A.すいません、筆が暴走した結果です。
二十面子さんが去った後も、私達は練習を続けた。そして先生が出張から帰ってくる日、私達は学校の部室で先生を出迎える事にした。
「ただいま。」
「「「「「お帰りなさい先生!」」」」」
ドアを開けて入ってくる先生にサプライズ。先生は一瞬キョトンとした顔をした後、満面の笑みを浮かべてくれた。
「ふふ、みんなありがとう。ちゃんと私との約束を守って・・」
みんなの顔を順番に見ていった先生だったけど、私の顔を見た途端、急に驚いた顔をして黙ってしまった。
「?・・先生?」
「・・あ、あんた!?いったい・・どうやって!?」
先生は私の顔を見ながらゆっくりと近づいてきた。
(もしかして・・最初は二十面子さんの事を隠そうか迷っていたけど、この様子だともうバレちゃったかな?)
そう考えた私は、先生が動揺している内に全てを話す事にした。
「先生、あのね。」
それからはもう凄かった。この5日間の出来事を包み隠さずに全部話した。その時感じていた事も全部話し終えた私の気分は最高だった。二十面子さんとの出会いから別れまでをみんなと一緒に振り返るのが楽しくてたまらなくて、かれこれ2時間近くかかってしまった。話している最中にエイスリンと塞のテンションが凄い事になって、2人の興奮を抑えるのにも時間がかかった。とにかくみんなで二十面子さんを、アフリカの部族が神を称えるかの如く褒め称えた。そんな私達の様子を見ながら、この5日間の出来事を聞いた先生は、話し終えるのと同時に大量の汗を流しながらクタクタになっていた。
「・・な、なんともまぁ・・それは、凄いねぇ。」
そう言って水分を補う為にお茶を飲む先生、そこへ間髪入れずに胡桃が質問する。
「それで先生!何で出張前に豊音にあんな事言ったんですか!?先生は豊音が暴走するって、本当は分かってたんじゃないんですか!?」
それを聞いた途端に咳き込み出す先生。とりあえず背中を摩<さす>ってあげた。
「ゲホッ、ゲホッ・・ふぅ、ありがとう豊音。そしてごめんなさい、胡桃の言う通り、私はこうなる事が分かっていたわ。」
そこから先生の懺悔の時間が始まった。その内容を簡単に纏めると先生曰く、私の能力は遺伝によるもので能力に個人差はあれど、皆共通して他者から命を吸い取る事が出来たらしい。それを知っていた先生は、私がみんなを殺さないように色々と影から私の能力を抑えていたらしい。そして話は私の父親の話題へと移った。
「・・だからあんたのお父さんも、お母さんがあんたを身籠って2週間で死んでしまったんだよ。」
「・・先生、豊音の両親は、どのくらい一緒にいられたんですか。」
「たったの半年さ。これでも昔の人達と比べれば長い方だよ、昔は好きになった相手を一眼見ただけで無意識に殺した者もいたらしいからね。」
「それは・・残された方は凄くダルいだろうなぁ。」
そこで会話は途切れて、僅かに沈黙が続いた。1分後、沈黙を破ったのは塞だった。
「先生、何で先生はそんなに姉帯家の歴史について詳しいんですか?先生は何者なんですか?」
その質問から数分、先生は眼を閉じて大きく息を吐いた後、覚悟を決めて口を開いた。
「・・時代は大体江戸の頃かね。私の先祖は元々九州で生活していたらしくてね。そこで悪霊や鬼を退治する退魔士の仕事をしていたんだよ。」
そのあまりにオカルトじみた内容に一同愕然とした。たぶん全員が(ほんと!?)と思ったに違いなかった。
「そんな折、生まれつき病弱で退魔の仕事が満足に出来ない子が生まれてしまったのさ。その子は常に周りの優秀な退魔士と比べられて、そのせいか、物心ついて最初に抱いたのが劣等感だった。それは日に日に膨張していき、ついに15を越える頃には周りに復讐する事しか考えられない鬼に成り果てちまったのさ。」
「鬼・・もしかしてそれが!?」
「違うよ豊音、確かに彼女は鬼に堕ちたけど、それはあんたの先祖じゃない。私の先祖さ。」
そう自虐風に呟く先生の顔は、色んな意味で疲れ切っていた。
