雀荘荒らしの咲   作:ロクナナエイト

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連絡事項
諸事情で1月7日くらいまで
投稿ペースが落ちると思います。
その後は通常ペースに戻せると思いますので
それまでは、しばしのご辛抱をおかけします。

それでは本編、どうぞ。


咲のここまでの旅路

 

 第2回戦の最後のブロックの戦いが閉幕した。しかし、その最後は余りにあっけないものだった。いや、南3局の時点で咲が豊音と能力のぶつけ合いを制した時点で、もう試合は終わっていた。それでも咲が1位で抜けなかったのは、咲の次戦への布石であった。

 

「「「「お疲れ様でした!」」」」

 

 4人が同時に労いの挨拶を交わす。普通ならこの後は適当に会話を交わして会場から去るのだが、能力者の3人は、まるで示し合わせたかのように互いを見つめ続け、立ったままその場から動こうとはしなかった。

 

「・・なぁ宮永。」

 

 そんな中、この中で唯一の一般人である末原が、咲に話しかけに動いた。

 

「はい、なんでしょう?」

 

「・・悪かったな、最初に会った時に・・あんなに突っかかって。」

 

 まさかの謝罪、てっきり憎まれ口を叩かれると思っていた咲は思わず笑顔になってしまう。

 

「ふふ、いえいえ!あれは私も悪かったと思っているので、末原さんが気にする事ではありませんよ。」

 

「っ!そ、そうか!宮永が気にしてないって言うんやったら、私も気にする必要はあらへんな!・・よし!これで心残りは晴れた!次の3回戦でも本気でいくからな!覚悟しとけや宮永!」

 

 そうカッコつけると末原は1人で雀卓に背を向けて、控室に帰ろうと歩を進めようとした。

 

「・・末原さん。」

 

 そんな末原に心底真面目だなぁと感心した咲が呼び止める。

 

「なんや、まだ何かあるんか?」

 

「はい!次の戦いも、楽しみにしています!」

 

 振り返らずとも分かる、咲の上機嫌な返事に末原は頬を染めた。

 

(~~!、今絶対宮永良い笑顔しとるやろなぁ~~!いや、アカン!ここまで上手くカッコつけといて、ここで振り返って笑い返すのはダサすぎる!・・わざわざ呼び止めてくれた宮永には申し訳ないけど・・せや!)

 

 そう思った末原は、特に何も返事をする事なく歩き去ろうとした。とここで末原!会場の入り口から横に逸れて見えなくなる際、ほんの僅かに手を振りながら、良い笑顔で咲に笑いかけるという恋愛下手な男子みたいな事をやらかしてしまう!それに気づいた3人は、それぞれが全く別の反応をしてしまったが、やらかした本人である末原は、そのまま咲の反応も見ずに会場を後にしてしまった。残された3人の心境としては、

 

(あらあら、末原さんってやっぱり咲さんの魅了にかかったままだったんですね。それにしても、クールな見かけによらず、結構可愛いところがあったのですね。)

 

(・・ん?ああーー!?末原さんのサイン貰うの忘れてたー!?他にもサインが欲しい選手がいたんだけどなー・・後で会えるかな?)

 

(ぶふぉっ!・・ちょ、末原さん・・くくく、ふふふ。はぁーホント、末原さんは可愛いなぁ!というよりあざとい・・に入るのかな、アレは?)

 

 さっきまでの独特な雰囲気はどこへやら、末原が天然を炸裂させた事で、一気に場に和やかな雰囲気が漂い始めていた。するとそこへ・・

 

「宮永さーーーん!」

 

 末原が去った後の会場の出入り口から、大声で咲を呼ぶ声が聞こえた。3人が振り向くと、そこには駆け足で咲の方へと駆け寄る荒川の姿があった。

 

「荒川さん!お久しぶりです!相変わらず元気ですね。」

 

 取り合えず無難な挨拶をする咲、そんな咲の適当な挨拶にニパーッと良い笑顔の花を咲かせる荒川。そのまま荒川は咲の腕へと抱き着いて、まるで恋人のような甘い表情を浮かべた。そんな荒川を見ても嫌な顔をせずに優しく笑い返す咲を見た霞は、改めて咲の人脈の広さに驚きを通り越して、最早呆れ果てていた。一方豊音は突然現れた昨年の個人戦2位の荒川を見て、目をキラキラと輝かせていた。

 

 そんな荒川を後ろから追うようにして、天江衣、東横桃子、加治木ゆみの順で次々に会場入りをしてきた咲の仲間たち。

 

「咲ーー!2回戦突破おめでとう!衣は嬉しいぞ!」

 

 咲が視界に入るなり一目散に駆け寄って抱き着いた衣。そんな衣の頭を優しく撫でてあげる咲。衣が抱き着いてもなお離れようとしない荒川。それを見守るその他の人たち。

 

