雀荘荒らしの咲   作:ロクナナエイト

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ここ2週間にあった出来事

1:パソコンを新しく新調する。
2:新たなパソコンにデータを移す。
3:そのまま新たなパソコンで小説を書く。
4:4000文字くらい書いたところで
 操作ミスにより4000文字が消し飛ぶ。←致命傷
5:なぜか自動保存されなかった為4000文字書き直し。
6:その事実に耐えられず3日間くらい失踪。
7:5日前くらいに復帰、とりあえずリハビリとして番外編を投稿←今ここ
8:お待たせしてしまい大変申し訳ありませんでした。
 今日からは通常のペースで頑張って参ります。


番外編:小鍛冶健夜の誕生

 

 私、小鍛冶健夜は人生に退屈していた。最初に冷めたのは、最早お金を稼ぐ手段としてしか見ていなかった麻雀。そしてすぐに対人関係、それから1年後に・・この世界全てに冷めた。飽きたんじゃない冷めたんだ。

 

 確かに私よりも強い雀士はいた。国内無敗なんて言われてるけど、実際は持ち点がマイナスにならなかっただけで、点数で負ける事は・・偶にだが確かにあったのだ。もちろん悔しいと思った事だってある。

 

 でもそれだけ。彼女達との麻雀は、一瞬だけ楽しいと感じるだけで・・闘いと呼べる程のものではなかった。私は闘いたかったんだ・・麻雀という舞台で。

 

(そんな自分の我儘に気付けたのも20歳を超えた頃で、それと同時に自分以外の人間に冷めた。誰も私の本心を理解してはくれなかった。)

 

 自分の気持ちに気付いてから1年、その間に世界中で知り合った名立たる雀士達に連絡を取って、自分と同じ考えを持っているか聞いてまわった。

 

 麻雀で相手を徹底的にコテンパンにしたい。その結果相手の心が壊れても構わない。むしろ闘いで死ぬのなら本望でしょ?能力者ならその覚悟があるはず!・・そういった内容の電話を世界中に発信した結果、私は雀士達全員から異端視された。

 

 それから3年くらいは雀士として活動を続けてはいたけど、心の氷は厚みを増していくばかり・・手加減していい感じの勝負を演じて、ちょっと本気を出して相手を再起不能にしたりして、公式試合でオーラや能力の効果的な使い方を実験したりして。・・結局残ったのは、自分の天井知らずの能力とオーラ。その成長の為に養分となった、名前も思い出せない雑魚雀士達の屍山血河。

 

(結局25歳を超えても心からの勝負は出来ず仕舞い。半面お金の方はもう一生分は溜まっていたから、あとは隠居しながら、適当にのんびり死のうと思っていた。)

 

 そうしてプロとしての活動から一線を引いて、TVの解説役として働いて、30越える頃には完全に引退しようと思っていた時の事。

 

(・・出会っちゃったんだよね、私の魂を心から震わせてくれる運命の人に。生まれてからずっと割れる事のなかった心の氷河を、たった1日で溶かし切ってくれた人。)

 

 その人物の名前は宮永咲、今から2年前の春、私が偶々オフの日に、東京の裏通りにある骨董品店に立ち寄った帰りに、彼女と出会った。今思うと、私は彼女に引き寄せられていたのかもしれない。同じ能力者である彼女に無意識に。

 

「・・ねぇ貴女、大丈夫?」

 

 初めて見た彼女の印象は、ハッキリ言って幽鬼のようだった。目は落ち窪んで生きる気力を全く感じず、フラフラとジグザグに歩く様は正に千鳥足。でも彼女の身体からは、黒い靄のようなオーラが全身から放たれていて、ハッキリ言ってこの世の存在とは思えなかった。

 

 でも外見は完全に中学生・・それどころか小学生の可能性もある見た目をしていたのも相まって、反射的に声を掛けてしまった。

 

「・・大丈夫です。」

 

 返ってくる声はとても小さく、まるで消えかけの蝋燭を相手に話しているのか、と思える程弱かった。流石にこんな子を1人で野放しには出来ない、そう思った私は、取り合えず彼女を引き留める為に言葉を投げた。

 

「・・良かったら、話だけでも聞こうか?」

 

 反射的に優しい言葉を選んでしまい、言ったあとに直ぐに後悔した。

 

(・・しまった!?完全に事案じゃんコレ!?)

