あけましておめでとうございます。
繁忙期を過ぎた為、これからは通常のペースで更新していけると思います。
それでは本編どうぞ。
___清澄の控え室にて、先程ここで咲と青春じみたやり取りを終えた竹井は、いったん誰もいなくなった廊下へと出て、近くの自販機でジュースを買ってから再度控え室に戻った際に、改めて部屋を見渡した。室内は咲の関係者でぎゅうぎゅう詰めになっており、見ているだけで暑苦しく思えた。優希も同じ事を思っていたのか、エアコンの設定温度をすごい勢いで下げている姿が目に入った。そんな中、
「宮永さん、そのー私って重くないかなー、なんて。」
「ふふ、大丈夫ですよ豊音さん。本当に嫌だったら、こんな風に背中を預けたりはしないので。ですから安心して私の背もたれとしての役割を全うして下さいね。」
ニコッと笑う咲に更にメロメロになる豊音、ハイッ!と勢いよく返事をして、そのまま咲を後ろから抱きしめ続けている。
そんな豊音に何人かが嫉妬の視線を送りながらも、自分ももっと咲と話したい!という欲求の方が強いのであろうか。咲へ甘ったるい囁きを投げる者が後を絶たないでいた。
それらの集団を見ていた染谷は、
「・・なんか、圧巻じゃのぉ。」
「そうね、圧巻・・としか言いようがないわね。」
染谷と一番付き合いがある竹井が同意する。しかし竹井が同意しなかったとしても、他の誰かが代わりに同意の返答をしていたであろう光景が目の前に広がっていた。先程の通り、この部屋は今ぎゅうぎゅうだ。しかし、そんな暑苦しい室内の中でも、取り分け目立つ集団がいた。
そんな集団に一言言おうと染谷が口を開こうとして、
バァン!
控え室内に突然大きく響いたドアが開く音。何人かが驚いて固まってしまったが、こういった事態に慣れている能力者達は、まるで来るのが分かっていたかのように、ゆっくりと控え室の入り口の方へ眼を向けると、
「はぁはぁ、・・い、いた!宮永咲!?ほ、ホンマにアンタが・・咲ちゃんがカンドラさんなんか!?」
「ちょ、竜華。脚早いって・・ぜぇ、ぜぇ。」
そこにいたのは、千里山女子高校の代表選手である、竜華と怜のコンビであった。
「おお、千里山のお二人じゃないですか!お久しぶりです!怜さんの方は、あれから体調の方は大丈夫ですか?」
咲の知った中のような発言、その台詞を聞いた咲の知り合い達は全てを察した。そんな彼女達とは対照的に、言われた方の2人は一瞬固まった後、ボロボロと涙を流し始めた。
「あ、ああ!その話し方!その声!間違いない!アンタが、いや!貴女がカンドラさん!」
「うっ!ぐっ!勝手に疑ってすんません。試合中ずっとTVに映っとったけど、ネットではボロクソに叩いている連中もおったから、つい不安になってしもて・・ホンマにすんませんでした!貴女の弟子として情けない限りです!」
そう言って二人とも、頭を床にくっつけてガチの土下座を披露して見せた。そんな2人の土下座を見た咲は、
「ふふ、お二人とも顔を上げて下さい。確かにお二人は私の事を一時は疑ってしまったのでしょうが、だからこそ確証を得るために行動に移したのでしょう?ただじっとしているだけの自分が嫌だったのでしょう?・・そんなお二人の熱い心が、私は好きなんです。だからそんな・・情けない限りだなんて、悲しい事は言わないで下さい。お二人は、私が出会った時から何も変わらない、自分の信じた人の為に一生懸命になれる、素敵なコンビですよ。」
そう言って白いオーラを出しながら優しく諭す咲、そんな咲の言葉にまたもやボロボロと涙を零しながらうんうんと頷く2人。そんなやり取りを見ていた竹井が、
「えっと・・ねぇ咲、やけにリアクションがオーバーなこの2人は?」
「ああ、紹介がまだでしたね。こちらの2人は千里山女子の先鋒と大将を務める怜さんと竜華さんです。私が大阪で雀荘荒らしをしていた時に、怜さんが倒れているのを偶然発見して、そこを助けたのがお二人との出会いです。」
咲が淡々とした表情で、割とヤバ目のエピソードを話す。そんな咲の爆弾発言にまだ慣れていない竹井は、聞き終わってからもしばらく絶句したままだった。そんな動けない竹井の代わりに反応したのは豊音だった。