「鬼に堕ちた彼女は、当時の日向・・今の宮崎県を中心に暴れまわっていた”悪鬼”と呼ばれる存在に接触して、その悪鬼と子供を成したのさ。」
「アッキ!ナラソノアッキガ!?」
「ああそうさ、姉帯家の人間が生まれつき持つ事になる能力。愛する者を殺して自分だけの物にする鬼の価値観。それらを遺伝子に刻み付けた存在、それが悪鬼だよ。」
そこまで聞いて息が止まった。息を無意識の内に止めていた。苦しくなって吐き出すまで、息を止めた事さえ気づけないでいた。ショックだった、私のみんなを愛するこの気持ちも全部植え付けられた物だったのだろうか?私はなんなのだろうか?死んだ方が良いんじゃないか?そんな私の様子に気付いて声を上げたのはシロだった。
「せ、先生!?ちょっと待って下さい!今先生は鬼の価値観が遺伝子に刻まれてると言いましたが!それと豊音の性格には何の関係もないんですよね!?豊音が人懐っこい性格なのは、豊音だけのものですよね!?」
そう言って私を後ろから抱きしめる形で声を上げるシロ。正直すごく嬉しかった。
「・・・・・」
「何とか言って下さいよ先生!」
「・・ごめん、これ以上は何も言えない。」
「は・・はぁ!?」
普段からは想像もつかない程の怒気をぶつけるシロ、そんなシロにも全く怯まずに先生は続ける。
「豊音、本当にごめん。でもこれは、あんたのお母さんとの約束でもあるんだ。あんたがもっと精神的に成長して、完全に大人になってから話そうと、そう約束しちまったんだよ!」
「セイチョウナラ、ニジュウメンツサン、シテクレタ。ムモンダイ!」
「それだけじゃ不十分なんだよ。見たところ、その二十面子って子がやった事ってのは、豊音に能力者としての自覚を目覚めさせたのと、能力の制限だけなんだろう?それじゃあ駄目だよ、少なくとも前以上に六曜の力を操って見せなきゃ成長したとは言えないね。」
そうきっぱりと拒否する先生に、みんなはさらに噛みつこうとしたけど、そうなる前に私がみんなを止めに入る。
「ちょっと先生!それは・・」
「みんな待って!」
「トヨネ?」
「・・先生の言う通りだよ。というより、二十面子さんにもはっきり言われた。私には能力者としての自覚が全く無かったって、だからみんなを危険な目に合わせる事になったんだって。」
「・・それに関しては本当にすまないと思ってるよ。本来なら、私が四六時中見張らなきゃならない約束なんだがね。」
「ふふ、それはいくら何でも無茶ですよ先生。大丈夫です、私は気にしていません。それに・・」
「ソレニ?」
「不謹慎ですけど、私が能力を暴走させたから二十面子さんに会う事が出来たんです。その点だけは、この能力に感謝しています。」
その言葉にみんなは笑顔で大きく頷き、話はまた二十面子さんとの思い出話へと戻っていった。
___あれから7か月、私達は二十面子さんともう一度会う為に頑張った。当初のインターハイへ行く目的だった、高校3年最後の夏を思いっきり楽しむという結果は、私達が高校を卒業してからも、ずっと続いていくであろう絆を更に深める為の儀式、という過程へと、いつの間にか変わっていた。
(もう一度二十面子さんに会って・・私達の成長した姿を見せたい!例え決勝まで行けなかったとしても、1回戦で敗退するとしても、貴女の教え子として・・恥じない戦いをしたい!)
その想いが私を強くした。能力を封じてすぐの頃は、1日に1つの能力しか使えなかったけど、今では2つまでなら完璧にコントロールする事が出来るようになった。
(六曜が日付に基づいた能力だからかは分からないけど、その日の最初の試合開始時点で能力を2つ選ぶ。それで今日は終わり、後は日付を跨《また》ぐまで能力の変更が出来ない。悔しいけどそれが限界だった、でも今は!)
過去を振り返るのをやめた豊音は今を見る。
「ロン!3倍満!24000!」
末原が霞に3倍満を直撃させた。この結果は咲のオーラによる誘導だけではない、霞から豊音に乗り換えた”恐ろしいもの”による誘導も合わさっての事だった。
(くっ!まさかこんな事になるなんて!)