 

 自分が何を言ったのか理解した時には遅かった。完全にやらかした、最早これまでと、唐突に訪れた自分の人生の終わりに覚悟した。

 

 しかしここで、またしても思いもよらない事が起こった。私のナンパとも取れる台詞を聞いた彼女は、私の方をじーっと見つめてきたかと思ったら、

 

「・・良いですね、貴女みたいに圧倒的なオーラを持った人になら、無理やり犯されても、自分に言い訳できます。」

 

 そう言うと目の前の少女は、私に思いっきり抱き着く形で倒れこんできた。

 

「どうぞ、そんなに私が欲しいなら、喜んであげますよ。だからお金を下さい。」

 

 まさかの売春成立!と心の中でツッコミを入れつつも、少女のまさかの売春宣言に一気にパニックになっていく!

 

「ちょちょちょっと!?急に何言ってるの!?・・と、取り合えずそこの骨董品店に!」

 

 とにかくどこか落ち着ける場所に行こうと判断した私は、さっきまで滞在していた骨董品店に再度来店。そのまま奥のお客様用の休憩スペースにズカズカと入っていった。その間も少女は私の身体に密着して、決して離れようとはしなかった。

 

 

___それから5分後、取り合えず自販機から2人分のジュースを買って片方を少女に渡した。それでも少女の表情は硬いままで、ジュースに手をつけようとすらしなかった。何とも言えない沈黙が流れるけど、そんな状況を少しでも好転させようとした私は、最近やっと板についてきた解説役としての話術を存分に発揮しようとした。

 

「うん、じゃあまずは私の自己紹介からね。私の名前は小鍛冶健夜、世間的には女子麻雀の最年少八冠記録保持者、っていう印象が強いのかな?それとも世界ランク2位?・・まぁ、そういう肩書を持つ人って事で・・いいかな?」

 

「・・いいんじゃないでしょうか。」

 

(これは・・やっぱりこの子麻雀を知らないのかな?でも私のオーラがどうこうってさっき言ってた気がするし・・ここは聞いてみるべき?いやその前に・・)

 

「えーと、貴女の名前は?」

 

「宮永咲です。」

 

「そっか、咲ちゃんか。いい名前だね。」

 

「・・お姉ちゃんも、昔は褒めてくれました。」

 

(・・キタ!ここで話題を一気に広げる!)

 

「そ、そうなんだ!お姉さんがいるんだね!あ!?もしかして東京は初めて!?初めての東京でお姉さんと迷子になっちゃったとか・・かな?」

 

「・・数年ぶりに会ったお姉ちゃんに終始無視されて、何の成果も得られずに実家に追い返されそうになっている無力な小娘が・・貴女が今話しかけている女の全てです。」

 

(・・・・・やっぱり、私って解説向いてないんじゃないかなぁ・・ねぇ、こーこちゃん)

 

 ___それから少女の独白大会が始まった。彼女の約15年の全てを簡潔に纏められて聞かされた。でもその内容が濃すぎて、正直胃もたれしそうになった。小学時代に親から賭け麻雀を強要されていた?中学時代に入る直前に、火事で家族を2人失い従姉妹と生き別れた?そして現在、失った絆を取り戻そうと勇気を出して行動に移した結果、見事に玉砕した?・・こういう時、普通の人はどうするのだろう?児相に通報するのだろうか?

 

「・・あの、大丈夫ですか?」

 

「ふえ!?ああうん大丈夫!そもそも、これでも私はプロ雀士だよ!?貴女みたいにオーラを全身から溢れさせている子なんて、星の数ほど見てきたんだから!貴女が何か悩みを抱えているのなんて、一目見て分かったよ!」

 

 半分嘘だった。確かにオーラから、何かしらの心の闇を感じたのは事実だが、それがここまで大きいとは思わなかった。

 

(この子の悩みに比べたら、私の悩みなんて塵レベルに感じるよ。というより重い!1人の少女が負って良いレベルの悩みじゃない!)

 

 少女の悩みを聞いて、なんとか現状を飲み込む事が出来た。でもこの時の私は、ここからどうしようか迷った。明らかに自分が首を突っ込んで良い問題ではない、というよりこの少女が抱えている問題に、他人が勝手に口を挟んで良いものなのか?

