そしてその後はいよいよ決勝戦編です。
「じゃあ、まずはうちが中学生になるまでん過程ば、じゃっと見てもらおうかな。」
そう言うと白水は自身の部屋の中へと入っていき、部屋の隅に置かれている人形達の中から一つを選んで手に取ると、その人形にオーラを送った。
その途端、人形から白い糸のような細い光がウネウネと飛び出し、ゆらゆらと部屋の中を漂い始めた。白水はその光を手に取ると、咲の方へ向けた。よくよく見ればそれはただの光の糸ではなく、白水の能力リザベージョンの象徴である鎖の形をしていた。
「はい、あとはこれば一緒に握るだけで簡単に記憶旅行へご招待って訳ばい。」
「へー、随分と手慣れてるんですね。やっぱり鶴田さんとこういう事を頻繁に?」
「まぁ・・・いや、そげん事より早よ握って!時間が勿体なかろーもん!」
赤面してプイッと顔を逸らす白水。そんな彼女を可愛いと思いながら、言われた通りに鎖を掴む。すると・・・
(うわっ!?周りの景色がすごい勢いで変わっていく!?)
先程までの少女趣味な部屋から一変。可愛らしい人形からタンス、ベット、窓、壁、床、等々・・それら全てがあっという間に何処かへと飛んでいき、代わりに真っ暗な空間から土が盛り上がり、水が溢れ、植物が芽を出した。そしてそのような変化に驚く咲すらも温かく照らす太陽が顔を出した時、世界の変化は止まった。
世界が変わり終えた時、咲と白水は何処かの公園に立っていた。最初は世界の変わり様に驚いた咲であったが、この程度の変化でいちいち驚くのも良くないと思い、意識を切り替えて改めて辺りを見渡す。
「・・ここは、白水さんが幼少の頃によく利用していた公園、とかでしょうか?」
「正解。まぁ今でも、ゆたっとしたか(ゆっくりしたい)時なんかに行ったりするばってんね。」
ふーんと感心しながら、公園のベンチを見つけた咲はそこに腰掛ける。一緒に付いてきた白水はそのままベンチの横で立ったままでいた。どうやらこの公園は、周囲をグルッと桜の木が囲われているようだ。園内は小さな砂場とブランコ、それからシーソーに鉄棒、ついでと言わんばかりの謎のオブジェで頑張ったスペースを埋めた感が満載のちんけな遊び場・・というのが咲の第一印象であった。
(でもこういう何でもない公園が、大人になると懐かしさで涙が出て来る・・みたいな良い思い出の象徴みたいになるんだよね。そして、これが白水さんの記憶なら、そろそろ何かが起こるはず・・)
そうして変化を待っていると、
「わっはっはー!行くぞーお前達ー!」
「わー、待ってよ白水ちゃーーん!」
「は、速いよ白水ちゃん!」
公園の入り口から、何やら聞き覚えのある名前が聞こえて来るではないか。声のする方へ顔を向ければ、そこには幼い頃の白水の姿があった。
「・・・あれが幼稚園児ん頃のうち。今と違うて昔のうちゃ元気いっぱいん快活な女ん子やったね。」
昔の自分を紹介する白水。しかし咲はそんな事よりも、もっと興味を惹かれる事があった。
「え?ちょっと待って下さい・・・あれってもしかして、鶴田さんですか?」
そう言って咲は子供の白水の横にいる子を指差す。その子は子供達の中でもヒエラルキーが低いようで、男の子達に枝で背中をツンツンされて涙目になっていた。
「よう分かったね。そん通り、あん虐められとー可哀そうな子はうちん姫子ばい。」
・・うちん姫子という言葉に少し引っ掛かりを覚えたが、やはり彼女は鶴田姫子その人だった!という謎の達成感に満たされる咲。そんな咲をよそに白水は遊んでいる子供達の声をBGM代わりにして語り始めた。
「あん頃は良かった。」
出だしがあの頃は良かったという中年オヤジみたいな感想だった為、思わず笑いそうになる咲であったがなんとか堪える。
「うちがまだ幼稚園児やった頃、うちゃ既にリザベージョンの能力ば覚醒しゃしぇとった。そしてそん能力ば何となくやったけど使いこなしぇたっちゃいた。」
「・・へー、既に覚醒済みでしたか。」
「そうばい、当時はこん能力がみんな当たり前やて思うとったうちは、誰彼構わんで能力ば使うてうまか思いばさせていた。うちが普通ん泥団子ば1つ作りゃあ、リザベージョンで繋がった子はそん倍ん価値ば持つ綺麗か泥団子ば確実に作る事が出来た。うちが四つ葉んクローバーば見つけりゃあ、繋がっとー子は2つ必ず見つくる事が出来た。次第にうちゃ周りから福ばもたらす現人神やて言われて、いつん間にかお山ん大将みたいなポジションにおった。ばってんそれがうちには・・・ばり幸しぇに感じとった。」
どこか遠い目をして子供達の中心にいる自分を見つめる白水。確かに今目の前で遊んでいる子供の白水もとっても楽しそうではある。しかしよくよく見れば、子供の白水は虐められている鶴田の事をチラチラと確認しては悲しそうな眼をしていた。それに気づいた咲は、