「え!?お二人も命の危機を救ってもらったんですか!?」
「ぐすっぐすっ・・へ?お二人もって事は・・姉帯さんも?」
二人の内で特に咲を敬愛していた怜は、なかなか涙が止まらずにいた。そんな怜でも豊音の話に興味を持って、反射的に聞き返した。
「はい!(私の名前、憶えてくれてるんだ///)私の方は、恥ずかしながら私自身が能力を暴走させてしまって・・ここにいる同じ麻雀部の仲間を殺すところだったんです。」
「そうだったんか・・中継で見とった感じでは、かなり能力の扱いが上手いなぁって思っとったんやけど、そっちも色々あったんやね。」
「はい・・あ、そうだ!この後お時間の都合が宜しければ、お二人のサインを頂きたいなーって思ったりしたんですけど・・ダメ、ですかね?」
「え?いや全然ええけど、ええの?ウチらみたいな無名の選手のサインなんかで?」
「いえいえ無名だなんてそんなとんでもない!?私達宮守麻雀部の間では、割と有名ですよ・・姉弟子として。」
「え!?・・あ!もしかして姉帯さんらもカンドラさんから教えを!?」
「はい!ほんの数日だけでしたけど、その数日間で私達を全国レベルにまで鍛えて下さったのが、こちらにいる二十面子さんこと宮永さんです!」
そう言って自身が抱きついているカンドラこと咲を誇らしげに紹介する豊音。紹介された咲はというと、そのまま豊音に抱き着かれたまま、姿勢を崩さずに笑顔ではいと答えた。
ここで改めて咲に注視する二人。部屋に入ってきた時は気が急っていて気づかなかった怜と竜華だったが、改めて咲が置かれている状況を見て、思わず・・
「「なんか・・圧巻やねぇ。」」
とハモってしまった。ついでに怜は、まるでテディベアみたいや。とも思った。
しかしそれも当然の感想。現在咲は、怜が思ったようにテディベアのように足を大きく開いて豊音に寄りかかっていた。ちなみに咲が今着ている服は当たり前だが試合中からずっと着続けている制服である為、このように足をだらしなく開く事は、ミニスカートの中を他人に見せつけているようなものであった。しかし咲の前には天江衣が鎮座していて、スカートの中が見えないような配置になっていた。
そして咲の前にいる衣は、当然咲のお腹を枕替わりにして気持ちの良い表情を浮かべていた。そんな風に大胆に咲に甘えられる衣に僅かな嫉妬をしながらも、咲の右腕に抱き着いて頬擦りしている神代小蒔の姿が、2人には一番印象的に感じた。ちなみに左腕には荒川憩が巻き付いていて、だらしなく開かれた左足には、太ももに頬擦りしている原村和が、もう一方の右足には、何故か加治木と桃子がマッサージを施していた。
そんな咲の愛玩動物的な扱われ方に、少し思うところがあった竜華が口を開く。
「えっと、咲さんは・・そちらの方達とは、どの程度仲良しなんやろうなーっ?て、思ったりして・・答えてもらっても大丈夫ですか?」
もしかしたら人には言えない事情を抱えている子もいるかもしれないという事を考慮しての遠回しな質問なってしまったが、そんな事はないよといった風に笑顔で笑って咲は答えた。
「ふふ、ここにいる皆さんは私が雀荘荒らしをする中で絆を結ぶことになった人達です。全員が何かしらの問題を抱えていましたが、それを一緒に解決していく過程で仲良くなりました。」
そう言って全員を白のオーラで包み込むと、途端に咲に心酔している小蒔、豊音、衣、荒川、和はだらしない笑みを浮かべて咲の身体に寄りかかり、マッサージをしている2人は少しだけ笑顔を見せた。
そんな咲信者とも言える者達の笑顔を見た二人は、
「なるほどー、つまり全員咲さんの護衛みたいなもんっちゅう事、でええ・・って事やんな?」
「いや、どう見ても一国の王の一夫多妻制みたいなもんやろ。・・いやまぁ、咲さんなら全然ええんですけどね。そういう事やっても・・(だって能力者の中でも上位の存在やし)」
怜の一夫多妻制という言葉を聞いて、思わず微笑んでしまう咲に抱き着く者達。二人の反応に、なら良かった。とでも言いたげな顔をして卑しく笑う咲。とここで、
「・・あ、そうだ!私からもお二人に聞いておきたい事があったんですよ!」
