展開が凄く早くなっていくと思います。
頑張って終わりまで上手く話しを畳んでいく所存です。
「いやぁ、昨日は楽しかったっすね!加治木先輩!」
「そうだな。(一昨日は急な白糸台の来襲にどうなる事かと思ったが、割とどうにかなったな。)」
一昨日の第2試合決着から2日経った今日の朝10時前、インターハイ第3試合2日目となった本日に、加治木と桃子は既に清澄の控え室で待機していた。
ガチャッ
「・・えっと、何で二人がここにいるのかしら?」
9時半頃に会場入りし、取材陣に囲まれながらやっとここまでたどり着いた清澄一行の先頭に立っていた久が、控え室のドアを開けて発した第一声がこれであった。
「悪いな久、今の私達は咲のマネージャーと秘書みたいなものなんだ。我慢してくれ。」
そう言ってリモコンでTVを操作してチャンネルを切り替える加治木、そこに清澄に対する遠慮は一切なく、むしろ今まで一緒に戦ってきた戦友のような雰囲気さえ醸し出しているではないか。
「・・マネージャーなら会場入りする前から咲の横に立ってなきゃだめじゃない?」
いい加減入り口にただつっ立っているのも疲れる、そう思い久は控え室内に足を踏み入れる。後から清澄の面々もぞろぞろと入って来ては、既に部屋内に待機している二人に驚くのであった。そして最後に入って来た咲だけは、まるで二人が居るのが当たり前だとでも言いたげなニヤリ笑顔を久にチラ見せした後、二人と打ち合わせに入った。
「おはようございます、加治木さん、桃子さん。・・荒川さんと衣ちゃんは?」
「おはよう咲、天江は一旦龍門渕の仲間と合流するそうだ。清澄が団体戦を制覇して、お前が個人戦で”良い成績”を残すのを盛大に祝いたいらしい。その為の会場の視察に行ってくる・・と。」
「おはよっす咲ちゃん!荒川さんは他の個人戦仲間と会ってくるそうっす。みんな私と咲ちゃんの関係を知りたくてしょうがないんや!ってはしゃいでたっすから。」
「そう・・それはそれとして、昨日は楽しかったね。」
「そうだな、一昨日のメンバー全員で東京を巡って・・ホント、お前の仲間になれて良かったよ。」
「でも大阪の二人にはちょっと申し訳なかったっすかね。」
「そうだね、少し無理して付き合わせちゃったかな。」
そう、怜と竜華が代表の千里山女子高校は第3試合で敗北してしまった。二人には咲から教わったオーラの技術と天性の能力が備わっており、その辺の能力者には決して負けない存在と言っても過言では無い程の実力を付けていた。しかし、それ故白糸台からマークされてしまった。開始早々宮永照が自身の能力を使った連続和了を繰り出し、その半分を新道寺の花田煌に直撃させて毟り取った。当然怜もオーラと未来予知で対抗しようとしたが、如何せん花田が完全に守勢に回ってしまい、阿知賀もドラを抱えたまま動けずじまいになってしまっていたため、前半戦が終わる頃には一人で照と戦っていた。
そして後半戦、なんとか照の連続和了を止めようと善戦したが、照の圧倒的な能力とオーラ量に、怜一人ではどうにもならなかった。
そのまま後半戦は終了。この時点では千里山は2位だったが、続く次鋒、中堅、副将戦で3位にまで転落、そして大将戦。竜華は最初からゾーンを使用し、それをオーラによって常に維持し続けるという持久戦特化の戦い方で勝負に出た。更に怜からオーラを譲渡してもらう事によって、何故か怜の未来予知の能力まで使えるようになっていた。最早竜華は今までの人生の中で一番強い状態にまで上り詰めたと言っても過言ではなかった。しかしそれでも白糸台の大将、大星淡にはあと一歩届かなかった。
「まさか阿知賀の大将があんな能力を持っているなんて・・完全に予想外だったっすね。」
「そうですね。(本当は衣ちゃんからあの5人についての報告を受けていたから、私が助言してあげても良かったんだけど・・いや、例え教えてあげたとしても確率は良くて五分五分止まりだろうし、結果は変わらない可能性の方が高かったか。)」
