雀荘荒らしの咲   作:ロクナナエイト

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遅くなってすいません。
世間が休みに入る時期は、私の職場では繁忙期に入る時期なのでクソ忙しかったです。
かと言って平日が楽かと言われるとそうでもないのですが・・orz


情けない大人達

 

「はーー、疲れたーーー。」

 

 準決勝が終わった日の夜8時、小鍛冶健夜は誰もいない食堂に1人、顔を机に突っ伏して項垂れていた。普段から大人しい小鍛冶にしては珍しく、陣取っている場所は食堂中央の大きな机の丁度真ん中。横に長いのが特徴の机で、横長の部分に丸椅子がそれぞれ5人分、縦の部分に丸椅子が2人分ある非常に大きい机であった。しかしその見た目は、よくある銀色のコーティングが施された安くて大きいが売りの量産型、という誰が見ても大きさの割に安いと思えるそれであった。

 

(今日の咲ちゃん、凄かったな。まさか自分の翼を引き千切るだなんて・・・ああ、咲ちゃんに会いたいよぉ。)

 

 解説の仕事の疲れも相まって、流石に気力に乱れが生じている小鍛冶。そんな彼女は自身の背後にこっそり近づいてくる相方の存在に気づかなかった。

 

「だーれだ!」

 

 声と同時に小鍛冶の背中に誰かが覆いかぶさる。小鍛冶が机に突っ伏している所為で手で目隠しが出来ないと思った彼女は、かなり大胆な行動に出た。

 

「・・・重い、重いよこーこちゃん。」

「あれ?バレちゃった?」

「普通にバレるよ。だって今日の仕事中ずっとこーこちゃんのハイテンションな実況を隣で聞いてたんだよ?逆に分からない方がヤバいよ。」

 

 それもそうかと納得して小鍛冶の上から退く恒子。退いたと分かるやいなやガバッと顔を上げてむすーッとした顔をする小鍛冶。

 

「あはは、すこやん何その顔?せっかくの可愛い顔が台無しだぞー。」

「んもう・・・ん?その手に持っているのって・・」

「ああ、これ?」

 

 指摘されて腕を高く上げる。上げられた腕には会場近くにあるスーパーのマークが入ったビニール袋、そしてその袋の中には数種類のお酒が入っていた。

 

「今日もお疲れ様!すこやん!ついでにすこやんが大好きなカンドラちゃんが見事決勝戦へ進出した事を祝って・・・乾杯!しよう!」

「こーこちゃん・・・うん、ありがとう。」

 

 親友からの酒盛りの提案。幸いにもここは会場の関係者以外入ってこない食堂。そして今の時間帯は警備の人以外誰もいないはず。スマホでその事を再度確認した小鍛冶は、親友の突然の誘いに乗る事にしたのだった。

 

 

 酒盛りを始めてから30分後

 

「へー、咲ちゃんってそんなに凄い子だったんだ。」

「うん、たぶん将来は世界ランク1位になってると思う。」

「ふーん。で、そんな凄い子がどうやってそこまでの力を手に入れたのか?その部分を上手い事脚色してマスコミに説明したのが、この間の記者会見でのすこやんの役割だった・・・と。」

「うん、流石に全部をそのまま流す訳にはいかないからね。表向きは違法賭博はやっていないって設定でいこうって、協会の重鎮の人が・・」

「うんうん。で、その提案に事情を知っているプロ雀士の皆さんは全員渋々同意して、咲ちゃんを協会のジジババ共の生贄にしちゃったと。」

「・・・・・うん。」

「・・・で、すこやんは咲ちゃんをコッチの世界に引き込んだ責任を果たす、っていう使命感から進んで矢面に立っている・・って事でいい?長々とすこやんが喋っていた事をまとめるとこういう事だよね?」

「うっ!・・・そうだよね、私って話すの下手だよね。・・・咲ちゃんもそう思っているのかな・・・」

 

 酒が入って生来の暗い性格が顔を出し、その事を親友に指摘されることで更に落ち込む小鍛冶。そんな彼女をニヤニヤしながら酒の肴にする恒子。するとそこへ、

 

 コツコツコツ・・・

 

