たぶん次で白水編は最後になると思います。
「うちが姫子ば捨てた理由・・」
「改めて言っておきますが、オーラによる他者への精神汚染は重罪です。もしその罪を犯してしまった場合は即座にそれぞれの所属している機関に連絡して、然るべき処罰を受けるのが私達能力者の暗黙の了解です。ですが白水さんの場合は、鶴田さんが一方的に精神汚染を受ける事を了承したからこそ、協会も貴方達を番いと認める事で特例で許していたんです。その番いの関係を貴女が一方的に切ってしまったと協会にバレてしまったら・・」
「うちゃ処分対象になって今度こそ終わり・・良うて除名処分、最悪の場合は命ば持って償う・・やったよね?」
「・・処分を下すのは協会の人なので私からは何とも言えませんが、今回のベスト4落ちの件も考えると・・・本当に命を持って償う事になりかねませんよ。」
真剣な表情で辛い現実を突きつける咲。しかし白水は笑顔を崩さない。元々彼女は咲よりも長い間、麻雀協会の下にいたのだ。自分のやらかしがどういう結果を招くのか・・そんな事は咲よりもハッキリと明確に把握出来ていた。
何処か諦めた顔で目線を下に向ける白水。この部屋の主が落ち込んで悲しいのか、心なしか部屋中のぬいぐるみが悲しそうな表情を作っているように見える。そんな彼女達を見て咲は・・
「・・で、何故鶴田さんを捨てたのですか?理由によっては私も協会に掛け合います。ですから・・嘘でも良いのでそれっぽい事を言って減刑する事だけを考えて話して下さい。」
出来るだけ希望が残るように白水を元気づけた。まさか咲がそんな事を言うとは思っても見なかった白水は、驚いて咲の顔をまじまじと見て・・
「そうだ・・咲ちゃんはそげな子なんや。やけんうちゃ・・咲ちゃんみたいに成りたかったんや!」
感情を爆発させた。感情の主は怒りであったが、同時に悲しみも含まれているのを咲は感じ取った。
「私みたいに成りたかった?」
「そうばい!うちゃ咲ちゃんみたいに成りたかった!咲ちゃんみたいに色んな子達の中心におって!いつも余裕な表情ば崩さんでみんなば導いて!そん見返りに色んな子達から愛を貰う!そげん人間に成りたかった!」
まるで漫画やゲームの主人公のような人物像だと咲は思ったが、自分が他人からそんな風に思われていたとは全く思っていなかった咲は、思わず言葉に詰まってしまった。その間も白水は止まらない。
「分かっとー!咲ちゃんが光ちゃん一筋なんやって事は!ばってん、いや!やけんこそ羨ましか!何で一頭ばずっと追うとーのに沢山の獲物ば狩り取っていくと!?ただ目的に向かって歩いていくだけで何でそげん沢山の強者ば従えられたと!?そして何で今なお増えよーと!?ほんなこつ羨ましゅうてしょうがなか!悔しゅうてならん!何でうちが欲しか物はうちじゃなく咲ちゃんがぁ!ちくしょうぉ!」
そう言うとがっくりと肩を落としてゼーハーゼーハー口呼吸に勤しみ始めた白水。その一方で、白水の慟哭を最後まで聞いた咲は、少し自身の予測とズレていた事に疑問を抱いていた。
(うーん、概ね予想通りだったけど・・私が今日白水さんに会う前までは、彼女は十中八九愛に飢えているんだと思っていた。その点はこの部屋に入った時点でなんとなく察する事が出来たからOKだった。)
そう、咲はこの部屋に沢山置かれている人形達に既視感を覚えていたのだ。この部屋の作り・・というより飾りつけは、まるで天江衣の部屋とそっくりだと。
(私が最初に衣ちゃんの部屋に入った時も思ったけど、孤独を感じている人って部屋の中を自分の好きな物で埋めたがるんだよね。衣ちゃんの場合は沢山のおもちゃや人形、白水さんの場合は多くの種類の人形。でも両者とも共通しているのは、本当は人の愛情を求めているという点。じゃあどういった人からの愛情が欲しいのか?それも簡単で、衣ちゃんの場合は自分を楽しませてくれる遊び相手で、出来れば親のように振舞ってくれる人。だから衣ちゃんはおもちゃを優先して集めて、人形はお気に入りのヤツを数体しか置かなかった。でも白水さんは違う。白水さんは多分自分を崇拝してくれる信者みたいな人が沢山欲しいんだと思う。だから人形が纏まって点在しているし、全員ベットか扉の前に目線を合わせてある。どっちも白水さんが頻繁に行き来する場所だし、この予想は合っていると思う。)
続いて咲が思い浮かんだのは、先程まで彼女と一緒に体験していた時間旅行だった。
(次に私の推理を補強したのは白水さんの過去の記憶だった。白水さんが思い出していた記憶はどれも自分の幸せへと続くものばかり、しかも毎回大勢の人間の役に立っていた事を、わざわざ言わなくてもいいのに何度も何度もクドクドクドクドと口にしていた。ここまであからさまだと逆に罠かなんかだと勘ぐっちゃいそうになるけど・・でもやっぱり本当に飢えていたんだろうね、大勢の一般人から頼られる事に・・だから麻雀協会に入ったのかな?麻雀でプロになればファンからちやほやされるって、そんな風に無意識に考えちゃったのかな?)