弟子である二人の勝敗を大して気にしない師匠としての咲。しかしこれが彼女のやり方だった。例え大事な愛弟子だとしても、自分は最低限の応援しかしない。
どれだけ自分が応援しようが、結局戦うのは弟子であって自分ではない。なら自分が必要以上に干渉するのは、結果として弟子の成長を妨げる事になりかねない。故の突き放しであった。
(ごめんね二人共、でも運命を切り開くのは悪魔で事の当事者本人なの。私が必要以上に助けるのは、二人の為にならないから・・だから、その分私に溺れていいからね。)
「でも宮永、本当に良かったのか?」
「はい!?な、何がですか!?」
「?いや、宮守と永水を海水浴に行かせて本当に良かったのかって?」
「ああなんだ、その事ですか。いいんですよ別に。このインターハイが終わったら、私もしばらくゆっくり出来るんですから。小鍛冶さん達の慰安旅行先の下見も兼ねて、親睦を深めてきて貰いたいっていうのが本音ですよ。」
「ははっ、本当にお前はどこまでも利を重視して行動しているな。頼もしい限りだよ。」
(今のはどっちかっていうと親睦を深めて欲しいって意味合いの方が強い気が・・いや、わざわざ言うのも野暮ってもんっすね。)
朝から楽しく談笑している3人、そんな彼女達を尻目にしながら優希は試合会場へ向かおうと一人立ち上がった。
「ん?もう行くんですか?」
「おう行ってくるじぇ!咲ちゃんは安心して此処から見守っていてくれていいじぇ!全員華麗に倒してみせるじぇ!」
マントを翻しながらカッコよく宣言する優希、それを見た咲は、
「ふふ、頑張って下さい。」
そう言って右手を振りながら左手を指鉄砲の形にすると、
「・・バァン!」
優希目掛けてフィンガーショットを発砲。当然オーラが見えない優希は避ける事などできず、見事に眉間にクリーンヒット。
何かがぶつかった衝撃を感じて一瞬よろめく。すぐに咲が何かしたのだと理解して顔を上げると、その瞬間自身の気分・・というより精神力のようなものが充足している事に気がついた。
「何処か不安げな様子でしたけど、これでもう大丈夫。さぁ!私に貴女の勇姿を見せて下さい!」
まるで勇者に伝説の装備を授けたかのような言い回しで優希を送り出す咲。そして贈り物を受け取った優希は、
「この戦い、貴女の為に捧げます・・じぇ。」
咲のノリに乗っかった返答をして勇者らしく一礼した後、颯爽と控え室を後にした。
試合会場には清澄以外の各代表選手が既に来ていた。しかし、その表情は全員が何処か不安げだった。
(ネリーは咲以外大した事は無いと一蹴していたが、果たしてそうだろうか?私からして見れば、あの優希とかいう先鋒・・そうとう厄介な能力持ちだと思うのだが・・)
(大丈夫や、清澄とは前回やりあっとる。それに加えて先輩達やプロの人からのアドバイスも貰ったんや!このまま決勝まで行ける!大丈夫や!)
(うう不安です。まさかあのカンドラさんが清澄の大将だったなんて!なら当然お仲間の皆さんもカンドラさんが鍛え上げた精鋭揃いに決まっています!でなきゃあの龍門渕を倒して全国までやって来たりなんて出来ませんって!ああ、どうか先鋒戦が終わるまで私の点棒が残っていますように。)
それぞれがこの先の戦いへの思いを募らせている中、試合開始2分前になってようやく優希はやってきた。トタトタという足音が聞こえそうな可愛らしい歩き方に、思わず笑顔を見せる智葉。優希もそれに気づいたらしく、そのまま智葉の方へ歩を進めた。
「お!一昨日の・・なんか騒がしい人の相方さん!おはようだじぇ!」
「・・辻垣内だ、一昨日はこちらの急な来訪に、懇切丁寧に対応して頂き誠に痛み入る。」
頭を下げる辻垣内、気にする事はないじぇと頭を上げさせる優希。そして軽く話出す二人。そんな風に互いを知っているかのような彼女達の振る舞いを見ていた他の二人は、
(はぁ!?清澄と臨海って繋がってたんかい!?・・いや、清澄には末原先輩を骨抜きにしてもうた例のカンドラがおるんや。これくらいの太いパイプは持っていても不思議やない。とにかく落ちつけ!相手のペースに飲まれるな!上重漫!)