 と、何人かの足音が廊下に響いて食堂まで伝わってくる。足音は彼らが真っすぐ食堂まで向かって来る事を小鍛冶に伝え、理解した小鍛冶はすぐさま警戒モードへ・・なる前に気づく。向かって来る彼ら、いや彼女達のオーラには酷く覚えがあった。

 

(・・なーんだ、いつもの3人か・・・と、懐かしいオーラが一人、でも誰だっけ?すごい昔に一度だけ、強烈に味わったような・・)

 

 そのまま減速せずに近づいて来る足音の主達は、食堂の入り口付近で一度止まった。そしたら今度は1人が気分よく挨拶を叫びながら食堂へと入り、他の3人がその勢いに乗る形でゆっくり入って来た。

 

 

「おいーーーっす!おー、やってるね小鍛冶ちゃん!」

「はやや!小鍛冶ちゃんってばちょっとナーバスになってない?大丈夫?」

「こんばんは、戒能良子です。そしてこちらは・・・」

「・・赤土です。お久しぶりです小鍛冶さん。」

 

 小鍛冶の見知った雀士達が次々に現れた。がしかし、小鍛冶が一番驚いたのは、何故かこの3人に混ざっている赤土の存在だった。

 

「え!?赤土さん!?・・・そ、その節はどうもすいませんでした。私の所為で貴女のプロ雀士としての道は・・・」

「ああいいですいいです!言わなくていいですから!・・・というより、あの程度の事で参ってしまった私の方に非はありますから。本当に気にしないで下さい。」

「でも・・・」

「本当に・・気にしないで下さい。私もあれから色々あったんです。その中で、私なんかよりもずっと凄い教え子達に出会って、昔の自分がいかに天狗になっていたのかを改めて思い知って・・色々と踏ん切りがつきましたから。だから、もう大丈夫なんです。ですので貴女も気にしないで下さい。」

 

 真剣な眼で真っすぐに小鍛冶を見つめる赤土。そんな彼女の瞳に、あの時と同じく戦士としての炎が宿っている事に気づく。もう彼女に自分に対する恐怖は無い。そう感じた小鍛冶は、同時に赤土が近い内に1人の雀士として舞台に上がって来る事も予感した。そしてその事実が普通に嬉しかった小鍛冶は良い笑顔を返す。

 

「・・っはい!いつかまた、公式の試合で戦える事を願っています!」

「ええ、こちらこそ。いつかまた・・ね。」

 

 こうしてしばらく見つめ合っていた二人だった・・・が、

 

「えーっと、取り合えずお二方。座ってお酒でも飲みませんか?お互いに積もる話もあるでしょうし・・・”今後”の展開についても一旦話を付けておきたいですし。」

「!・・そうだね良子ちゃん。もしかして赤土さんを呼んだのも?」

「ああ、それはこっち。いやー”たまたま”会場の近くで通りかかったところを私が捕まえてさ!ほら、この人って明後日の決勝に出て来る奈良県代表の顧問・・・なんだっけ?まぁいいや。とにかくその子達と仲が良いらしいからさ。そんで今年の化け物揃いのインハイで決勝まで残ってくるって事はさ?・・・その子達も将来”巻き込まれる可能性”、あるって事じゃん?」

 

 その言葉に一番顔を曇らせたのは、この中で一番麻雀界の発展に注力している、瑞原はやりその人だった。

 

「はややー・・・やっぱり責任感じちゃうなー。」

「はやりさん・・大丈夫ですよ、はやりさん!サキは強い子です!決してプレッシャーなんかに負けたりしません!」

 

 珍しく大きな声で激励する良子。そんな彼女を見てこれから話し合う議題が相当に重い物だと再確認した赤土。

 そのまましばらくの沈黙が流れたが、その沈黙を破ったのはこの場で唯一雀士では無いこの人・・・恒子であった。

 

「えっとーー、取り合えず皆さん!一緒に座ってビールでもいかがですか?」

「お!気が利くねぇ・・えっと、恒子ちゃんで良かったかな?」

「はい!・・・ん?ちょっと良子さん?もしやその手に持っているのは!」

「おお、これですか?」

 

