雀荘荒らしの咲   作:ロクナナエイト

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ネリーとの邂逅

 

 

「こんにちは、白糸台の皆さん。」

 

 ネリーの登場に困惑する白糸台の一同、中でも菫は特に驚いていた。それも当然で、現在東京の麻雀部のある高校には違法賭博の疑惑のある雀荘には近づかないように忠告がなされていた。

 

 特に臨海女子は海外からの留学生が多く在籍しているのだ。今目の前にいるネリーという子だって、私達以上に厳しい注意を受けたはずだ。それなのにわざわざ危険を犯してまでここにやってきた理由はなんだ?

 

 そもそも私達はここにこんなに長居をしていていいのか?一目見ただけでも分かる程、この場所は不良や反社の巣窟だ。もしここでこの留学生に何かあれば最悪国際問題にまで発展しかねない!?そんな思考の悪循環に陥っていた菫だったが、そんな事は知った事ではないといった顔でネリーは話を続けた。

 

「ああ勘違いしないでね。今日は別にあなた達白糸台に用があって来た訳じゃないから。ていうかそもそも初対面だしね。」

 

 その言葉に今度は照が戸惑う。

 

(え?なら何しにここに来たの?まさか咲に会うため?どういう事?・・もしかして咲を臨海女子に勧誘する気!?)

 

 その予想はあながち間違っていなかった。白糸台に彼女なりの挨拶を済ませたネリーは咲の方へ顔を向けた。

 

「あの・・私の事を覚えてる?」

 

 今までの自信満々の態度とは打って変わり、少し不安そうな声で咲に話しかけるネリー。そんな態度の変わりように少し困惑する白糸台の面々。

 

「・・はい、もちろん覚えていますよ、ネリーさん。あの時は確か・・色々と複雑な事情でお金に困っていたんですよね。」

 

「そう、それでお金に困った私は・・」

 

「ストップ!!!」

 

「え!?」

 

 ネリーが詳しく話そうとして咲が大声で止める。訝しく思うネリーに咲が優しく言葉を続ける。

 

「ここは人の目が多すぎます。あまり人に言いづらい事を話すのは、お互い避けましょう。」

 

 この言葉に白糸台の面々は、特に誠子はすごく納得した。

 

(確かにそうだ、今私が見ている掲示板にも、こちらの動きがリアルタイムで書き込まれている。)

 

 幸い今は会話の内容までは聞かれていないっぽいが、それも最初の内だけで、時間が経てば私達に直接話しかけてくる輩も出てくるかもしれない。でも目の前のカンドラさんはこういった事態に場慣れしていて気を抜かないでいる!さすがトラベラー!

 

「でも、あの・・」

 

 そんな咲の言葉にネリーは、理解はしているようだが納得はできていないらしい。そんな彼女に咲はもう一度優しく答えた。

 

「ふふふ、大丈夫ですよネリーさん。今の私はお金に困っていません。ですからそんなに気に病まないで下さい。」

 

「え!?でも・・」

 

 2人にしか分からない会話。明らかに場違いな白糸台5人。ちょっとした居づらさを感じつつある淡だったが、次の咲の発言でそんなものは吹っ飛ぶことになる。

 

「うーん・・じゃあこうしましょう。実は私、今年の女子麻雀のインターハイに選手としてではなく、裏方として間接的に参加しているんです。ですので、東京で開催される本戦にも観戦しに行くことになってます。ネリーさんは開会式の後に会場の食堂に来てください。そこでお待ちしています。」

 

「!?・・うん、分かった。」

 

 この爆弾発言にその場にいる全員が驚愕した。だが一番驚いていたのは他でもない照だった。

 

「ちょっと咲!それってどういう・・」

 

「ではみなさん、私は電車の時間があるのでこれで。次はインターハイで会いましょう。」

 

 姉の言葉を遮って強引に別れを告げる咲。帰る際もネリーの横を通って白糸台を露骨に避けて行ってしまった。

 

