでいるのだけはよく分かって、だから、

 

「先生は気負いすぎだと思います!私自身、生まれてこの方大きな苦痛っていう程の苦痛を感じた事はありませんし、お母さんだって、山に籠っているのはお母さん自身の意思です!だから先生が責任を感じる必要は無いと思います!」

 

 そうハッキリ言ってしまった。事情をある程度知っている今だからこそ思うけど、この返事は空気が読めて無さ過ぎたなー。でも先生は、

 

「ふふふ、そうかい。ありがとうねー。」

 

 そう言って頭を優しく撫でてくれた。___そして翌年の1月、お正月が明けた頃に同じ岩手県内のとある学校へ遊びに行く事になった。なんでもその学校には麻雀部があるらしく、そこで私の遊び相手が待っていると先生は言っていた。実際に遊びに行って、初めて会ったみんなと麻雀を打ってみて、本当に楽しかった!ずっとみんなで遊んでいたいと思った。でも残念、楽しい時間はあっという間で、19時前なのに最終バスが行っちゃうからもう帰らなきゃいけなくなっちゃって、それを意識した途端、眼から涙が溢れて止まらなくなった。そしたら先生が

 

「大丈夫だよ豊音。あんたは来年からこの学校の生徒さ。この間の進路相談の時にやったテスト、あれはこの学校へ転校する為の学力テストだったんだよ。それに見事合格してたのさ、あんたは。」

 

 その言葉でさらに大泣きしたのを覚えている。昔から他人と仲良くしてはいけないとキツく言われていた私にとって、この言葉は本当に嬉しかった。多分熊倉先生がお母さんを説得したのだろう。この後家に帰ってお母さんに報告しても、

 

「今までごめんね豊音。これからは熊倉さんが付いてるから、思いっきり人生を楽しんで。貴女はもう、私みたいに山で独りっきりになる必要は無いの。私の分まで幸せになって。」

 

 そう言って泣きながら私を抱きしめてくれたお母さん、その顔は憑き物が落ちたような、長いトンネルからようやく抜け出せた時のような顔をしていた気がする。私自身、この時は涙で視界がぐにゃぐにゃしていてよく見えなかったから、よく覚えていない。

 

 それからの1週間は本当に楽しかった。何も知らなかった私は可能な限り、放課後みんなの通っている学校に行けるように努めた。そしたらシロが

 

「いちいちここに集まるのもダルいでしょ?ちょっと古くて治安もあんまりだけど、通学路から少し逸れた所に雀荘があるからさ。みんなそこに集まらない?豊音の使うバス停も近いし。」

 

 と提案してくれた。その提案に熊倉先生やみんなはOKしてくれて、私達の遊び場は雀荘へと変わった。雀荘に変わってからは、もっとみんなと遊べるようになって、本当に幸せだった。ずっとこの幸せが続けばいいなって思ってた。

 

 だからこそ、私はもっと慎重になるべきだったんだと思う。みんなともっと遊んでいたいという気持ちばっかり強くなっちゃって、取り返しのつかない事態を招いちゃったんだ。

 

 遊び場を雀荘に移してから1週間が経った頃。唐突に熊倉先生が学校の都合で出張する事になり、5日間会えない日が続くと言われた。でもそれ自体はそんなに悲しくなかった。少し前の私だったら泣いちゃってたかもしれないけど、今の私にはみんながいる。みんなで麻雀さえ打っていればそれで良かった。でも先生は、

 

「いいかい豊音。この事はあんたにとって酷でしかないだろうけど、私も心を鬼にして言うよ。・・私が出張から帰ってくるまでの5日間、あんたはみんなと会ってはいけない、絶対に。」

 

 後から先生に聞いた話だと、この時この事を聞いていた私の表情は、先生でさえ見ていて恐怖を覚えるものだったらしい。まるで親の仇でも見ているかのような鬼気迫る表情だったと。

 

「・・な、何でですか?」

 

 出した声は震えていたけど、それは悲しいからじゃない。私は目の前の恩人に対して、強い殺意を覚えていた。

 

「それは言えない。でもこればっかりは言う事を聞いてもらうよ。あんたのお母さんとの約束でもあり、お母さんのお母さんへの罪滅ぼしでもあるからね。」

 

