「はぁ、はぁ。取り合えず校門には来た!ここから駅に行って・・どこまで乗り継げばいいんだろう。」
やらかした。私は結果を急ぐあまりにとんでもないタイムロスをする事になると予測した。今からスマホで例の雀荘を検索して行き方まで分かるのに10分。ここから駅まで5分。電車で・・まぁとにかく、雀荘まで1時間以上かかるのは明白だった。加えて私の迷子癖まで合わせると・・
「おーーーい!テルーーー!」
唐突に淡の声が聞こえたので振り返ると、何故か虎姫の4人が全速力で走って向かってきていた。
「はぁ、はぁ、はぁ・・お、お前なぁ、少しは・・はぁ、はぁ。」
一番早く着いたのは菫だったが、息が絶え絶えで何が言いたいのか全然分からなかった。
「はぁ、はぁ・・照先輩!雀荘に行きたいのならご一緒しますよ!」
照「え!?でも誠子、教頭が・・」
「はぁ、はぁ。教頭・・いえ、学校への言い訳は5人で行動していれば問題ありません。5人なら、雀荘に見学しに行ったとでも言えば大丈夫です。滞在時間も数分で済ませれば、学校側も何も言えないでしょう。最悪なのは、一人で雀荘に長時間滞在する事です。」
「はぁ、はぁ。尭深の言う通りだ照。とにかく、お前が行動する時は常に誰かと一緒にいろ!ただでさえお前は方向音痴なんだから、な!」
みんなが私を心配してくれるのは素直に嬉しかった。でもこれは個人の問題。そう言おうと口を開こうとしたが、
「ほら、分かったらさっさと行こう。最短でも20分掛かるんだから!・・フフフ、楽しみだなぁ。雀荘荒らしを1年も繰り返す謎の高校生!どんな子なんだろうね!私と同い年とか超ワクワクするよ!」
そう言われて問答無用で淡に手を引かれながら、私達虎姫は駅へと急ぐのだった。
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例の雀荘:ビルの前 照視点
「さて、着いたな。」
本当に20分で着いた。素直に驚いた。それにしても、その子はホントにこんな薄汚れたビルに入っていったのだろうか。私の記憶の中の彼女なら絶対に来ない、来たとしても怖気付いて引き返すはずだ。
「ここに、例の雀荘荒らし・・カンドラがいるんですね。」
「え?セーコ、カンドラって何?」
「ネットでのその子の呼び名だよ。槓子が武器の旅人(トラベラー)、略してカンドラ。」
「私の知り合いは怪人二十面相をもじって二十面子って呼んでたよ。」
「私にその子の事を教えてくれた人は、嶺上って呼んでたな。」
「呼び方なんてどうでもいいから・・誠子!その子はまだここから出てきてないんだよね!?」
ついつい語気が荒くなる。でも今の私には余裕がない。その雀荘荒らしをしている子が私の予想通りなら・・ダメだ。その予想が外れている事を確認する為に此処へ来たんだ!弱気になるな照!
「あ、はい!掲示板にはまだ載ってないですね。あ、でも私達がここにいる事が載ってます。」
「やっぱりか。・・しかたない、一旦そこのコンビニに入って時間を潰そう。今ならまだ通りかかった事にできるはずだ。」
「そうですね。コンビニからでもここは見張れるので、その子が出てきてからでも十分対応可能です。」
「ていうかテルー、なんでいきなり部室走って出てっちゃったの?そんなにその子の事が気になったの?」
「私は・・!」
理由を説明しようとして止める。別に説明する事に抵抗は無い。ただそれどころでは無くなっただけで。・・階段を誰かが下りてくる。ゆっくりと、確実に!