 そのような光景が1分程続いた頃、またまた会場の入り口から咲の知り合いが顔を覗かせる。

 

「おーい、二十面子さーん!覚えてるー?胡桃だよー!」

 

「みんなー、取り合えずどっか別の場所に移動しよー。ここだと色々野次馬が来てダルい事になるよー。」

 

「カ、カンドラさーん!覚えてますかー!私ですよー!貴女に会って自分を取り戻せた小蒔ですよー!」

 

「カンドラさーん!あの時は瞬間移動で襲い掛かってすいませんでしたー!他にも貴女には沢山の借りがあるのでー、返す為にも一旦場所を改めましょー!」

 

 咲がカンドラとして全国を旅する中で出会った仲間たちが大集結していたのである。無論、咲が作った仲間はまだまだ他にもいるのだが、今は卓を共にした霞と豊音の仲間が、一足先に咲との再会の喜びを噛みしめていた。そんなみんなの楽しそうな顔を見た咲は、

 

(・・なんか、アレですね。私はただ雀荘を荒らしていただけだったのに、いつの間にか結構な知り合いが全国にいたんですね。別に狙ってやった訳ではないので、棚から牡丹餅みたいな感じなんですが・・いや、やっぱりこういうのっていいですね。少しだけ、今の自分を許すことが出来た気がします。)

 

 ・・今まで僅かにだが揺れていた咲の心が、たった今、全くブレが無くなった。咲のメンタルにおけるオーラの制御はもう完璧と言えるところまで来ていた。

 

 あとは出力だけである。

 

「ふふ、はーい!今行きますよ!・・行きましょう、荒川さん、衣ちゃん。」

 

 元気良く返事をして出発の意思を二人に伝えた咲。その意思を汲み取って素早く咲の身体から離れる二人の速さは、間違いなく慣れている者のそれだった。

 

(天江はともかく荒川まで、普段から宮永に抱き着いているのか。)

 

 そんな二人に加治木は若干呆れた視線を送りながら、歩き出そうとした咲の前に立ちはだかった。

 

「・・ん?どうかしましたか?」

 

「いや、小鍛冶さんがお前のカッコいい姿をもっと見たいって言って・・試合が終わってもこれだけはって。(小声)」

 

 そう言って困った顔をした加治木が手に持っていたのは、咲が試合開始前に着ていたロングコートであった。

 

「ああ、なるほど。最後まで観客に私がカンドラだとアピールする事が重要って事ですね。わかりました。(小声)」

 

(いや、そういうのじゃなくて・・まぁいいか。)

 

 コートを渡すというお願いを叶えた加治木は、あとはもう知らん、といった具合で小鍛冶の心情を説明する事をやめてしまった。

 

 そして加治木からコートを受け取った咲は、自分で着ようとコートを広げたら、荒川に横から強引にコートをひったくられた。思わずギョッとした目で荒川の方を見たら、コートに付いていた埃をパンパンと払い始め、それが終わったと思ったら、今度は咲の背後に移動して、コートをバサッと広げて肩に羽織らせた。

 

「よっしゃ!この方がずっと似合ってまっせ!」

 

(・・ふーん、似合っているのなら、何も言わないでいようか。)

 

 荒川が勝手にコートをひったくった事に関して不問にすると決めた咲は、今度こそ清澄のみんなが待つ控室まで、旅先で出会った友達たちと道中を共にする事にしたのだった。

 

 ___それから約1時間後、咲達は清澄の控え室の前に陣取っていた面倒な報道陣を、桃子の能力で華麗に突破する事で、無事に清澄のみんなに2回戦を突破した事を伝えた。

 

 当然清澄のみんなからは質問攻めにあったが、それらの質問のほとんどは先ほど加治木達が話していた事の再確認に終わった。そして肝心の”咲がカンドラになった経緯”について迫ろうとした竹井だったが、

 

「その話は私達清澄高校が団体戦で優勝したら話します。ですので今は、団体戦を勝ち抜く事だけに集中して下さい。」

 

 そう一蹴されて終わった。もちろんそこで止まるような竹井ではなく、

 

「そこをなんとか!というより、同じ麻雀部の仲間である私達に黙って、勝手に雀荘荒らしをしていたのは咲の方じゃない!私達を騙していた分、こっちも色々と知る権利があるわ!それに、咲がカンドラだって世間が知ってしまった今、なんで咲が雀荘荒らしをしようと思ったのかだけでも教えて頂戴!でないと後で色々記者から質問された時に何も答えられないのはまずいわ!そもそも何でこのタイミングでバラしたの!?よくよく考えたら私達の高校って出場停止案件じゃない!?」

 

 すごい興奮した感じで捲し立てた。その勢いに若干引きつつも、咲は冷静に対応した。

 

「・・たぶん加治木さん達が、私が試合中の間に皆さんにお伝えしていたと思いますが、世間的には私が”麻雀協会からの特殊な指示を受けて”雀荘を荒らしていたと認知されているはずです。」