 

(でもなぁ・・ここまでオーラの素質がある子に、何もしないでバイバイするのもなぁ。かといってお金を渡して解決する問題でもないんだし。)

 

 そんなこんなで悩んでいると、

 

「・・それで、私を買うんですか?私は構いませんけど、最後までヤルなら10万円以上は確実に・・」

 

 またもや売春の話を持ち掛けてきた。慌てて私は否定する。

 

「いやだからしないって!駄目だよ咲ちゃん!そんな簡単に自分を売るような真似をしちゃ!」

 

「私だって誰にでも売ったりなんてしません。私が貴女を選んだのは、貴女のオーラから”孤独”を感じとったからです。」

 

 その言葉に、ピクリと眉が反射的に動く。多分この時の私ほど、警戒の色が顔に現れていた時は無かったと思う。少女の放った孤独という単語に、私の心は一気にささくれ立った。目の前の少女に投げていた、弱者へ向ける同情の視線が、敵対者に向ける牽制の視線へと変わった。そんな私の変化に全く動じずに、少女は手に持っていた缶を開けてゴクゴクと飲み始めた。少女の余裕な態度に、負けじとこちらも喰らいつく。

 

「・・ふーん、ねぇ咲ちゃん。貴女は私の何処が孤独なんだと思う?」

 

 私の質問に対し口を二ヤリと吊り上げる少女・・なるほど、少女はわざと私を挑発したようだ。

 

「簡単ですよ、貴女が私を抱きとめたあの時、貴女のオーラが無意識に、私の身体を離さないようにがっちりと掴んできたんですよ。それで一発で分かりました。」

 

 その指摘にハッとする。あの時私の身体を掴んで離さなかったのは、私の方が無意識に彼女を縛っていたからだったのか。

 

「それと、貴女の視線がさっきから気持ち悪かったんですよ。貴方の眼からは、自分以外の人間を見下しているっていう傲慢な思想が、視線に乗って流れてきています。そんな態度を無意識の内にとっているようでは、友達なんて誰一人としていないのが丸わかりですよ。いえ、友達というより親友ですかね。自分の本心を理解できる奴なんて絶対に現れない・・だから上っ面だけの関係をそれなりに作って、凡人のフリをするのも疲れるなぁ・・というイキった思想が眼から駄々洩れなんですよ。」

 

 ・・その少女の持論を最後まで聞いて、最初に思った事は“まさにその通り”。目の前の少女は出会って1時間で私の本質を完全に見抜いていた。だからこそ、私はそこに希望を見出した。さっきまで在った怒りは煙の如く消え失せ、代わりに喜びに似た感情が私を満たした。

 

「・・もしかして、咲ちゃんも?」

 

「それは、私も貴女と同じような思想を持っているのか?という意味でしょうか?・・だとしたら(おおむ)ね正解です。私は自分と光ちゃん以外の人間に等しく興味が湧きません。偶に心を埋めてくれる何かを持った人達が現れたりはしますが、それでも私には光ちゃんさえいればそれでいい。残りは全部、私達の人生にイベントを提供する為のNPCでしかない。」

 

 やっぱりだった、少女は私と同類だ。私と同じ、人の上に立つ存在。少女は間違いなく大成する、でもその為には光ちゃんという従姉妹が必要らしい。・・なら私のやる事は決まった。

 

「・・ねぇ咲ちゃん。咲ちゃんはまだ・・麻雀、できる?」

 

 その質問に、少女はニコっとはにかんで答える。

 

「ええ、もちろん。」

 

 ___それから約2時間後、近くの雀荘に移動した私は、少女の実力を知る為に適当なプロ雀士を呼んで卓を囲う事にした。来るまで結構掛かるという事だったので、待っている間に少女とのガールズトークを楽しんだ。

 

「・・なるほど、だからお金が必要なんだね。」

 

「はい、なんとか自分の力だけでお金をかき集めて、探偵さんに依頼したかったんですけど、やっぱり自分1人では厳しいかなって。」

 

「うーん、それで咲ちゃんが光ちゃんと出会って100%の力を出せるようになれるのなら、依頼料くらい喜んで払うけど。」

 

「それは駄目です。それだと私が小鍛冶さんに仮を作る事になります。それだと駄目なんです、私は誰かに責任を押し付けてまで光ちゃんに会おうとは思いません。もしそんな事をしてまで光ちゃんに会ったら・・間違いなく嫌われます。」

 

「うーん、別に責任って程でもないと思うけどなぁ。」

 

(やっぱり親の教育が相当歪だったのかな?咲ちゃんは誰かからお金を借りる事=責任をその人に押し付ける、みたいな思考に囚われてるけど、これって多分お年玉の賭け麻雀が原因だよね?・・全く、咲ちゃんの親はどんな気持ちでいるんだか。)