(そ、そんな!?あの個人戦三位の辻垣内さんと清澄の先鋒さんが対等に話してる!?という事は清澄の先鋒さんは辻垣内さんと同等の実力があるって事!?うう、もう帰りたい。)
明らかに精神が揺れる二人、そんな二人とは対極的に、当の本人達は非常にリラックスしていた。
「よし、じゃあそろそろ席に付こうか。」
「じぇ!今日はお互い正々堂々と戦える事を祈っているじぇ!」
「ふふ・・ああ!こちらこそよろしく!」
(ふええー、やっぱりこの人達仲良いんだー。どうしよう、この人達に勝てる気がしません。)
成香がグロッキーな状態でも開始のブザー音はお構いなしに会場全体に鳴り響く。
こうして第3試合、先鋒戦が始まった。
____そしてあっという間に午後の大将戦、試合会場に一番乗りしたのは、午前中に優希が座っていた席にゆっくりと手を掛けて不敵な笑みを零している・・カンドラこと宮永咲であった。
(流石だよ優希ちゃん、あの辻垣内さん相手によくあそこまで点棒を守ってくれたね。そしてまこさん、貴女の分析力はあの末原さんにも引けをとりません。部長は言わずもがなですが、トリッキーな打ち回しと悪待ちを上手く活用していましたね。
そして和ちゃん、相変わらず無意識にオーラのドームを形成していたね。相手に思いっきりオカルトの暴力を振るっているのに、自分はオカルトの被害者ですっていうスタンス、すごく最低で見ている分には中々面白いよ。だからこそ私は和ちゃんが二番目に好きなんだ、私と同じで相手にオカルトで勝って、何も知らない人達から実力だけで勝っていると誤解されてるところがそっくりだよね。同じ最低仲間同士、これからも仲良くしてね?勝手に私を置いていったら許さないからね?)
そうして一人で物思いに耽っていると、
タッタッタッタッ!
「咲ーーー!!!こんにちは!今日は思いっきり楽しもうね!」
ネリーがすごい勢いでやって来た。もちろん咲も挨拶を返して会話に花を咲かせようとした。すると、
スッスッスッ・・
「あれま、随分と仲が良いんですね。お二人さん。」
有珠山高校の大将、獅子原爽がやって来た。
「ん?アンタは確か・・」
「有珠山高校の獅子原です。そっちとは一昨日に対局したよね?」
「そうだっけ?速攻で終わらせたからアンタの顔は覚えてないけど・・アンタの”後ろ”の連中は覚えてるよ。」
その指摘に笑みはそのままだが目を細める獅子原。そしてほんの一瞬だが咲をチラ見して反応を伺った。
「はて、何の事かな?」
「・・ネリーちゃん、マナー違反だよ。」
「うん、でもネリーはこういう超常の存在の力を偶々ゲットして好き勝手やってる連中が嫌いだから、そこは譲れないかな。」
「そう?超常の存在に好かれるのも才能の一つだと思うけど・・」
「いやいや、そういうヤツって大抵調子に乗って平気で暴力を振るうようになるから、誰もが咲みたいに自分を律する事が出来る訳じゃないんだよ。」
「ふふ、だそうですが?獅子原さん?」
言いたい放題なネリーに、言わせたままで良いのか、と返答する機会を作った咲。しかし獅子原は、
「・・いえ、そっちの言う通りですわ。確かに自分はこの力を好き勝手に使ってる節があります・・でも、決して調子に乗っている訳ではありませんので、そっちが足元を掬おうという考えなら、当てが外れているとだけ言っておくよ。」
悪魔でも力を最低限制御出来ている事を強調した。
「ふーん、まぁやってみれば分かるか。」
「そうだね、後は麻雀で語ればいいか。」
(・・何でこの人、私には敬語でネリーちゃんにはタメ口なんだろう?)
会話も終わり、開始までの残り時間も半分を切っていた為、そろそろ行くかとそれぞれの席に向かおうとする3人。するとそこへ、
「ちょい待ちぃや、カンドラ。」
末原恭子が何故か会場入り口から殺気を放って咲に歩み寄って来ていた。
「・・おや末原さん、その様子ですと私が憑けておいたオーラがようやく取れたようですね。」
「ぬかせ、お前のオーラか何かは知らんが、そんなもんお前と別れた直後にすぐに抜けていったわ!」
(本当はあの戒能プロに祓ってもらったんやが、まぁ誤差みたいなもんや。そんな事よりも!)