険しい顔をする霞、それもそのはず。普段の霞ならこんなあからさまなリーチに振り込んだりはしない。故にこの振り込みは、恐ろしいものによる脅迫に従った結果であった。
(私がここで振り込まなかったら契約違反とみなして暴れ回る。そのような事は巫女である私の立場上感化できない。・・咲さんとの決着を付けられなかったのは悔しいですが、恐ろしいものが私の手を離れてしまった以上、もう勝ちの目はありません。大人しく2人の決着を見守るとしましょう。)
ここで霞の戦意は喪失。無論今回の3倍満で1位に返り咲いた末原も逃げに徹する為、後は咲か豊音のどちらが2位になるかを競う戦いへと、場は流れていった。
宮守女子 91700 東
姫松高校 127500 南
清澄高校 93700 西
永水女子 87100 北
南2局、配牌の際に発生する僅かな時間。その間に豊音は、恐ろしいものに聞いておきたい事を全て尋ねる事にした。
(・・先程は助けて頂いてありがとうございます。貴女の名前は?)
(ワタシハアナタノ、ハハノヨウナソンザイ、ハハトヨビナサイ)
(では母上、貴女はかつて日向で暴れ回っていたという悪鬼、なのですか?)
(アア、アア、アッキ!ヒュウガ・・アッキ・・カワイソウナワガムスメ。)
(・・つまり、悪鬼は貴女の娘さん、という事ですか?)
(エエ、エエ!ワガムスメ!ソノムスメデアル・・アナタモ・・ワガムスメ・・イトシゴ・・)
そこまで聞いて一旦大きく息を吐く・・これで全てが繋がった。私の祖先は悪鬼と退魔士の半人半妖、退魔士の子孫である先生と半人半妖の子孫である私、そして九州代表の岩戸さんが連れてきた神。
(ずっと不思議だった。本当に私の中に冷血な鬼の血が流れているのだとしたら、もっと暴力的な力が目覚めているんじゃないかって。なのにどうして、暦を司る六曜の力が受け継がれてきたのかって・・そっか、私の祖先の半人半妖も、その親である悪鬼も、大元は神様だったんだ。)
豊音は改めて自身の背後にいる恐ろしいものに意識を向ける。
(この人から感じるのは身内への深い慈愛と他者への敵対心、そして凍てつくような孤独感。たぶんこの人は、神様の中でも荒神とか邪神に分類されるタイプの神。力はあるのに、酷い寂しがり屋だったから、道徳よりも自分の都合を大事にしてしまう人。だからその娘である悪鬼も、本当はただ寂しかっただけで、その寂しさを埋めるために魂を欲した。ふふ、その価値観は今も私の中で息づいている。)
豊音は久しぶりに理想の自分をイメージする。理想の自分は、あの時から変わらずに神社の本殿で瞑想をしていた。ただその額には、人外の証である角が怪しく光っていた。
(私があの時能力をコントロール出来ていなかったから、宮永さんが助けに来てくれた。あの時に宮永さんに出会っていなかったら、私がこの場に来る事は無かった。先生に私の先祖が鬼だったと知らされた時は本当に参った。でも・・私の先祖が鬼だったおかげで、宮永さんとの素敵な出会いをする事が出来たし・・だから、母上にはそれなりに感謝しています。)
(・・ッ!?ソ、ソウデシタカ!ワ、ワタシモ!ウレシイデス!)
恐ろしいものが豊音に感謝を告げた。恐ろしいものが神台との協力関係になってから数百年、神台は彼女を徹底的に悪だと決めつけて、言いたい放題言ってきた過去があったため、久しぶりの心からの感謝に彼女の気分は高揚した。その反応に一番驚いたのは、まだ微かに恐ろしいものと繋がっていた霞であった。
(え!?この清らかな霊気は何!?まさか・・あの恐ろしいものが、善神と同じ霊気を放っているというの!?)