 

 そう言ってTVの方へ顔を向ける咲。咲につられてみんな揃ってTVの方へ顔を向けると、そこには『驚愕!噂の雀荘荒らしカンドラは麻雀協会が仕掛けたマーケティング戦略の一環だった!?』というテロップと一緒に、小鍛冶健夜や熊倉トシ、そして何人かの麻雀協会の人達が揃って並んで記者会見を開いていた。

 

「さ、咲さん!これは一体!?何故世界ランク2位の小鍛冶さんが咲さんについてアレコレ説明しているのですか!?」

 

 この報道に一番驚いたのは、清澄の中で一番咲と仲が良いと噂されている原村だった。原村はTVに映っている小鍛冶が、咲との出会いからカンドラとして活動するまでの経緯を時間を掛けてゆっくり丁寧に話している事に心底驚いた。故に小鍛冶との関係性が気になった原村は、竹井の怒涛の勢いに便乗する形で咲に質問した。

 

「見ての通りです。私はカンドラになる前に小鍛冶さんと出会いました。そして小鍛冶さんの元で修行を積んで、今のカンドラとしての実力を身に着けました。全国で雀荘荒らしをしていたのもその一環です。・・まぁ、実際のところは、修行と同時に違法な賭け麻雀の方もメインに活動していたので、私が違法賭博に手を出していたのには変わらないんですけどね。」

 

「・・つまり、小鍛冶さんは咲さんの師匠という事ですか?」

 

「そうなりますね。」

 

 そこで一旦会話が途切れてしまったが、その僅かな隙を狙って、待っていましたと言わんばかりに初美が割り込んだ。

 

「つまり、麻雀協会は小鍛冶さんを通じてカンド・・咲さんが違法賭博をしていた事を知っていて、あえて見逃していたっていう事ですよね?」

 

「はい、見逃す代わりに私がカンドラとして麻雀界を盛り上げ、自然と協会に権力や資金が集まるような流れを作る。というのが協会との取引内容でした。」

 

 この発言に何も知らない一同は驚愕した。まさか咲個人が協会と取引をする間柄だったとは思いもしなかったのである。

 

 反対にこの事実を知る者達は苦い顔をした。面々は皆揃って咲に対して恩義を感じている者ばかりである。恩人である咲をいいように使っている協会に対して、全員が言いようのない不満を抱いていた。

 

「・・じゃあ、私達が出場停止になるっていう可能性は・・」

 

「ありません、そんな事をすれば協会の地位も失墜するので、むしろ逆に何としてでも清澄を決勝まで這い上がらせようと、要らぬ世話を焼く可能性すらありますね。」

 

 咲の力強い発言から、とりあえず出場停止の危険は無いとホッとした竹井。そこで勢いを落とした竹井は、

 

「そう、ならいいわ。後は咲の好きにして頂戴。」

 

 と言って部屋の壁に力無く寄りかかって脱力してしまった。

 

「え?いいんですか部長?」

 

 唐突に勢いを失ってしまった竹井に驚いた原村が反射的にツッコむ。

 

「ええいいわ、取り合えずの危機は去った訳だし、カンドラをやり始めた理由も、この大会が終わったら後で全部話してくれるようだし、ならもう言う事は無いわ。・・あ、ちょっと待って。」

 

 話を終わらせようとした竹井が、最後に咲に一言。

 

「ん?どうしました部長?まだ私に何か?」

 

 まだ何かあるのかと少し疲れ気味に咲が口を開く。そんな咲にニヤッとした笑顔で笑いかけながら話す竹井。

 

「ここからは清澄の部長として言うわよ咲。」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「・・2回戦、あれだけカッコつけたからには、途中で負ける事なんて許さないわよ!やるのなら最後までカッコよく!他者を蹂躙して!圧倒的な力を示して勝利をもぎ取りなさい!そんな咲に恥じないよう、私達も頑張るから!いいわね!」

 

 いつもの調子に戻った竹井が、部長らしく咲を鼓舞した。そんな鼓舞を受けた咲は・・

 

「ふっ!誰にモノを言ってるんですか!部長に言われずとも!圧倒的な勝利というものを世界に見せつけてあげますよ!だから清澄の皆さんも、部長も!最後までついてきて下さいよ!」

 

 互いの絆を再確認した2人が、立ち上がってグッと固い握手を交わす!そんな二人の青春のやり取りを見て、控室にいたその他一同は

 

「ヒューヒュー!!!」

 

「いいぞー!2人共ー!」

 

「いやー、青春ですねー。」

 

「ちょ、なんか見ていて恥ずかしいっすよー。」

 

「それが青春ってもんやで!」

 

「いや能力持ちが言うと洒落になんないって、会場吹っ飛ばないといいけど。」

 

 といった感じで、いい感じにみんなも気合が入ったのだった。

 

 

つづく

 

 

 

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