 またそれ?と呆れた。先生の悪い癖だ、私のおばあちゃんやお母さんを引き合いに出して、詳しい事情も話さずに私から自由を奪う。確かに私に自由をくれたのは先生だけど、それとこれとは話が違う。自由をくれたからと言って、別の自由を取り上げるのはずるい。そう思った私は、ずっと聞きたかった事を先生に聞いた。

 

「前から思ってましたけど、先生の言う罪滅ぼしって何ですか!?私は別に先生に何かされた覚えはないですよ!?お母さんだって、山に籠っているのはお母さんの自由ですし、死んだおばあちゃんだって・・よくは知らないけど、多分先生に何かして欲しいなんて思ってないはずです!」

 

 思いの丈を口に出す。普段大きな声を出さない分、先生の心にも響いたはずだった。がしかし、

 

「・・ごめんね豊音、今のあんたにはどうしても言えないんだよ。」

 

 先生の心は動かなかった。でも代わりに、

 

「でももし、あんたが半年後に開催されるインターハイで良い線いけたなら、その時は話しても大丈夫、なのかもねぇ。」

 

 先生の心が揺れた。動かす事は出来なかったけど、確かに響いて揺らす事が出来たのだ。この事実が私を1つ強くした。つい最近まで他人とのコミュニケーションを避けてきた私が、先生の心を揺らす事が出来た!これが大きな自信へと繋がった。

 

「っ!本当ですね!?本当にインターハイで活躍出来たら教えてくれるんですね!?」

 

「ああ、約束は守るよ。だから豊音、これから5日間寂しい思いをするだろうけど、我慢してもらえるかい?」

 

「はい!でももし、本当の事を知っても納得できなかったら、私すごく怒りますからね!」

 

「ははは、ああ構わないよ。貴重な青春時代の5日間を無駄にするんだ。それくらいはね。」

 

 こうして私は、5日間の孤独を受け入れた。最初の1日目、先生が出張に行ってみんなと放課後に遊べなくなった初日、先生の言い分を聞いた時は怒りで頭が真っ赤になっていたけど、いざこうして家の中で1人で麻雀牌を並べていても、そんなに辛くはなかった。5日待てばみんなと遊べる、もう私は独りじゃない。その事実が私を知らず知らずのうちに強くしていた。

 

「あと4日、早くみんなと会いたいなー。」

 

 そうして退屈な1日が終わって、次の日の朝になった。この日は土曜日で学校もお休み、・・今までの私は休日が嫌いだった。だって1日中暇でしょうがないから。でもこの日は違った。

 

ドンドンッ!

 

「トヨネ!アソボー!」

 

「ひょっとして、まだ起きてない?」

 

「それはダルいな・・」

 

「あれだけ背が高いんだから、毎日規則正しい生活を送っているに決まってるでしょ。」

 

 何故かみんなが朝早くから家にやって来た。私がみんなと会っちゃいけない事は、先生が一昨日話したはず。どうして?

 

ガラガラッ

 

「・・おはようございます。」

 

「あ、豊音!おはよー!」

 

「オハヨウ!アソボー!」

 

「・・えっと、なんでみんなが?」

 

「?・・友達の家に遊びに行くのがそんなに変?」

 

「いや、そうじゃないけど・・先生がダメって。」

 

「先生が禁じたのは”豊音が私達に会う事”でしょ?なら私達が豊音に会いに行けば問題無いじゃない?」

 

 その言葉に目を見開いた。そんなのはただの屁理屈、先生がダメって言ったのは私とみんなが会う事そのもので・・

 

「・・先生には私達の方から頭を下げておくからさ。とにかく今日はみんなで遊ぼう!」

 

「うん、ダルいのは嫌だけど、仲間外れにするのはもっと嫌。心情的問題。」

 

「ウン!ナカマハズレ!ダメゼッタイ!」

 

「そうそう、そもそも熊倉先生が何の事情も説明しないのが悪いんだし、1日くらい平気平気!」

 

 今振り返ってみれば、この瞬間が今までの人生の中で一番人の温かみを感じていたと思う。みんなの想いに感動して泣き腫らした後、私はいつもの雀荘へ向かうためにバスに乗った。もちろん全員一緒に。