「え?ウチらに?」
「はい。今現在の私のSNSでの評価ってどうなっているのかなって思って。」
その問いに思わず顔をしかめる怜、しかしそれもそのはず、自分達が惑わされたSNSの情報など、誰が好き好んで口にするだろうか。・・顔を伏せて言いづらそうにしている怜に代わって、仕方ないと腹を決めた竜華が口を開く。
「はい・・咲さん、いやカンドラの評価は、肯定的な意見と批判的な意見が半々、といったところです。」
咲が怒りだすと身構えたが、その内容を聞いても咲は表情を変えなかった。まるで想定通りの結果だとでも言わんばかりであった。
「批判的な意見の詳しい内容は?」
「・・まず、咲さんが本当にカンドラなのかどうかというところから始まって、そこから咲さんの試合での戦い方を見た一部の視聴者が、カンドラは思ったほど強くない。という感想を抱きつつ、最後は違法賭博に手を出している雀荘荒らしが表舞台に出てくるな・・という酷い批判に集結していく、というのが批判的な主張をしている人達の言い分の流れです。」
かなりオブラートに包んではいるが、やはり本人が聞いたらショックを受けるであろう内容。そんなSNSの批判的な意見を最後まで聞いてもなお、咲は表情を変えなかった。
代わりに表情を変えたのは、咲と交流を深めていた清澄、宮森、永水の仲間たちであった。
「・・はーー、ホント好き勝手言ってくれるわよね。」
「ムカツク!エイスリン!オコッタ!」
「だる・・ホント聞いてるだけでだるくなる。」
「うーん、どうしますか霞さん?一応呪符は持ってきてはありますが。」
「駄目よ巴ちゃん。私達は仮でも神に仕える存在、安易に魔に近づく行為を行えば、後で本家がうるさく言ってくるわ。」
「でも、その辺は後で適当に誤魔化す事ってできませんかね?ホラ、こいつら全員神を侮辱しましたって適当に嘘ついて!」
「じぇー、なんか少しムカツクじぇー。・・これって咲ちゃんの実力を私達が一番詳しく知っているから・・なのかじぇ?」
「その通りですよ優希。私達清澄麻雀部の要<かなめ>である咲さんは・・確かに私達に隠れて色々やっていましたが、その実力は本物です。何も知らない連中にいいように言われっぱなしなのが癪に障るのは当然の事です。」
皆が皆殺気立っていた。やり場の無い怒りに飲まれていた。
そんな折、皆の殺気とは比べ物にならない程のオーラが、突如としてブワッと室内全体に広がり始めた。それに一早く気づいて反応したのは塞だった。
「え!?このオーラの感じ!まさか!」
急いでオーラの発生源へ顔を向けると、そこにいたのはやはり咲だった。
「ちょ、宮永さん!どうしたんですか一体!?やっぱりSNSで言いたい放題言われたのがムカついて・・」
「・・来る。」
塞の台詞を遮って咲が割り込む。割り込む際に放たれた言葉は、いやに重く、それでいて聞いた人間の本能を刺激するような殺気を含んでいた。
「来る?・・あー、ついにあの人が来るっすか。」
「そういえば、さっきまでそこらに居た報道陣の連中も、今は小鍛冶さんの会見に釘付けでいないんだったな。なら来るのは当然か。」
咲の発言に納得がいったらしき桃子と加治木のペア。他の人達は未だに咲の言葉の真意が汲み取れずにいた。・・そして、
「あー!この感じ!あの人かー!」
豊音がその独特のオーラを感知し、
「姫様、どうやら姫様と同じ二つ名で呼ばれている人達が近づいてきているようです。」
感知した霞が小蒔に耳打ちし、
「ええ、分かっていますよ。何やらオーラが渦を巻いているようですが・・あの方は随分と殺気立っているようですね。」
既に感知済みの小蒔が余裕を持って返答した。
「あの人かー、どないします?私が相手をしても構いませんけど・・」
「荒川さんは何もしないで下さい、他の皆さんも同様に。でも衣ちゃんだけは、能力の発動の準備をお願いします。」
「うむ、分かった。」
そう言うと衣は海底をイメージする。途端に控え室内の室温が僅かに低下、若干の息苦しさを覚える者もいたが、それもほんの数秒だけで、すぐに苦しさは消えた。
それから40秒後、
バァン!