(ふーん、白水さんってこの頃から鶴田さんの事を気にかけていたんだ。何か意外だなー、私はてっきり適当な雀荘で口説いたお気にの女の子の1人・・程度の関係だと思っていたんだけど。実は思ったよりも健全な関係だったんだね、最初の頃は。)
やはり他者を変な眼で見る事に定評のある咲は、今回も例に漏れず変な眼で見ていた。
「そりゃ小学校に行くごとなっても変わらんやった。」
白水がそう言うと、またもや世界が一変した。子供達や遊具が何処かへと飛んでいき、暗黒に包まれた空間だけが残る。そしてその空間に、今度は学校によくある木の椅子が上からガガガガッ!と降って来る。椅子が綺麗に列を作ると今度は机が降り注ぎ、それが終われば今度は壁がニョキニョキと生えて来る。そして最後に黒板が上から降って来て固定されたところで変化は終わった。
変化が終わった次の瞬間!扉がガララッ!と大きく鳴りながら開き、子供達が一斉に教室内に押し寄せてきた!どうやら昼休みが終わったようだ。その様子を見た咲は、なんだかノスタルジックな気分になってきていた。
「うわー・・なんか私まで懐かしくなってきましたよ。」
「あはは、そりゃうちもばい。こん記憶ば見る度にいつも懐かししゃに涙が出て来る・・ああ、あん頃は楽しかったなぁ。」
確かにと大きく首を縦に振って頷く咲。しかし咲は根っからの文学少女であり、決して体育会系では無い。故に昼休みはいつも教室の隅で読書をしていた為、このようにチャイムと共に教室へ雪崩れ込むようなイベントはこなしてこなかったはずである。では何が懐かしいのか?それは雪崩れ込んでくる際の子供達の必死の形相である。チャイムから五分後には授業が始まる。それまでになんとかして準備を終えようと必死になる同級生を見て愉悦するのが、小学生の頃の咲の小さな楽しみであったのだ。
「こん頃のうちゃ、自分の持っとー能力は特別なもんなんやと理解し始めたばっかりで、まだそれが色んな人ん人生ば左右するような凄かモノやとまでは考えが及ばんやった。」
楽しそうに手を上げて笑いながら授業を受ける小学生の白水。確かにあの顔は無知だから出来るものだと咲も察した。もしこの段階で白水が自身の能力について真面目に向き合っていたら、あんな表情には絶対にならないだろうと思った。そして何より、彼女の笑顔の先には例の如く鶴田がいた。小学生になっても白水は変わらず、自身よりも格下の何の能力も持っていない鶴田に心を奪われたままでいたのだ。
「あのー、何で白水さんの視線の先にはいつも鶴田さんがいるんですか?というより鶴田さんって1年下ですよね?なんで同じ教室で授業を?」
「え?何でって、こん日は3年生と4年生ん合同授業やったけんやなあ。で、何で姫子がうちん視線ん先におるかって?・・・そりゃぁ、うちゃ姫子ん事がばり好きやけんに決まっとーけん・・かな?」
「ふーん、その割には数日前にあっさり彼女を捨てましたよね。」
「・・・・・そして中学進学時、こん時にうちに大きな転機が訪れた。」
咲の質問を無視して歴史を進める。すると今度は教室の床と壁がバラバラに飛び散り、机と椅子が僅かに大きくなった。そして新しい壁と床が自然と生えていき、最後に黒板が降って壁に固定されて終わった。
窓から外を見れば、グラウンドには規則正しく列を作りながら走り込みをしている陸上部の姿があり、教室にはテスト勉強に励んでいるであろう文学少女達が机に噛り付いていた。まるで軍人のように規則正しく毎日を送っている彼女達はもはや子供では無い。大人の世界へ足を踏み入れた半大人、所謂中学生と呼ばれる者達であった。
そして肝心の白水であったが、どうやらこの頃の白水は以前の快活さを失い、今の白水のように物静かな勉学少女へとジョブチェンジしたようだ。その証拠に、この頃の白水は放課後に教室の左の隅で窓から差す日差しに温まりながらひっそりと自習をしていた。そして肝心の鶴田であるが、彼女の方も小学生の頃とは対照的になり、教室の真ん中で友達達と仲良くお喋りに興じていた。そして今度は彼女の方が白水の方へ視線をチラチラと送っていたのだった。
(・・なんかリアルですね、中学生になって以前と立場が逆転するのは。そしてまた鶴田さんと同じ教室にいますよこの人。今度は何です?また合同授業ですか?それとも少子化の影響で全学年同じ教室で授業を受けてるとかそんなですか?まぁなんでもいいですけど・・・ていうか、本当にこの二人って昔からじれったい関係だったんですねぇ。見ていてなんかイライラしてきますよ。白水さんも変に気取らずにさっさと鶴田さんにチューしてベットに連れ込めば良いんですよ。本当に二人が愛し合っているのなら、それくらいスムーズに事が運ぶはずです。・・でもまぁ、健夜さんみたいにこういうのも良いって言う人もいますし、人それぞれなんですかねぇ。)