 指摘されて良子は机の上に持っていた袋を置く。上から覗いてみると、中には結構な数のお酒が入っていた。するとその事実に恒子の実況者としての部分が刺激された。

 

「え!?すごいですね良子さん!?この量のお酒を片手でずっと持ってたんですか!?」

「はい。私には力持ちな神様が憑いていますからね。この程度余裕です。」

「うはぁ!さすが稀代の天才、戒能良子選手!ソロモン王顔負けの魔術使いという噂を真実だったか!?」

「魔術じゃありません憑依です。あと私はそこまで強くないです。変に持ち上げないで下さい。(半ギレ)」

(・・・この人って普段からこんななのね。TVで実況を見ている分には面白いけど、いつもこんなテンションで話されたら流石に疲れそう。小鍛冶さんはよく耐えられるわね。)

 

 赤土が内心呆れつつ適当な席に座る。それにつられて全員が席に座り、小鍛冶を真ん中に右手に咏、赤土。左手に瑞原、良子。そして対面側に恒子の席順となった。

 

「じゃあ、始めますか?」

「おっす、議長役はお願いねー小鍛冶ちゃん。いやー、いつ以来だっけ?これやるの?」

「前回は・・サキがカンドラとして表舞台に出た後、小鍛冶さんが記者会見をやったあの日ですから・・・まだ1週間も経ってませんよ。」

「え?あの酒盛りも含めるの?」

「駄目でしたか?」

「いやー、あの日って小鍛冶ちゃんがめっちゃ感情を爆発させながら酒飲んで暴れまくった記憶しかないんだけど・・なんか大事な事話し合ったっけ?」

「・・・いえ、でも話し合う予定ではあったので・・一応カウントしましたけど。」

「いやいや、あんなのノーカンだよノーカン!結局話し合う前に小鍛冶ちゃんが暴走しちゃったんだしさ!」

「・・・あのー、一体小鍛冶さんに何があったんですか?」

 

 自分の想像と全く違う小鍛冶の話をされて戸惑う赤土。そんな赤土に便乗して恒子も喰いつく。

 

「なになになに?すこやんが皆さんに迷惑かけまくったんですか?それは是非とも詳しく聞きたいところですねぇ!」

「いや!?ちょっと二人とも、その話はまた今度・・」

「それが聞いてよ二人とも!小鍛冶ちゃんってばさー、いきなり私の楽屋に押しかけてきたと思ったらさー!持ってきたバックからめっちゃ度数の高いヤツを楽屋の畳にドンッて置いてさ!しかもそのままロックでがぶがぶ飲んでー・・・」

「ぎゃああああ!!??ストップ!ストーーップ!!それ以上は勘弁して!それでも言いたいならせめて私のいないところで喋ってーーー!!」

 

 

 突然の小鍛冶の絶叫が面白かったのか、話すのをやめてケラケラと笑い出した咏。それにつられて赤土や恒子も笑い出し、これから話す重苦しい議題とは反対に、皆の顔は笑顔であった。

 

 

 ・・・それから一時間後。お酒の力もあってか、重苦しい議題とは裏腹に雰囲気だけは明るいまま会議は進んでいった。といっても、今回話し合った内容も結局いつも通りの2つ、咲がこれからどういう風に活躍していくのか?活躍する際に誰がどういう風にサポートするのか?・・この二つに大きな変化が無いかの確認だけである。今回は赤土もいた為、咲の過去も含めて一から説明する事になって時間が掛かったが、全てを聞き終わった時の赤土の表情は、今まで解けなかった問題がやっと解けたかのような晴れ晴れしたものになっていた。

 

「・・・そういう事だったんですね。道理でここ最近の小鍛冶さんの動きが活発だった訳です。」

「そ!この破壊神小鍛冶ちゃんにもようやく春が訪れたって訳よ!そんで私達もしばらくは仕事が楽になるって事で表情が明るいって訳!・・・まぁ、咲ちゃんを人柱にした結果だけどね。」

「・・・サキ1人に重荷は背負わせません。私も出来る限りサキをサポートしていく所存です。」

「そうだねー。はやりもそれには同意見って言うかー。咲ちゃんをサポートするっていう意味ではー、はやりがこの中で一番覚悟決まってるって感じだからね!そこのところ間違えないように!」