 

 そうして少女の親に対する不信感を募らせていた頃になって、ようやくプロ雀士の2人がやってきた。入口のドアを開けて2人が入ってくる、2人とも相変わらずの着物姿とアイドル衣装であった。

 

「いやーお待たせ、ていうかどしたん?小鍛冶ちゃんが私らを招集するなんて珍しいじゃん。」

 

「こんにちはー!はやりだよ☆今日はどうかしたの?仕事をブッチしてでも来いだなんて、小鍛冶ちゃんぶっそ~!」

 

 事情を知らない2人はいつものようにおどけた調子で話す。そんな2人には、今すぐ意識を切り替えてもらうべきだと思った私は、何の躊躇もせずにオーラをぶつけた。それも普通の人に当たれば失神するレベルの量だ。喰らった2人は一瞬真顔になった後、すぐさまオーラで押し返す。そしてそのまま、今度は私にオーラをぶつけた。いきなりオーラをぶつけられた2人は内心穏やかじゃないだろうけど、今は早く麻雀が打ちたくて仕方なかった。

 

「まずはお二方、突然の招集に応えて頂き、ありがとうございます。つきましては、今回の招集の際に失った費用や信用については、私の方で補填しておきますので、その点はご安心下さい。」

 

 そう言って頭を下げた。私が頭を下げたのが余程珍しかったのか、それとも言ってる事とやってる事がチグハグで理解が追い付かないのか。2人ともキョトンとした顔をしている。そんな2人を見た少女が一言。

 

「なるほど、お2人とも確固たる信念がありますね。プロの中でもかなりの上澄みでしょう。・・でもそれだけですね、悪魔で自分止まり。他人を害してまで主義を貫きたいとまでは思ってない・・小鍛冶さんとは相容れない関係という訳ですね。」

 

 どうやらその一言で、2人の意識は完全に切り替わったらしい。2人は公式戦で対局する時と同じようにオーラを鎧のように纏った。

 

「へー、その子って小鍛冶ちゃんの弟子?」

 

「ちょっと違いますね、彼女は私の良きライバルになる可能性を秘めている存在・・と、今は思っています。」

 

「はやや~、それにしては随分と弱そうだけど、そもそもこの子と何処で知り合ったの?」

 

「私が駅で喧嘩別れした姉に、再度会おうとして迷子になっていた時に、後ろからいきなり売春を持ち掛けてきたのが、この人との出会いです。」

 

「えっマジッ!?中学生、いや小学生に手を出したの!?」

 

「は、はややっ!?どうしよ~!?警察行っとく!?」

 

「ちっ!?違うからねっ!?誤解だから!?」

 

 それから2人に軽く事情を話した。幸いにも直ぐに誤解は解けたのだが、2人の“この人ならいつかヤルと思ってました”みたいな視線が痛かった。誤解が解けて一段落した私達は、さっそく少女の力を見ようと雀卓を囲んだ。

 

「では、よろしくお願いします。」

 

「おう、よろしく!・・まぁ気楽にいこうぜ、どうせ君みたいな子供がいくら頑張ったところで小鍛冶ちゃんには敵わないんだからさ、負けても誰も責めないよ。」

 

「おっと~、珍しく咏ちゃんが誰かを庇ったよ~!これはチャレンジャーの敗北確定かな~!」

 

「・・じゃあ、始めようか。咲ちゃん!」

 

「はい、他人と打つのは久しぶりですが・・やっぱり、こうして誰かと卓を囲むのは・・良いですね。」

 

 ニコっといい笑顔で笑う少女、可愛いな。・・たぶんこの時既に、私の本能は何となく察していたのだろう・・私が少女に白旗を上げる未来を。

 

 ___2時間後の午後7時。外は既に夜の帳(とばり)が降りていたが、そんな帳に明るい彩りを添えていく東京のネオンが眩しくなる時間帯。

 

 卓についていた4人は全員疲弊し切っていた。それは私も例外ではなく、他の2人も少女のオーラによる浸食に抗おうと必死になっていた。

 

(はぁ、はぁ。・・きっつ、この子ってホントに何者だよ。私の能力とオーラで散々役満クラスをぶつけまくったっていうのに、全然効いてる様子がないっつーか、次は勝てるって面してるってつーか。いや実際次やったら負けるのは多分こっちだろうけどさ。)

 

(は、はややや~。疲れた~この子の精神力凄すぎ~、これ多分勝てないよ~。最初はこの子が南場に入る前にトバして勝ててたのに~、今じゃ4人の持ち点が良い感じに拮抗してるし~。これってこの子の能力とオーラの支配が段々強くなっていってるって事だよね~。それとももしかして~、私達がこの子に“絆されちゃって”きたのかな~?)