推理を続ける咲であったが、ようやく息を整えた白水が新たな本音をぶちまける。
「少のうとも中学ば卒業するまでは理想の自分でいられた!大勢ん弱小雀士にリザベージョンば求められて、そん度に自分が世界に必要な存在なんやと実感出来て、そんなうちに追い付こうと必死になる姫子の姿ば見て・・最高の気分になれた。・・・うちゃ中学まで幸せやったんや。ばってん高校に入って、咲ちゃんに出会うたあん日からなんもかんもが変わった!」
最早怒りが全身を支配する勢いで咲に八つ当たりする白水。それに呼応して白水の部屋の人形達も赤い炎のオーラをメラメラと燃やしながら咲に視線を送る。しかし咲は怯まない。何故なら咲は彼女の怒りの源泉が諦念から来ているのを知っているからだ。
「白水さん・・・私も覚えていますよ。貴女に初めて会った日の事を・・・」
目を細めて過去に想いを馳せる咲。そう・・あれはまだ咲が雀荘荒らしを始めるほんの1週間前。小鍛冶に連れられて麻雀協会へと挨拶に行った咲は、その帰り道で偶然白水と鶴田のコンビに遭遇したのだ。
「あの時は本当に驚きましたよ。まさか私より数歳年上の先輩方が既に協会の手足となって働いているだなんて・・いったいこの二人はどんな壮絶な過去を持っているのだろう、って思いましたね。」
当たり前の事ではあるが咲の所属する麻雀協会は、悪魔で麻雀の楽しさをメディアを通して広める事を目的としている、能力者が所属する組織の中では物凄くクリーンな組織である。そんな麻雀協会はそういった能力者組織の中ではヒエラルキーが低い方であり、結成当初に所属していた能力者達の中にもそこまで強力な能力持ちは居なかった。
しかし近年の麻雀協会は、麻雀の競技人口の増加に比例して強力な能力者達が進んで所属を望む程の一大組織へと急成長していったのである。その背景には咲の師匠である小鍛冶を始めとした大人達の活躍があったからであり、そんな彼女達に協会も一応の敬意は払っている。
だからこそ、麻雀協会はこれからも組織を大きくしていく為に、安定して麻雀の競技人口の増加を促進させる必要があると考えた。その結果、将来有望な若者を早いうちからスカウトしておくという禁じ手に手を付けたのである。
(そう・・・麻雀協会みたいな能力者組織には暗黙の了解として、特例を除いての未成年能力者を強引に組織に勧誘する事を禁止する、というルールがある。これは私みたいな一般家庭から生まれた子供が、自分達の意思で能力と向き合い、その過程で強靭な意思を自然と手に入れる事を目的としたルール。私にはよく分からないけど、能力者のトップ集団の人達はこの世界を能力者と一般人が共存できる世界へと変えていきたいらしい。その分かり易いスローガンとして、子供が自分の力だけで能力と向き合いながら徐々に制御を覚えていける社会を作る、っていうのが彼らの掲げる理想・・それ故に大人の能力者が子供の能力持ちに不用意に接触する事で強制的に人生を捻じ曲げる事を最大のタブーとしている。でも今の協会は権力欲しさにそのルールすら破りつつある。)
本来なら白水は麻雀をやるような子では無かった。しかしそんな彼女を半ば強引に麻雀の世界へ引き込んだのは、他でもない麻雀協会の息の掛かった者。就職先や進学先の確定という甘い餌を使い、まだ判断力の育ち切っていない子供を相手に取り引きを持ちかける悪魔の集団。それが咲が知った麻雀協会の闇であった。・・・だからこそ咲は白水を尊敬していた。少なくとも白水は中学一年の頃から協会の元で訓練を受けていた。そして咲が協会の元で活動し始めたのは中学3年の時。つまり白水は咲より5年も早く協会の元で働いていた、咲の大先輩だったのである。きっと酸いも甘いも知り尽くした大人な女性なのだと密かに憧れた。