 

 そしてこの決断が、私という存在の異常差を、私自身がハッキリと自覚する切っ掛けになった。

 

 午前10時30分、雀荘に着いてから1時間がたった頃だった。私達はいつも通りに麻雀を楽しんでいた、もちろんインターハイに向けての能力の訓練も忘れずに。この時、塞以外の4人が雀卓に座って、それぞれが地区予選で能力者を相手にした時の打ち方の練習をしていた。

 

「ウーン、ムズカシイ!」

 

「ううダルい、もう能力者全員を塞が相手にすればいいんじゃないかな?」

 

「私の体力が持たんわ!馬鹿言ってないでとにかく打つ!」

 

「はーい。」

 

 いつもの下らない会話、いつもの塞のツッコミ。ああ、この幸せがずっと続けばいいなぁ、なんて上の空で打っていたら、悲劇は起きた。

 

「じゃあ豊音。今度は仏滅を使ってみてくれない?」

 

「うん、いいよー。」

 

 監督役の塞に仏滅をお願いされて、私は何の躊躇いもなく使った。そしたら、

 

「あ、あれ?なんか変、かな?」

 

「ん?どうした豊音。私みたいにダルくなった?」

 

(能力の制御が効かない!?止めようとしても止まらない!?なにこれ!?)

 

「トヨネ?・・アレ?ワタシ、ナニカ・・グッ!?」

 

 まず最初にエイスリンが倒れた。バタッという音と共に手牌をバラバラに倒しながら雀卓に突っ伏した。

 

「エイスリン!?・・ぐっふっ!?な、なにこ・・れ・・と、とよね・・これ・・なに・・」

 

 次に胡桃が倒れる。この時に胡桃が私の方へ話しかけながら倒れたおかげで、私は自分の能力のせいでみんながこんな事になっているんだと、ようやく理解できたんだ。

 

「ぐ、ぐぐぅ、も、ものすごくダルい!?・・塞!豊音を!」

 

「もうやってる!でも駄目!全然塞がらない!?なにこれ!?」

 

 塞がエイスリンが倒れた時から私の能力を封じようと頑張っていた。でも全然止まらなくて、しだいに塞の体力にも限界が来て・・

 

「も、もう駄目・・もう・・いし・・き・・が。」

 

 塞が地面に倒れこむ。バタッと大きな音を立てて倒れるその瞬間をハッキリ見てしまった私は、

 

「あ、ああ、い、いやあああああああ!?」

 

 自分の能力の所為でみんなが傷ついている現実に耐えられなくて、本能的に叫んで辛い現実から逃げようとした。

 

「ぐ、豊音!」

 

 雀卓から立ち上がって半狂乱になりながら叫びまわっている私に、シロがゆっくりと近づいて抱きしめてくれた。

 

「いや、離して!シロが死んじゃう!みんなみたいに死んじゃう!」

 

「お、落ち着い・・て、みんな、息は・・あるから、たぶん。」

 

 この状況でも私を責めずに優しく接してくれるシロの姿に少しだけ冷静になる。そして動きが鈍った私を見てシロは、

 

「だ、大丈夫、私は、私達は、ずっと、一緒、だ・・から。」

 

 そう言い残して気を失った。シロの腕から力が抜ける。シロの身体がゆっくりと重力の手で地面に叩きつけられる。

 

「あ、ああ、シロ、シロォ・・エイスリン・・胡桃・・塞・・誰か・・助けて。」

 

 シロが倒れた事でみんなを殺してしまったと早とちりした私は、その場に蹲って泣き始める。この時はもう心の底から人生に絶望してた、先生の言う事を聞いて、素直に家に籠っていれば良かったんだ。もう死にたい、みんなの後を追いたい。そんな絶望に包まれていた。そしたら・・

 

 バンッ!

 

「・・ええ(困惑)、何これ。私が隣の和風定食屋さんをお昼に選んでなかったら大事件になってたところだよ・・」

 

 雀荘のドアを勢いよく開けて入ってきたのは、黒いマスクにサングラス、ロングコートに緑の長髪の不審者だった。

 

 

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