 

 赤土に微笑む瑞原、しかしその眼は肉食獣のような獰猛さを備えていた。まるで自分以外に咲の横に立てる人間はいないとでも言いたげな眼だと、赤土は思わず身を強張らせてしまった。

 

「うわー、怖っ!・・・ていうか、あんな事言ってるけどいいの?すこやん?すこやんの可愛い可愛いお弟子さんが三十路手前のアイドルに取られちゃうよ?」

 

 酔いがそれなりに回って遠慮が無くなり言いたい放題な恒子、そんな恒子に話を振られた小鍛冶は・・・

 

「・・・・・うーーー、ヒック・・うう、ぐすっ、咲ぢゃあん、会いたいよおおおぉぉ。」

 

 グラスを片手に机に項垂れながら、咲の名前を口から垂れ流し続ける壊れたラジオ状態にいつの間にか成っており・・・俗に言う、すっかり出来上がってしまった状態になってしまった。

 

「え?ちょっと小鍛冶さん!?大丈夫ですか!?」

「ああ、気にしない気にしない。小鍛冶ちゃんはね、咲ちゃんの事となるとお酒の進みが早くなるから。すーぐ酔っぱらっちゃうんだよねー。」

「そ、そうなんですか?・・・まぁ、誰にでもそういうアレな話題ってありますしね。ましてや自分の教え子がそんな大役を背負わされっちゃたら、私だってきっと今の小鍛冶さんみたいにお酒に逃げちゃったり・・するかもしれませんね。」

「そうだよおおおぉぉ!赤土さんも分かってくれますよねえええぇぇ!」

 

 机に伏せながら化け物みたいな声で話しかける小鍛冶。自身の想像していた人物像がどんどん崩れていくその様に、赤土は笑えば良いのか泣けば良いのか・・・困惑100%の顔をしていた。

 

「ぶっ!アッハッハッハッハ!ちょっと何すこやん?珍しく泥酔しちゃってるじゃん!そんなに咲ちゃんの事が気になるの?」

 

 小鍛冶の泥酔気味な状態に手を叩いて喜ぶ親友の恒子。そんな恒子の言葉にダンッ!と拳を叩きつけて、小鍛冶は熱く思いを語る。

 

「当たり前だよこーこちゃん!咲ちゃんはねぇ!私にとっての天使様なんだよ!私が一人で孤独に震えていた時、私の傍に寄り添って優しく抱きしめてくれた!私が本気でぶつかっても壊れない!本物の戦士なんだよ!そんな戦女神な咲ちゃんに甘えられる私こそ!特別な存在だと思うんだよ!違う!?」

 

 ・・・この時、小鍛冶の想いを最後まで聞いていたこの場の全員が思った。

 

(((((言いたい事が分かるような・・・分からないような?)))))

 

 まぁ咲と色々あったんだなと察した全員は、取り合えず小鍛冶になんとも言えない微笑みを返した。それを見た小鍛冶は・・

 

「・・・んふふふぅぅ、良かった。分かってくれたんだね!」

 

 酔っ払い特有の自分に都合の良い解釈をしてくれた。

 

「そ、そうだよすこやん!(汗)すこやんは選ばれたんだよ!(たぶん)・・えーっと、それですこやんは、咲ちゃんと今後どう付き合っていくつもりなのかな?」

「えーー?うーーん?・・そうだね、とりあえず咲ちゃんの邪魔をする連中を片っ端から始末したい!」

 

 そう言って子供のように両手を振り上げてニパーッと満面の笑みを作る小鍛冶。それは咲によくくっ付いている天江衣の癖であり、頭が幼児退行してしまった小鍛冶が反射的に真似してしまったものなのだが・・・

 

(あ、この喜び方・・ウチのしずにそっくり。)

 

 赤土には結構ウケが良かった。

 

「いや、ちょっと小鍛冶ちゃん?それはいくら何でも物騒だよー。」

「ふひへへへ・・・でも、咲ちゃんにはこれくらいしてあげないと・・私、捨てられちゃうから。」

 