「ねぇ、階段を下る音がしない!?」
「え!?・・あ!本当だ!誰かが階段を下りてきます!」
「え、え?・・もしかして!?」
私達が小声で騒いでいる間にも、誰かが階段を下りてくる。みんながその事に気付いた時には、既に私達の真上あたりまで、音が下りてきていた。
「みんな・・声を落とせ。」
菫の指示に従い、みんな声を落とす。私達は沈黙に包まれた。
でも沈黙に包まれていた時間はあっという間だった。なぜなら、その子の顔が私の視界に入った瞬間、私の沸点が超えたからだ。
「何をやっているの、咲!」
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「え!?・・えっと?」
突然現れた姉の存在に驚く咲。それもそのはず、まず第一に咲は変装していた。声だってマスクで曇っていてよく分からない。第二に化粧やウィッグで人種すら誤魔化していた。そして最後に・・今日は土曜日で、白糸台麻雀部は1日中特訓の予定だと知っていたからである。まさか自分の居場所まで突き止めてやって来るほど、自分に関心が残っているとは、咲は露ほどにも思っていなかったのである。
「何をやっているのって聞いてるの!・・咲が何を考えてこんな危ない事しているのかは分からないけど、こういう事をするならせめて”貴女の姉である私”に一言相談して欲しかった。」
若干申し訳なさそうに語気をすぼめながら、未だに家族の繋がりを強調する姉の姿を見て、咲はカチンときてしまった。
「貴女は確か・・宮永照さん、ですよね?2年連続で白糸台を優勝へ導いた英雄だと存じています。そんな時の人にこのような事を言うのは心苦しいのですが・・私を誰と勘違いしているのでしょうか?もしかして、今年のインターハイの長野県代表の宮永咲さんの事でしょうか?でも確か、貴女はインタビューで”私に妹はいない”と否定していましたよね?あれは何だったんですか?世間に嘘をついていたんですか?」
2人が会話をしている最中ずっと、2人の会話での殴り合いに白糸台の面々は困惑した。事情をなんとなく知っていた菫は、2人の会話(口喧嘩)をなんとなく理解しているが、他の3人は、照がガチで目の前の雀荘荒らしを知人?と早とちりしているのではないかと疑ってしまった。
「す、菫先輩!どういう事なんですか?照先輩ってこの人の知り合いなんですか?」(小声)
「たぶん、そうだと思う。そして照の数少ない知り合いだからこそ、こうして危険な橋を渡ってまで、彼女を諫めにきたってことなんじゃないか?」(小声)
「だとしたら意外ですね。照さんってもっとドライな人だと思ってました。」(小声)
「ていうか、目の前の雀荘荒らしの人って本当にテルの知り合いなの?あの子、思いっきり否定してるけど?」(小声)
そんな事を話している間にも2人の会話はエスカレートしていく。
「誤魔化さないで!そのオーラは間違いなく咲のだよ!それに匂いだって微かに咲の匂いがする!」
「何度も言いますが、私は今日初めて貴女に会いました。そして幻滅しました。見ず知らずの他人をいきなり妹扱いして、説教してくる変人だったとは思いもしませんでしたよ。」
「だから!何度も言うけど貴女は間違いなく咲!まずはそこを認めてよ!話が進まない!」
「進める必要はありませんよ。私はもう帰るところなんですから。いい加減通して下さい。あんまりしつこいと警察を呼びますよ。」
話がヤバい方向へ向きそうになり、慌てて菫が止めようとするが・・それより先に誠子が口を開く。どうやらスマホの掲示板を見て慌てているようだ。
「・・ちょっと待って下さい!臨海女子の生徒がこちらに向かって歩いてきているとの情報が!」
その言葉に一同驚愕した。そして照も含めた白糸台の面々は皆一様に菫に顔を向けた。こういう時にとっさの判断を下さないといけないのが、部長の辛いところである。
「とりあえず、みんな今日は解散しよう。照もそれでいいな!」
「その必要はないよ。」
その言葉にビクッと驚いた白糸台の面々は、声の主の方へ瞬時に振り向いた。そこにいたのは・・
「こんにちは、白糸台の皆さん。」
ネリー・ヴィルサラーゼ。臨海女子麻雀部インターハイメンバーの大将であった。
つづく