先程の時よりもずっと大きな音を響かせながら、謎の五人組がドアを開けて入って来た。一人は典型的なメガネが特徴の文学少女、一人は立ち振る舞いからスポーツ経験が豊富な事を匂わせる緑髪が特徴の女性、一人は5人の中で一番の長身で眼つきが鋭いのが特徴の女性、一人はオーラが溢れて止まらないのか金色の髪がすごい事になっているのが特徴の少女、そして最後に・・赤みがかったショートヘアーから、宮永一族特有の角のような癖毛を備えて、控え室内に沢山いる人間の中からただ一人に向けて、オーラをぶつけまくっている少女・・宮永照が仲間を引き連れて姿を現した。
「咲!色々言いたい事が山程あるけど!そもそもなんで貴女がカンドラとして全国で雀荘荒らしをする事になったの!?今すぐ答えなさい!」
開口一番に咲の都合を一切無視して命令してくる。そんな姉の姿を目撃した咲の反応は、
「・・えーっと、貴女は宮永照さん、で間違いないですか?」
まるで台本でも読み上げているかのような棒読みであった。しかも咲は照の方を一切見ずに、下を向いて手の指の調子を確認しながら返答するという、相手を舐め腐った態度を堂々ととった。そんな咲の態度に当然照は激怒した。
「(ブチッ!)ちょっと咲!実の姉に向かってその態度は何なの!?会話をする時は相手の顔を見て、優しく笑顔で話すのが礼儀だって、学校で習ったでしょ!」
しかし説教の内容が、まさかの会話のマナーという少しズレた内容に、その場の一同は(え?そこから?)と思った。そんな中、照と同じ虎姫のメンバーである4人は、普段からマナーが成っていない照が、相手にマナーを説くという自分の事を棚に上げての発言に内心ツッコんだ。
(おい照!お前だって普段全く笑わない上に、相手をシカトする事だってしょっちゅうじゃないか!・・全く、お前が言うな、とは正にこの事だな。)
(ちょ、テル!最初にサキの事を一日中シカトして長野に追い返したのはテルの方でしょう!?そんなテルがサキに口を聞いてもらえるだけラッキーだと思った方が絶対良いって!?)
(え?照さんって確か、「私に妹はいない」ってインタビューで答えてたよね?だから咲ちゃんも、それに合わせてとぼけたんじゃないの?え?それなのに何で怒ってるの?)
(うわぁ、この人ホントに妹の事となると暴走するんだ。しかも自分の理想像を押し付けるタイプだこれ・・そりゃ咲ちゃんだって愛想つかすよ。)
このような照の様子から、虎姫の4人はわざわざ照と咲との会話に割って入ってまで照を援護するのは止そう、という判断をそれぞれが下し、咲の仲間達も、咲から動くなという指令が下っている事から、指示があるまで傍観者である事を決めていた。
それらの両者の事情から、これから咲と照の両者による一騎打ちの口論が繰り広げられる・・と、不安に溜息を吐きながら、京太郎は手に持っている缶ジュースを一気に飲み干したのだった。