「お前、ずっと私の事を騙しとったやろ。」
「・・はい?何のことでしょう?」
「とぼけんなや、お前はあの試合中ずっと無能力者の振りをしとったやろ。私には分からんかったけど、プロの眼は誤魔化せんで!」
ドスの効いた低い声で威圧する末原、しかし咲は表情を変えずにただ黙っているだけである。というより咲は、前回末原をいいように利用したのは確かだが、末原に自身が無能力者だと思わせるような策を弄してはいなかった。
(・・?確かに私が能力を使って無いように思わせる打ち方を混ぜ込んだりしたけど・・もしかして、私の予選での打ち方まで見返した上で無能力者だって思っちゃったのかな?ああ、それならあり得るかも。)
なんでこうなったのか分析し出した咲。そんな咲をほっぽって、末原は更に怒りを爆発させた。
「お前らはオーラみたいなんが当たり前のように見えるから、簡単に他人を騙す事が出来るんやろうけどな・・こっちはオカルトとは一切関係無いただの一般人なんや!最初から麻雀の実力だけでやってきとんねん!そうやって実力だけで頑張って来た純粋な奴らをお前ら能力者は寄って集って食い物にして・・恥ずかしくないんか!?」
ここまで怒りで捲し立てる末原に、咲は本気で疑問を抱いた。別に自分は末原を騙したつもりは無い、確かに自身が能力を使ってないと思わせるような打ち方は見せたが、それは悪魔で疑念で終わる程度のもので、まさかここまで末原が本気で信じ込むなど、完全に咲の予想外であった。
(すごいなこの人。本当にオーラや能力に対して耐性が無いんだ。しかも根が真面目だから、オーラでちょっと判断力を鈍らせるだけでここまで信じちゃったんだ。・・なんか、悪い事したなぁ。)
ちょっと悪かったかなぁと思った咲は、分かり易く申し訳なさそうに顔を下に俯かせて演じた。ついでに眼に涙も溜め始めた。多分この人は相手が反省の色を見せれば取り合えず落ち着くタイプの人だと思ったが故の行動だった。そしてそんな咲の薄幸な表情を見た末原は分かり易く揺らいだ。
「うぐっ!?・・いや、今更そんな顔したって私は許さへん!お前が一昨日やった事はホンマに最低な行為やったんや!」
それでも止まらない末原は、なおも咲を攻め立てた。すると咲は、
「・・ごめんなさい。」
そう言って眼を閉じた。閉じた瞬間に両方の眼から涙が一筋流れ落ちる。涙を見た末原も、さすがに自分の言葉で咲を必要以上に傷つけてしまった事にショックを受けたのか、しばらく固まった。そして、
「っ!?・・でもな、これはお前だけの所為やない。そもそもは純粋な麻雀の勝負にオカルトなんて持ち込み始めた奴が悪いんや。そいつが今の麻雀界に悪しき習慣を根付かせたんや。だから私が変えたる!この団体戦を生き残って、個人戦でも良い成績を残して、純粋な麻雀勝負の概念をもう一度根付かせて見せたるわ!だからな宮永、お前はもう泣く必要なんてあらへん。これからは能力なんか使わずに普通に打っていればええねん。そうすれば、みんな普通の麻雀の良さに気づいてくれる。カンドラであるお前が能力を捨てれば、お前を筆頭にみんな気づいてくれるはずや。だから・・その・・出来ればその・・これからはお前と二人で・・」
若干パニックになって、とにかく頭の中に浮かんだ言葉をどんどん咲へ投げかける末原。今の末原は咲への怒りよりも罪悪感が勝ってしまい、どうにかして癒してあげたい気持ちで一杯だった。その結果がこの告白じみた謝罪である。
なおも沈黙を続ける咲に、もう抱きしめるしかない!と血迷った末原が咲に駆け寄ろうとしたその瞬間、
「咲ーーー!そろそろ始まるよー!」
「お、もう時間か!?すまんな咲、そういう事やから・・今日は頼むでホンマ!」
そう言って急いで席の方へ走り出す末原。その顔は何故か既に決勝戦で優勝したかのような、どこか憑き物が落ちたような凛々しい顔をしていた。しかしその内面は、
(っしゃーーーーー!!!言ったで女末原!完全に宮永を堕として見せたでーーー!!!戒能プロに祓われた直後は宮永に裏切られた思て頭が怒りでぐちゃぐちゃやったけど・・あの宮永の表情、間違いない!ホンマは宮永も能力を使って戦う事に罪悪感があったんや!だから前回はあんな中途半端に私をサポートするような打ち方やったんや!でももう大丈夫やで宮永!これからは私が付いとる!お前が能力を使わなくなっても私が守ってたる!・・だから、このインターハイが終わったら、今度はこっちから告白してみせるから・・待っとってな!)
盛大に勘違いしたまま浮かれまくっていた。しかし、そんな末原を看破していた咲は、
(ふふ、やっぱりどこまでも真面目なんですね。・・でも、私の下らない告白でさえ真面目に受け取って真剣に悩んでくれるなんて・・本当に素晴らしい方ですよ貴女は・・ホント、私には眩しすぎます。)
ネリーに急かされつつもゆっくりと歩きながら席に腰掛けた咲。だがその表情は、どこか寂しげであった。
全員が着席してから7秒後、試合開始のブザーが鳴り響き、全員が挨拶を済ませて手配を引き始める。
ネリーにとってはこれが初となる。咲との麻雀での戦い。
準決勝、第3試合の最後を飾る大将戦が、今始まった!