 そう言うと、今度は目に涙を溜めながら机に頬をくっ付けて落ち込み始めた。その変化に赤土は・・

 

(あ、今度はちょっとクロっぽい。)

 

 と、割と何でも受け入れちゃう赤土であった。

 

(うわー、面倒臭い酔っ払いの典型みたいになってるー。)「はややー、小鍛冶ちゃんどうしたの?捨てられちゃうってどういう意味?」

「ううっ、ひぐっ、私はね・・ただ麻雀が強いだけなんだ。・・・それだけしか能の無い女なんだよー!」

 

 突然全世界の雀士全員に喧嘩を売った小鍛冶。この場にいるほぼ全員が、その強さを求めて生きているといっても過言では無いのに、自分にはそれだけしかないと彼女は嘆く。なんと傲慢なのだろう?彼女は世界1位にでもなったつもりなのだろうか?

 良子が思わずブチ切れそうになったが、小鍛冶は構わず言葉を続けた。

 

「私はね!はやりちゃんみたいに歌って踊れる完璧アイドルって訳でも、咏ちゃんみたいに面白いトークが出来る訳でも、こーこちゃんみたいにエネルギーに溢れてる訳でも、赤土さんみたいにイケメンでクールでカリスマがある訳でも、良子ちゃんみたいに最高神レベルの存在を降ろせる訳でも無い!何の特徴も無い地味な女なの!だから!せめて私だけは咲ちゃんの中で大きな存在で居たいから!だから咲ちゃんの代わりに矢面に立って頑張ってるの!・・でもその頑張りって、他の人でも替えが効くわけでええぇぇ・・ふええぇぇ、咲ちゃんに捨てられるうううぅぅ。」

 

 全員酒が入っている事も相まって、唐突に褒められて素直に頬を赤らめる5人。特に赤土は内心ウッキウキであった。

 

(え!?小鍛冶さんって私の事そんな風に思ってくれてたんだ・・・ふふ、なんか嬉しいなぁ///)

 

 さっきまであった怒りも吹っ飛び、代わりに小鍛冶に対する同情が彼女達に芽生え始める。この場にいる全員は当然既に成人しており、みんな人付き合いが大事な職業に従事していた。だからこそ小鍛冶の恐怖心が分かってしまうのだ。

 特に瑞原は無意識にうんうんと深く頷いていた。アイドル業をやっている瑞原は、自分のファンが唐突に自分の元から離れてしまう悪夢をたまに見てうなされていた事を思い出した。そんな自分を偶然楽屋で発見した咲が、白のオーラで幸せな夢に誘導してくれた事は、もはや言葉では言い表せない程感謝している。そしてあれ以来、あの悪夢を見る度に咲が夢の中で守ってくれるようになり、瑞原は咲に特別な感情を持つようになった。これは咲が瑞原に会う度に白のオーラを補充しているおかげなのだが、まだ子供の咲にそこまで気を使わせてしまっている自分の情けなさが、何処か今の小鍛冶と重なって、結果小鍛冶の恐怖心に今この場で一番共感していた。

 

「だからぁ・・私が一番頑張って咲ちゃんにアピールしないとぉ・・ダメだからぁ・・過激な事も辞さない所存でありますぅぅ・・。」

 

 そう言ってコンビニの袋に手を突っ込んでガサガサと音を出しながら新しい缶を取り出した小鍛冶。そのままパキュッと缶を開けてグイッと思い切り良く飲むその姿は・・まさにアル中のそれであった。

 

「・・・みんな納得しましたかー?」

「んえ!?・・ああうん、小鍛冶ちゃんがどれくらい咲ちゃんを愛しているかは凄く伝わったよ。」

「んへへーー!なら良かったです!あ、このイカのおつまみ美味しいですねー。」

 

 ひとしきり喋って満足したのか、今度はイカのつまみに熱中しだした小鍛冶。その様子を見ながら瑞原が口を開いた。

 

「うん・・私も頑張らなきゃね。」

「え?何をですか?」

「ん?もちろん咲ちゃんの事だよ?」

 

 赤土の質問に笑顔で咲の為だと答える瑞原。そんな瑞原に同調して咏も口を開く。

 