(あの日、初めてお二人に会ってその事実を知って・・私はすごく嬉しかった。私よりも早い時期から協会の下で働いていて、その上パートナーと一緒になって仕事をこなしているだなんて・・正に私の将来のお手本のような二人だと思っていた。確かにちょっと危うい感じがあったのは事実だけど、それでもこの二人は滅茶苦茶強いんだと思っていた。今回のインターハイでも余裕で決勝戦まで上がって来るんだろうなって思ってた・・・それが、蓋を開けたらこんなに中身の無い人だったなんて・・・白水さんの記憶を旅している間もずっと思っていましたが、貴女には幻滅しました。まさかずっと格下ばかりと相手をしていて、金魚の糞に囲まれて満足しているようなしょうもない人だったとは・・・ぬるま湯に漬かりながらの麻雀はさぞ気持ちよかったでしょうね。)
この時点で白水の事を物凄く見下している咲。しかしそれも当然で、先程まで咲は白水の事を純粋に尊敬していた。麻雀協会に早い段階から目を付けられる程の強力な能力持ちで、オーラまで使いこなせる自身の上位互換の存在だと思っていた。オーラで気に入った相手の価値観を書き換えるというルール破りをしてはいたものの、それを補って余りある魅力を持っていると咲は思っていた。今回のベスト4落ちも何か理由があっての事だと思っていた。しかし・・
「でも実際は違った。貴女は幼少の頃から能力を使いこなしていたにも関わらず猿山の大将で満足してしまったただの小市民だった!能力に癖が無かったのか、それとも単に運が良かっただけなのかは知りませんが、貴女は能力者が必ず経験すると言われている、能力との向き合い、をしてこなかった!そのせいで世界は自分の思い通りになると勘違いして、物心付いた頃から一緒にいた最愛の人の価値観を自分色に染め上げるという愚行まで犯した!それでも協会から許されたのは鶴田さんが貴女の事を愛していたからでしょう!?なのに今になって鶴田さんを捨てるんですか!?そんな馬鹿な話は無い!もしこのあと私が協会へ何も問題は無かったと虚偽申告しても、いずれはバレて処分が下るのはほぼ必定!麻雀で例えるなら貴女以外全員リーチしてる中自分の手牌全て危険牌なんです!・・・・・これが今の貴女の現実です。ご理解頂けましたか?」
白水の怒りを抑える為にこっちも怒る事で勢いを挫こうとする咲。そんな咲の試みは見事成功し、白水はハッとした後またガックリと肩を落として項垂れた。
「うちが・・猿山の大将?・・能力と向き合うてこんかった?」
「そうです、能力者は最低でも一回は自分の持っている能力に振り回されて人生が滅茶苦茶になるものなんです。まぁ私の場合は能力に精通していた母が最低限の教育を行ってくれたので、ゆっくりと能力と向き合う事が出来たのですが・・・というより白水さん、貴女の家族には貴女以外に能力者はいないのですか?」
「そうばい・・おらんからこげん事になっとーっちゃないと!」
そう言って今度は床に座り込んで涙を流し始めた白水。そんな彼女は泣きながら恨み言を垂らした。
「ちくしょう・・何でみんな、うちん周りからおらんごつなっていくんばい。あんなに・・あんなにリザベージョンで助けちゃったとに・・なんでなんも返さんでどっか行ってしまうんばい。」
その恨み言を聞いた咲は自身の推理に確信を得る。
(っ!?やっぱりそうだったんだ!白水さんはリザベージョンの能力に価値観を歪められてしまっていたんだ!)
確信した咲は彼女に真実を伝える。例えそれが彼女にとって苦痛だったとしても。
つづく