霞の想像通り恐ろしいものは、小蒔が降ろす神々と同じような霊力を今現在放っていた。普段自分とは何の関係もない巫女にいいように使われている彼女は、当然普段から霞に冷たく接していた。そんな霞とは違って自分の子孫であり、自分の言う事にちゃんと耳を傾けてくれる良い子の豊音には甘々な態度で接していた彼女であったが、そんな良い子の豊音にいきなり感謝をされたため、ここ数百年全く感謝をされてこなかった事も相まって、俗に言うキャパオーバーのような状態になってしまった。そんな彼女が次に思いついたのが、
(イトシゴガ・・カンシャシタ!モット!モット!)
といった具合に、もっと子孫から感謝されたい彼女は、普段の”気に入らない奴は味方だろうと排除する荒神”としての側面を引っ込めて、自分の身内を徹底的に守る善神へと姿を変える事にしたのである。要は咲と同じで、白と黒のオーラを使い分けているだけである。最も、咲と違って使い分けているのは、オーラではなく能力なのではあったが。
(では母上、これから私は残る3局を全力で戦いたいと思っています。ですが私は、まだ能力を完全にコントロールする事が出来ておらず、全力で戦えば相手の命を奪ってしまう事になるやも知れません。)
(・・?ナニカ・・モンダイガ?)
(殺したくないのです。母上の時代とは違って、今は人の死に世間が過敏に反応します。例え神聖な決闘の場だとしても、相手を死に至らしめるのは禁止されているのです。)
(・・ハァ、ナントモマァ・・ムカシハ、ケットウデノシハ・・メイヨ、ダッタノニ。)
(ですので母上には、私が全力で能力を使う間、他の人が死なないように範囲を調整する役割をして欲しいのです。)
(ソレダケ?モット、デキマスヨ)
(・・本当は、母上に頼るのもやめておこうかとも思っていました。今の自分の全力でぶつかって、それで負けても宮永さんと会えたからそれで良しとしようと、ですが・・)
(デスガ?)
(あの人に・・私の師匠であり、先生であり、お母さんでもあり・・私の、私の!愛しい人に!自分の全盛でぶつかりたいんです!私の方を見て欲しいんです!例え両想いになれなくても!あの人が私を透かして別の人を見ているんだとしても!今だけは!あの人の全てを!私で塗りつぶしたいんです!)
分かっていました、宮永さんが何も言わずに私達を指導している時、私達を透かしてどこか別の風景を見ている事を。私と話す時も、誰か別の人を当てはめている事も。宮永さんが去ってから、私が鬼の血を引いていると知った時から、ずっとその考えだけが頭の中でぐるぐるしていて。いざ宮永さんと再会しても、その事だけがずっと心の中でモヤモヤしていて。宮永さんとの麻雀を、全然楽しめていなくて。試合が始まった時からずっと・・負けてもいいかな、なんて諦めていました。だって、もしここで勝っても、宮永さんに嫌われるだけだと思ってしまったから。
(でも母上に会って私は変わった!私は母上と同じ”神”の血を引いている!さっきまでずっと自分が鬼の血を引いているって、自分は人とは寄り添えないんだって、お母さんと同じように山に籠るしかないんだってどこかで諦めてた!でも鬼じゃなくて神だった!なら人とも寄り添える!今は力をコントロールできなくても、いつかは完璧に操れるようになってみせる!そしたら今度こそ!私はみんなの、宮永さんの隣にいる事が出来る!宮永さんの隣に相応しいのは神の血を引く私以外にいない!そうでしょう!母上!)
たぶん他の神様だったら怒って神罰を下すような、酷い内容に聞こえただろう。でも母上は、
(フフフ、ソレデコソ!ワタシノイトシゴデス!エエ、エエ!イイデショウ!ゾンブン二アバレナサイ!)
それを最後に彼女は豊音の背後で霊力を解放、豊音の隠された全ての力を存分に発揮させるため、眼を閉じ雀卓を霊力で囲った。
「・・いきますよ、宮永さん!」
「ええ、貴女の全力、見せてください。」
配牌は終わり、皆が自分の手を確認する。そして、
(・・ん?なんやこの配牌?絶一門が終わったのは、さっきのオッパイお化けの様子から分かっとったけど、これは何や?宮守の能力か?)
訝し気に豊音の方を見ながら手牌に疑問を持つ末原。それもそのはず、末原の手牌は・・何一つ、纏まりが無いのだから。
続く