 

(は、ははは・・やっぱりそうだ。咲ちゃんはオーラを使い分けている!でも片方は黒いオーラを自身を隠す為に纏っているかのような。・・そういえば、さっき聞いた話では咲ちゃんは火事が起こるずっと前から能力が覚醒していた。

 

 そして火事の日にオーラが覚醒、炎という全ての生命が恐れる自然の力が脳に焼き付いた咲ちゃんは、その炎で愛する存在を守れるようになりたいと願い、結果全てを灰塵に帰す炎のオーラと、愛する者を全ての害悪から守る光のオーラを使い分ける・・守護天使のようなオーラを身に着けたってところかな?

 

 そしてこの2層のオーラの壁が全然壊せない、私のオーラによる波を炎が半分相殺して、残りは光の壁で簡単に止められる。それでも何回かは壁を突破できたけど、まるで効いている様子がない・・死なないならノーダメと同じだとでも言わんばかりだよ。

 

 おまけにオーラの波を放った後の隙をついて、ちょっとずつオーラによる場の支配までしようとしてくるんだもん!攻守が強すぎる!

 

 でもまだ全力が出せてないね、炎を黒いオーラで隠しているのは、最愛の光ちゃんが炎をトラウマに思っているかもしれないっていう配慮からかな?だから光ちゃんに会って確認する必要があるんだね。炎をトラウマに思ってないか、それを知る為に・・)

 

(・・つ、疲れた。取り合えず横の2人には、白のオーラを規定量注入できました。これでだいぶ攻撃の手は休まるでしょう・・さて、問題はこの孤独に狂った狂戦士こと、世界ランク2位の小鍛冶さん。この人、というか他の2人もオーラや能力によるごり押しが過ぎるんですよ。確かにそれをすれば楽でしょうが、それは明らかな格下相手にやる事です。私をただの中学生だと侮るからガス欠を起こすんですよ。

 

 ・・いや、この人達だってそれなりに辛い思いをしてきたのでしょう。能力とオーラの質の高さがそれを物語っています。それに比べれば確かに私の人生などしょうもないものに映るかも知れません。

 

 ですが!その傲慢差が敗北の要因です!貴女達は知らないでしょう、200℃を越える室内で愛する者が黙って焼かれていくのを見守る事しかできない自身の惨めさが!愛する者が自身に助けを求める視線に答えられない自身の無力差が!そんな視線を受けながら酸欠で死ぬ事しかできない自身の無価値差が!私みたいに一歩間違えていたら死んでいたような体験をしてこなかった貴女方に、私の覚悟が負けるはずがありません!このままカウンター戦法で押し切ります!)

 

 そうしてこの場の全員が若干ハイになりつつも、更に1時間打ち続けた結果、プロ2人は途中でガス欠を起こして自摸切りマシーンと化した。一方残った私と咲ちゃんはまだ余力を残していた。それもそのはずで、咲ちゃんは最初から防御とカウンターに専念していて、私は攻撃に専念していた。他の2人は状況によってオーラを使い分けていたせいか、攻撃の隙を私のオーラの余波に突かれて精神に大きなダメージを喰らう事になり、結果先に参ってしまった。

 

 かく言う私も限界が近かった。いや、限界というよりこの少女に縋り付きたい衝動に駆られていた。散々オーラをぶつけても涼しい顔をして何度も挑んでくるこの少女に・・私は・・もう少しで希望を見出せそうになっていた。この少女となら、麻雀で楽しく殺し合いが出来る!この少女になら、自分の闘争本能を存分にぶつけられる!そんな自分勝手な私を・・許してくれる・・

 

「はぁ、はぁ・・咲ちゃん!いくよ!」

 

「はぁ、はぁ・・いいですよ!小鍛冶さん!」

 

 タンッ!

 

「ロン!国士無双!」

 

 私がアガるのと同時に、今自分が出せる最大の出力でオーラをぶつける!プロ雀士でも精神崩壊するかもしれない程の威力!これならどう!

 

 オーラの津波と言える程のモノが、少女一人に向かって突き進んでいく。当然少女は炎と光のオーラですぐに防ぐ

 

 ・・と思っていた。

 

(・・ふふ。)

 

(・・えっ!?)