「そうだね。私達も頑張らなきゃ。でないと先輩としての威厳が台無しだからねー。」

「もちろん私も頑張りますよ。サキの事を個人的に気に入っているのは私も同じですからね。皆さんがサキに夢中になっている以上に、私はサキの虜になっているのですから。」

「うふふーー、言うねぇ良子ちゃん。でもやっぱり歳が近いっていうのは大きなアドバンテージだよねー。」

「はい咏さん。私とサキの歳の差はたった4歳しかありません。ですが皆さんは全員10歳近く歳が離れていますよね?・・・この差は圧倒的です。もはやどんなに頑張っても覆せませんよ。」

 

 そして再び始まる咲争奪戦という名のドンチャン騒ぎ。堅苦しかった会議はあっという間にただの酔っ払いの集会へと変貌していた。・・がしかし、これはいつもの光景でもあった。そもそも咲に関して何かしら話さなければいけない事があるのなら、小鍛冶が真っ先に口に出していたはずである。それが無いという事は、前回の会議から特に何も変化は無かったという事である。それを察して咏はガンガン酒を飲むように煽ったのである。そして咏が酒を勧めるのを確認して、他のプロ雀士達も安心して酒を口に運ぶ・・というのが彼女達の暗黙の了解であったのだ。とどのつまり、彼女達が食堂に入って来た時点で最初から堅苦しい話などする気は毛頭なく、ただ酒をみんなと一緒に飲みたかっただけなのである。

 

 

 こうして真面目な話も終わり、全員が下らない雑談に花を咲かせながら酒を煽り始める。

 

 ・・・それから更に1時間が経った頃、食堂の様子は・・

 

「麻雀協会は!咲ちゃんに対して!贖罪しなければならないのですーー!」

 

 もはや完全に理性を失った小鍛冶が、仁王立ちしながらその場の全員に向かって高らかに宣誓した。

 

「いいぞー小鍛冶ちゃん!もっと言ったれ言ったれーーー!がっはっはっは!」

 

 それに乗っかって、まだ酔いが浅いのに深酔いした振りをしてはしゃぐ咏。

 

「んふふふふーー・・小鍛冶さん素敵いいぃぃ。」

 

 割と直ぐに酔っぱらってしまい、いい感じに小鍛冶のファンガールと化してしまった赤土。

 

「は、はややーー。なんか・・今日は一段と熱いねー、良子ちゃん・・・」

 

 元から酒に強くない瑞原は、色っぽい声を出しながらフラフラと良子に寄りかかった。

 

「・・・ああ、最悪です。」

 

 そしてこの中で一番酒に強い良子は、明日の全員の二日酔いを心配していた。・・・そう、普段の仏頂面な彼女からはあまり想像出来ないだろうが、実は彼女はとても面倒見の良い女性なのである。

 

「ふひははははは!ちょ、すこやん!ふひひひひ!明日朝起きた時にどんな顔するのか楽しみだわホント!ふひはははは!」

 

 職業柄、解説に話を振ったりする事に慣れていた恒子は、こういったお酒の席ではあまり飲まずに他人に気を遣う事に注力する事がほとんどで、今回も例に漏れずにこの場に集ったプロ雀士の方々に気を使って会話をする事に集中していた。その所為でほぼ素面であった。

 

「これでは咲ちゃんが一生道化を演じなければならないじゃないですか!それは駄目です!アカンのです!」

「そうだそうだーー!アカンのだーー!」

「おお!咏さんは私の話が分かるのですね!ならば私の同士になって下さい!咲ちゃんも喜びます!」

「ちょ、すこやん!同士て!ふひひひひ・・はー面白い!でもすこやん、そんな事勝手に決めて実行しちゃったら咲ちゃん怒るんじゃない?」

「プロ雀士同士の間に割って入らないで!こーこちゃん!」

「ぶは!でたでたすこやんの割って入るな発言!すこやんってお酒飲むとすぐに割って入るなって言うよねーー!」

 

 待ってましたと言わんばかりに手に持ったグラスを揺らして喜ぶ恒子。そしてこの発言に赤土が喰いついた。

 