「ちょっと待ちなさ・・」

 

「チャンピオン!一つ言っておく!」

 

 追いかけようとする照を、ネリーが後ろから殺気を放って止める。それでも追いかけようとする照にネリーは言った。

 

「お前と彼女に何があったのかは知らない!だが今お前が彼女を追うなら、私はどんな手を使ってでも止めるぞ。怪我したくなければそこで止まれ!」

 

 その言葉で照は止まる。咲を追いたい気持ちでいっぱいだったが、それでも止まったのは・・ネリーから殺気と共に発せられるオーラを感知したからだ。

 

 ネリーの言っている事は本当だ。このオーラを使えば人ひとりの運命を狂わせるくらい造作もない。一生歩けなくする事も簡単にできるだろう。同じ能力者である照、そして淡はそれをはっきりと理解してしまった。

 

 照は足を止めた。そして今度はネリーの方へ振り返る。殺気こそ放っていないがその視線は冷たく、いつも照にべったりだった淡でさえ初めて見る顔をしていた。

 

 それに負けじとネリーも睨み返す。2人はそのまま動こうとしない。そんな冷たい沈黙を破ったのは菫だった。

 

「・・みんな、もう行こう。元々私達がここに来たのは照が彼女と出会えるようにするためだ。まぁ・・出会えはしたが、話足りないといった感じになってしまったが・・とにかくもうこんな所に用はない!変な噂が立たない内に帰るぞ!照もそれでいいな。」

 

 それを聞いた白糸台の面々は、緊張した糸が緩んだといった感じに表情を崩した。特に表情が緩んだのは尭深だった。

 

 最初は照先輩とあの子が口論になった時はどうしようかと思った。どこかいい感じに会話が落ち着いたら、お茶でも飲んで落ち着こうと場を和ませる気でいた。でも途中でネリーちゃんが来た時は本気でどうしようかと思った。どっと疲れた・・

 

 各々が緊張の糸を緩め軽い雑談を始める白糸台の面々。そんな中ずっと殺気とガンを飛ばしていたネリーだったが、さすがにもういいかと思い殺気を引っ込めて無表情で帰ろうとした。その時・・

 

「帰る前に一ついい?」

 

 その言葉に今度はネリーが足を止める。誰に向けたのか分からない短い文であるにも関わらず、ネリーは間違いなく自分に向けて言ったのだと分かった。なぜなら、今度はチャンピオンがネリーに向かって殺気を放っていたからである。

 

「一つだけだよ。」

 

「・・ホントは貴女と咲について色々聞きたい事があるけど、インターハイで咲に直接聞けばいいだけだから聞かない。だから、私から貴女に言いたいのは一つだけ・・・もし貴女が咲に何かを強要しているとするならば・・私は貴女を絶対に許さない。どんな手を使ってでも潰す!・・それだけ。」

 

 その怒りを含んだ宣言に他の白糸台の面々は驚愕して・・困惑した。特に混乱したのは淡だった。ならなぜさっきはあの子に対してあんな態度だったのか?

 

 そもそもあの子とテルはどんな関係なのか?憶測が憶測を呼んでさらに混乱する淡だったが、さらに淡を混乱させる事が起こった。

 

「・・それはこっちの台詞だチャンピオン。お前があの子とどんな関係なのかは知らないが、私はあの子を害する者を絶対に許さない!インターハイ中あの子には絶対に手を出すな!私の目の前であの子に何かあったら・・私は自分を抑えられないからな。」

 

 そう言うと殺気を撒き散らしながら強い足取りで去っていく。後に残された白糸台の面々も、彼女の言葉の真意を読み取ろうとしていたが、ここがどこなのかを再び思い出し、足早にその場を後にした。

 

 

 

 

 

 インターハイまであとわずか。それぞれの思惑が交差する中、渦中の中心である咲は、インターハイを誰よりも楽しみにしながら、仲間と共に麻雀の腕をコツコツと磨いているのであった。

 

 

 

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