 

 なんと少女はオーラがぶつかる直前で二層のガードを解いてしまった!当然私のオーラはそのまま少女の全身に喰らいつき、身体も心もズタズタに引き裂いていく!少女の身体からどんどん精気が抜けていく!少女の眼が虚ろになっていく!それを目の前で見ていた私は、

 

「あ・・あ・あああ・・。」

 

 自分のオーラが目の前の少女を壊していく過程を直視できず、雀卓に勢いよく突っ伏して、頭を抱えて震えた。・・生まれて初めて人を殺した、手が震えた。

 

(や、殺っちゃった・・殺したんだ・・私が、私が・・心を折るのとはまるで比べ物にならない。人を殺すって・・こんなにも・・いや、殺した相手が咲ちゃんだから?・・咲ちゃんは私を唯一理解してくれるかもしれない子だったのに・・)

 

 頭の中で今までの出来事がフラッシュバックしていく。これが走馬灯だろうか、そんな中、少女のある言葉が私の中で反響した。

 

『貴方の眼からは、自分以外の人間を見下しているっていう傲慢な思想が、視線に乗って流れてきています。』

 

 少女の言う通りだった。何が本気の闘いをしたいだ!何が相手を廃人にするのも構わないだ!やった事もない小心者が、偉そうに!過去に戻って自分を引っ叩きたい気分だった。実際にやってしまった今、私は罪悪感で壊れそうになっているのに・・。引っ叩くだけじゃ気が収まらない!もっと酷い事を・・

 

 

 

 

 ・・そんな風に自分を責めて気付く。私は、人を殺してしまった罪の意識から、逃げて楽になろうとしているだけだと。

 

 分かった瞬間、今度は猛烈な吐き気が襲ってきた。

 

「うっ!?ぐっ!?・・オエエエエエ!?」

 

 たまらず吐いた。近くにゴミ箱があって良かった。咏ちゃんがお菓子を食べながら打つために、ここまで運んできたんだっけ。

 

 ここで他のプロ2人の存在を思い出した私は、ゴミ箱に顔を埋めながら目線でチラッと確認する。どうやら2人とも、私の最後のオーラの余波で気絶している様だった。

 

「うぷ、うう、ぐすっ・・ごめん、ごめんなさい。」

 

 今度は殺してしまった咲ちゃんに対して謝りだした。もう自分の思考が纏まらなかった、とにかく楽になりたかった。

 

 そうして(うずくま)って泣いていると・・

 

 ギュッ!

 

 誰かが私を後ろから抱きしめてくれた。

 

「ねぇ健夜さん。」

 

 声だけで分かる。咲ちゃんだ。

 

「え・・?」

 

「ずっと独りだったんですね。」

 

 間抜けな声を出しながら振り返る。やっぱり咲ちゃんだった。アレを喰らって生きてたんだ・・すごい。

 

「辛かったでしょう?本気の自分を受け入れてくれる仲間がいなくて?もう大丈夫ですよ、私が貴女の仲間になってあげます。」

 

 そう言って今度は真正面から私を抱きとめてくれた。反射的に抱き返す。

 

「闘ってみて分かったでしょう?私は貴女の全力を無抵抗で耐え抜いて見せました。だからもう、手加減する必要はないんですよ。」

 

 少女の背から翼が生える。翼は私達2人を世界から切り離すかの如く、柔らかく包み込んでいく。

 

「貴女は全力で遊んでいいんです。私が許します。」

 

 ・・傍から見れば、まだ中学生の少女が大の大人に許しを与えているという不思議な光景。でも私は、その許すという言葉を聞いて・・大声で泣いた。

 

 嬉しかった、自分の辛さを分かってくれる人がようやく現れた、自分はもう独りじゃない!私にも帰る場所が出来たんだ!

 

 この人について行こう、この人を生涯かけて守ろう、この人を傷つける全てを壊そう!

 

 そうして誓いを立てながら泣いていると、少女は言った。

 

「お誕生日おめでとう、小鍛冶健夜ちゃん。」

 

 その柔らかな笑みと白い翼を見て、まるで天使だと思った。・・そういえば、聖書の外典に炎を(つかさど)る有名な天使がいたような・・その名は。

 

「・・ウリエル。」

 

 その名前を聞いた少女は、もう一度、ニコっと天使のように微笑んだのだった。

 

 

 

 

 

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