「え?そうなんですか?」

「そうなんですよ赤土さん!この間も私がすこやんのウイスキーを炭酸で割ろうとしたら『こーこちゃん!ウイスキーとアルコールの間に炭酸水を割って入れないで!』って言ってウイスキーをロックで飲んで、飲んだら飲んだで余りの度数の高さに驚いてそのまま吹き出しちゃったんですよ。」

「えーー・・・でもそんなお茶目な小鍛冶さんも可愛いですねーー・・にへへ。」

 

 小鍛冶を子供扱いしてニヤニヤしながら、手に持った缶ビールをグイッと飲み干した赤土。そしてまた小鍛冶を見てニヤニヤするというループに入っていた。

 

「あひゃひゃひゃひゃ!そうそうそれで?小鍛冶ちゃんは咲ちゃんの事をどう思っているのかなーー?」

「だから!さっきから何度も言っていますが!咲ちゃんは私の教え子で、娘で、妹で、天使で、特別で・・・お、お母さんになってくれる存在なんです!」

「ぶわーはっはっはっは!ああお腹痛いいいぃぃぃーーいっひっひっひっひ・・・でも咲ちゃんのお姉さん枠は私の物だから。そこんトコ間違えないでね。小鍛冶健夜さん?」

 

 さっきまでの笑いはどこへやら、小鍛冶が咲を妹のように思っているという事実が凄く気に入らない咏は、珍しくガチのトーンで喋って牽制を入れた。

 

「咏さん!?今一度落ち着いて下さい!たかが酒飲みの戯言になにムキになっているのですか?」

「いやー良子ちゃん。こういうのはきっちりしておかないと後々問題になるからさー。例え酒の席の戯言だとしても、言って良い事と悪い事があるっていうのは・・・分かるでしょ。」

 

 自分を止めようとする良子にまでオーラをぶつけて牽制する咏。そんな彼女の本気な思いに、軽率に止めに入った事を少し後悔した良子。そのまま若干の気まずい空気が流れそうになったが、すかさず恒子がフォローに入る。

 

「・・・あ、あのー、咏さんは咲ちゃんとどんな関係で?」

「お!よくぞ聞いてくれたね恒子ちゃん!よし!じゃあ聞かれたからには語らねばなるまいて!」

 

 その言葉で不用意に質問した事を後悔した恒子、しかし時すでに遅し。既に咏の詠唱は始まってしまったのだ。

 

「あれは小鍛冶ちゃんが咲ちゃんに児童買春を持ちかけた日の午後の事だった。当時の私は・・・」

 

 酒飲み特有の長話を始めてしまった咏。そして咏は話すのに夢中で、恒子達がさっそく興味を失っている事にも気づいていないようであった。

 

「うーん、ねえ良子ちゃん。」

「ん?どうしましたはやりさん?」

「んーーとねー、私のストッキングを脱がして欲しいなってーー。」

 

 そしてこっちは絡み酒である。しかし瑞原と付き合いの多い良子はこんな時の為の対処法を既に確立していた。

 

「あーーはやりさん。」

「んー?ねぇ早くぅ。」

「よろしいのですか?こんな場所で肌を晒して?・・・今のはやりさんを、”後ろにいる”サキが見たら幻滅するのではないですか?」

 

 咲という単語が出た途端、目をカッと見開き急いで姿勢を正して今までの態度を改める瑞原。酒が回っている時といえど、瑞原は咲に自身の甘えたがりな本性を見せようとはしない。その性格を突いた作戦であったが・・・相変わらず、効果はかなりのものだった。

 

「!?・・・(キョロキョロ)・・・なんだぁ、いないじゃん。良子ちゃんの意地悪ぅ!」

「すいません、ですがそんな姿をサキの前に晒したくないのなら、私達の前でも晒さないでいてくれると、コチラも有り難いです。」

「ぶーー・・分かったよぅ・・ケチッ!」

 

 不貞腐れながらもちゃんと衣服を正し直した瑞原。やはり咲の事となると彼女・・いや、この場のプロ雀士の者達は弱いのである。

 

 

 

 こうしてなんやかんやあってプロ雀士達は交流を深め、互いに咲を中心にした今後の展望について語り合い、酒を絡めた触れ合いによって未来のビジョンに光を灯し続けているのだった。

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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