心の中で言いたい放題な咲。白水は変わらずの暗いトーンで語り続ける。
「あん日、地元ん中学校に進学してすぐん頃・・日によっては真冬並みん寒しゃば伴う風が吹く4月ん中旬に、協会ん連中はコンタクトば取って来た。」
そう言うと同時に女性の先生らしき・・・結構歳がいってそうな人物がガララッとドアを開けて一直線に白水のところへ向かって歩いていく。それに気づいたかつての白水は、急いでオーラを発動して自身の理想像を具現化する事で臨戦態勢をとった。それを見た先生らしき年寄りは・・・
「ほほう、これは中々・・あんた、まだ何処からも声が掛かって無いのかい?」
年寄りがその一言を発した後、再び世界は崩壊した。教室を構成するパーツはことごとく闇へと霧散し、あとには今を生きる私達二人だけが残される。そして全てが暗闇へと帰った後、白水が指パッチンを一つ・・・それから瞬きを一つした咲が目にしたものは、最初に咲が訪れた可愛らしい少女趣味の部屋。どうやら咲達は歴史の旅から帰って来たようだ。
「(ふぅ・・終わりですか。)えっと・・あの後どうなったんです?」
「あん先生は協会んお偉かさんと友達やったんごたってね。あれよあれよとうちは麻雀部に入部させられて、そこでオーラと能力ん練習に明け暮れる事んなった。そしてそん過程で多くん才ある子達と繋がって、そん子達がうちん能力でどんどん勝ち星ば増やしていって、そん度にうちに感謝して・・うちん心がどんどん満たしゃれていった。やっぱりあん頃が人生で一番悦楽に浸れとった時期やったなぁ。」
過去の栄光を思い出して気持ちの悪い笑顔を浮かべる白水。そんな彼女に咲はいくつかの疑問をぶつける事にした。
「なるほど、じゃあ白水さんは中学生になってすぐの頃に麻雀協会から勧誘を受けて、協会の人達から直々に能力やオーラの訓練を受けて育った本物のエリート・・って事で良いんですか?」
「うーん・・まぁ大体はあっとー・・んやろうか?」
「ならそのー・・そもそもの話、なんで最初にその年寄りの先生の言う事を素直に聞いて麻雀部に入ったんです?」
「えっ!?・・・いや・・今麻雀部に入りゃあ推薦で高校までエスカレーター出来るって言われて・・受験に悩まされる事も無かって言われて・・やったら入ろうかなーって・・・なにそん顔?なんか文句あると?」
「いえ別に・・(うわー・・すっごい俗物的な理由。そんな精神性じゃ白糸台は兎も角阿知賀に勝てないのも納得だなぁ。)じゃあ次に、白水さんがオーラを使えるようになったのはいつ頃ですか?」
「ふふふ、そん日ん事はよーく覚えとーばい!あん日は小学校6年ん運動会ん日やった。小学校最後ん運動会やった事も相まって、うちゃ姫子にカッコよかところば見せようと本気になっとった。姫子ん前で恥はかきとうなか!出来りゃあ姫子ばうちだけに釘付けにしたか!そう思うてカッコよか自分ば妄想し始めたうちゃぁ・・気づきゃあオーラば出して全種目でどえらか活躍ばしとったんや。」
(うーわ、またもや俗物的な理由・・・いやでもオーラの覚醒って本来こういうのが普通なんだよね。私みたいに火事場の馬鹿力みたいな感覚で目覚める方がおかしいんだよね。・・でもなんかムカつくなぁ。)
そう、オーラは素質さえあれば誰でも簡単に習得が可能なもの。そしてその効果も単純なもの。白水もそうだが、咲はオーラが覚醒した際に自分よりも重い木の柱を軽々と持ち上げて投げ飛ばしたのだ。これはオーラの使い方の基本中の基本で、そもそもオーラとは自身の理想像の具現化である為、その最初の一歩も非常に単純なものになりがちである。。咲の場合は、燃え盛る炎すら跳ね除け圧倒的な腕力で愛する光を救うスーパーヒーローな自分。白水の場合は、あらゆる競技で無双する事が出来る天に愛されし肉体。どちらも単純な身体能力の強化であるが単純故に非常に扱いやすく、また強いのだ。
しかしそこからが難しい。確かに身体能力のUPは魅力的だが、そこからオーラを使える事に満足してしまい、それ以上上を目指そうとしない者達が後を絶たないのである。ましてやオーラを咲のように自在に操る事が出来るようになるまで頑張るものなど、ほぼいないに等しいのだ。
「そうですか・・ではいい加減、結論に入りましょうか。」
「・・姫子ん事やなあ。」
「はい、何故貴女が鶴田さんをオーラで精神汚染する気に至ったのか?何故この土壇場で鶴田さんを捨てたのか?先程の記憶旅行から薄々察しはついていますが、貴女の口から教えて頂けませんか?」
そう言って白水を見つめる咲。その瞳に移る白水。・・いよいよ彼女の口から事の真相が語られるのであった。
つづく